2006年04月24日

代表社員である外国会社

巷では、「外国会社が、100%出資して、持分会社を設立することができるか」が話題になっているようです。

 社員の資格を定めている規定はないので、直感的には、
「そんなの、当然、できるでしょう。」
と思うのですが、何が問題かというと
「会社の代表者のうち少なくとも一人は、日本に住所地を有している者でなければならない」
というルールとの関係です。

持分会社に、明文でそのルールが規定されているわけではありませんが、株式会社の代表者については通達(昭和60年3月11日民4・1479号民事局第4課長回答)で、少なくとも一人が日本に住居地があることを求められ、外国会社の日本における代表者も同じルールが法律で定めれている(817条1項)ことから、持分会社の代表者も、同じルールが適用されることになります。

他方、持分会社は、所有と経営が一致していることから、出資をした社員しか代表者になることができないというルールがあります。そのため、外国会社が、持分会社の唯一の社員である場合には、外国会社自身が代表者にならざるをえません。他の人を代表者にするわけにいかないのです。

そして、この2つのルールが組み合わされると、
「外国会社が持分会社を設立することはできないのではないか」
という疑問がわいてくるわけです。

この疑問を解決するためには、法人代表社員に関する、どのような「住所地」を日本国内に要求するかということを明らかにする必要があります。

可能性として考えられるのは、
(1)法人の本店所在地
(2)法人の代表者の住所地
(3)法人の職務執行者の住所地
の3つです。

「代表者の一人が日本に住所地がなければいけない」というルールが存在する理由は、いろいろな見解があるのですが、持分会社の本店がもぬけのからの場合、自然人である代表者に対する送達をしたいというのがよく言われている理由です(その見解の当否は別として)。

その点からすると、代表者の住所地を考えるに際しては、代表権を行使する「自然人」の住所地であることが重要であり、その点において、(1)代表社員である法人の本店所在地が日本にあることは、要件にならないと考えるべきです。

そして、持分会社の代表権を行使するのは、(2)代表社員である法人の代表者ではなく、(3)その法人が指定した自然人である職務執行者なのですから、結論としては、(3)法人の職務執行者の住所地が日本にあればよいということになります。

このことは、外国法人の場合に限らず、日本法人が自分だけで持分会社を設立する場合も同様であり、いくら日本に本店があり、日本に住所地を持つ代表者がいる日本法人であっても、
指定した職務執行者が、サウジアラビア在住のマッサン・ハッダマという人
では、登記することができません。

もっとも、職務執行者は、二人以上指定できるので、マッサン君のほかに、日本在住のマサミ・ハダマが職務執行者になれば、いいんですけんどね。

(質問コーナー)
Q1
自己株式取得は株主総会決議で実施可能(156条)で、また特定の株主から取得する場合も、株主総会決議で実施可能(160条)で、これらを市場取引等で実施する場合には取締役会でできる旨を定款で定めることができる(165条)ことになっています。他方、自己株式の取得は剰余金の配当の一形態と位置づけられ、459条でも自己株式取得について(160条以外)定めることができるようになっています。後者の規定によるかぎり、取締役の任期は1年ということになります。剰余金の分配を株主総会でやる場合には、取締役会で自己株式取得を行う定款を設けていれば、取締役の任期を1年にする必要はなく、また特定の者からの取得の場合も、現行法のルールではTST‐NET2を利用すれば、取締役会で決議で自己株式取得できるということでよろしいでしょうか。
Posted by 法律小僧 at 2006年04月24日 11:24
A1
最後の一文の質問の意味が分かりません。
トストネット2による取得は、市場取引による株式の取得であり、157条から160条までの規定は適用されません。
したがって、定款で市場取引等により自己株式を取得することを取締役会の決議によって定めることができる旨を定款で定めた場合(165条2項)には、取締役の任期にかかわらず、取締役会で自己株式を取得することができます(165条3項)。

Q2
 招集通知発出後の営業報告書等の修正について質問させてください。
 先日の施行規則・計算規則の改正で、整備法99条定により作成される営業報告書・計算書類・連結計算書類についても発出後の修正方法を通知できるとする改正がなされました。
,海譴漏主総会の手続等を会社法に基づいて行う会社にのみ適用され、商法に基づき行う会社には適用されないということでしょうか?(参照「施行前後の法律問題」209頁)施行規則附則4条3項、計算規則附則9条・10条にはそのような限定がないのですが、どのような法的構成なのでしょうか?
⊂λ,亡陲鼎行う会社はa.修正方法を通知すること、b.実際修正することは、できないのでしょうか?
Posted by はまっ子 at 2006年04月24日 00:56
A2
ヽ主総会の手続を商法に基づき行う会社には、施行規則・計算規則は適用されませんので、附則も適用されません。
解釈に委ねられています。それが、あいまいだから、施行規則を置いたということです。

Q3
会社法の施行後の設立についての質問です。普通株式を発起人ABが引き受け、拒否権条項付種類株式(単に「株主総会の決議について種類株主総会の承認を要する」内容)を発起人Cが引き受ける発起設立で、Cの賛成を含めて発起人の議決権の過半数で設立時取締役を決定した場合、これとは別にCの種類株主としての決定は必要となるのでしょうか(会45機法また、仮にCの決定が必要となるとしても、Cが賛成していることをもって当初の決定をCの種類株主としての決定を含むものと理解することはできないのでしょうか。
Posted by 猫太郎 at 2006年04月24日 08:33
A3
取締役の互選による設立時取締役の選任については、拒否権は定められていないので、種類創立総会のようなものは不要です。

Q4
先日の先生のご回答では、役員報酬枠の改定議案には、報酬算定の基準の記載が参考書類に必要だとのことでした。
それでは、本年役員賞与を利益処分案の中で支給する場合はどうでしょうか(来年以降も賞与支給議案をを確定額で株主総会に諮っていく会社も同じですが)。
賞与支給総額は完全な確定額として示されます。また、規則上の要請から、支給される役員の人数も記載されます。個人的にはこれで十分と考えているのですが、これ以上に、内部的な賞与配分基準の概要まで記載しなければならないのでしょうか。ちなみに商事法務1761号では、賞与については確定額をかけてば算定基準も示したことになるのでいいんでは?的な解説がなされていましたが・・。
Posted by 参事官室によく電話する人 at 2006年04月24日 12:16
A4
361条1項1号の決議で、確定額を定めるのは、当然であり、それを前提にとして、株主総会参考書類への記載を要求しているのですから、先日記載したような基準を書く必要があると思います。「なぜ、そのような賞与総額になったのか」、その額が算出された根拠となる基準について客観的なものであれ、主観的なものであれ、書いてください。
(ちなみに、商事法務1761号の当該記述は、私たちが書いた論文ではありません)。

Q5
今日は。利益の資本組み入れに関してご教授をお願いします。
商法第293条ノ2の規定によって従前の株式会社は利益から直接資本に組み入れが可能でした。会社法でも第450条に引き継がれています。ところが、会社計算規則第48条第1項第2号のカッコ書きで「その他資本剰余金に係る額に限る」となっています。利益剰余金は認められていません。そうしますと、一旦株主配当を行い新たに増資の手続きをしなくてはならないのでしょうか。
Posted by 会社法初心者 at 2006年04月24日 15:00
A5
どうしても、利益剰余金を資本金に組み入れたければ、剰余金の配当と新株発行ですね。


Q6
会社法第319条第1項の規定により株主総会の決議があったものとみなされた場合にも、会社法施行規則第72条第4項により、株主総会議事録を作成しなければならないとされています。この規定に関連して、以下の理解で宜しいでしょうか。
1.この規定は、総株主の同意書とは別に、備置義務のある総会議事録としても作成しなければならない。
2.会社法319条第1項では「取締役又は株主が。。提案」とありますが、会社施行規則第74条4項1号ロ「イの事項の提案をした者の氏名又は名称」とは、例えば取締役会設置会社において合併についての提案を行う場合は「当社取締役会」という表示になる。
3.商業登記法第46条3項においては、「前項の議事録に代えて、当該場合に該当することを証する書面を提出しなければならない。」とあるため、1.の議事録ではなく、総株主の同意書そのものを添付することになる。
Posted by moremi at 2006年04月24日 20:29
A6
1 そのとおりです。
2 提案は、取締役が行うので、取締役会となることはないと思います。
3 既出ですが、決議省略の議事録も、「当該場合に該当することを証する書面」になります。

Q7
株式会社の清算と破産の関係について一点ご教授ください。
旧商法では破産手続開始決定があれば株式会社は解散(404条1号、94条5号)し、破産手続で破産管財人が置かれるために清算人が置かれないものの、形式上は清算手続に入っていた(417条1項2項)と思います。
これに対して会社法では破産手続開始決定で会社が解散する(471条5号)のは変わらないものの、形式上も破産手続が終了するまで清算手続には入らない(475条1号括弧書)ことになってると思います。これは事実上の扱いに法的形式を合わせたものだと思います。
そこで本題なのですが、この場合の解散したけれど清算手続していない会社というものの代表者は清算人と取締役のどちらでしょうか?
Posted by 倒産法選択受験生 at 2006年04月22日 22:56
A7
破産手続の終了前は、清算株式会社にはなりませんので、その場合の代表者は、代表取締役です。

