2006年02月16日

発行価額と払込価額

 私が、商法を勉強し始めたとき、商法の先生から、「資本充実の原則というのは、資本金に見合うだけの財産が現実に拠出されなければならないという原則のことだ」と言われました。

 それで、私は、長い間、株式会社には、資本金に見合うだけの財産が、必ず「現実に拠出されている」のだと思いこんでいました。

 ところが、勉強が進んでくると、それが一種のフィクションだということもとわかりました。このことを、現行商法の設立手続を見ながら、説明しましょう。

 現行商法では、設立時における株式の発行は、大雑把に言えば、次のような手順で行われます。
…蟯召如∪瀘時に発行する株式の数を定める。
  ex.設立時に200株発行すると決める。

発起人が、株式の発行価額を決める。
  ex.1株5万円と決める。

H起人が自分でどのくらいその株式を引き受けるか決める。
  ex.発起人が自分で50株を引き受けると決める。

ぁ´,之茲瓩真瑤粒式の全部が引き受けられていない場合には、残りの株式を引き受ける人を募集する。
  ex.募集して、3人の引受人が、全部で90株引き受ける。

ァ´い琶臀犬靴討眩管瑤引き受けれないときは、残りについては発起人が引受担保責任を負う。
  ex. 50株+90株=140株は引受人が決まったので、残り60株を、発起人が引受担保責任で、引き受ける(=払込み義務も負う)。

Α^幣紊如■横娃鯵瑤琉受け先が決まったので、発起人は、自分で払込みをし、引受人に払込みをさせる。払い込まない引受人がいたら、発起人が払込担保責任を負い、代わりに支払う。

 以上のように、\瀘時に発行する株式200株について、すべて引受人が決まり、発起人の定めた発行価額5万円の全額が払い込まれるから、 澂△濃蚕个気譴觧駛楸癸隠娃娃伊円が、現実に拠出されるんだと説明されています。

 でも、この説明って、少し誤魔化しが混じっていて、この説明における資本充実は、発起人が引受担保責任や払込担保責任を負い、最後の尻拭いをするからこそ、初めて実現されるわけです。

 例えば、発起人が、無資力だったら、どうでしょう。

先ほどの例で、発起人は、合計50株+60株=110株を5万円で引き受けていますから、550万円の払い込みをしなければいけません。
 しかし、発起人が、無資力なら、無い袖は振れないから、払えません。
 そのため、資本金1000万円に見合うだけの財産は現実に拠出されないということになります。
 
 それで、現行法は、資本充実の原則を実現するために、設立時に発行する株式について全額の払込みをした証明書を添付しないと、設立の登記ができないという商業登記法の手続規定で、なんとか資本充実を実現しようとしているのです。

 もっとも、資本充実を商業登記法で実現するというのは、言い換えれば、手続さえパスできたら、資本充実を実現しないまま、設立することがができるということを意味します。

 例えば、次の3つの場合は、「現実の拠出がされない」場合です。

仝醜塰,任蓮発起人が「預合い」や「見せ金」をしたら、払込みは無効だが、その場合でも、払込金保管証明書は手に入るから、登記はできる。この場合も、資本金は、発行価額ベースで算定されて1000万円となる。払込みが無効な株式については、発起人等が払込担保責任を負うが、発起人等が無資力ならば、資本金に見合うだけの財産は拠出されない。

発起人が、払込みをしていないのに、払込金保管証明書を偽造して、登記をした場合も、,汎韻犬如発起人等が無資力ならば、資本金に見合うだけの財産は拠出されない。

H起人が時価よりも著しく高い価額で現物出資をした場合、「発行価額」は、定款で定めた現物出資財産の価額をベースに算定されるので、資本金も、時価より著しく高い価額をベースに算定され、その額で登記される。この場合、発起人等は、不足額の填補責任を負うが、発起人等が無資力ならば、資本金に見合うだけの財産は拠出されない。

 ´↓のように、現行商法における資本充実の原則は、正確に言えば、「定款で定めた設立時発行株式×発行価額をベースに算定された資本金に見合うだけの財産をなるべく拠出させるように、発起人等に頑張らせる原則」です。
 皮肉を込めていえば、現行商法の株式会社は、発起人等が担保責任を果たせるだけの資力を持っているかどうかが重要である「人的会社」なのです(笑)。

