エンディングの軽やかな曲が流れ、当時の夏目家の写真が現れると泣けてくる。
なんでしょ・・
泣いたり、怒ったり、苦しんだり・・・でも大声で笑ったり。
人間の生活ってそういうことだ。

 文豪と呼ばれるようになった男も、そんな男と戦いながら生活をつくってきた女も
ひとりの人間なんだな〜としみじみ思える。
そして人間っておもしろいもんだ。人生って不思議だと思う。
いいドラマだよ。
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 さて、それでは振り返ってみますかのぅ・・
明治32年春、結婚して3年目、金之助(長谷川博己)と鏡子(尾野真千子)は第一子筆子の誕生を迎えた。
家族らしい形を整えた夏目家はほのぼのとした光に包まれていた。

『鏡子さんは幸せでした。
でもその幸せはつかの間の夢のようなものでした』

語り(房子・鏡子の従妹)(黒島結菜)

 こわーーーい!!( ̄□||||!!でもその通りだった。
今回は漱石えげれす留学の回だからね。
漱石と言えば神経衰弱。
もともと人間不信が深く根付いている金之助のことだから当然といえば当然の流れだったのかも。


 明治33年6月、文部省から英語研究の命を受けた金之助はイギリスへ2年間留学することが決まった。
その間、鏡子と筆子は東京の実家で過ごすことになった。

 イギリス出発を控え、準備に忙しい二人は思いっきり夫婦喧嘩ができるほどになっていました。
でもイライラカリカリしていたのは二人とも不安だったから。
離れて暮らす寂しさを感じていたから。

 9月に旅立った金之助は鏡子にこんな句を残していた。
『秋風の 一人をふくや 海の上』


 こういう寂しさを吹き飛ばしながらからっと生きていこうとする女性を演じるのはオノマチさんの真骨頂。
芯の強さとかわいらしさ、ほどよい湿り気が気持ちいい。


漱石の思ひ出――附 漱石年譜道草 (新潮文庫)吾輩は猫である (宝島社文庫)
 1年が過ぎ、次女常子も生まれた頃、金之助のよくない噂が伝わってくるようになった。
東京の実家で鏡子が遊びほうけているとボヤいているとか、
神経衰弱ぎみで下宿にこもりきりだとか・・・
研究成果を書いて送れと言う文部省の指示に白紙を送って来たり・・
重一(舘ひろし)も心配しております。

 慣れない海外生活、差別もあったでしょう。
そもそも日本人にだってめったに心を開かない金之助が
コミュニケーションに失敗し、必死で保っていた自信を失い、イギリス人だけでなく回りの人間すべてに疑心暗鬼の思いを膨らませていったのもわかります。
鏡子が金之助からの手紙に返事を送らずにいたのも寂しさに拍車をかけたようだす。


 しかし、この頃、重一が官職を辞したため援助をあてにできなくなった鏡子も
子供を抱え、生活に追われる日々を送っていました。
もちろん留学中の金之助を頼ることもできない。
長く続く気苦労の始まり・・

 不安になった鏡子は正岡子規(加藤虎ノ介)に相談に行った。
正岡は金之助が親に捨てられたせいで人間全般に敵愾心を持つ傾向があり
身分や立場への強いコンプレックスがあることを伝え
「帰ってきたら優しゅうしてやってください。
夏目に必要なんは一分の敵愾心も持たず話せる相手じゃ。
それは奥さん、あなたしかおらん」と言ってくれた。

 子供ができて、これから夏目家を作っていこうって時に離れたんだもんね。
確かなよりどころが見つからない。
正岡子規の言葉はたとえ細い糸だとしても支えになったと思う。


 明治36年、2年半ぶりに帰国を許された金之助は新橋駅のホームに降り立った。

 その姿は深くて暗い闇の中にいる陰鬱な死神のよう。
誰も寄せ付けない固い鎧を身をつけ、この世界を断絶しているようでした。

 また一からやり直し・・・( ̄∇ ̄;)
いやマイナス百、いや一万?状態だよ。取りつく島もありゃしない・・・

 
 挨拶に来た重一や親戚たちをも拒否して部屋に籠った金之助は
心底疲れきっているようだった。
重一の援助が頼めないことを鏡子に確認した金之助は
熊本で教師をやらねばならないことに絶望していた。
イギリス生活で自分には英語を研究することも教師をすることも向いていないと
自覚したらしい。

「イギリス人の母国語を学ぶことに何の意味があるんだ?!」

 金之助はイギリス人を憎み、イギリスという国にもうんざりしていた。
その国の言葉なんてどうでもよかった。


「あぁ・・・10万円欲しい・・・10万円あったら遊んでくらせるぞ。
仕事もせず・・熊本にも帰らず・・・好きなことをしてな。
10万円あったらなぁ・・・」金之助
「・・・・・私だって欲しいです・・・10万円・・」鏡子
「欲しいか?」
「遊んでくらしたいです。何もしないで」
「10万円あればなぁ・・?」
「あ〜〜欲しい!欲しい!」
「仕事なんかしないぞ」
「10万円欲しい!」
欲しいぞ!!ハハハハハッ・・・」
「欲しい!」
「10万円欲しいぞぉ!!ハハハハハ!
働かないぞお!!ハハハハハ!」