Q8
本日、100%子会社(兄弟会社)間の無対価吸収合併についてご質問をさせて頂きます。
合併に際して資本金又は準備金として計上すべき額に関連して会社法及び省令には、「株式を交付するときは(会社法749条1項2号)」「金銭等が吸収合併存続会社の株式であるときは(会社法749条1項2号イ)」「対価の全部又は一部が吸収合併存続会社の株式であるときは(計算規則59条、61条の前提、62)」とありますが、(上記事例で)無対価の場合には、これらの規定の適用はないのでしょうか。
会計基準には、「共通支配下の取引」については、対価に関する記載がないようなのですが。株式を発行しても資本金を増加しないことはできるけれどもその逆はなく、適用はないとした場合、どのような規定・基準にしたがって、会計処理を行うことになるのでしょうか。
また、存続会社の合併承認決議において、合併の効力発生を停止条件として同時に剰余金の額を減少して資本金の額を増加することは可能でしょうか。
Posted by 林 伸子 at 2006年04月23日 18:04
A8
1 会計処理は、公正な会計慣行に従いますが、計算規則では、計算規則17条が適用されるものと思います。同条は、共通支配下関係であることのみを要件としており、対価が株式であることを要件としていません。
2 合併と、剰余金の資本金への組入れは、別の手続ですので、合併承認決議において、当該組入れをすることはできませんが、同じ株主総会中に別の議題として、当該組入れの決議をすることはできます。

Q9
端株制度を引き続き採用する会社においては、端株原簿名義書換代理人という登記項目は、このまま存続するということでした。そこで、そのような会社が今回定款変更するにあたり、株主名簿管理人とは別に、端株について、(端株原簿)名義書換代理人を置く、といった規定を残す必要があるのでしょうか。
A9
どちらでも、いいと思いますが、附則で置くのも明確ですね。

  

Posted by masami_hadama at 22:23Comments(78)TrackBack(0)

2006年04月05日

持分会社の法人社員

 先日、ある会合で、ある会社の法務担当者の方から「持分会社の話は、しないんですか?楽しみにしているんですが」と言われました。

 カラオケでも、リクエストがあるとどんな歌でも歌う性格なので、今日は、「持分会社の法人社員」の話をします。

現行商法では、
(1)会社は、会社の無限責任社員となることができず(現行商法55条)
(2)有限責任社員は、会社の業務を執行したり、会社を代表したりすることができない(現行商法156条)
ということから、会社は、無限責任社員になることも、業務執行社員になることもできないこととされていました。

 これに対し、会社法は、現行商法55条に相当する規定を設けず、また、有限責任社員であっても原則として業務執行権を有することとした上で、法人が業務執行社員である場合の特則として598条を設けているので、法人(会社だけではなく、会社以外の法人も含みます)が、持分会社の無限責任社員や業務思考社員になることができます。

 例えば、葉玉とトヨタ自動車株式会社と学校法人立教大学が、合資会社トヨタマリッキョウを作ることとした場合に、私が無限責任・業務執行社員、トヨタと立教大学が業務執行権のない有限責任社員である場合と、その逆である場合では、後者の方が、トヨタマリッキョウの信用度があがるのは自明なので、会社法は、そうした当たり前のことができるようにしているだけです。

 また、合同会社で、ジョイントベンチャーでやろうとすると、複数の会社だけで合同会社を作ることになりますから、法人業務執行社員を認めることは必要不可欠です。これを認めないと、業務執行社員とするために、わざわざ自然人を一人、出資者に加えなければならなくなる上、その自然人である出資者にジョイント・ベンチャーの生死を左右されることになりかねないため、合同会社の使い勝手が著しく悪くなります。

 以上ような理由から、法人業務執行社員が認められているわけですが、
 「法人が持分会社の業務を執行する」
と言っても、ピンと来ませんよね。
 
 毎日、法人くんが、ネクタイを締めて、カバンを片手に出勤してきたり、「おーい、法人くん、今日は、新入社員の歓迎会だから、7時に六本木のアマンド前ね。飲み過ぎるなよ。」なんて言われたりするのも楽しい感じはしますが、ちょっと現実を見る必要があるので、会社法は、法人が業務執行社員になったときは、「業務執行社員の職務を行うべき者」(職務執行者)を選んで、持分会社に通知しなければならないこととしています(598条)。

(特に、法人が代表業務執行社員である場合には、その代表権を有する法人の職務執行者が誰なのかを取引の相手方にも確認してもらう必要があるので、代表権のある法人業務執行社員については職務執行者が登記事項にもなっています(912条7号、913条9号、914条8号))。

 この職務執行者は、社員である法人の代表者である必要はなく、代表者以外の役員であってもいいし、従業員であってもいいし、それ以外の者であっても構いません。例えば、法人社員が、その顧問弁護士、顧問税理士又はコンサルタント等を職務執行者として指定することもできます。資格に制限はありませんし、選任方法も法人社員の自由であり、他の社員の承諾は不要です。

 このように、業務執行者は、法人社員というクッションを介して、会社と関係を持つようになった自然人ではありますが、会社の業務執行や代表を行うことになる以上、会社に対する善管注意義務を負うなど業務執行社員に関する会社法上の義務がかかることとされています(598条2項)。

ところで、業務執行社員については、一定の義務違反その他の不適任な事由がある場合には、訴えをもって、業務執行権の消滅を請求することができることとされていますが(860条)、職務執行者には、そのような制度はありません。

 これは、職務執行者については、特に選任手続が法定されているわけではなく、仮に、職務執行者の権限を消滅させる請求を認容する判決が確定しても、再度、当該法人の判断限りで、再任することができるため、制度として実効性を欠くからです。

 したがって、不適任な職務執行者が選定された場合には、法人社員に対して、その変更を促して、任意に変更してもらうか、業務執行社員である法人を被告として業務執行権の消滅の訴え等(860条)を提起することになるでしょう。


(質問コーナー)
Q1
 会社法第186条2項等の、「株主の所有する株式の数に応じて」という、いわゆる”持株比率”の取扱についてどなたか教えていただけませんでしょうか?
この比率の算定方法は一般的に、”小数点第3位以下を四捨五入する”という方法で、例えば、”66.78%”のように取り扱われると思うのですが、このような小数点以下がある比率で、株式の割り当てをすると、割当て総数によっては、端数が生じてしまうので、それを回避したいと考えています。その方法として、持株比率を、小数点以下(第1位)四捨五入し、きれいな整数倍、上記の例では67%として取り扱うのは、株主平等原則の強制規定であるという位置づけの、同条に違反してしまうのでしょうか?
Posted by ワディ at 2006年04月03日 22:32
A1
 かつてのヤフーのように1株1億円の会社で、小数点第3位以下を四捨五入すると、49万9999円が切り捨てられてしまいますね。ちょっと、まずそうです。
 株式無償割当は、株主に割り当てる数の算定方法を決定することもできますから(186条1項1号)、まず1株につき1.2株を割り当てるというような感じで定めるのでしょう。
 そうした上で、個々の株主に割り当てられる株式の数に端数が出るときは、234条1項3号で、端数相当分のお金を払います。計算上、1円未満の数が出たら、それは四捨五入でよいと思います。

Q2
募集株式の割当てについて,204条1項は「株式会社は・・・割当てを受ける者を定め・・・」とあります。これがいわゆる「割当自由の原則」なのでしょうか。また,取締役会設置会社において譲渡制限株式でない株式の割当ての決定は‖緝充萃役とか執行役とかの業務執行者,⊆萃役会 のいずれが行うのでしょうか。なにとぞご教示賜りたくお願い申し上げます。
Posted by SUZUKAZU at 2006年04月01日 12:19
A2
 割当自由の原則の意味次第でしょうが、要するに、株式会社が誰に割当をするかについて、特に制限はありませんから、「上戸綾には割り当てるが、シズちゃんには割り当てない」ということは、自由に決めてください。
 割当ての決定を行うのは、業務執行の決定機関が行います。譲渡制限株式の場合は、定款で別段の定めがある場合を除き、取締役や執行役に委任できませんが、譲渡自由の株式は、委任することができます。

Q3
 清算株式会社では、取締役会を置くことができませんが(会477条6項),清算の開始原因が生じる前に取締役会設置会社であった株式会社における「取締役会を置く」旨の定款の規定は,清算の開始原因が生じたことによって,失効するのでしょうか?
また,失効するとすれば,継続に際して,取締役会設置会社として継続したい場合には,継続決議の際に,上記の定款規定を置く旨の決議をする必要があるという理解でよいのでしょうか?
商業登記法73条が,清算人の登記にあたっては「清算人会を置く」旨の定款規定の有無を判断するために定款を添付書面としているのに対し,継続の際には特に規定がないため,気になっております。
A3
 477条6項で第4章第2節の規定が適用除外されているので、取締役会を置く旨の定款の定めは、清算株式会社では効力を失います。
 清算株式会社が、取締役会設置会社として継続したい場合には、継続決議の際に、取締役会を置く旨の定款の定めをしなければいけません。

