七帝柔道記の世界

七帝柔道記5舞台は雪の北海道大学。
スポーツ、友情、恋愛。
涙と笑いと感動の物語。


ページをめくる手が止まらない

 ハードカバー701ページ2段組2600円という大著ながら27刷のベストセラーとなった『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社)で2012年の大宅賞・新潮ドキュメント賞をダブル受賞した増田俊也が描く自伝的小説、青春群像小説が、この『七帝柔道記(ななていじゅうどうき)』(角川書店)だ。
 2006年に『シャトゥーン ヒグマの森』(宝島社)で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞してデビュー。「このミス」受賞作で見せたエンターテインメント性と、『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』で人間の業と深い懊悩を描ききった筆力、その2つがクロスしたところにこの作品が生まれた。ポップで優しい筆致と登場人物たちの魅力がぐいぐい物語を引っ張り、最後の最後までページをめくる手が止まらない。


北海道大学柔道部に憧れて、北の果てへ

七帝柔道記_北海道大学3 主人公は、高校時代に「七帝柔道」という寝技だけの特異な柔道が旧七帝大にあることを知り、それに憧れて2浪して、故郷名古屋から遠く北海道大学柔道部に入部。そこにあったのは、15人のチーム総力を挙げての団体戦、一本勝ちのみ、場外なし、参ったなし、という壮絶な世界だった。しかし、かつて超弩級をそろえ、圧倒的な力を誇った北大柔道部は七帝戦連続最下位を続けるどん底の状態だった。そこから脱出し、なんとしても七帝戦での優勝を目指し「練習量が必ず結果に出る。努力は必ず報われるはずだ」という言葉を真っ直ぐに信じて極限の練習量をこなしていく。


涙と感動のラストシーン

 5連覇を続ける京都大学、それを追う東北大学、立ち技旋風を巻き起こす東京大学、緻密な寝技の名古屋大学、超弩級が揃う大阪大学、パワー柔道の九州大学、ライバルの他の七帝柔道の6校も、それぞれ全国各地で厳しい練習をこなして七帝戦優勝を目指している。そこで北大は浮上することができるのか……。極限の練習の果てに、涙と感動のラストシーンが待っている。

男女も年齢も関係なく共感できる世界

 個性あふれる先輩や同期たちに囲まれ、日本一広い北海道大学キャンパスで、吹雪の吹きすさぶなか、練習だけではなく、勉強、大学祭や恋愛、部の伝統行事などで、悩み、苦しみ、笑い、悲しみ、また泣き、笑う。

 偏差値だけで生きてきた何の取り柄もない頭でっかちの少年たちが、一本勝ちのみ、場外なし、参ったなし、という壮絶な勝負の世界に飛び込み、今までのプライドをずたずたに破壊され、「強さ」「腕力」という新たなる世界で己の限界に挑み、成長していく。
 人間の苦悩。仲間との絆。そして恋愛。男性も女性も関係なく、また年齢も関係なく、あらゆる人間が共有し共感できる青春そのものが、北の果て札幌を舞台に描かれる。




七帝柔道記_井上雄彦_森絵都_万城目学

井上雄彦さんが「今もこの世界はあるのだろうか」と仰ってくださっていますが、今も旧七帝大の七校で同じように大会が開かれています。

森絵都さんが「大笑いしながら読んでいたのに」と仰ってくださっていますが、馬鹿馬鹿しくも馬鹿馬鹿しい(笑)、学生らしいはちゃめちゃ生活のお話です。

万城目学さんが「これほどまでに弱いのに」と仰ってますが、本当に弱いんです。でも弱いことって悪いことですか? 万城目さんは「これほどまでに地に這いつくばっているのに、誰よりも気高いのか」とも仰ってくださっていますが、それは誰にも負けない努力をしようとしているからです。

北上次郎さんが「私たちの知らなかった青春」と仰ってくださっていますが、まさに誰も知らない、世間に知られていない、旧帝大の七校だけ、北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学だけのお話です。マイナーでしょう? でもメジャーかマイナーかなんて関係ないですよね。メジャー、マイナー関係なく、どの分野にいる人だって、みんな一生懸命。その分野でトップの人も、その分野で落ちこぼれている人も、同じように一生懸命。僕はそれを伝えたかったんです。

角幡唯介さんが「人生にはたった一つだけ信じることができるものがある。それを見つける若者たちの物語」と仰ってくださっていますが、その「たった一つのこと」とは何でしょうか。読んでくださった読者のみなさんそれぞれ違う答が出ると思います。それぞれの登場人物に、若い頃の自分、現在の自分を重ね合わせて読んでみてください。

下の用語辞典には、柔道以外の話ばかりが載ってます。実際、この物語は柔道の話でもスポーツの話でもありません。ごくごく普通の等身大の大学生たちの話です。この用語辞典を読むと、「ああ、こんな先輩いたなあ」とか「こんな行事あったなあ」とか、中学時代や高校時代、大学時代を思いだしてくれると思います。本をめくりながら、爆笑エピソードを一緒に笑って読んでください。


