いや〜再放送を待っておりましたョ〜
これは2014年にBSプレミアムで放送されたドラマで、記事は最終回分しか
書いていないのですが大好きな世界でした。
恐ろしくて妖しくて美しくて悲しくて。
そして『語り』によって生まれる異空間の新鮮さ。
怪談的なアレなんだろうけど時代を超えて訴えかけてくる人間ドラマでもありました。

 確か当時、このドラマがあることを知らなくて一回目の10分ぐらい見逃したんで
記事書いてなかったのよね。
でもすぐに引き込まれて毎回見ていたのに最終回しか書かなかったことを後悔したんだよな〜
で、いい機会なんで再放送ものではありますが記事を書いていきたいと思います。


 さて、江戸時代・・・神田筋違先三島町にある袋ものの店・三島屋、
主人の伊兵衛(佐野史郎)と内儀・お民(かとうかず子)の元に
姪っ子のおちか(波瑠)がやってくる。

 川崎宿の旅籠・丸千の一人娘のおちかはある事情があり、地元を離れ
三島屋で奉公させてもらうつもりだったのさ〜。

 なにやら斧を手にした男に追いかけられる悪夢に悩まされているおちか。
美しいがその顔には悲しみと恐怖が張り付き背後は闇には消せない闇がある。
温かく迎えてくれた伊兵衛とお民さんにほっとするよ。
そして、いい意味で下世話な雰囲気がある女中頭のおしまさん(宮崎美子)、
この三人がこの世(日常)におちかを繋ぎ止めてくれそうだね。


 おちかが着いた翌朝、三島屋の庭に曼珠沙華が咲いた。
夜の闇の中にあったその蕾は、まるで血の付いた手が土の中から差し出されているようだった。
不吉なものとして嫌われる彼岸花。
番頭の八十助とおしまは刈り取ってしまおうとしたんだけど、
「縁あって我が家の庭先に咲いたんだから」と伊兵衛が止めたんでそのままに。

 人々から忌み嫌われる曼珠沙華・・・
おちかは自分とその花を重ねていた。

「あの花の肩身の狭さは今の私と同じです。
刈られてしまわなくて良かった・・・」

 そんなふうに始まった一日。
おちかは急用で留守にした伊兵衛とお民の代わりにお客様のお相手を務めることになった。
相手は伊兵衛の囲碁仲間・材木問屋松田屋藤兵衛(豊原功補)。

 緊張しながら向き合うおちかに優しく声をかけてくれる藤兵衛だったが
庭の曼珠沙華を見た途端に顔色が変わり発作を起こし苦しみ始めた。

「私はあの花が恐ろしいのです・・・
恐ろしくて恐ろしくてたまらないのです・・」

 水を飲み落ち着いた藤兵衛はその理由を話始めた。

「商いの算盤勘定もひととき忘れて、黒白の合戦に興じようとお訪ねした先で
覚えず曼珠沙華の花に会い、そこにあなたのようなお嬢さんが居合わせたことは
きっと何かのしるしでございましょう。
何か・・御仏に諭されているような・・・
永い年月、胸に隠し持ったどす黒いものを吐き出す潮時が来たと。
おちかさん・・・小商人の昔語りにお付き合いくださいますか?」

おそろし 三島屋変調百物語事始 (角川文庫)あんじゅう 三島屋変調百物語事続 (角川文庫)泣き童子 三島屋変調百物語参之続 (角川文庫)三鬼 三島屋変調百物語四之続
 おちかを取り巻いている闇、悲しみや苦しみ、怒りや恐れが渦巻いている闇の存在は藤兵衛にとって救いだったのかもしれない。
背負っているもののせいでバランスを崩してはいるが、おちかには
あの世とこの世の両方を見ているような不思議な存在感があった。
そしてそんな場所にいながら清らかな美しさを保っている。

 私はこのドラマを見て始めて「美しさ」が癒しになりえること、
そしてそれは背負うべき「運命」であるとも思った。


 その事件が起こった頃、藤兵衛はまだ八つ。幼名は藤吉。六人兄弟の末っ子。
長屋の家事で両親はすでになく、十三歳年上の吉蔵が兄弟たちの面倒を見ていた。
吉蔵は腕のいい建具職人だった。

「よいとこばかりの吉蔵兄ではありましたが、ひとつだけ弱いところがございました。
何も欠ける所のない人間などこの世にはおりません。
・・・兄は気が荒いところがあったのです。
一度カッとなり堪忍袋の緒が切れると、我に返るまで自分が何をしているのかも
わからなくなってしまうことがありました」