   
Posted by masami_hadama at 23:07Comments(65)TrackBack(0)

2006年03月14日

持分会社の持分の払戻し

今日は、「持分の払戻し」について、お話しします。

2回に渡って、利益配当と出資の払戻しについて説明しましたが、持分会社には、それらと似て非なるものとして、「退社に伴う持分の払戻し」(611条)というものがあります。

持分会社の純資産(資産−負債)は、資本金・資本剰余金・利益剰余金で構成されていて、基本的には
 (1)資本金・資本剰余金は、出資をしたら増えて、出資の払戻しで減る
 (2)利益剰余金は、会社の損益によって増減し、利益配当で減る
という仕組みになっています。

 とすると、一見、出資の払戻しと利益配当という2つの制度があれば十分のような気がします。
 しかし、社員が退社するときに、会社とその社員との関係を清算するという目的を達成するためには
 「出資の払戻しや利益配当は、『簿価ベース』で社員に対する金銭等の支払いの限界を設定している」
という点に不便があるのです。

 例えば、葉玉が金銭100万円を出資し、貧乏なイタリア人画家のラファエロさんが店舗のインテリアとして絵画100万円相当を現物出資して、
「合同会社 誰でも美人」
という似顔絵屋さんを始めたとしましょう。

 最初は、葉玉の100万円で事務用品や絵筆を買い、細々と商売を始めたのですが、ラファエロは、
どんな女性であっても「すごく似ているのに10倍美しく描く」
いう天才的な画力を持っていたため、シロガネーゼとかアシヤレーヌとかマダム達の間で大ブームが起こり、「合同会社 誰でも美人」は、1年間で3800万円の利益を稼ぎました。

 ところが、葉玉は強欲で、この1年間ラファエロに支払うことを約束していた給与の1000万円を全く払っておらず、しかも、ラファエロに無断で、ダビンチ君という画家を雇い、ラファエロ目当てで来た注文をダビンチ君に描かせたりしたので、ラファエロは激怒し、「俺は、この会社を退社する。」と言って、未払給与と、退社に伴う持分の払戻しを請求しました。

 仮に、1年目の決算における資産・負債・純資産の状況は、次のようなものだったとすると、ラファエロが未払給与1000万円をもらえるのは当然ですが、その他に、持分の払戻しとして、いくら請求することができるでしょうか。
 資産 合計5000万円
  現金 4900万円
  絵画 100万円
 負債 合計1000万円
  未払給与 1000万円
 純資産 合計4000万円
  資本金 200万円 (葉玉100万円、ラファエロ100万円)
  資本剰余金 0円
  利益剰余金 3800万円(葉玉1900万円、ラファエロ1900万円)

この場合、ラファエロの資本金と利益剰余金は合計2000万円ですが、資産にあがっている簿価100万円の「絵画」の価値が、ラファエロの名声により、時価「1100万円」に値上がりしているとすれば、どうでしょう。

簿価ベースでは、資産合計5000万円、純資産合計4000万円ですが、時価ベースでは、資産合計6000万円、純資産合計5000万円になります。

したがって、ラファエロとしては、「この会社の実質的な純資産の半分は、俺のものだ。だから、最低2500万円は貰いたい」と言うでしょう。

また、「合同会社 誰でも美人」は、ラファエロのおかげで名声が高まり、しかも、ダビンチ君が、
どんなに無愛想なマダムでも、魅力的な微笑をたたえた姿に描く天才画家
であったため、ラファエロの退社後の発展も期待することができるとなると、ラファエロとしては「俺のおかげで注文が殺到し、会社が軌道に乗ったのだから、退社後に得られる利益についても、適正に評価して、自分の持分の評価に上乗せしてもらいたい」と思うでしょう。

このようにラファエロが本来取得できる簿価ベースの純資産(資本金・資本剰余金・利益剰余金)と、ラファエロの出資した持分の客観的価値が食い違うため、ラファエロが退社する場合に行う持分の払戻しの価額の計算については、退社の時における持分会社の財産状況にしたがって計算され(611条2項)、計算が完了していない事項については、その完了後に計算することができる(611条4項)こととされているのです。

 要するに、当該持分会社の企業価値(資産・負債等を継続を前提に時価評価し、将来収益その他の状況を適宜勘案して算定される)を前提に、持分の払戻額が計算されるわけです。

 先ほどの例で、将来収益分を1000万円だとすると、持分全体の客観的価値、時価評価5000万円+将来収益分1000万円=6000万円となり、このうち、ラファエロの持分をどのような割合で計算するかについては、定款で定めをおいていれば、その定めに従いますし、それがなければ、出資の価額に応じる(すなわち、この例では50%)ことになります。

<債権者保護>
以上は、ラファエロさんの立場に立って持分の払戻しについて、説明してきましたが、会社債権者の立場に立つと、多額の財産が払い戻されるということは、会社財産が減るということですから、なんらかの配慮をしてもらわないと困ります。

 合同会社や合名会社では、退社した社員の責任については、退社の登記前に生じた持分会社の債務について、従前の責任の範囲内でこれを弁済する責任を負うということでバランスを図っています(612条1項)。つまり、無限責任社員は無限責任を、直接有限責任社員は、出資未履行分がある場合に直接有限責任を、退社の登記前の会社債務については負担するということです。

 もっとも、登記前に債権を取得した会社債権者が、登記後2年以内に請求又は請求の予告をしない場合には、その債権者に対する責任は消滅するので(612条2項)、退社した社員は、登記後2年経てば、自分がどの程度の債務を負うのかを確定することができます。

では、合同会社の社員は、どうでしょうか。

合同会社は、社員の出資未履行分はなく、社員は責任を負わないことが前提となっているので、退社の登記の制度がありませんし、612条の適用もありません。

そのため、退社時に持分の払戻しとして、多額の財産が退社する社員に流出すると、債権者を害するおそれがあります。

そこで、合同会社では、退社に伴う持分の払戻しについて、会社財産の状況との関係を踏まえて、次のような規制を行っています。

(1) 持分の払戻しにより社員に対して交付する持分払戻額(635条1項))が剰余金額(利益剰余金+資本剰余金。計算規則192条3号ニ)を超えない場合

 この場合は、会社債権者からみれば、利益の配当や、資本剰余金だけで出資の払戻しをする場合と同じですから、債権者保護手続をすることなく、持分の払戻しをすることができます。
 ラファエロさんの持分の払戻しが、3800万円(利益剰余金3800万円+資本剰余金0円)以下の場合であれば、債権者保護手続は不要です。なお、ラファエロさん自身の利益剰余金とその出資についての資本剰余金の合計額は1900万円ですが、債権者保護手続をとるかどうかは、全社員の利益剰余金・資本剰余金を合計した3800万円を超えないかどうかで判断します。

(2) 持分払戻額が剰余金額を超えるが、会社の簿価純資産額を超えない場合

 この場合は、資本金の額を〇円までの範囲内で減少した上で、出資の払戻しを行うことと実質的に同じですから、資本金の減少を伴う出資の払戻しの場合と同様の債権者保護手続(635条、627条参照)を経ることにより、持分の払い戻しをすることができます。
 ラファエロさんの持分の払戻しが、簿価純資産額3800万円超4000万円以下の場合には、資本金の減少と同様の債権者保護手続きをします。

(3) 持分払戻額が会社の簿価純資産額を超える場合(簿価債務超過の会社において持分を払い戻す場合を含む。)

 この場合は、利益の配当や出資の払戻し以上に、債権者を害するおそれがあります。
 他の場面で、これと似たようなことが起こるのは、簿価債務超過の会社を清算するときだけです。
 そこで、ここでも、清算に準じた債権者保護手続を経ることにより、持分の払戻しをするとができることとしています(635条2項かっこ書、3項ただし書)。
 なお、清算に準じた債権者異議手続を通常の債権者保護手続と比較すると、次の点において違いがあります。
 イ 異議を述べることができる期間は1か月ではなく、2か月である(635条2項)。
 ロ 公告方法のいかんを問わず、知れている債権者への個別催告を省略することはできない(635条3項ただし書)。
 ハ 異議を述べた債権者に対しては、「債権者を害するおそれがない」という抗弁は許されず、必ず弁済、相当の担保の供与等をしなければならない(635条5項ただし書)。

 具体例で言えば、ラファエロさんの持分の払戻しが、簿価純資産額4000万円超の場合には、清算に準じた債権者保護手続きをすることになります。

 このように(2)(3)では、債権者保護の必要性から、債権者保護手続を要求しているので、その手続きを採らずに、退社に伴う持分の払戻しをした場合には、退社自体は有効ですが、払戻しは無効となります。よって、払戻しを受けた退社員は、会社に対して不当利得返還義務(民法703条・民法704条)を負います。

 また、必要な手続をとらずに持分の払戻しをした業務執行社員は、過失があれば、払戻しを受けた退社員と連帯して責任を負います(636条1項)。

 利益配当、出資の払戻し、持分の払戻しについては、市販の本にほとんど書かれていないところなので、普段に増して、くわしく説明しましたが、持分会社に興味のない方には、「今週はつまんねえなあ。」という感想を持たれたことでしょう(笑)。
 なお、より詳しい説明については、千問に書いてありますので、必要な人はそちらを参考にしてください(宣伝モード)。