まあ、定款と発起人の決定により「資本金」が決まってしまうので、資本金と現実の拠出に乖離が生じるのは仕方が無いのですが、そうした事実に目をつぶって、資本充実の原則を説明するのは、あまり親切ではないような気がします。

 これに対し、新しい会社法においては、資本金の額を「発行価額」ではなく、金銭出資の場合には、「払込価額」(現実に払込みが行われた額)をベースに、現物出資の場合は、定款で定めた価額ではなく、「時価」(給付価額)をベースに算定します。

その結果、上記の,らまでについては、次のような処理になります。
“起人が無効な払込みをした場合、無効な分については、資本金に算入されず、客観的には、有効に払込まれた額だけが資本金となる。したがって、資本金に見合うだけの財産が現実に拠出されている。なお、無効な分を算入した資本金を登記した場合には、虚偽登記で、公正証書原本等不実記載罪が成立する。また、それで、債権者を害すれば、発起人等は損害賠償責任を負う。

発起人が、払込みをしていないのに、払込金保管証明書を偽造して、登記をした。この場合でも、客観的には、払込みをしていない部分は資本金に算入されず、現実に払い込まれた分だけが、資本金となる。払込みをしていない部分について資本金に加えて登記したら、虚偽登記で、,汎韻現萢になる。

H起人が時価よりも著しく高い価額で現物出資をした。この場合でも、客観的には、時価をベースに資本金を算定する。時価を超える部分を資本金に算入して登記すれば、虚偽登記で、,汎韻現萢になる。

会社法の考え方ですと、´↓とも、資本金は、現実に拠出された財産(払込金額や現物出資財産の時価)で満たされています。現実に拠出された財産だけを資本金に算入するから、当然です。

 現行商法のように、背伸びして、現実に拠出「すべき」資本金の額を定めると、それが充たされない場合が出てきますが、会社法のように、ありのままの姿、つまり、拠出されたものだけを資本金にすると、そこに差は出てきません。

 そして、ありのままの姿を公示すべきであるというルールをとれば、水増しして資本金を公示した場合は、みんな虚偽登記で発起人等に民事刑事の責任を追求することになります。

会社法が採る「払込・給付価額」ルールにより、ある意味、完全に資本充実の原則が実現したということもできますし、逆に、現行商法のように背伸びをしなくなったので、資本充実の原則は無くなったということもできるかもしれません。

 もちろん、現行商法と会社法と、どちらが債権者保護のために優れているかというのは、一長一短だと思います。

 会社法でも設立の登記のときに払込を証する書面を提出させ、定款で定めた最低出資額の払込があるかどうかをチェックしますので、その点は、現行法とあまり変わりはありません。

 ただ、払込のない分を資本金として公示することを認めた上で払込担保責任を負わせる現行商法よりも、払い込まれた分だけ資本金として公示するべきであるという会社法の方が、より「資本が充実」しているのは事実ですし、株式の発行と無関係に虚偽の増資の登記をした場合との整合性は会社法の方が優れています(これは、現行法でも虚偽登記とせざるをえません)。

 また、会社法には、引受・払込担保責任はありませんので、その点、現行商法の方が債権者の保護に厚いようにも思いますが、会社法でも、資本金の水増し登記には、任務懈怠責任が生じるのですから、実質がそれほど変わるとは思いません(仮に会社法で、払込担保責任を残したとしても、少なくとも過失責任化されたと思いますし。)。公正証書原本等不実記載罪が成立しやすいという点では、会社法の方が、現実に拠出されていない財産を資本金に算入することを抑止する力は強いかもしれません。

 いずれにせよ、会社法が「払込・給付価額」ルールを採用し、かつ、引受・払込担保責任を廃止するというルールを採用した以上、そのルールを前提に設立をめぐる論点を整理する必要はあると思います。

 そのあらわれの一つが、既にお話した「預合いが、払込みとして有効か」という論点です。資本金の算定についての新ルールに対する理解が深まったところで冷静に考えると、「預合いによる払込金について、払込みを無効として発起人に返還するより、払込みを有効として会社財産とし、かつ、資本金による拘束をかける方が合理的だ」と思いませんか?