 雨続きで仕事がはかどらず大工も建具職人もイライラしていた日、
ある大工に自分の仕事をけなされ、片思いしていた親方の娘・お今さんの
ことを口ぎたなく罵られた吉蔵は持っていた玄能でその男を叩き殺してしまった。


 悪いタイミングでいろんなことが回ってしまった。
この時、玄能を持っていなかったら・・
あるいは雨が続かず仕事が順調に動いていたら・・・
この大工の機嫌が悪くなかったら・・・
『魔が刺す』と言うけれど、『魔』は見逃さないんだね・・


 「打ち殺す」と聞いた途端におちかの脳裏にあの悪夢の男が現れた。
恐ろしいことを思い出させてしまったと謝る藤兵衛だったが、思いだすまでもなく
おちかは忘れたことはなかったそうな。

「近しい人が人を殺めてしまったのです。
今でも悲しくてなりません。
叔父叔母のこの家で安らかに過ごしていても私の心は騒いだままです。
私は・・・人の心がわからなくなってしまいました。
人というものが恐ろしくなってしまいました」

 事件からどれぐらいの時間が過ぎているのかはわからないが
きっとその事を語るのも恐ろしく耐えられなかったはず。
こうやって口に出すことができたのはおちかにとっても救いの道に
繋がるんじゃないだろうか。


「私が今日こちらに伺い、曼珠沙華の花が咲き、
ここにあなたがいらしたことは、やはりご縁なのでしょう」藤兵衛
「そうなのかもしれません・・・」おちか

 気持ちの乱れたおちかだったが、藤兵衛の話の続きを聞く覚悟はできていた。

 吉蔵は島送りとなった。
残された藤吉たちは身うちに人殺しが出たということで辛い日々を過ごすことになった。
奉公先も何度か変わるはめになり、4度めの奉公先の松田家でやっと
仕事を認められ手代に引き立ててもらった。
兄がいなくなってから15年、藤吉は23歳になっていた。

 兄の親方だった人が松田家に現れ、吉蔵が帰ってくることを伝え
一緒に迎えようと誘ったが藤吉は拒絶した。
やっと得た今の場所を失いたくなかったのだ。


「怖かった・・・
またすべてを失くしてしまうことが本当に怖かったのです」

 あんなに仲の良かった他の兄弟たちとも、あの事件以来散り散りとなり、
どこにいるのかもわからなかった。


「血の繋がりなど、何の足しにもなりません」

 藤兵衛がどんな凄まじい道を歩いてきたのかが伝わってくる。
たった一人で暗闇の中を鬼になることで生きて来た。


「ですから私は何度も祈りました。神田の明神様にも。
どうぞ吉蔵を江戸に戻さないでくださいまし!
・・・・・・・めっそうもない願いです。
罰が当たるのも・・不思議はありません・・・」

 兄に会わずに過ごしていたひと月のち、お今さんが藤吉を訪ねて来た。
自分のせいで吉蔵を人殺しにしてしまったと罪の意識に苛まれたお今さんは
島送りが決まった吉蔵に「待っているから」と言ってしまった。
しかし何年か後によそに嫁いでしまい、そのことでもすまなさを感じている
お今さんは兄弟に会いたがっている吉蔵の願いを叶えて欲しいと頼みに
来たのだった。

「本当・・・15年は長いよねぇ・・長すぎる・・・(涙」お今


「私は吉蔵兄にムラムラと腹が立ってまいりました。
兄は人殺しです。
そのせいで回りも私もどれほどか辛く苦しい思いをしたか。
しかし、そんなのはみな置き去りだ。
かわいそうなのは島帰りのわが身だけ。

あの日を境に私はいよいよ兄が許せなくなった。
心の芯から兄を恨んで呪いました。
私はこの先もずっと吉蔵兄の所業が露見しないか
口さがない誰かがひょいと告げ口をするのではないかと
怯えながら暮らしていかねばならないのに!
当の兄だけは苦しみを逃れ回りの人々から温かく見守られるなんて
これほどの理不尽があるでしょうか!」


 兄を呪い兄の死を望んだ藤吉は兄が殺めた大工の墓にまで拝むようになっていた。

「人殺しの兄に、その大きな罪にふさわしい報いが降りかかりますようにと」

 大工の墓の回りには真っ赤な曼珠沙華の花が咲き乱れていた。

  そんなある時、お今が吉蔵が首をつって亡くなったと知らせに来た。
発見した親方さんによると鴨居から降ろした時、閉じた吉蔵の目からは涙が滴っていたそうな。
吉蔵さんは死ぬ直前まで泣いていた・・・