  
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2006年03月13日

持分会社の利益配当等(2)

 先日、視覚障害者の司法試験受験を手助けしたいという話をしましたが、忙しくなる前に情報収集をしようと思い、インターネットでいろいろ検索をしていたところ、「慶応ロースクールで勉強中の視覚障害者の大胡田誠さんが、日本で初めて全盲で司法試験に合格された竹下義樹弁護士にインタビューする」というNHKラジオの番組があったことが分かりました。
 それで、NHKのサイトにアクセスしたところ、なんと、インターネットで放送内容が聞けるようになっていました。
http://www.nhk.or.jp/fukushi/shikaku/510.html
http://www.nhk.or.jp/fukushi/shikaku/511.html
 話の中身は、視覚障害者の司法試験受験という枠を超えて、受験と弁護士業務にとって大切なことが熱く語られていて、私も共感する部分が多分にありました。
 受験生は、この時期、上向いたり、下向いたり、気持ちが揺れ動くわけですが、勉強に疲れたときに、この番組を聞いてみると、きっと得るものがあると思います。
 受験生以外の方でもポジティブになりたい方にはお勧めの番組です。

 さて、昨日の続きで、「持分会社の利益配当、出資の払戻し」についてお話しましょう。

 まず、昨日のおさらいを簡単にすると、持分会社では

 1 社員ごとに、資本金、資本剰余金、利益剰余金が区別されて管理されている(もっとも、単に資本金、資本剰余金、利益剰余金というときには、社員全員分の総額をいいます)。

 2 社員が利益配当を請求すると、会社の会計帳簿では、その社員の利益の額が減少し、他の社員の利益の額には影響を与えない。

 3 社員が出資の払戻しを受けると、会社の会計帳簿では、その社員の出資についての資本金、資本剰余金が減少し、他の社員の出資についての資本金、資本剰余金の額には影響を与えない

ということでした。

 では、持分会社において、違法配当や違法な出資の払戻しが行われた場合には、どのような処理をするのでしょうか。

<違法配当>
 利益剰余金がないにもかかわらず、利益配当をした場合の処理については、無限責任社員、合資会社の有限責任社員、合同会社の有限責任社員で処理が違います。

(1)無限責任社員
 合名会社、合資会社の無限責任社員については、特に何の規制もありません。利益剰余金を超えて、利益配当をしても、債権者との関係で、無限責任を負うからです。利益剰余金の額を超えて利益配当をすれば、利益剰余金がマイナスになるだけです。

(2)合資会社の有限責任社員
 合資会社の有限責任社員に対し、利益剰余金がないにもかかわらず、利益配当をすること自体は禁止されていませんから、配当をした業務執行社員は、何ら責任を負いません。
 しかし、有限責任社員には、「配当額」に相当する金銭を会社に返還する義務が生じ(623条1項)、債権者との関係では、「超過額」について直接責任を負うこととされています(623条2項)。会社に払うべき金額と、債権者に直接責任を負う金額が異なるところがポイントです。

(3)合同会社の有限責任社員
  合同会社は、利益額を超える額の配当をすることはできません(628条)。この場合の利益額とは、

A 会社債権者との関係で、配当をする時点において、配当可能な利益額、すなわち、その時点における利益剰余金の額(社員全員分の総額です)(計算規則191条1号)

B 他の社員との関係で、配当をする時点において、当該配当を受ける社員に分配されている利益の額(既に分配された利益の額から、既に分配された損失の額及び配当を受けた額を減じて得た額)

のいずれか小さい額のことをいいます。

 ようするに、自分の利益剰余金を超えてもいけないし、他の社員の利益剰余金がマイナスになっているときは、債権者保護の観点から、自分の利益剰余金についても配当を受けられない場合があるということです。
 この規制を守らずに、配当をした業務執行社員及び配当を受けた社員は、合同会社に対して、配当額の全部を支払う義務を負います(629条1項)。

  また、合同会社の社員は、合資会社の有限責任社員のように、債権者に対する直接責任を負うことはありませんが(630条3項)、違法配当の場合、会社債権者は、629条1項の規定により、持分会社が有する社員に対して有する債権の代位行使に関する特則の適用を受けることができます(630条2項)。

<違法な出資の払戻し>
 資本金・資本剰余金がないにもかかわらず、出資の払戻しをした場合の処理についても、無限責任社員、合資会社の有限責任社員、合同会社の有限責任社員で処理が違います。

(1)無限責任社員
 合名会社、合資会社の無限責任社員の出資の払戻しについて、特に規制はされていません。債権者との関係では、無限責任を負うからです。
 ただし、資本金・資本剰余金を超えて、出資の払戻しをした場合、超過部分については、法的には「出資の払戻し」ではなく、持分会社が社員に対して贈与・寄付したことになります。

(2)合資会社の有限責任社員
 合資会社の有限責任社員の出資の払戻しについても、特に規制はありません。
 しかし、有限責任社員が、出資の払戻しを受ければ、定款で定めた出資の価額について、払い戻した分だけ、出資未履行分が増加するので、直接責任を負う額が増加します(580条2項)。資本金・資本剰余金を超えて出資の払戻しをした場合には、出資の価額について全額未履行になりますので、定款で定めた出資の価額全額について債権者に直接責任を負うことになりますね。

 また、資本金・資本剰余金を超過した部分については、法的には「出資の払戻し」ではなく、持分会社が社員に対して贈与をしたのと同様の取扱いになります。
 この場合、有限責任社員に会社財産が流出していることから、超過部分について、詐害行為取消しが行われる可能性があります。

(3)合同会社の有限責任社員
  合同会社においては、出資の払戻しに関して、
 a. 定款を変更して、定款を変更して、その社員の「出資の価額」を減少する場合にのみ可能であること(632条1項)
 b. 出資の払戻し時点において存する利益剰余金の額及び資本剰余金の額の合計額の範囲内で行うこと(632条2項・計算規則192条3号ロ)
 c. 当該社員の出資につき資本剰余金に計上されている額の範囲内で行うこと(632条2項・計算規則192条3号ロ)
という制限が課せられています。

 a.は、合同会社の社員の間接有限責任(実質的には無責任)を維持するための制限です。定款に定めた出資の価額について未履行部分があると、社員は、会社債権者に対して直接責任を負うこととせざるをえないので((2)参照)、出資の払戻しをするときは、その社員の「出資の価額」も減少させて、未履行部分が出ないように配慮したものです。

 b.は、債権者の保護のため、株式会社と同様の財源規制をしたもの。

 c.は、各社員が出資した金額のうち「資本剰余金」についてしか払戻しが受けられず、「資本金」については払戻しが受けられないというルールであり、合同会社に特徴的なものです。
 これは、合同会社の資本金の額は登記されているため(914条5号)、債権者の信頼を確保するという観点から、資本金については、払戻しを認めないこととしているものであり、社員が、資本金に相当する金銭も払戻しをしたければ、債権者保護手続(627条)を経て資本金を減少し(626条1項)、資本剰余金とした上で、出資の払戻を行わなければいけません(632条2項)。

 a.b.cのいずれかのルールに違反して、出資の払戻しが行われた場合には、払戻しを受けた社員及び当該払戻しに係る業務を執行した社員は、払い戻した額に相当する額を会社に支払う義務を負うことになります(633条)。

 また、会社債権者は、持分会社が配当を受けた社員に対して有する債権の代位行使をすることができます(634条2項)。

 以上のように、持分会社の違法配当や違法な出資の払戻しの処理は、株式会社と比べて複雑ですし、現行商法では、ぽっかり穴が開いているような部分なので、あらかじめ条文をよく読んで理解しておく必要があると思います。
 ただ、一度、コツを飲み込めば、それほど難しい話をしているわけではないので、頭の体操と思って、がんばってください(司法試験受験生は、択一の後でいいですけどね)。

  
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2006年03月12日

持分会社の利益配当等

 本日は、土曜日で本会議はお休み。つまり、私はローマの休日です。

 これまでの海外出張は、2泊4日か、3泊5日で、休みを挟まないものがほとんどだったので、休日があると涙が出るほどうれしいです。
 民間もそうかもしれませんが、公務員の出張は、会議が終わった後、「会議の翌日に有給休暇をとって、その次の日に帰国したい」と言っても、絶対駄目なんです。「せっかく○○に来たのに観光もできないなんて」と思うこともしばしば。
 仕事だから仕方ないとあきらめてはいるのですが、会議が1日とか2日とかの時は、時差ぼけと移動疲れで本当に地獄です。

 そういうわけで、今回のような休日が挟まると嬉しくてたまらず、今日は、ローマを1日中歩き回っていました。
 そして、私は、ミーハーと言われようとも、どうしても見たかった
 ミケランジェロの「最後の審判」
を見てきました。

 観覧者は、システィナ礼拝堂に足を踏み入れると、神の世界に放り込まれます。そして、しばらく眺めているだけで、心が丸裸にされてしまいます。日常生活で心に被せている衣服を無理やり剥ぎ取られ、剥き身の自分をさらされるような感覚。
 それが、「最後の審判」の持つ力です。

