【THE REAL】横浜F・マリノスの鉄人、中澤佑二が秘める思い…盟友・中村俊輔への静かなるエール
https://cyclestyle.net/article/2017/04/14/47305.html
■今年に入って変わったマリノスの日常

横浜F・マリノスの日常から、今年に入って名物が消えた。通常練習が終わってもグラウンドに残り、黙々とボールを蹴ったレジェンドの移籍とともに、トータルの練習時間が大幅に短くなった。

コンディションが重視されるサッカーにおいて、特に外国人監督は個人練習を嫌う。フランス人のエリク・モンバエルツ監督を常に困らせていたのは、ジュビロ磐田に新天地を求めた中村俊輔だった。

ゴールキーパーを伴わせて、さまざまなパターンからシュートを放つ。十八番の直接フリーキックも、あらゆる角度から蹴る。そして、ペナルティーキックを数本決めて締める。

ボールを追う時間が楽しくてしかたがない「永遠のサッカー小僧」が、一心不乱に個人練習に励んだ日々。同じ1978年生まれのベテラン、DF中澤佑二はいまも忘れていない。

「シュン(俊輔)がいないから、いまは居残り練習もすぐに終わっちゃう。綺麗な放物線を描くシュートを『ああ、上手いなあ』と思いながら眺めていたけど、あれがなくなったのは寂しいものがありますね」

ワールドカップに出場できるレベルの選手になりたいと一念発起。無名の練習生からプロへはいあがった中澤が、ヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)を飛び出したのが2002シーズンだった。

その年の夏に海外へ移籍した俊輔とは、半年間しか一緒にプレーしていない。それでも、ともに日韓共催大会代表を逃した悔しさを糧に、日本と遠く離れたイタリアやスコットランドで切磋琢磨する間柄になった。

俊輔が海外でプレーしている間も、日本代表ではともに戦った。2010シーズンから再びチームメイトになった2人は苦楽をともにした「戦友」であり、お互いを認め合う「ライバル」でもあった。

チームの方向性に不信感を募らせ、断腸の思いとともにマリノスを去ることを決断した1月上旬。仲間たちへの思いを聞かれた俊輔は、昨秋に去就が取り沙汰された中澤へこんな言葉を残している。

「マリノスで完全燃焼させてあげてほしい」

■俊輔と16年ぶりに敵味方で対峙した夜

その俊輔がトリコロールカラーのユニフォームではなく、サックスブルーのそれを身にまとって目の前にいる。2017年4月8日。思い出深い日産スタジアムのピッチで、2人は敵味方として対峙した。

中澤がヴェルディの最終ラインを支えていた2001年9月15日以来、16年ぶりとなる対決。キックオフ直前。ピッチに入場するために顔を会わせたメインスタンド下のロビーで、2人は言葉を交わしている。

「もちろんしゃべりますよ。普通に『どう?』って聞いたら『磐田は遠いけど、もう慣れた』とかね」

プロフェッショナルとして、もちろんセンチメンタルな感情はいっさい封印する。センターバックの中澤と中盤の右サイドを主戦場に攻撃を差配する俊輔は、球際や空中戦で直接ぶつかり合う機会はない。

それでも、俊輔の左足に宿る、正確無比なキックがもたらす脅威は誰よりも理解している。25歳の天野純、22歳の喜田拓也が組んだボランチコンビへ、中澤はあるミッションを託していた。

「シュンのところに『とにかく行け。前を向かせるな』と。シュンにフリーでボールをもたれて、前を向かれると本当にいいボールを蹴ってくるので、アマジュン(天野)とキー坊(喜田)には『行け』と。彼らが一生懸命シュンにプレッシャーをかけてくれたので、かなり助かりましたけどね」

激しく守りながらも、直接フリーキックからゴールを狙えるエリアでは最後までファウルを犯さなかった。Jリーグ歴代1位の23本ものゴールを生み出してきた放物線が最大の脅威になると、全員が肝に銘じていた。

「いちいち言わなくても、それはみんなわかっていますから。ファウルを犯すこと自体が、ジュビロのチャンスになるとしっかり頭のなかに入っていたから、徹底できたと思います」

俊輔からキャプテンと「10番」を引き継いだ、MF齋藤学の2アシストで粘るジュビロを振り切った90分間。4試合ぶりに手にしたリーグ戦勝利に、チームを後方から支えた39歳は笑顔を浮かべた。

