ちまたで、企業結合法制が重要だなどと言われていますが、実は、会社法にも企業結合法制があります。組織再編や親会社・子会社についての規律がそれです。
親会社・子会社に関する規律は、会社法のあちこちに出てくるため、覚えにくいのですが、それらの規律がどんなことをやろうとしているかを具体的にイメージできれば、それほど覚えるのは難しくありません。
ここでは、身近な例えを紹介して、具体的なイメージをもってもらいましょう。
＜例え、あくまでも例え＞
葉玉（仮称）が、妻（葉玉の株主＝実質的所有者）の目を盗んで、こっそりキャバクラ嬢にお金を貢ぎたいとしましょう。
葉玉は、妻に給料を全額渡している上、銀行の預金通帳も握られているので、何か工夫しなければ目的を達成できません。
そこで、葉玉（親会社）は、お父さんのことが大好きな息子（子会社）に、小遣いとか学費とかいう名目でお金をあげて貯金させ、裏で、息子に対して圧力をかけて、キャバクラ嬢に送金させました。
さて、この事例で、妻（株主）は、一体どのようにすれば、葉玉の不正行為を発見し、鉄拳制裁を加えることができるでしょうか。
１ まず、葉玉にお目付役（監査役）をつけ、葉玉の財産だけではなく、息子の財産も調査させます。
〜親会社の監査役等の子会社調査権(381�慧�)
２ この場合、葉玉の監査役として、息子を選ぶと、まともに調査するはずがありませんから、息子以外の人間を選びます。
〜監査役の子会社取締役等との兼任禁止等(335)
３ また、葉玉が、息子との間で頻繁にお金をやりとりして、お金がどのように動いているかわかりにくいことがあるので、葉玉に、葉玉の財産と息子の財産とを合計した財産の目録を作らせます。
〜連結計算書類の作成(444)
４ そして、監査役の報告を聞いたり、連結計算書類を見て、どうも怪しいと思ったときなどには、妻は、自ら息子のところ出向いて、直接、その財産状況を調査します。
〜 親会社の株主等による子会社に対する会計帳簿等閲覧請求権(433��)
５ こうして、葉玉が息子を使ってキャバクラ嬢に送金していることが妻にばれた場合、葉玉は、鉄拳制裁に処せられた上、損害賠償義務を負います。
〜子会社の計算で行う利益供与の禁止(120１)、利益供与罪(970)
６ なお、葉玉が、息子を使って「パパは悪くないよ。ママが優しくしないからだよ。」などと言わせて責任を免れるような行動をとるといけないので、息子は、夫婦間のもめごとについては、口出しができないように「子供部屋で寝てなさい！」と命じられます。
〜子会社の親会社株式の取得禁止(135��)
以上が主要な親子会社に関する規定であり、他にも、いくつか規定はありますが、具体例を書いているうちに寒気がしてきたので、次の話に移ります。
さて、会社法では、親会社・子会社の概念が実質的支配概念になったと言われていますが、その具体的な中身は、会社法施行規則案３条、４条で定義されています。
ただ、この定義は、ぼんやり見ていても頭が痛くなるばかりです。
一番簡単に覚える方法は「財務諸表規則８条の子会社と同じ意味である」というものです。
財務諸表規則（財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則）というのは、証券取引法１９３条に基づいて、貸借対照表、損益計算書等の財務諸表を作成する際の用語、様式、作成方法を定めた規則であり、会社法は、証券取引法と概念を統一することで、株式会社に課せられる会社法上の義務と証券取引法上の義務が、なるべく重なるようにして、会社の負担軽減を図っています。
それでは、子会社の定義をもっと掘り下げます。分かりやすいように、具体例をあげて、会社法施行規則案３条各号を説明しましょう。
登場人物は、 親会社Ａ → 子会社Ｂ → 孫会社Ｃ 、親会社Ａの意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者、たとえば、Ａが設立したダミー会社のＤです。
まず、Ａが、Ｂの株式を直接どの程度保有しているかによって、１号（５０％超）、２号（４０％超〜５０％）、３号（４０％以下）に分かれます。
なお、Ｃが孫会社にあたるかどうかを判断するときは、親会社Ａの保有分と子会社Ｂの保有分を合計して、１号から３号までのどれにあたるかを判断します。
１号 ５０％超保有
Ａが単独で、Ｂの５０％超を保有 →Ｂは、Ａの子会社
ただし、「倒産手続」中の場合は子会社にはならない（ここが１号のポイント）
２号 ４０％超保有＋α
ＡがＢの４０％超を保有 ＋ 次のイ〜ハのどれか → Ｂは、Ａの子会社
イ Ａ＋ダミー会社Ｄの保有分で、Ｂの５０％超
ロ Ａの役員が、Ｂに派遣されてＢの役員の５０％超
ハ ＡがＢを支配する契約を締結
ニ AがBの資金調達額の５０％超を融資
ホ ＡがＢを支配していることが推測される事実が存在
３号 Ａが４０％以下保有
上記イ（A＋ダミー会社Dの保有分で、Bの５０％超）
＋ 上記ロ〜ホ
たとえば、イ＋ロとか、イ＋ニとかだと、ＢはＡの子会社
かなり複雑ですが、一度、こんなものかと納得すると、不安はなくなるでしょ。