 私の記憶に間違いがなければ、ミケランジェロというのは、今風にいえば、「筋肉フェチのハードゲイ」でした(ファンから怒られそうな予感)。
 しかも、カトリック信者であるため、その内なる情念をカミングアウトできず、罪の意識も相当強かったようです(最後の審判のど真ん中あたりに、聖人バルトロメオが人間の「皮」を握っているのですが、その顔はミケランジェロの自画像だと言われています。自分の中身は天国にいけないという自虐的な気持ちなのか、皮だけは天国にいけるという希望なのか・・)。

 こうした情念が、天才の手にかかれば普遍の美に昇華するのだから不思議なものです。いや、むしろ、その情念があるからこそ天才になりえたのかしれません。
 いずれにせよ、500年経っても世界中の人を惹きつけるだけの強い想い、男性の裸体の中に潜む美への賛美が、その絵に凝縮されているように思います。
 ミケランジェロの作品は、裸体男性の躍動感・存在感に本質があり、彼の作品の中の女性は、美少年の延長か、たくましい男性まがいの存在のようにしか見えないのは、私だけではないでしょう。

 ちなみに、今日のガイドさんの話によると、システィナ礼拝堂の天井画は、彫刻家のミケランジェロの才能をねたんだ者が、「あいつは画が描けないから、失敗させて、恥をかかせてやろう」と考えて、ローマの教皇に働きかけ、教皇の度重なる頼みを断りきれず、ミケランジェロが30歳くらいのときに嫌々描き始めたんだそうです。そして、4年間、ミケランジェロが一人で礼拝堂にこもりっきりで描いたら、凄まじい作品ができあがっちゃったわけです。
 いわば、「3次元フィギュア師に、無理やり漫画を描かせたら、手塚治を超えちゃった」(むちゃくちゃ怒られそうな例えですね)というような絶対にありえないことが起こったのですから、妬み・嫉みも天才にとっては糧としかならないという良い実例ですね。

 感動のあまり、にわか美術評論家になってしまいましたが、演劇評論ならともかく、絵画の評論は私の専門分野外でございますので、酔っ払いのたわごとだと軽く受け流してください。

 今日は、「持分会社の配当・払戻し」について説明します。

 株式会社の配当は、現行商法では「利益配当」と呼んでいますが、会社法では「剰余金の配当」と呼び名が変わりました。
 これは、株式会社で、株主に配当できるものは、利益だけはなく、資本性のものも含まれているため、より正確な呼び名にしたものです。

 いきなり、難しい話になってしまいましたが、ここで、まず、会計の世界で重視される「資本と利益の峻別」についてお話しましょう。

 今を遡ること400年以上前、ヨーロッパの商人達は、航海貿易を営み、大きな利益を得ていました。
 当初は、1航海ごとに「今回の航海で、俺は、出発前に、いくらいくらお金を出して、船が無事帰ってきて、商品がいくらいくらで売れたから、トータルこれだけの利益だよ」という清算をしていたのです。このような清算方式ですと、1航海ごとに出資金も戻ってくるので、とくに資本と利益を峻別する必要はありませんでした。

 ところが、航海が、何回も重なると、「前回の未清算分を今回の航海に当てておくね」などということが頻繁に起き、そのうち計算が、うまく合わなくなり、安心してお金を出すことができないような状況が起こってきたのです。

 そんな中、オランダの東インド会社が、永久資本性という考え方を打ち出して、「出資金は永久に返さないが、その出資金を使って儲けた利益は、定期的に配当する」こととしたのです。これは、航海を頻繁に行うようになった段階では、1航海ごとに清算するよりも、効率的で、しかも、出資者が安定的に利益を得ることができる画期的な方法であり、オランダが当時のライバル国イギリスに優位する原動力になりました。

 そして、この永久資本性が、現在の株式会社における、資本金に相当する金銭の払戻しの禁止と、事業年度ごとの配当という考え方のもとになっているのです。
 また、この永久資本性のもとでは、出資者にとって「出資金は戻ってこない、利益だけが戻ってくる」わけですから、資本と利益の峻別は、会計上の至上命題となって、その線引きについて精緻な理論構成が形作られていったのです。
 
 歴史の話はこれくらいにして、現代日本を振り返ってみると、現行商法は、株式会社の永久資本性は採用していません。
 ただし、資本金の減少には債権者保護手続きが必要であるということとする一方で、配当可能利益がない場合であっても、資本金を減少して、その分を配当するということはできることにしていて、そこに、利益の配当と資本の払戻しとの区別があったように思います。

 これに対し、会社法は、債権者保護のために、資本金を減少しても、分配可能額が発生しないような場合には、配当をすることはできないというルールを採用しました。
 大雑把に言えば、これまでに稼いだ利益・損失の蓄積額である「その他利益剰余金」と、資本金の減少等によって生じた「その他資本剰余金」を合算してプラスになるときに配当できることとして、利益性のものと資本性のものを同じ規律で配当することから、「剰余金の配当」という用語を使うことにしているのです。

 このように、現行商法にしても、会社法にしても、永久資本性のころほど「資本と利益の峻別」の必要性は高くないと言わざるを得ないものの、株式会社である以上、「利益は配当できるが、資本は債権者保護手続等を経て初めて配当できる」という基本的な考え方は維持されているので、やはり「資本と利益の峻別」は会社法上も存在しているのです。

 そして、持分会社においても、この資本と利益の峻別は行われています。
 ただし、株式会社と大きく異なるのは
  「利益の配当と出資の払戻しを、別の制度としている」
ということです。

 しかも、持分会社では、株式会社と異なり
  「社員ごとに資本金・資本剰余金を区別する」
  「社員ごとに利益を区別する」
というルールが取られています。
 例えば、A沢さんが100万円、葉玉が50万円、郡谷が30万円を出資して合同会社を作ると、
 A沢さんの出資についての資本金80万円、資本剰余金20万円
 葉玉の出資についての資本金30万円、資本剰余金20万円
 郡谷の出資についての資本金20万円、資本剰余金10万円
というように、社員ごとに資本金・資本剰余金を計上します(ちなみに、持分会社は、払込金額のうち、いくらを資本金とするかどうかを自由に決めることができます)。

 また、定款で社員の頭数で損益を分配するという定めがされていると仮定すると、その合同会社が1事業年度で120万円の純利益をあげた場合に、
 A沢さんの利益剰余金 40万円
 葉玉の利益剰余金 40万円
 郡谷の利益剰余金 40万円
という具合に計上されます。
 これが、「損益の分配」です(622条)。損益の分配は、帳簿上、どのように利益や損失を、各社員の利益剰余金に反映させるかということを意味します。
 
 さらに、葉玉が「私はローマで買い物したいから、30万円の配当をしてくれ」と請求して、合同会社から配当をもらうと
 A沢の利益剰余金 40万円
 葉玉の利益剰余金 10万円
 郡谷の利益剰余金 40万円
となるわけです。これが「利益の配当」(621条1項)です。

 他方、葉玉が、自分の出資したお金の一部として30万円を返して貰いたいときには、資本剰余金・資本金を減らします。
 つまり、出資の払戻前は
 葉玉の出資についての資本金30万円、資本剰余金20万円
だったものが
 葉玉の出資についての資本金20万円 資本剰余金0円
となり、A沢さんや郡谷さんの資本金・資本剰余金には影響を与えません。
 これが、出資の払戻しです。


 このように社員ごとに資本金、資本剰余金、利益剰余金が区別されているのは、持分会社では、株式会社における株主平等の原則のようなものはなく、各社員の持分の内容は全て異なるということを前提に、会計上も処理する必要があるからです。

 さて、持分会社の利益配当等については、まだお話しすることはあるのですが、今日は、歩き回って疲れたので、残りは明日に回します。

  
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2006年03月11日

持分会社の設立

 現在、参加している国際会議で一人気になる参加者がいます。
 それは、私の隣に座っているラトビア(LATVIA)の美女ではなく、視覚障害者のドイツ代表です。
 数名いるドイツ代表の中で一番若いと思われる、その青年は、補助者に手を引かれて入場し、熱心に会議の内容に耳を澄まし、時折鋭い意見を述べています。
 よほどの専門家でないと理解できない議題を取り扱っている今回の会議の中、しかも、毎日、配られる沢山のWORKING PAPER だとか、INFORMATION だとか、PROPOSALだとか紙ベースの資料を理解したうえで、視覚障害者が健常者に一歩も引かずに活躍している姿を見ると胸が熱くなります。

 というのも、私には、「障害を持つ人が2年で司法試験に合格できるようなプログラムを作りたい」という夢があるからです。
 LEC時代に教えていた障害者が、司法試験に合格し、新しい人生を切り開いたのを見て感激して以来、「司法試験の合格は、障害者が社会で羽ばたくための翼になれるかもしれない」と思い、そのような夢を持つようになったのです。障害者といっても、様々なタイプの障害がありますので、まずは視覚障害者を手始めとしたいと思っています。