「遊んで暮らすぞお!」鏡子・金之助
「10万円、10万円・・・!・・・・・・お帰りなさい」

 金之助は、やっとほっとできたんじゃなかろうか。
普通の奥さんなら「何言ってんのよ」といなすようなことを
鏡子には一緒におもしろがれるところがあった。
そういうセンスが一致していたのかしら。
それは金之助にとって一種の救いであり、鏡子という存在を認められるところだったのかもしれない。


 んが、大笑いしたのも束の間。
地獄の日々の始まりだった。
熊本には帰らずにすんだが、金之助は帝大と第一高等学校で気の進まない講師をすることになった。

 ストレスから解放されない金之助は留学時代に溜まったうっぷんを家族にぶつけるようになった。
被害妄想を募らせ、言いがかりとしかいいようのない怒りを爆発させ暴力をふるうようになった。
怖がる子供達の様子は金之助の怒りに拍車をかけ、回りのすべてが重荷であり憎しみの対象になっていた。

 回りのすべてが自分を責めている、自分という存在を殺そうとしている、そうさせるものか・・・
混乱の中にいながら生きるために金之助も戦っていた。
体内に巣くう何かに突き動かされるように狂気を体現するハセヒロが見事だった。
循環の悪さが見える自由に動かない手足、左右で大きさの違う目、
抜け出せないもどかしさ、悲しみ・・・


 「出ていけ!」と言われた鏡子は子供達を連れて実家に助けを求めた。

「いつまでいるつもりなのだ」という重一の問いに
「いつまで置いていただけます?」と、にこっと笑った鏡子・・・
いい場面でした。
切羽詰まっているはずなのに、茶目っ気が出てしまう。
オノマチさんの鏡子からは、生きていく力の強さが静かに伝わってくる。
緩急の入れ方が本当にうまい。


 金之助は鏡子との離縁を求めて何度も重一に手紙を送っていたらしい。
鏡子も自分が居ない方が金之助は穏やかに過ごせるのではないかと悩んでいた。
離れる方が金之助のためになるのか、それとも一緒に居た方がいいのか決めかねていた。

 光は意外なところから射した。
金之助を診察した帝大の呉教授が『神経症』の診断を下したのだ。

「でも・・・病気なら・・・家族は看病しなくちゃ・・そうじゃありませんか?
私は夫が私に対する気分や思うことがあって当たり散らすのだと思っていました。
私に原因があるのだと。
でも、そうじゃないんですね?病気ですね?」鏡子
「は、はい・・・そうです」呉
「でしたら、家に帰ります!そばにいて看病しなきゃ。
治るか治らないか、私にもできることがあるかもしれませんし」


 喜び勇んで鏡子は子供達と共に家に帰った。
相変わらず冷たく追い払おうとする金之助だが鏡子は動じなかった。
怒鳴る金之助におびえる子供達に言い聞かせるのでした。

「いいですか?ここは私たちのおうちですよ。出て行く必要はないの。
ここで毎日お食事をして、寝て、ご本を読んで、学校へ行って、
このうちで大きくなるの。
お母様とここに一緒にいましょ。
誰がなんと言っても、ここは私たちのうちなんですから


 怒りに顔をゆがめている金之助にも宣言した。
「私たちは、もう出て行きませんから」

 世界に向けられた敵意はすべて自分からきている。
自分はこの世界に受け入れられない人間なのだ。
取るに足らない人間なのだ。
親にも捨てられた自分はいずれ鏡子にも見捨てられるだろう・・・

 金之助の病は簡単に治るものではない。
一生付き合わねばならないものだったろう。
でも、決して自分から離れないという鏡子の宣言は金之助の捨てられる恐怖のストッパーになったと思う。
今はまだわからないだろうけど。


 金之助は『離縁してやる!』と騒ぎ続け、離縁の理由を細かい字で書いたなが〜いなが〜い離縁状を鏡子に見せつけた。
それを重一が受け取らないと逆上して怒鳴り続けたが、もう鏡子は動じなかった。

 その後もいちゃもんとしかいいようのないことを言って責める金之助に慌てず、さらりと対応。
小さな積み重ねだよね。

 でもコレ、相当エネルギーいると思うワ〜
怒りや罵倒って受け止めるだけでヘトヘトになるもんね。
逃げないと決めた自分を叱咤し、金之助、そして自分自身と戦い続ける日々。


