もう昨年の秋の話なので季節はずれであるが、まあ半年ちょっと経てば、また丁度いい季節になるので構わず書いてしまおう。トリ見なんてのは気の長いものだ。もっともいつも同じように見えて、10年もするとびっくりする程変わっていることも多いけれど。
昨年11月に知半庵でセシル・アンドリュさんの展覧会があったときに雅楽の石川高さんに来ていただいて、笙や竽(う)の演奏会が裏山の竹やぶの中であった(裏の竹やぶなんて昔話みたいでいいよね)。
素晴らしいものであった。土の感触、風の音、木の香り。竹に響き、自然の息遣いが感じられる中での演奏。小鳥の声も気にならないどころか一緒に演奏している。トリ見としてはヒヨドリの声だ、シジュウカラだなと思いながら笙の演奏を聞いていた。と、ヒッヒッという声、カチカチというような感じの音。あれジョウビタキかな。畏れ多くも石川さんと張り合っているのかな。
見つからない。結構見えるところに出るはずなんだけどなあ。結局演奏会の間は姿を見つけられなかった。
イベントが終わって居間で食事の支度を邪魔しながらつまみ食いをしている時に、電線にとまっているジョウビタキのオスを窓越しに見つけた。庵主夫妻は、あれよくいますよ、と言う。成る程やっぱりこの庭にいるんだな。ジョウビタキは縄張りを作るので、これは知半庵の身内のつもりらしい。とすると演奏会もカチカチ、ヒッヒッと伴奏をして盛り上げていたということか。
ジョウビタキは秋に大陸から来る冬の渡り鳥だ。オスは黒い顔に銀髪が格好いいので、そればかり言われるが、茶褐色で地味なメスのおめめがとびきり可愛い。ツッとした黒いクチバシにクリッとしたつぶらな黒目が魅力だ。同種の鳥に、ルリビタキとか、ヨーロッパではRobin(コマドリ)とかいる。何度見ても可愛くて飽きない。
常鶲や上鶲とも書くが、私は尉鶲が好きだ。尉(じょう)は能「高砂」からくる翁のこと。オスの銀髪頭からきているが、白い灰になった炭の意にも通じ奥深い感じがする。鶲(ひたき)はカチカチという鳴き声から火打石のようだということだが、ヒッヒッという声のほうがまず聞こえるので、私は「火、火」の駄洒落と覚えてしまった。
年を越し2月にお邪魔した時に庭にいないかなあと行ってみるとメスがまず歓迎(?)に出てきてくれた。しばらくすると後ろの竹やぶの方でオスがこっちを気にして行ったり来たり。きっと去年演奏会の時にいたやつに違いない。
ジョウビタキの寿命は平均4-5年と言われている。大陸から秋に渡ってくるが同じところに戻ってくる確率が高いらしい。縄張り意識が強いので、知半庵の庭を陣地にしたヤツは、ここはいいと庭番として絶対他に譲らないはずだ。縄張りはつがい単位ではなく個体で張ると言われているがホントかな。住込みの庭番には夫婦のほうが似合うように思う。とにかく寿命が来るときっと次の世代のジョウビタキが知半庵庭番として引き継ぐのだ。知半庵の建物ができたのが二百年前。その間ジョウビタキが入れ替わり立ち代り庭番をしていたとすると今は約50代目位の庭番かも。知半庵の名前の由来の菅沼知半(雅号)さんも明治から昭和の間ずっと庭番のジョウビタキとお付き合いしていたはずだ。そう思うと、来年もつがいで元気に戻っておいでよと声を掛けたくなるではないか。
(私は鳥類学者ではないのでこの項は余り信用しないでください。)
それにしてもこの庭番さん、メスのほうが物怖じしない。まず寄ってくるのはメス。オスは見た目格好良くて、もてそうなのに、竹やぶのあたりを控えめにうろうろ。どうも縄張りもメスに気兼ねしているようだ。まあ、どこでもメスが強いのは、今や何の不思議なことでもないですがね。
(26 Feb, 2015)