 私は目が見えるので、受験中は意識したこともなかったのですが、法律の世界は、紙ベースの資料ばかりで、視覚障害者にとって勉強しやすい環境にあるとはいえません。
 10年ほど前に、ある視覚障害者の受験生からメールを頂いたのをきっかけに、私の持っていたレジュメ等のファイルをお送りしたところ、「読み上げソフトで読ませることができる」と言って大変喜んでいただいたことがありました。
 そういう些細なことを積み重ねて、視覚障害者が能率的に法律の知識を身につけることができるようなプログラムができるのではないかと、プランをずっと暖めているのですが、検事の仕事に追われて、第一歩を踏みだすことすらできていません。
 今回、ドイツ代表は、この夢を再び思い出させてくれましたので、どなたか、視覚障害者で司法試験を目指しているという方がいらっしゃったら、ご一報ください。できる限りの協力をさせていただきたいと思います。

さて、今日は、「持分会社の設立」についてお話しします。

法人の設立手続きは、その法人の種類によって異なりますが、概ね4つの段階がある点は共通しています。
(1)定款の作成
(2)会社財産の形成
(3)機関の選定
(4)登記
の4段階です。

私は、法人一般の設立手続について説明するときは、法人を「法人くん」と擬人化し、法人くんが生まれてくるために必要なこととして、次のようなものがあると説明します。

(1)「定款」は、会社の基本的ルール、いわば、「骨」です。
 人の骨格なのか、ゴリラの骨格なのか、犬の骨格なのか、骨格が違えば、生まれた時の形も違いますよね。法人を作りたい人達が、どんな形の法人を作りたいのかを話し合って、その骨格を決めるのが定款。

(2)「会社財産」は、「肉」「筋肉」です。
 法人くんは、骨だけでは動きません。法人くんが活動するためには、お母さん(出資者等)から栄養(財産)をもらって、筋肉(会社財産)を作る必要があります。
 ちなみに、法人くんが生まれた後、働いて稼いだお金で、お母さん(出資者)を養うのが営利法人、お母さんを見捨てて、世のため人のために働くのが公益法人です。公益法人は、中間法人とあわせて、今、改正作業中ですが。

(3)「機関」は、「心」もしくは「脳」です。
 骨と肉だけでは、単なる人形。心が吹き込まれて、はじめて法人くんは動き出します。どんな契約をするのか、どんな活動をするのか、それを決めるのは機関です。

(4)「登記」は、「出産」です。
 どんなに立派な骨、筋肉、心があっても、お母さんのお腹の中にいたのでは、「人」にはなれません。オギャーと生まれて(登記)、一人前。
 出産だからこそ、設立の登記をするのに大変な労力が必要なのでしょう(笑)。
 お腹の中にいるうちは、基本的には、お母さんが胎児のために活動して、栄養を与えますが(組合)、しっかり育った胎児が、自分の意思でお腹の中から「お母さん、僕が生まれたら、今の借家では狭いから、家を買うからね」などと言って、お母さんの意思とは無関係に、自分の意思で契約を結ぶことがあります。ちょっと怖いけど、これが、法人格なき社団です。

さて、株式会社の場合について、上の4段階を見ていきますと
(1)発起人が定款を作成し、公証人に定款の認証をしてもらう。
(2)発起人が株式を引受け、払込取扱機関に対する払込み又は現物出資をする。発起人の出資だけでは足りないと思ったら、株式の引受人を募集して、出資させる。
(3)発起人(又は創立総会)が設立時取締役等の機関を選ぶ。
(4)設立時代表取締役が、設立の登記の申請をする
という手順を取ることになります。

 他方、持分会社は、所有と経営が一致していて、かつ、昨日の記事で書いたように「定款」に強い力を持たせることにしていますから、株式会社よりもずっとシンプルです。

(1)まず、社員全員で定款を作ります。
  定款(576条)には、社員の氏名が書かれていますから、これで(2)出資者が決まりますし、(3)定款で、「この社員は業務執行はしない」と書いていない限り、全社員が業務執行権を持ちますから(590条1項)、わざわざ機関を選任する必要がありません。
 つまり、定款をつくるだけで、(1)から(3)の段階をすべてクリアすることになり、最後に(4)代表権を持つ社員が、登記をすれば、持分会社くんの誕生です。

しかも、持分会社が、組合的規律のもとで運営されること等を考慮して、株式会社と比べると、設立手続きが、かなり簡素化されています。

(1)定款について
 定款については、株主会社のような公証人の認証はいらないことにしています。
 公証人の認証は、設立後に定款の存在や内容について紛争を生じないようにするための制度ですが、持分会社は、社員全員が定款を作成し、それを変更するにも社員全員の同意が必要なので、そのような紛争が起こりにくいからです。

(2)出資について
a 合名会社・合資会社の場合には、設立前に、社員(無限責任社員・有限責任社員)が、出資を履行する必要がないこととなっています。小規模会社が多い合名会社・合資会社については、設立を簡易にしようという趣旨です。
 その代わり、合名会社や合資会社の社員は、無限責任社員も、有限責任社員も、会社債権者に対し、直接責任を負うこととなっています。会社債権者は、会社に対してだけではなく、社員の個人財産も引き当てにすることができるということです(有限責任社員は、出資を履行していない分だけですが)。
 ちなみに、出資未履行時に生ずる、会社の社員に対する「出資履行請求権」については、法律上は、合名会社・合資会社の財産ですが、会計上、資産に計上するかどうかは任意とされています。資産に計上する場合には、資本金又は資本剰余金が増加します(計算規則53条1項2号、54条1項2号)。

b. 他方、合同会社については、出資を全額履行しない限り、設立をすることができません(578条)。これは、合同会社の社員については、できる限り、直接責任を負わせたくないという政策的配慮です。
 合名会社・合資会社の社員が出資未履行のまま、持分を譲渡すると、譲り受けた人がその未履行債務を引き継ぐことになります。
 合同会社は、株式会社ほど頻繁な持分の譲渡を予定しているわけではありませんが、有限責任社員しかいない会社として設計されているため、社員の持分を譲り受ける人は、「自分が債務を負うことはない」という気持ちで譲り受けるでしょう。ところが、出資未履行のままの設立を認めると、そのような信頼を損なうことになるので、合同会社の社員の責任ついては、株式会社と同様の間接有限責任化(実際には、無責任化)することとし、そのために出資の全額履行を要求しているのです。

c. ただし、合同会社の設立を簡易化するという点から、払込取扱銀行の制度は設けられておらず、社員は、設立時に、銀行との間で、払込取扱事務委託契約を結ぶ必要はありません。もっとも、社員の個人財産と、会社財産となる払込金を区別する必要はあるので、独自に口座を開設するのが普通でしょう(登記時に預金通帳の写し等の添付が要求されることになると思います)。

d. 持分会社では、現物出資をする場合に、検査役の調査はいりません。
 株式会社の現物出資で、検査役の調査が必要なのは、株主間の実質的不平等を防止するためですが、持分会社には、株主平等の原則のようなものはありません。出資額に応じない取扱いをすることができる点に持分会社の本質がありますから、現物出資財産の客観的な価値がいくらであっても、その社員にどのような権利義務を与えるかということは、定款で決めればよいのです。
 また、無限責任社員の場合には、労務出資(会社のために働くこと自体を出資として評価すること。いわば、「私の出資は、私の身体で払うわ!」という感じ。ちょっと違う?)でもいいので、現物出資についてだけ検査役の調査をしてもあまり意味がありません。
 労務出資を検査役の調査にかけるという制度を作るという方向性も論理的にはありえるのかもしれませんが、検査役が、社員の身体検査とかして、「この身体じゃ大して使い物にならねえな。せいぜい100万円くらいだ。」なんて言ったら、人身売買みたいになっちゃいますからね。

 なお、検査役の調査の趣旨について、債権者保護だという見解に立つと、合同会社の現物出資について検査役の調査がないことを説明できません。こうしたことも、会社法が、検査役の調査を債権者保護のための制度とは考えていないということの論拠になるでしょうね。

 以上のように持分会社の設立は、非常に簡単であり、コストも印紙税込みで10万円くらいでできます(司法書士さんを使わない場合)。
 株式会社も、現行法に比べると、設立手続がかなり合理化されていますが、持分会社には負けます。
 私も、会社法が施行されたら、試しに合同会社を作ってみたい気持ちに駆られますが、特に事業をする予定もないのに趣味で作るわけにもいかないでしょうね。
 趣味でやるのは、検事の仕事くらいにしておきましょう。
追伸
以前申し上げた会社法施行規則・会社計算規則の間違い直しのほか、実質改正を含む改正につきまして、パブコメをかけました。近々ブログでもとりあげますが、ご意見の募集しております。なお、このブログに書き込みをしても、パブコメに対する意見にはなりません(笑)。
http://www.moj.go.jp/PUBLIC/MINJI67/pub_minji67.html
  
