2005年11月29日

営利性

猫太郎さんからの質問です。
「新・会社法100問の第67問で,会社の目的として「一般的には営利性のない事業を記載することも認め」られると書かれていますが,旧法の実務では「社会福祉への出費,会社及び業界利益のための出費並びに政治献金」を目的として記載することは許されないとされていたため嵐を呼びそうな予感がします。これは,会社の仕事全体を指す概念である「事業」を個人商人の業態に着目した「営業」と区別して採用したことによる変更と関係があるのでしょうか」

会社法では、会社は営利社団法人であるという定義を捨てました。

それは、 ̄塚と言う言葉の意味が不明確であること、∈嚢盧枷塾磴砲茲譴弌∪治献金だって目的達成のために必要な行為として許容されるのならば、会社の目的を営利に限定する意味がないこと、2饉劼旅坩戮鮠行為とし、かつ、株主や出資者の投下資本回収を保障すれば、法律上、さらに営利性を要求する意味がないことなどの理由によるものです。

そもそも、現在、非営利法人といわれている法人の事業では、お金は儲かっていないのでしょうか?
学校法人とか、宗教法人とか、医療法人とか、弁護士法人とか、むしろ非営利法人の事業の方が儲かっているのではと思うくらいです(笑)。
特に、現在、特区制の中で、これまで非営利法人にしか認められなかった事業を株式会社にやらせてもいいとかいうことが徐々に実現されている中で、会社法では「株式会社は、非営利事業を行えない」なんてルールを作るのはおかしいのではないのでしょうか?
ある事業が儲かるのか、儲からないのかは、出資者が判断すればいいわけで、そんなものを他人が判断しなくてもよいでしょう。

 もちろん極論として、寄付のみを目的とする会社では、出資者に利益配当をすることができないから、認められないのではないかという論理はありえるでしょう。
 しかし、鉄鋼の生産販売の目的を達成するために寄付をすることが目的の範囲内として許容されるのならば、寄付の目的を達成するために、鉄鋼の生産販売を行うことも目的の範囲内に含まれ、そこで儲かった利益を出資者に分配することができますよね(屁理屈には屁理屈で返すという程度の理由ですけど)。
 だから、寄付のみを目的とする会社であっても、出資者に利益を分配するという意味における営利性が認められないわけではないでしょう(寄付目的でバザーをやって、売り上げの一部をみんなで分けるような場合とか)。

 少なくとも、会社法の論理の中では、目的自体の営利性を要求する根拠はないと思います。

 ただ、登記実務をどうするかは現在法務省内で検討中ですので、現段階では、なんとも言えません。決まったころに、またご紹介することにしましょう。

 なお、この営利性に関連して、会社の商人性について議論があるところです。
 会社がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は、商行為ですから(5条)、商法の商行為に関する規定については、特に商人性について論ずるまでもなく、すべて適用されます。

 しかし、商法507条のように「商人」が要件となっている規定については、会社が商人かどうかを判断する必要があります。

 この点、会社は、性質上、当然に商人であると考える見解も有力ですが、私は、商法4条1項「この法律において「商人」とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう。」という規定を適用した上で、「商人」かどうかを判断するのが妥当ではないかと思っています。
 何が違うかというと「業とする」という要件を「利益を得るための行為を反復継続して行うこと」と解釈した場合、会社が、非営利事業のみを反復継続して行うだけだったら、商人には該当しないと解釈する余地が出てくるというところです。
 通常は、商人でない会社というのは考えがたいのですが、学校法人は商人ではないが、もっぱら学校のみを経営する株式会社は商人であるというのは、どうかなあという気持ちもあり、商法4条説には魅力を感じるところです。
 なお、いつものことですが、以上の見解は、私の個人的見解です。法務省に電話をかけてきても、私がそのとおり答えるとは限りませんよ(笑)。


