2005年12月29日

取締役の任務懈怠責任(3)

任務懈怠責任シリーズの第3回です。

今日は、
(1)商法266条1項5号の「法令」の意味と、会社法423条1項との関係
(2)「任務を怠った」とは、「法令・定款違反の行為を行ったこと」なのか(二元説)、「会社に法令違反をさせないように注意して行動すべき取締役の義務を怠ったこと」なのか(一元説)という論点についてお話しします。

 (1)(2)の論点も昨日の論点も、一見、受験チックな話のように見えますが、実は、あまり受験とは関係なく、むしろ、損害賠償責任に関する理論と実務に深く関わる問題だと思います。
 つまり、理論的な枠組みをどう考えるかによって、取締役の損害賠償責任における要件事実と立証責任の所在に影響が生ずる分野だということです。

 商事法務1740号に京都大学の潮見佳男教授の「民法からみた取締役の義務と責任」という論文が掲載されています。この論文は、取締役の責任についての様々な考え方がよく整理されているという点でも、債務二分論や民法の善管注意義務の考え方と取締役の責任の関係について示唆に富むご意見が記載されているという点でも優れた論文だと思います。

この論文の中でも触れられているように、現行商法266条1項5号の「法令又ハ定款ニ違反スル行為ヲ為シタルトキ」の「法令」の意味については、あらゆる法令を含むのか(非制限説)、会社や株主保護を直接の目的とする法令に限られるか(制限説)という争いがあり((1)の論点)、最高裁は非制限説を採っています。

 私も、独禁法や証取法のように、必ずしも会社や株主保護を直接の目的とする法令ではない法令に違反した場合であっても、会社に損害を生じさせることはありますし、商法の文言上も法令に限定が加えれていないので、非制限説が妥当だと思います。

 では、取締役の会社に対する責任の要件について「任務を怠った」という文言に変わった会社法423条1項でも、その結論は維持されるのでしょうか。
 
 実は、今回、そのような文言の変更を行ったのは、次の理由によります。

 ヾに現代語化されている商法特例法21条の17が、266条1項5号と同じ要件を規律するものとして「任務を怠った」という文言を用いているから、会社法もその前例に従うのが通常である。
◆_饉卷。械牽仮鯏を見れば分かるとおり、取締役には「法令又は定款に違反する行為」のほかに、「不正の行為」という概念がある。一般的な用語法によれば(善管注意義務の存在を考えなければ)、「不正」の方が「法令又は定款違反」よりも広い概念であり、もし、423条1項で「法令又は定款に違反する行為をした」という文言を使用してしまうと、例えば、『代表取締役が、取締役会の決議に違反する行為をした場合に損害賠償責任が生ずるか』という問に対し、「取締役会の決議に違反しているだけで、法令又は定款には違反していないのだから、損害賠償責任は生じない」という誤解を生むおそれがある。
 もちろん、取締役会の決議に反した行為をすれば、「善管注意義務」違反として「法令違反」に該当すると解釈するのが普通だろうが、誤解を生みにくい表現としては、取締役の職務上の義務違反を広く取り込んでいる「任務を怠った」という表現の方が優れている。

 以上の文言の変更理由を考えると、423条1項が「任務を怠った」という文言になったからといって、非制限説から制限説に変更する理由はないと思います。

次に(2)の論点についてですが、実は、この論点については、問の立て方自体が本当に正しいのかを検証しなければならないと思っています。

前述の潮見教授は
【一元説】
任務懈怠=会社に法令違反をさせないように注意して行動すべき取締役の義務違反=過失
という考え方
【二元説】
具体的な法令違反と、それ以外の注意義務違反を分けて捉える考え方であり、具体的には
〜絢圓稜ぬ学菎奸甼饌療な法令違反≠過失(法令違反についての認識可能性がなかったこと)
後者の任務懈怠=善管注意義務違反=過失
という判断過程を採る考え方
という分類をされています。

その分類を前提とすると、私は、一元説でも、二元説でもありません。

まず、私は「任務懈怠=取締役に課せられた法定義務の違反」と考えているので、一元説の「任務懈怠」の考え方とは相容れません。

次に、二元説については、,砲六親韻靴泙垢、△砲弔い討蓮◆崛唄秒躇婬遡外稟拭甓畆此廚箸いι分が賛同できません(取締役の任務懈怠責任(1)参照)。

私が、一元説や二元説の△紡个靴萄任皸穗卒兇魎兇犬襪里蓮◆崘ぬ学菎佞砲弔い突弖鏤実を明確にしないまま、すべての要件事実の立証責任を原告に負担させることになる」ということを肯定しているところにあります。