■冷や汗をかかされた俊輔のコーナーキック

ただ、警戒していながら何度も冷や汗をかかされた。たとえばコーナーキック。プレッシャーをかけられない状況になると、中澤は「やっぱりいいボールが来るんですよ」と舌を巻いた。

「いやぁ、本当に嫌でした。空いているところに誰が走ると、シュンはそこに必ず(正確な)ボールを蹴ってくるんでね。セットプレーは怖いと、あらためて思いましたよね」

開始11分に与えた右コーナーキック。マークしていたDF大井健太郎に一瞬の隙を突かれて、ニアサイドに潜り込まれた。俊輔が蹴ったボールはダイブした大井の頭を間一髪、かすめていった。

前半34分の同点弾も、俊輔の左コーナーキックがきっかけだった。ニアサイドのMFマルティノスのクリアが小さく、ペナルティーエリア内に転がった直後に、再び中澤のマークを外した大井に叩き込まれた。

後半アディショナルタイムに与えた右コーナーキックでは、マリノスのマークが大井、FW川又堅碁、MFアダイウトンがいたニアサイドに集中したところへ、ファーサイドへ完璧なボールを蹴られた。

ノーマークで飛び込んできたDF櫻内渚のシュートミスに、この場面では九死に一生を得た。変幻自在なボールを蹴ってくる俊輔を畏怖しながら、中澤は自戒の念を今後への糧とすることも忘れなかった。

「勝ったことはよかったし、得点もいい形で取れましたけど、チームとしての守備のところでちょっとバラバラになったかなと。危ない場面も多々あったし、これを次もやれば勝てるというわけではないので。今日の試合をきっかけに、ディフェンスもオフェンスも含めていい方向に行けるようにしないと。

今日は相手がシュンということで、(齋藤)学もそうだし、アマジュンやキー坊も普段の試合の2割増し、3割増しくらいの気持ちで臨んでいたと思うし、キー坊は最後、足がつるまで頑張っていた。お互いにかける思いがあった。僕たちだってシュンにやられたら悔しいし、シュンはそれを狙っているわけだからね」

■歴代3位の129試合連続フルタイム出場記録を継続中

実は昨シーズンまでのマリノスの名物が、いまではそっくりジュビロのそれに変わっている。新体制がスタートして間もなく、通常練習終了後に名波監督がこんな大声を発するようになった。

「居残り練習は20分間だけだぞ!」

全員へ向けているようで「実は俊輔に向かって言っているようなもの」と、日本代表で「10番」を背負った先輩でもある44歳の青年監督は苦笑いを浮かべる。

「何も言わなきゃ、それこそ小一時間くらいやっちゃうから。帰れと言っても帰らないから。俊輔が率先してやっていることで、チーム全体としてすごくいい影響を受けているけどね」

所属チームは変わっても、俊輔自身はまったく変わらない。頑張っている盟友の姿を「とりあえず情報だけはちょこちょこ入れていた」と把握していたと笑う中澤は、表情を引き締めることも忘れなかった。

「シュンはシュンなりにジュビロを一生懸命に強くしようとしているはずだし、いろいろなことを伝えていると思うんですけど。こっちはこっちで、シュンのことをずっと頭のなかに入れているわけでもないので。やらなきゃいけないことがたくさんあるし、僕たちも勝っていなかったのでね」

やや突き放したように聞こえるのは、お互いを認め合う証でもある。俊輔はJ1に復帰して2年目のジュビロ攻撃陣の再構築を、中澤は2004シーズンを最後にJ1制覇から遠ざかっている名門復活を目指す。

2013年7月6日の大分トリニータ戦から続く連続フルタイム試合出場は、ジュビロ戦で「129」に伸びた。同じく継続中の「133」の阿部勇樹(浦和レッズ)とともに、フィールドプレーヤーでは歴代1位の水本裕貴(サンフレッチェ広島)の「157」に迫っている。

状況によってはファウルを厭わないポジションでありながら、この間に受けた警告はわずか2度。食生活や睡眠時間を含めた自己管理を徹底し、けがに無縁で、プレーもクリーンで、盟友・俊輔への熱い思いを胸中に忍ばせる鉄人は、これからも全力で走り続ける。
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