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神田秀樹「会社法」(新会社法対応)によれば、 会社は営利事業を行い、それによって得た利益を出資者である構成員に分配することを目的とする団体であって、営利団体である。中間法人や公益法人と異なり、構成員(株式会社では株主)の私的利益を図ることを目的とし...
会社の営利性【猫の法学教室】at 2005年11月30日 02:50
この記事へのコメント
葉玉先生。山奥での修行中にもかかわらず、一粒で二度おいしい回答をありがとうございます。猫太郎めもコタツにて新・会社法100問の特訓中でございます。久々に書かれた方の「熱」が伝わる本を読んでいる気がしております。大学や予備校が失いかけているものの正体が見えそうでハッとさせられております。猫大好きフリスキー・ビール風味と同様、新・会社法100問をしゃぶり尽くし、ネコ頭を改造する覚悟です。
Posted by 猫太郎 at 2005年11月29日 07:49
 会社法施行規則案等が公表されましたね。資本金0円の構造は、ほぼ推測どおりで、なるほどです。
 しかし、株主総会議事録の署名義務者の規定が置かれていないのは、なぜでしょうか?
cf. 株主総会等に関する法務省令第10条
Posted by 内藤卓 at 2005年11月29日 13:47
>内藤さん
署名をしなくても、議事録の作成義務はありますし、作成名義は存在します。
署名は、法的にほとんど意味がないので、不必要なものはできるだけ書かないという虚礼廃止の観点から廃止されたものです。
Posted by 葉玉匡美 at 2005年11月29日 22:24
葉玉先生。お忙しいのにいつも大変参考になる解説をありがとうございます。目的の営利性については私も気になっていたところですので、参考にさせていただきます。
さて、内藤さんの質問に便乗させてください。
1.議事録の作成名義は株主総会等に関する省令案10条3項6号の「議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名」を指すと考えますが、これは取締役の中から一人を指定して、その者に行わせることも考えられているのでしょうか?(例えば、代表取締役や、総務部長である取締役など)。「職務」となっていますので、以前ご説明のあった「業務」との相違の点で意味があるのかもしれないと考えております。
Posted by たつきち at 2005年11月29日 23:52
もう一点お願いします。
2.上記との関連で、取締役会や監査役会、委員会の議事録については法で署名義務があるものとされていますが、この違いはどういった理由によるものでしょうか?
個人的には、これらの機関が設置されている場合には所有と経営が分離が進んでおり、責任追及の場合などに株主が閲覧を求める際のことを考慮しているのかと考えているのですが。
投稿するたびに長文ですみません。
よろしくお願いいたします。
Posted by たつきち at 2005年11月29日 23:52
>たつきちさん
1 株主総会議事録の作成は必ずしも全取締役で行う必要はありません。取締役のひとりを指定することも可能です。これは、職務ですね。
2 取締役会等の議事録は、異議をとどめない取締役等についての推定規定があるので、その前提として署名が必要だからです。これに対し、株主総会議事録は推定規定がありませんので、署名を要求する必要がありません。
Posted by 葉玉匡美 at 2005年11月30日 00:54
>会社法では、会社は営利社団法人であるという定義を捨てました。

 会社が営利社団法人であることは当然のこととして明文規定が置かれなかった、と理解しておりましたが・・・。
Posted by 内藤卓 at 2005年11月30日 23:14
>そもそも、現在、非営利法人といわれている法人の事業では、お金は儲かっていないのでしょうか?

 学校の経営にせよ、病院の経営にせよ、収益の上がる事業でありながら、その公益性に鑑み、営利法人たる株式会社には認められていなかったものが、認められる流れになっただけであり、株式会社としては、非営利事業を行うのではなく、あくまで営利事業として行うものです。したがって、「一般的には営利性を有しない事業の記載が認められる。」の意味が「学校の経営」や「病院の経営」を認める程度であれば、「営利性」が要求されないということにはならないと考えます。
 一般人の社会通念から利益を目的としていると判断できる程度の「営利性」はやはり要求されるべきだと考えます。
Posted by 内藤卓 at 2005年11月30日 23:16
 株主総会議事録は、株主総会の議事の経過の要領及びその結果(総会令第10条第3項第2号)を明確にするために作成されるものであり、その内容の真正を担保する意味でも、出席取締役の署名(又は記名押印)を要求すべきだと考えます。
 取締役会設置会社でない株式会社においては、取締役の利益相反取引の承認を株主総会が行う(会社法第356条第1項第2号)こと等を考えると、出席取締役の署名(又は記名押印)は、必ずしも虚礼とは言えないと思います。法的には要求されない出席取締役の署名(又は記名押印)を金融機関等の実務界は要求するということにおそらくなってしまいます。
Posted by 内藤卓 at 2005年11月30日 23:43
>内藤さん
もちろん「営利社団法人」という定義規定がないという意味です。ただし、「営利」という意味は、社員への利益分配という意味ですが。
その他のところは、そういう考え方の人がいるのもよく分かりますが、私は、そうではないだろうと思います。
Posted by 葉玉匡美 at 2005年12月01日 02:13
5
>葉玉先生。
遅くなりました。ありがとうございます。
頂きもののボジョレーヌーボーをやや遅れ気味で飲んでいたため、推定規定がどうなったか思い出せず、条文も見つられずに投稿してしまったため、失礼しました。
(ご覧の皆さんにも失礼いたしました。)
Posted by たつきち at 2005年12月02日 00:11
>内藤さん
ブログいつも拝見させて頂いております。
今回の省令案は、会社法上の効力に直接関わりのないものについては、一般的な証拠法則に従うと考えているのかなー、という風に見ております(民訴228条や商登規80条など)。実務界が全員のものを要求するとしても、それはステークホルダーの要求によって作成名義人として関与することになる、ということになるのであり、むしろそこは実務界に委ねる趣旨ではないかと思っています。その意味では、商業登記規則がどうなるか早く示して欲しいと(登記実務に関わる端くれとしては)感じています。横から失礼いたしました。
Posted by たつきち at 2005年12月02日 00:24