▼▼下の画像をクリックすると大きな文字で読めます。

 七帝柔道記_用語集


「七帝柔道記」(角川書店)は、僕の北海道大学での体験をもとにした自伝的青春小説です。

僕は北海道大学に、七帝柔道という寝技中心の柔道をやるために昭和61年に入学しました。その学生生活を描いています。

タイトルに柔道の名前がありますが、これは、でも、柔道の話ではありません。弱者の物語です。弱者の青春小説です。みんなの物語です。みんなが救われる救済の物語です。

だから、さまざまな世界で頑張るさまざまな人に読んでもらえたらと思います。スポーツを経験した人はもちろん共感してくださると思いますが、別にスポーツではなくても吹奏楽部でも生物部でもなんでもいいから一生懸命やった人、あるいは仲間と過ごした人。完全燃焼した人、逆に完全燃焼できなかった人。サラリーマン、主婦、学生、みんなに読んでほしいと思います。

北海道といっても、ほとんどの人は旅行で行ったことがあるか、テレビなどで観るくらいで、実際に住んだことがないでしょう。僕は入学するまで北海道の冬の寒さ、雪の深さをなめていました。でも、慣れるにつれ、これほど美しい景色はないと思うようになります。

北海道大学はもともと札幌農学校という名前で明治9年(1876年)に創設されました。だから農学部が看板学部です。下の写真は北海道大学の象徴でもあるその農学部の校舎の写真です。どうですか。すごい雪でしょう。札幌の雪は一冬に6メートルくらい降るのです。でも羨ましくないですか、こんな雪の街で青春を過ごすのって。実際、僕も北海道が大好きでした。いまも何年かに一度は札幌を訪ねています。

七帝柔道記_北海道大学1

七帝柔道記_北海道大学2

この写真は「七帝柔道記」のなかに出てくる僕の2期上の先輩、松浦さん(現在は北海道大学農学部准教授)が今年の冬に撮ってくれたものです。

僕は、この雪深い、日本一広い北海道大学キャンパスで4年間を過ごすことになります。

北大キャンパス内にはキタキツネも歩いています。さすがにヒグマはキャンパス内にはいませんが(笑)。

キタキツネ1
キタキツネ2
 
吹雪の日には、数メートル先も見えなくなります。

吹雪1

吹雪2

海へ行くと流氷がきています。海の上もだから雪で真っ白です。

流氷1


七帝柔道というのは、聞き慣れないと思いますが、北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学、の旧七帝大だけで行われている寝技中心の柔道です。

七帝柔道記


寝技1

寝技2


これは、戦前、高専柔道と呼ばれた寝技中心の柔道の系譜を受け継ぐもので、15人の団体戦の抜き勝負で母校の誇りをかけて年に一度戦います。

僕は北大で、勉強や恋愛に悩みながら、この寝技の練習に明け暮れました。北大の仲間たち、そしてライバル校の選手たち、みな今の僕にとって宝物になっています。

立技(投げ技)には運動神経も必要ですし、体格も重要な要素になります。でも、寝技は研究と努力次第で強くなれます。これは後に出てきたグレイシー柔術、ブラジリアン柔術の思想と同じです。旧七帝大では白帯から柔道を始める者が3割から半分くらいいます。

以下の動画は3年ほど前にNHKがニュース特番で放送したものです。僕たちの20期くらい下の選手たちの話ですが、僕らのころと思想性も、やっていることも同じです。国際柔道のルールがどんどん変わっていくなか、七帝柔道だけは100年以上、ルールを変えずにやっています。このNHK特番は東北大学を追ったものですが、北大でも東大でも、この世界はかわりません。



高校生の皆さん、受験生の皆さん、どうですか? 自分もやってみたくなったでしょう。懸命に何かに取り組むことは人生で何度もあるわけではありません。それを同じ方向を向く仲間たちと一緒にということは本当に少ないのです。「七帝柔道記」を読んで興味を持った若い人たちに、ぜひ入部してもらえればと思います。

「七帝柔道記」は週刊大衆誌上で連載されている「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」(新潮社)の漫画版「KIMURA」のなかでの世界観とクロスさせています。作画は原田久仁信先生(「プロレススーパースター列伝」「男の星座」)です。

僕が4年生のときの1年生、中井祐樹君が卒業後、プロ格闘技の世界に飛び込み、1995年、日本武道館でヒクソン・グレイシーと戦うためにバーリトゥードのトーナメントで死闘をやったことは、コアな格闘技ファンならご存じだと思います。

KIMURA_中井祐樹1

中井祐樹2


KIMURA_中井祐樹3
▲▲一番下の駒の3人。左から「七帝柔道記」に出てくる僕の同期、松井隆君、竜澤宏昌君、増田俊也です。僕たちは2階席でこの試合を応援していました。このとき中井君は24歳ですから僕は29歳くらいだったでしょうか(中井君は現役合格、僕は2浪で入学したので3期下ですが、歳は5歳離れています)。


「七帝柔道記」に関する僕のインタビューを2本紹介します。

▶「七帝柔道記」インタビュー1


▶「七帝柔道記」インタビュー2


以下は「KIMURA」の作画をしてくださっている原田久仁信先生と僕の対談です。こちらもぜひ。

▶原田久仁信×増田俊也(対談)

高校生の皆さん。青春の過ごし方はさまざまです。でも、寝技の青春、これもいいですよ。 


以下は角川書店さんが作ってくださった「七帝柔道記」特設サイトです。

▶「七帝柔道記」角川書店特設サイト