『金之助さんの異常な行動は数ヶ月にわたって
断続的に続いたそうです』


 そんなある日、重一が金之助に借金の保証人になって欲しいと
鏡子に頼みにきた。
実家を売り渡し、新しい家を買った時の残金が払えないと言ったが
鏡子は弟の倫から事情を聞いていた。
相場に手を出し大損をした重一はそれを取り戻そうと戦争をあてこんだ別の株を買うも失敗。借金が増えてあちこちから高利の金を借りていた。

「私はお父様に甘やかされて育ったから、私もお父様を甘やかせて差し上げたいのだけど、今の私には悔しいけど、それができないんです。
相変わらず夏目と戦争をしているんです。
毎日飛んでくる弾をどうよけようかって。
来る日も来る日も自分が試されているようで・・・
どこまで、このうちで頑張れるのかって・・・
夏目と子供達と・・本当に幸せな家族が作れるのかって。
つらくて・・・時々逃げたしたくなって・・・
でも、書斎に籠って山のような本を読んでいる夏目を見ると、
きっとこの人も辛いんだろうって。家族と折り合ってうまくやっていく方法が見つからなくて、結局一人で本を読んでいる。それぞれが皆さみしいんだって・・だから・・」

「それは・・・よくわかっている・・・分かった上で」重一
「申し訳ありません!
私はお父様を助けることができません!
夏目に判をついてくださいとは言えません!」

「・・・・・・・・金之助君が・・・昔作った俳句を教えてくれたことがある。
『うつむいて 膝に抱きつく 寒さ哉』
寒いからうつむくしかない。自分のヒザに抱き着いて耐えるしかない。
『うつむいて 膝に抱きつく 寒さ哉』・・・・うまいもんだなぁ・・」

 書類を鞄にしまうと重一は礼をして去って行きました。
手をついたまま、鏡子は声を殺して泣くしかなかった。

 重一が訪ねてきた理由を聞いた金之助は倫を呼び出し、借金の保証人にはなれないが倫と義母は自分が生きている限り守ると約束し、よそからかき集めた400円を渡した。
倫は断ったが、金之助は手に握らせた。

 自分に引け目を感じさせ続けた巨木とも思える義父の凋落を知り、お金を貸すことでプライドを取り戻せたと見ることもできる。
でもやはり金之助は家族として中根家を救いたいと思い、そうできた自分を確認できて、救われたんだと思う。
泣いている倫を見守りながら、金之助も鏡子も長いトンネルを通り抜けたような感覚を得たんじゃないかな。
(また違うトンネルあるけど・・・( ̄∇ ̄;) )

「ありがとうございました」鏡子
「これで君は帰るところが無くなったな・・・」金之助
「・・・・いいんです。私にはこのうちがありますから」
「そんなにこのうちがいいのか・・」
「あなたはどうですか・・?」
「・・・・・・・・」

『年が明けて明治37年2月、日本とロシアの戦争が始まりました。
しかし、この戦争を待っていた中根のおじ様にとっては遅すぎる始まりでした。
2年後、再起を果たせられないまま55歳の生涯を終えられました』


 ここにきてやっと黒猫ちゃん登場よ〜
いつのまにか夏目家に現れるようになった野良猫・・それがあの作品のモデルでした。
鏡子も女中さんも見る度に追い払ったんだけど、すぐに戻ってきて我もの顔。
うんざりしてたんだけど「福猫」と聞いた途端に手のひら返し (* ̄m ̄)プッ
意外なことに金之助も猫好きであることが判明し飼うことが許された。

『金之助さんの病気は相変わらずで、良かったり悪かったりを繰り返していました』

 体調の悪さをボヤく金之助に高浜虚子は『ホトトギス』に文章を書くよう勧めた。
何を書こうか迷っていた金之助の背後にいた黒猫・・・
彼はこの黒猫の目をとおした人間世界をおもしろ切なく綴り始めた。

 その最中に夏目家が泥棒に入られるという災難が。
ショックを受ける鏡子と金之助だったが泥棒はすぐに捕まった。
しかも盗まれた着物は高く売るためにきれいに洗濯され綻びも直されていた。

「こういう泥棒なら、時々入ってもらうのも悪くないな・・・」金之助
「私もそう思ったところです」鏡子
「君がそれを言ってはイカンのだ」
「ハハハハハ」
「ハハハハ」

 なんか金之助と鏡子って笑いのセンスが合う感じ。
てか、日々が戦いだからこそ、こんなふうに笑えるチャンスを逃さないっていうか。
一緒に笑える機会を大切にしてたのかな。


『猫が来て以来、金之助さんの病気が少し良くなったように見えました』

 アニマルセラピー?( ̄∇ ̄;)
でも、ほんとに福猫だったね。


 完成した原稿を高浜に音読させたのは、お茶を運んでくるであろう鏡子に聞かせるため?
扉を通して大笑いしている鏡子の気配は金之助にひととき幸せをくれたことでしょう。

 充実した1時間15分です。
一話一話の完成度がすばらしい。
見終わった後、しばらく余韻に浸っています。


 第一回 夢見る夫婦
 第三回 やっかいな客
 最終回 たたかう夫婦

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