また、一元説については
 。苅横絃鬘厩爐蓮任務懈怠(任務を怠った)と、過失(責めに帰すべき事由)を別の要件としているから、実定法の解釈として、一元説を採用することは困難ではないか?
◆〕益供与責任や違法配当責任等については、「具体的な法令違反=任務懈怠」という前提で、過失が別の要件となっているのに、423条1項の責任のみ、任務懈怠と過失を一体的に捉えるのは、どのような理論的根拠に基づくのか?
 一元説の立場は、任務懈怠に「悪意」も含有することになるだろうが、その「悪意」は何に対する悪意なのか?その悪意の対象となるものこそが、任務懈怠ではないのか?
という疑問があります。

さらに、429条1項の第三者責任は、故意又は「重過失」の「任務懈怠」について成立するというのが判例・通説であり、私のように、「任務懈怠」という客観的要件と「故意・重過失・過失」という主観的要件を区別する考え方に立てば、「任務懈怠」を423条1項と429条1項の共通要素として括ることができますが、一元説に立つと「423条1項の任務懈怠」と「429条1項の任務懈怠」は別のものになってしまい、ただでさえ、複雑な要素のある「任務懈怠」概念をさらに複雑化させ、要証事実がますます不明確になるのではないかというのが気がかりです。

以上のように、思いつくまま、一元説と二元説のことを書き連ねましたが、私の考え方はと申しますと、一言でいえば
任務懈怠=取締役の法定義務(善管注意義務を含む)違反≠過失(責めに帰すべき事由)
ということになるかと思います。

 428条1項は、423条1項について、裏から「責めに帰すべき事由がない」ということが被告側の抗弁になることを規定していますので、実定法の解釈としては素直なところではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

昨日も申し上げましたが、私は、「法律上、取締役にどのような義務が課せられているか」を解釈によって明らかにして「任務懈怠」の範囲を明らかにすることが、この問題における最重要課題であると考えており、それを前提に、「任務懈怠」については原告が立証責任を負い、個々の取締役の主観的事情である「故意・過失」は、取締役が立証責任を負うという整理をするのが、健全な実務であるように思います。



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この記事へのコメント
葉玉様
公開会社でない会社でかつ会社法施行時点で商法特例法上の小会社の適用を受ける会社における取締役の責任免除にかかる定款規定(商法266条12項)の取扱いについておうかがいします。
上記の会社の場合、みなし規定により監査役の監査権限は会計に関するものに限定されます(すなわち「監査役設置会社」でない」)ので、会社法426条1項の責任免除規定は利用できないと理解していますが、会社法施行をもって現行商法に基づく責任免除定款規定は消滅する(すなわち会社法施行後に発生した任務懈怠による賠償義務は定款規定+取締役会決議では免除不可)という理解でよろしいでしょうか。
もしそうであった場合、現行商法に基づく上記責任免除定款規定は登記事項ですが、会社の申請により抹消しなければならないのでしょうか。
細かい質問で恐縮ですが何卒宜しくお願いいたします。
Posted by 法務太郎 at 2006年01月18日 19:59
ちょっと内部調整していたので遅れてすいません。
会社法では、監査の範囲を会計に限定する旨の定めがあると、役会による責任免除の定款の定めを置くことができませんので、非公開小会社における現行法上の定款の定めは、施行日において、施行日後に行われる取締役等の損害賠償責任との関係では、無効になります。
 他方、取締役等の施行前の行為に基づく損害賠償責任については、なお従前の例によるので(整備法25条)、当該定款の定めは、施行前の行為に基づく損害賠償責任との関係では、有効です。
Posted by 葉玉匡美 at 2006年01月24日 21:31
 すなわち、その定款の定めは、実体法上は、完全に無効になってしまうわけではなく、法律上、施行前の取締役の行為との関係でのみ有効な定款の定めが存在している状態になります。したがって、この状態の下では、定款の定めの登記を抹消する義務は生じません。
 なお、例えば、施行前の取締役の行為の責任を役会で免除したくないと会社が判断する場合には、その定款の定めを廃止する必要があります。
 この場合には、この定款の登記を抹消する義務が生じますので、ご注意ください。
Posted by 葉玉匡美 at 2006年01月24日 21:31
葉玉様

だいぶ前のブログに書き込んで、コメントがいただけるかどうか迷いましたが、書き込みます。

これを読んでみると、旧商法に基づく責任免除規定は
あくまでも会社法施行前の取締役の行為に適用され、
会社法施行後の取締役の行為に関して責任の免除の規定を
設けたい場合には新たに設ける必要があるということでしょうか。

ということは、会社法施行前の取締役の行為と、
会社法施行後の取締役の行為と、その両方に関して、
責任の免除の規定を適用したい場合には
古い責任免除の規定を削除せず、それを残したまま、
あらたな責任免除の規定を設けるということ、
つまり登記簿には旧商法にもとづく責任免除と
会社法にもとづく責任免除の規定の両方が
記載されることになるのでしょうか。

お忙しい中、大変恐れ入りますが、お返事いただけると
助かります。

宜しくお願いいたします。
Posted by osamu.k at 2006年09月05日 23:45