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2006年03月10日

持分会社の特徴

 ローマには、昔ながらの小さな専門店が沢山残っています。
 魚屋さん、八百屋さん、駄菓子屋さん、タバコ屋さん、お花屋さん、靴屋さん、洋服屋さん、電気屋さん、などなど。
 日本では、「スーパー」とか、「コンビニ」とか、一店舗で食料品から雑貨・洋服まで何でも揃う便利な店が沢山ありますが、ローマではあまり見かけません。
 スーパーがあっても食料品限定ですし、コンビニなんか見たこともありません。
 私の知る限り、ローマに限らず、イギリスやフランスでも似たようなもので、古い町並みを残すために大型の店舗を開発するのが難しいためか、はたまた、強力な中小企業の保護法制があるのか、理由はよく分からないものの、昔ながらの専門店に活気があります。

 日本も昭和50年代くらいまでは、小さな専門店が軒を並べる「商店街」に活気があったように思いますが、昭和60年代以降、大型スーパー・ショッピングセンターの乱立とコンビニの隆盛の間に挟まれて、そうした専門店が力を失っていきました。小さな店の手作り品や地方の町工場の商品よりも、テレビコマーシャルが流れている、安くて安心感のあるナショナルブランドが消費者に好まれれるようになったのも原因のひとつでしょう。
 そして、豊かな日本で甘やかされて育った私たちが、小さな店を切り盛りするより、大企業のサラリーマンになることを好んだせいで、後継者に恵まれず、人材不足で未来を失っていった専門店も多いように思います。

 日本とヨーロッパのどちらがよいかという話をするつもりはありません。この地の経済も問題を多数抱えています。また、一度、背骨を抜かれた日本の小さな店が昔と全く同じような状態に戻ることは難しいでしょう。

 しかし、大企業のリストラ・就職難が、就職に対する不信感を増加させる一方で、IT長者の活躍が、若い世代に夢を与え、リスクを取って起業する人が増えているという事実もあります。
 そうした起業家は、いろいろな苦しみを経験し、大成功する人はほんの一握り。その多くは、「これだけ働いているのに、儲けは少ないなあ」と感じているかもしれませんが、リスクあるところに発展があります。
 起業して失敗しても命まで取られることはないのですから、人と違ったこと、自分しかできないことを苦しみながら切り開くことも、人生の選択肢にあってもいいと思うのです。
 日本に限らず、成功者は羨まれ、ねたまれることを避けることはできませんが、リスクを背負い努力した人が報われる社会を作らなければ、日本の未来は暗澹たるものになるでしょう。

 そのような起業家をサポートするために、会社法で設けられた法制度のひとつに、「合同会社」があります。今日から何回かに分けて、合同会社を含む持分会社についてお話しようと思います。

持分会社とは、合名会社、合資会社、合同会社の総称です。

現行商法のように「社員の責任のあり方」で会社の分類をするのになれていると、合同会社が持分会社のひとつに分類されるのを奇異に感じるようです。

しかし、会社法は
(1)社員一人の持分会社を認め
(2)法人が、合名会社・合資会社の無限責任社員となることができることとした
ので、無限責任社員の有無は、債権者の保護という観点からすれば、それほど大きな違いはありません。
 例えば、銭湯を営む「合名会社カラカラ風呂」の唯一の社員が「株式会社カラッポ」という債務超過会社である場合には、債権者は、「無限責任社員がいるから、責任をもって経営してくれるよね」などと思わないでしょう。
 債権者が、合名会社・合資会社の無限責任社員の資産をあてにすることができるという点は、会社法でも変わりませんが、自然人が義務を負わない場合があるということは、その信頼は、すでに「人的」信頼関係と表現するのは適切ではないのかもしれません(「法人」的信頼を含むとすればいいのでしょうけど)。

それでは、会社法は、なぜ株式会社のほかに、持分会社という類型を用意しているのでしょうか。

私が、一言で、持分会社の特徴を言えと問われれば
 持分会社は、出資者(社員)が、自己の権利を確実に守ることができる会社類型です。
と答えます。

 株式会社は、株主総会における多数決原理により、少数派株主が我慢を強いられる会社類型です。
 多数派でないかぎり、取締役として経営に参加することもできませんし、場合によっては、株式併合や組織再編等により、「お金をあげるから、この会社から出て行ってね」と言われることもあります。
 極端な言い方をすれば、
「株式会社は、たくさんお金を出した人が勝つ。あまりお金を出していない人は、いつ追い出されてもしかたがない」
という会社類型です。

これに対し、持分会社は、
1 所有と経営の一致を法律上要求する(業務執行は、社員が行わなければならない)
2 社員全員で定款を作成し、定款変更には、原則として、社員全員の同意が必要
3 社員全員の同意が無い限り、持分の譲渡も、新社員の加入もできない
というルールを採用することにより、
「設立時に定款で定めた社員の権利(利益の分配や経営権等)を、多数決によって変更したり、無くしたりすることができない」
ようにしているのです。

具体例で説明しましょう。
葉玉は、温泉好きが高じて、自己の全資産を投げ打って、自分の家の庭をボーリングして温泉を掘り当てたとしましょう。見事、立派な温泉を掘り当てました。
 葉玉は、1億円の価値のある温泉権をもっているのですが、旅館を立てるようなお金がありません。そこで、特例有限会社郡谷産業に相談したところ、郡谷産業は、「共同で会社を作って、温泉旅館とスーパー銭湯をやろう。うちが資金を10億円を出すから、葉玉さんは、温泉権を現物出資してくれ。」と持ちかけられました。
 ここで、葉玉が、特例有限会社郡谷産業と一緒に、「株式会社カラカラ風呂」を作ったとします。
 この場合、設立のときに、特例有限会社郡谷産業が「葉玉さんの熱意が温泉を生んだのだから、代表取締役も葉玉さんでいいよ。」と言われて、葉玉は、自分の温泉に対するノウハウぬをつぎ込み、死ぬほど働き、1年ですばらしい温泉旅館と銭湯を作り、オープンしたところ、連日の満員御礼。2年目には、年間で1億1000万円の利益が出ました。
 そこで、郡屋産業はいうでしょう。
 「りっぱな会社になりましたね。今年の配当は、出資額に応じて、うちが1億円、あなたが1000万円です。それから、今度、株式会社カラカラ風呂を特例有限会社改め株式会社郡屋産業に吸収合併しようと思います。対価は、現金です。長らくのお勤めご苦労様でした。」
 長年苦労して、これから稼ぎ時というところで、葉玉は、わずかの配当と、株式の対価1億円を渡され、経営権も株式も失うことになりました。
 これでは、たまりません。

 どこかで運命の分かれ道があったのです。そう、最初に「合同会社カラカラ風呂」を作っておけばよかったのです。
 会社設立のときに、葉玉が特例有限会社郡谷産業と交渉し「合同会社を作ります。出資額にかかわらず、利益の分配は、50対50.私だけを業務執行社員にしてください。そうでなければ、他をあたります。金を出してくれるところはいくらでもありますから。」と強きに交渉して、その旨の定款を作成しておけば、2年目で利益が出たときに、葉玉は、5500万円の配当をもらえましたし、合併の話を持ちかけられても「ふざけるな。反対」と言えば、合併することができません。郡屋産業が「お前なんかに、業務執行をさせないぞ」と言っても、葉玉は
「業務執行社員として定款に記載されているのだから、定款変更には私の同意がいるんですよ」
と言えばよいだけです。
 郡谷産業が「せめて、うちから一人、業務執行担当者を出させてください」と言っても、葉玉は「定款で郡谷産業は、業務執行権のない社員になっていますよね。私はそれを変えるつもりはありません」と言えば、拒めます。
 さらに、「せめて配当を出資額に応じて、10対1にしてください」と言っても、葉玉は「いまさら、何を言ってんだ。だめだめ。」と言えばいいのです。
 このように合同会社は、定款で定めることにより、小額出資者の権利が守られるという大きな特徴があるのです。
 こうした特長は、説例のようなジョイントベンチャーでも役に立ちますし、資産流動化のビークルとして合同会社を用いれば、1円だけ出資する業務執行社員にその運営を行わせることにより、その他の社員の倒産等により、持分が移転し、ビークルの運営が阻害されるようなことがありません(ちなみに、合同会社は、会社更生法の適用がない点も、流動化向きであると言われています)。

 本日は、持分会社の特質をお話しましたが、こうした運営形態のことを「組合的規律」と呼んでます。

(質問コーナー)
Q1 自己株の取得についてお教えいただければ幸いです。
■省令第27条2号に、持分を有する会社の清算で、分配される残余財産が自己株のときは取得していいとありますが、例えば、売掛先の会社が債務不履行を起し、差し押える財産が自己株しかなかった場合は取得していいのでしょうか。株の持ち合いなどを行なっている場合などです。
■また、省令第23条13項の子会社の親会社取得の例で、担保権の実行による取得が挙げられていますが、それを準用するかたちで、例えば、X社が保有するB社株に担保権を設定し、A社と取引をしたが、債務不履行となり、A社から担保権を実行しようとしたが、債務不履行の時点でA社はB社と合併しており、自己株となってしまっている場合も取得可能でしょうか。
by パンダMGさん
A1
 差し押さえは、27条2号とは、関係のない話ですね。強制執行法の差押は、そもそも自己株式の取得ではありません。
 自己株の担保権の設定及び実行については、今度の千問に詳しく書いているのですが、基本的にはできます。ただ、自己株式の取得手続きをすることが必要な場合があります。