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この記事へのコメント
あまりに基本的な事をお尋ねすることをお許しください。
現物出資の場合に生じる不足額填補責任は55条において株主総会で免除できると規定されていますが、これは、違法配当責任を免除できる場合と同じように、株主の配当原資が、不足額分無くなってしまうことによる規定なのでしょうか。
またその趣旨の場合、債権者は任務懈怠責任により発起人に責任追及することになるのでしょうか。
(記事には虚偽登記による民事刑事責任について、お書きになられていますが、会社法しか勉強していないため、任務懈怠責任しか発想できないことをお許しください)
ご指導のほどよろしくお願いします。
Posted by 公認会計士受験生 at 2006年02月16日 01:54
http://jump.sagasu.in/goto/bloog-ranking/で取り上げられていたので見にきちゃいました。またみにきますね〜。
Posted by どんべぇ at 2006年02月16日 02:59
ぶろぐチェックさせてもらいました☆
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Posted by ブロパラ君 at 2006年02月16日 09:26
会社が倒産したときのことを考えてみると、管財人が発起人に払込担保責任を追及すれば、債権者に分配する財産は増えますが、虚偽の登記をしたという任務懈怠責任だけだと、債権者がおのおの、虚偽の登記と自己が被った損害との間の因果関係を証明しなければなりません。この因果関係の証明はほとんど不可能ではないでしょうか。
Posted by mousikos at 2006年02月16日 22:56
葉玉先生

いつも楽しく読ませて頂いております。
一つ質問をしたいのですが、
会社法においては資本充実原則の必要性はどこに
あるのでしょうか?

私のブログにその点に関しての私の見解を述べさせて
いただきました。すぐ読み終わるような短い文章です
から一度お読み頂ければと思っております。
誠に勝手ながら、宜しくお願い致します。

http://blog.goo.ne.jp/lonelyplanet_8082/e/fe65b9fd63d4b60e63d476ae5a2aaa10
Posted by ロンリープラネット at 2006年02月17日 00:00
 葉玉先生、ブログも100問も大変興味深く読ませていただいております。新司法試験の会社法対策は100問に一任です。
 ところで、よくわからないのが、発起設立の場合の預合の扱いです。払込取扱機関は返還に関する制限を対抗できる結果、預合がなされると、会社が自由に使えないお金が資本金として計上されることになる、と思われます。ところが、預合の払込も有効なのですから、虚偽登記とはいえないし、資本充実にも反し、他の発起人と不公平な気もします。預合部分を損害とする任務懈怠責任(53条)が生じるという処理になるのでしょうか? そうすると、発起人が無資力の場合、資本金と実際に出資された額の乖離は生じうるということですか?
Posted by ふにくよ at 2006年02月17日 15:52
葉玉先生

少しマニアックな質問をさせていただいて宜しいでしょうか?

昨今、株式市場には多くの公開会社たる会社が新規に上場しております。
その新規上場会社が新たに上場する際の募集株式の払込金についてご教授下さい。

現在、新規上場会社が上場する際の株式募集に関しては、ほとんど証券会社の買取引受方式となっており、次の様な扱いがなされております。
 嵌行価格」:投資家が証券会社に払い込む金額
◆岼受価額」:証券会社が新規に上場する会社(新株発行会社)へ払い込む金額
「発行価額」:商法上の発行価額
(,鉢△蓮△い錣罎襯屮奪ビルディングと呼ばれる、投資家の需要に応じて変動する関係上、の商法上の発行価額を別途決めているわけです。)
(,鉢△虜抗曚、引受証券会社の手取金、いわゆる手数料相当額となります。)

(つづく)
Posted by ネットくん at 2006年04月20日 18:33
(つづきです)

(ブックビルディングにより△上下する可能性があるため、は△茲蠎禊害爾龍盂曚鮗萃役会により決めています。)

そこで問題なのですが、会社法で「払込金額」が資本組入額のベースになると、現在の上記手法が取れなくなると思うのです。そうすると◆甅とするしかないのかなぁ?とか考えているわけでして・・・。
これって、このブログに質問するような事ではないのかもしれませんが・・・。
もしもこの件に関して何かお考えがあるようでしたら、ご教授をお願いしますm(__)m

Posted by ネットくん at 2006年04月20日 18:34
はじめまして。
会社法百問とても参考にしています。

ところで、現物出資規制について質問があります。

それは、会社設立時の不足額填補責任は55条の総株主の免除できるのに対して、募集株式発行時や新株予約権発行時にはこれに該当する条文がないように思うのですが、どうしてでしょうか??

よろしく御願いします。
Posted by ふーやん at 2006年04月20日 22:29