永平年間のこと、司勲の張という者があった。

彼は若くして弁舌が巧みなことで知られ、同輩らから畏れられていたが、たいして出世はしなかった。

七十歳になったころになって舌に腫れ物ができる病気にかかったが、この腫れ物はどんどん大きくなってついには口からはみ出し、治療することもできぬままに容態は悪化していった。

子弟らは集まって相談し、このような病気はいまだ聞いたこともないので、特別な術を心得た人に治療を願うほかにはあるまいということとなった。

そこでそれぞれ変装しては仏寺ら道観へ行って病状を語っては治療できるものを探したが、一人の老僧が言うことにはそれは業報というものであって、病人を町中の人が最も集まるところへ連れて行って広く人々に見せれば、治療できるものにめぐり合えるかもしれないとのことだった。

そこでこの言葉に従うこととして張を輿に載せて市中へと出たところ、童顔で白髪の一人の老人が治療法を心得ていると申し出た。

子弟らが拝礼して治療を請うと、老人はこれに向かって言った。

「わしは宣平門の外にある一軒の家がほしかったのだが、手元不如意で買うことができぬ。あれを買ってもらいたい。持ち主も長らく手放したがっていたのでそれほど高額でもなく、什器などを揃えても三十万ほどで足りよう」

そこで子弟らはすぐにその家を探して買い入れた。

そこへ現れた老人の妻は黒い絹で髪をつつみ、紅絹を腰に結び付けており、化粧をしていないものの年のころは十八、九歳に見えた。

老人夫婦のもとへ翌日の明け方になってから張が運び込まれると、老人は妻に命じて薪を燃やすなどの準備をさせ、子弟らには少し離れて様子を見守り、騒ぐことのないようにと申し聞かせた。

そうしてから張の舌を観察し、舌の根にまでかかっている肉腫を刀で断ち切ると、紅い袋から粉薬をだしてふりかけた。

そうしてから重さ五、六斤もあろうかという切り取った肉を妻に命じて火で炙らせた。

その肉の焼ける香ばしい香りが漂い始めたところ、張が目を覚ましてごくりと唾を飲み込んだ。

そこで老人が焼いた肉腫を食べるようにと与えたところ、空腹をおぼえていた張はたちまち全て平らげたが、すっかり平癒したかのようだった。

子弟らがよろこんで張に尋ねたところ、彼が言うことには、ここに連れてこられたまでは覚えているもののその後のことは何もわからず、気がついたら何やら良い匂いがしていて空腹を感じたが、これまでの苦痛はもう消え去っていたとのことで、今度は餅が食べたいなどと言うのだった。

老人が「もう良いので君たちは張司勲にお伴して帰られるがよかろう」と言うと、張はこの恩はきっと忘れぬと繰り返し礼を言った。

しかし老人は「自分はただこの病気を治療しようとしただけで、もうそれを成し遂げたのだから、これ以上何も言うことはない」と言うだけだった。

翌朝になって一族揃って盛大な礼物を携えて礼にやって来たところ、家の門は閉ざされたままで、什器の類はそのままに老人夫婦の姿はなかった。

子弟らがこれを張に報告すると、神仙がやって来て病を治療してくれたのだと言って、家を挙げて香を焚いたのだった。