 吉蔵の亡骸が横たわっている部屋に庭には曼珠沙華が咲いていた。
亡くなる10日前から吉蔵さんはこの花に魅入られたようになっていたらしい。
そして花の間から人の顔が覗くと言っていた。

 藤吉は、それは兄が殺した大工の顔に違いないと思ったが、吉蔵は親方につぶやいていた。

「俺に怒っている人の顔ですよ」
「あいつは俺に会いに来た。ああして会いに来てくれたんです」
「花影から俺を見つめている。
だから俺も見つめ返して謝るんです。
すまなかった・・・兄さんが悪かったって」吉蔵
「・・・・・おめぇが見てるってのは・・・」親方


 それは怒りと憎しみに満ちた藤吉の顔だった。
花の間から睨むように吉蔵を見ている・・・
そして『死ね!死んでしまえ!』と訴えている・・・


「そうです!吉蔵兄が見ていた顔は・・・・この私だったのです!
兄を罰してくれと亡者に頼むほどにねじくれた・・・この私の生霊!
それが・・・それが兄を殺してしまったんだ!」


 なんと恐ろしい・・・
でも何よりも恐ろしいのは、そんな人を死に追いやるほどの憎しみにゆがんでしまった自分自身の顔を見た藤兵衛さんだろうに。
人間はいろんな顔を隠し持っている。
その人の人生の在り方によって顕れない顔もあるだろう。
でも病気や怒り、憎しみ、恐怖から自分でも気づかない顔が顕れることがある。
藤兵衛さんは一番見たくない自分の顔を見てしまった。

 兄は自らの罪におののき、弟のためにも死を選んだ。
藤兵衛さんはずっとそんな自分を許すまいとして生きてきた。

 曼珠沙華の花は藤兵衛さんの罪をいつも見ていた。
そうして藤兵衛さんを責め続けたんだね。

 話し終わった藤兵衛さんはほっとしたような、ずっと背負ってきた荷物をやっと降ろせたような・・・そんな顔をしていた。
おちかは何も言わなかったけれど、彼女の涙が藤兵衛さんの罪を浄化してくれたような・・・
そしてそれは他の誰でもないおちかだからこそできたこと。
 

 伊兵衛さんは『お前のお手柄だよ』と褒めてくれた。

 佐野史郎さん、ベストキャスティング!
江戸の風流な趣味人って感じ。
粋になりすぎず余裕を感じさせる。
なんとも味わい深い人物像が伝わってくる。締まるわぁ〜


 その後、多分、吉蔵兄さんのお墓詣りを済ませたあと、藤兵衛さんは亡くなった。
死に顔は安らかだったそうな。

 吉蔵兄のお墓の回りにも曼珠沙華の花が咲いており、
そこで藤兵衛はやっとどす黒い闇から解き放たれた自分自身に会うことができた。


「心の中に固く封じ込めていた罪を吐き出したことで、
ようやく自分を許すことができた。
そのきっかけを作ったのはおちかだ。
だからお前の手柄だと言うのだ」伊兵衛
「私はただお話を聞いただけです」おちか

「おちかの中に自分と同じ思いを感じとったのかもしれないなぁ・・・
おちか、お前にも晴れ晴れとする日が来るといい。
その時がいつ来るかはわからない。
誰かがお前の凝った心の悲しみをほぐしてくれるといいね」

 言霊というか・・・伊兵衛の言葉がおちかの中でお守りのようになり
浸みわたっていくといいなぁ。
そしてにしても、やっと自分を許すことができた時に死が訪れた藤兵衛さん・・・
許すことができたから人生を終えることができたのか、
あるいは最期の許しのために苦しみがあったのか、何とも不思議な。


 伊兵衛は「巷に隠れた数奇な話を百集める」ことを思いついた。
「ほう!百物語。
これはまたなかなかに酔狂な話かもしれませんなぁ」灯庵(麿赤兒)
「うん・・・変調百物語!

 そんな中、人ではない、禍々しい様子の男がおちかに近づこうとしていた。

 おどろおどろしい第一夜。
そんな中に目を凝らせば見えるか見えないかの光・・・
第ニ夜が楽しみです。


 第二夜 凶宅
 第三夜 邪恋
 第四夜 魔鏡
 最終夜 家鳴り

ねこちゃん