Q2
 このブログを読み、債務超過会社の吸収合併を行えるのではないかと考え、登記所に確認しました。しかし、登記官の回答は、昭和33年の「できない」という先例がある以上、どのような解説があろうと他の登記所で認めた例があろうと自分は認めないというものでした。そして、「できる」との民事局通達や先例(民事局回答)が出ない以上、会社法施行後も債務超過会社の吸収合併は認めないとの回答でした。
by 彦坂さん
A2
 私がブログで書いたのは「実質債務超過会社」の話でこれは解釈論ですが、会社法で「簿価債務超過」の吸収合併ができることは法令上明らかです。会社法になって、そのような対応をすれば、国家賠償ものでしょうね。
 その登記官には「本省に問い合わせた方がいいですよ。」と言ってください。

Q3
34問「名義書換の効力」において「譲受人には株式をすでに譲渡したことを理由に権利行使を拒み、譲渡人には名義書換未了を理由に権利行使を拒むことが可能となること」という点の解説をお願いします。
by 夏草の賦さん
A3
基準日時点の失念株主の取り扱いについて、会社が、失念株主に権利行使を認めることができるという考え方について、考えられる批判を書いたものです。
対抗要件というのは、会社が主張しても、主張しなくてもよいというものです。
形式論理からいえば、名義株主が会社に権利行使を求めたときには、「あなたはもう株式を売ってますね」といって権利行使を拒み、失念株主が会社に権利行使を求めたときには、「あなたは、まだ対抗要件を充たしていませんね」といって権利行使を拒むことができそうだということです。
 しかし、会社が、そのように両方に対し、拒むことはできないと解すべきであるというのが、34問の結論になっています。それは、会社は、議決権や利益配当を保有株式数に応じて付与しなければならないのですが、両方の権利行使を拒むと、母数が変わってしまうからです。

先日は、お答え頂きありがとうございました。
くだらない質問ですが、よろしければ、また教えて下さい。

Q4
設立しようとする株式会社が、定款を変更して全部取得条項付株式の定めを設けるときは、種類創立総会の特殊決議が必要という理解でよろしいでしょうか(会社法100・85-3)。
他の場合の全部取得条項付株式の定めを設ける決議は、特別決議(法111-2・324-2)のようなので、なぜなのか気になりました。
by パラリーギャルさん
A4
特殊決議で間違いありません。
なぜ違うかというと、設立時の株主の権利内容の変更については慎重にやるようにしているということです。

Q5
 会社法施行規則では、公開会社について事業報告記載事項が非常に多くなっていますが、これは事業年度末時点での公開会社に適用があると解してよいでしょうか。
A5
 そのとおりです。
  
Posted by masami_hadama at 16:20Comments(60)TrackBack(0)

2006年01月11日

目的の具体性

 会社法の成立以来の懸案であった「会社の目的における具体性が必要か」という点について、法務省でパブコメが始まりました。

http://www.moj.go.jp/PUBLIC/MINJI65/refer01.pdf

 現行商法でも、会社法でも、「定款の目的」については、明文の制限はされていませんが、会社の設立登記にあたっては、類似商号規制も一つの要因となって、「目的」が具体的なものでなければ、登記できないこととされていました。

 例えば、「株式会社 葉玉商店」という商号で、定款の目的を「商業」と登記してしまえば、同一市町村内は、あらゆる商業について「葉玉商店」という商号を登記できなくなるため、商号の独占力を強く認めすぎるということに配慮していたものです。

 もちろん、定款の記載内容や登記できる目的の個数に制限はないので、現行商法でも、具体的な目的を何百個、何千個と書けば、強い独占力を付与することができるわけですが、「事実上、そこまで煩雑なことはしないだろう」という性善説で運用がされてきたわけです。

 しかし、登記における「目的の具体性」の審査があるため、特に、目新しい事業を目的に記載したいときに、登記ができるかどうかが予測できないというデメリットもあったのも事実です。

 今回、会社法によって、類似商号規制は廃止され、商号の具体性を要求する根拠の一つが失われました。

 また、「目的」は、本来、会社の権利能力を制限する機能を有するはずなのですが、最高裁判例等により、ほとんど権利能力制限の機能が失われていることから、株主の保護という点からも、具体性を要求する実益は失われているような気がします。

 そこで、法務省で検討した結果、「具体性の審査はやめてしまったらいいんじゃないか」という一応の結論にいたり、今度のパブコメになった次第です。

 パブコメの結果次第では、「やはり具体性の審査が必要だ」となる可能性があり、まだ正式決定ではありませんので、賛成の方も、反対の方も、どしどしご意見をお寄せください。

 パブコメにも書かれていますが、「商業」という記載でもよいということなので、このパブコメの案が採用されれば、会社の設立登記をする際に「どんな目的だと受理してもらえるんだろう。」「分からないから、他の会社の登記を調べてみるか」等という悩みはなくなるはずです。

司法書士さんには、相当関心の高い事項で、私も解説会などで何度となく質問されたところですから、どんなパブコメが寄せられるのか楽しみです。

  
Posted by masami_hadama at 20:11Comments(77)TrackBack(0)

2005年11月29日

人的会社・物的会社

 商法の基本書の中では,必ず「人的会社」「物的会社」という概念が出てきて,人的会社が合名会社・合資会社であり,物的会社が株式会社・有限会社であるという話がされていました。
 しかし,会社法100問では,人的会社・物的会社と言葉をほとんど使いませんでした。
 これは,人的会社・物的会社の概念をこれまでの概念のまま使うと,「合同会社」の位置づけについて混乱が生じるので,誤解を生じないようにするためです。

 そもそも,人的会社・物的会社というのは,法律上の概念でなく、単なる分類の仕方,説明の仕方に過ぎません。
 読者の中には,「合同会社は,人的会社か,物的会社か?」と真剣に悩んでいる人がいるかもしれませんが,それは「レイザーラモンHGは,ハードゲイか?」というのと同じ問題です。
 ハードゲイを「男性同性愛者であって黒革製の服を常時着用する者」と定義すればHGは(たぶん)前半の要件を欠くためハードゲイではなく,ハードゲイを「ハードゲイという名前の人」とか,「ハードな芸をする人」と定義するとHGはハードゲイになるでしょう。

 何を言いたいかというと, 嵜妖会社」「物的会社」について定義をすることなく,悩んでも仕方がない,△匹Δ酸睫棲鞠阿覆鵑世ら,「定義→はてはめ」という順序ではなく,「合名会社・合資会社・合同会社・株式会社の規定から読み取れる性質の分析→人的会社等の定義をする必要があるか」という発想をする方が自然だということです。

 従来の概念からすれば,人的会社とは、「社員の個性が重視される会社」,物的会社とは「社員の個性が重視されず、会社財産が重視される会社」と定義されます。

 ここで、社員の個性を「社員の資産」という観点だけから考えれば、無限責任社員が存在する合名会社、合資会社は、会社財産が少なくても、社員に弁済の資力があれば、会社債権者は債権の満足を得ることができるという意味で人的会社であり、有限責任社員のみから構成される合同会社・株式会社は、物的会社ということになります。

 しかし、合同会社では、会社の業務執行を社員自らが行わなければならず(所有と経営の一致)、また、定款の変更等会社の基本的な意思決定は、原則として社員の全員の同意が必要ですから、業務執行等の会社運営の観点からは、社員の個性が重視される会社です。

 したがって、合同会社は、「社員の個性」をどのように捉えるかによって,人的会社と言っても,物的会社と言っても,構わないわけですが,他人に制度を説明するときに,「人的会社とも物的会社ともいえる」という説明をするのは親切ではありません。
 分類概念であるにも関わらず,特定の制度を分類できないというのは,分類概念として本来失格だと思うのです。
 
 もし,私が,どうしても「人的会社」という言葉を使って説明せよと言われれば,人的会社を「業務執行等会社の運営において,社員の個性が重視される会社」と定義して,合名会社・合資会社・合同会社が人的会社にあたると説明するでしょうが,合名会社・合資会社・合同会社は,「持分会社」という法律用語でくくられているので,「持分会社」という概念とは別に「人的会社」という言葉を使う必要はないように思うのです。

 他方,合同会社と株式会社を「物的会社」としてくくろうとすると,社員の責任と配当規制の一部以外に共通点がなく,「物的会社だから〜」という説明は難しいと思います。

 実務の世界に生きる私としては,「人的会社・物的会社なんか,実務には関係ねえよ。こんなのブログに書いたって意味ねえよ。」という気持ちがある一方で,元予備校講師としての私は,「人的会社・物的会社という古き良き時代の説明概念について,勉強する人が無駄な時間を使わないように,一度,説明しておいたほうがいいかも。」と思い,ついつい長々と説明してしまいましたが,いざ書いてみると「ああ,本当に人的会社という概念って,あまり意味がなくなってしまったんだなあ」という感慨にふけってしまいました。
  
Posted by masami_hadama at 22:20Comments(79)TrackBack(1)