こんばんは。そこはかとない話。

 電子書籍元年を経て、黒船KDP上陸、楽天Koboのスタート、さらに読み放題サービスと、セルフパブリッシングの世界は年々、拡大をしています。

 読み放題の成果は、大きい人はとても大きいことがすでに報告されています。
 


 書籍って、みんなで同じように稼ぐことはできない
 ↑こちらにも、別の報告があります。

 これはいかにも特殊な成功事例のようですが、そこまではいかないまでも、セルフパブリッシングの世界では、みなさん、以前よりは金銭的にプラスになっている人が増えているのではないでしょうか。

 報告報告:な、なんと!(ノベルジャム作品全レビューもあるよ!)
 おなじみの、米田淳一氏のブログ。BCCKSでの販売結果が文末のあたりに掲載されていました。

 また、ここでたびたび紹介しているあるセルフパブリッシングの人がまた、送ってくれたグラフを見てみましょう。

0310


 これは2017年1月1日から3月10日までのKDPの売り上げ。上が販売(DL)、下が読み放題で読まれたページ数(KENPC)。「大した成功例ではありませんが」とおっしゃっていますけども。少なくとも、読み放題開始以前とはまるで動きが違います。

「読み放題は波があって、いっきにページ数が稼げて上位100位以内に入るかと思えば、いっきに下がっていき、凪状態にもなります」とのこと。「動きがまったく読めません」。
 なるほど。それでも、以前にも書いたように、読み放題を試すことにして、セレクトにし、70%のロイヤリティーとしたところ、実際の利益がそれまでの、5倍から6倍で推移していると言います。以前には、開始2カ月で程度のいい中古PCが買える、と言っていたようですが、あれからさらに増えて「最新PCが買える」とのこと。おそらく、すでに支払いが確定しているのは昨年の12月までだと思うので、私の推測では、2017年8月から12月までの5カ月で15万円ぐらいはいったということかな、と思います。毎月3万円ほど。逆算するとそれ以前は毎月6000円ぐらいだったのでしょう。
「2017年に入っても、読み放題はそれなりに継続しているので、ホントに助かります」とのこと。「現状、ロイヤリティーの6割から7割は、読み放題」になっているそうです。「バブルは終わったのかもしれませんが、完全に終わった感じでもないのです」とか。

 私見ですけども、毎月の収益が千円単位の場合と万単位では、その収益に対するスタンスは大きく変わるのではないでしょうか。単純な掛け算ですが、6000/月は、7万2000/年。3万/月は、36万/月。倍数は同じ5倍でも、7万2000円の収益を考えてやれることと、32万円の収益を考えてやれることとは、かなり違ってくると思いませんか?

 私のつたない経験でも、1つの仕事の売り上げとして30万円といえば、まあそこそこのものだと思います。「どっちにしても、食べていけないじゃないか」というのは簡単ですけども、書き上げた(書き終えた)成果物で、もし毎年、30万円売り上げが立つとすれば、すごいことだと思います。誤解を恐れずに言えば、毎年、重版がかかっているようなものです。めちゃくちゃ喜んでいい水準ではないでしょうか。30万円を稼ごうとしたら、手取りで時給1000円の仕事を300時間もしなければなりません。8時間労働で37.5日です。もちろん、この労働だけをしていたら、もっと生活は安定しますが、作品を書く時間は限りなくゼロに近づく。あえていえば、年間に約1カ月は作品づくりに専念してもいい、と言える。

 今後、こうした傾向が続くのであれば、セルフパブリッシングの未来は明るいと言わざるを得ません。この状況がどのぐらいの年月に耐えられるものなのかは、まったく未知ですけども。無名の人間の書いた作品が、毎年30万になるのなら、それはけっこうハッピーな状況と言っていいのではないかと思います。もっとも、私が理想として考えていた月に15万円(年間180円)はなかなか難しい状況ですけども。

 先日、ある人からこんな相談を受けました。

「かなりベテランの歴史小説の作家が先日、ぼやいていたのです。出版社の編集部が『おれの原稿を読んでくれない』と。世代交代で若い作家(といってもこの人より若い、という意味ですが)が中心となってしまい、本を出してくれなくなった」と。

 思わず私は「そういう人こそ、セルフパブリッシングですよ!」と言ったのですが、その人はますます浮かない顔つき。

「電子書籍にすればいいと私も言ったんだけど、その先生は、いまでも原稿は万年筆で書いていて……」

 あっ! そうなんだ!

 せっかくいい素材があっても、デジタル化が難しい素材は、なかなかこのやり方へ移せません。こういうタイプの作家の作品は、「手書き原稿を入力する」という作業が発生し、「入力した原稿をプリントアウトして徹底して校正」。次に「校正通りにデータを修正」という気の遠くなる作業が発生します。この3つの段階だけで、私の推定ですが、数十万円の費用がかかります。十数万円と言いたいけれども、こだわりの作家さんとなれば、何度赤を入れるかわからないので、数十万円になりそうだな、という気がします。しかも、そこには、いわゆる専門の校正さんの費用は含まれていません。それをプラスするとまた十数万がかかるでしょう。

 細かく工程を書くと……。
 1、手書き原稿を入力。
 2、入力されたデータと原稿と突き合わせ
 3、データをプリントアウトして著者校正
 4、著者校正をデータに反映
 5、反映されたデータが正しいかチェック
 6、以下、3から5を繰り返す可能性あり

 この間、たとえば20万字ぐらいの作品だとしても、1カ月では終わらない可能性が高く(著者がどれだけ時間をかけるのかは読めません)、無給状態(支払いが確定しない状態)で月日が過ぎていくのです。だから、外注するとかなりの費用になっていく可能性があります。
 セルフパブリッシングの場合、このリスクとコストはすべて作家自身が負うので、表に出てきません。だから、やれる、とも言えるのです。

 こうしてできたデジタルデータ(原稿)を、電子書籍にするわけです。それも自分でやれればほぼコストは新たに発生しません。

 こうして、セルフパブリッシングだからこそ、上記のロイヤリティをすべて自分の利益にすることができるけれども、電子書籍づくりとストア配信を外注したら新たに経費がかかるでしょう。

 この部分を誰が、どう負担するのか。

 年間、少なくとも30万円の利益が見込めるのなら、こうした作業に30万円かけてもいいかもしれませんが、いずれにせよ、回収にはかなりの時間がかかることが予想され、なおかつ、思ったほどの収益にならない可能性もあります。翌年も30万円売り上げる保証はないからです。

 発売した作品のプロモーションをやり続けるのも、セルフパブリッシングでは著者自身のパワーということになります。それをやれるのか。

 もっともベテラン作家であれば既刊の本があるわけで、一定のファンがいると考えられるため、このあたりは、無名の作家よりは有利だと思うのですが……。なにもしないのでは売れるものも売れない。

 セルフパブリッシングで稼いでいる人は、その人自身がネット上で発言することが多く、自らプロモーションができる。でも、御大自らプロモーションできるのか。エバンジェリストがいて、勝手に担ぎ上げてくれるぐらいの人気の人ならともかく。
 いや、そういう人がいる作家なら出版社も放っておくとは思えないし……。

 いいものを持っている人が、むしろ簡単には電子化できず、ましてセルフパブリッシングに踏み切れない現状。どうすれば、こうした人たちを救えるのか。人を救うだけではなく、その作品を救えるのか。

 これからの課題になっていくと思います。

 なんか、私みたいな者でも、そういうときに役立つ存在になれたらいいなと思ったりもしています。