日本の皆様、明けましておめでとう御座います。(まだ年は明けておらず、少し早いのですが...。)
「夏炉冬扇」の年賀状に代え、私が2003年に創立した「世相比較学会」の年頭レポートをお送りする失礼をお許し下さい。(当学会は、会員1名のエクスクルーシブな学会です。)
「世相」は外国ボケの病原体
1976年にニューヨークに2度目の赴任をした私は、異国生活で自分の考え方がどの位変るかをテストする為、(1)がん告知の是非 (2)陪審制度の賛否 (3)日米どちらの医療を信頼するか の3項目について「リトマス試験」を試みました。
独身で駐在した前回と異なり、今回は教会、子供の学校、NPO活動などアメリカ社会との接触が濃厚で、世間から受ける影響の強さは比較になりませんでした。「がん告知反対」、「陪審制反対」、「重病になったら日本に戻る」と決めていた自分のリトマス試験紙は、たちまち変色します。日本的な価値観が音をたてて崩れる自分を実感しました。「外国ボケ」の始まりでしょう。「鈍感」な自分をこれほど早く変える「力」は何なのか? 出した結論は「世相」でした。
行政訴訟と世相
最近になって日本の「行政訴訟裁判」が大きく変りました。永い間、門前払いが当たり前であった「行政訴訟」で、権力側の敗訴が急増しています。ハンセン氏病、水俣病、薬害被害、原子爆弾被災者問題などの逆転判決は、法律が変った為ではなく、裁判官の「価値観」が変ったからです。世相の影響は確実に浸透しています。
日本人でこの変化に気がついている方は、意外に少ない様に思います。これは、何事につけ変化のゆるい日本社会の「茹で蛙」現象ではないでしょうか? (「茹で蛙」をウイキぺデイアで引きますと「『蛙を温度が緩やかに上がる水に入れて見ると、水温の上昇に気が付かず茹で蛙になってしまう』『人間は環境適応能力を持つ為、ゆるい変化はそれが致命的なものであっても、受け入れてしまう傾向が見られる』と、鈍感力の危険性を指摘した学説」とあります。)
益川教授と外国
ノーベル賞受賞者の一人益川敏英教授は、「英語が出来なくとも、物理は出来る」と肩肘を張っておられましたが、ストックホルムでは「英語を知っていると便利だ」と少し軟化されました。
そこで、今年のレポートは簡単な英語のテストからスタートしたいと思います。
(1) 和文英訳:次の俳句を英訳せよ。
「言うまいと思えど今日の寒さかな」
(2) 英文和訳:以下の英文を和訳せよ。
"To be, to be, ten made to be"
(1)の回答: "You might think but today's some fish."
(2)の回答: 「飛べ、飛べ、天まで飛べ」
スイスの海軍大臣、日本の経済財政担当相
常識では考えられない世界的経済危機で、日本に参考となるジョークを紹介します :
スイスの海軍大臣がパリを訪問し、大きなパーテイーに出席した。司会者が「スイスの海軍大臣がお出でになりました」と紹介した。フランス人は皆、大声を出して笑った。その時、スイスの海軍大臣は少しも慌てずに言った。「この前、あなた方の国フランスの大蔵大臣がスイスにお見えになりましたが、その時私たちは誰も笑いませんでしたよ。」
爾来フランスも変りました。現在のフランスの大蔵大臣は、独禁法と労働法を専門とする国際的弁護士として活躍したラガルデ女史で、流暢な英語を駆使して危機対策でも國際的な指導力を発揮しています。一方、我が国の与謝野経済財政担当相は、百年に一度と言う世界的経済危機の最中に「増税論議」を持ち出す「特異」な大臣で、前述のジョークにあるスイスに出かけたフランスの大蔵大臣の有力な後任候補です。
財政出動とケインジアン
日本政府が財政出動に踏み切った事は、正しい判断だと思います。只、国費の無駄では世界で断トツの日本が、定額給付金をばら撒いたり、無駄の元凶である特別会計に手をつけない事から、旧ソ連の「ケインジアン」を思いだしました。
モスクワの広い通りの真中で二人の労働者が働いている。一人が穴を掘る。もう一人がその穴を埋める。一ヵ所が終ると数メートル動いてまた穴を掘る。もう一人が穴を埋める。その繰り返しである。
イギリスの観光客が不思議に思って尋ねた。「何をしているの。あんた達はケインジアンか?」
労働者は答えた。「ケインズってなんだ。いつもは三人一組で働いている。一人が穴を掘って、二人目が苗木を植える。そして三人目が土をかける。今日は二人目の苗木の担当が風邪を引いた。だから二人でやるしかない。」
日本の財政出動は、最初から苗木を植える係りをはしょっているのでは? これは私の勝手な疑問です。
物造り地獄アメリカ
永年に亘り世界の製造業を牽引して来たデトロイトが殆ど崩壊してしまった事も、昨年の大きな事件でした。現在も止血剤を打ちながらICUに入っているデトロイトですが、アメリカの物造りの衰退の現状をジョークで御紹介します。
アメリカ人のトムは現在、失業中の身である。 朝7時に時計(日本製)のアラームが鳴る。コーヒー・メーカー(台湾製)がゴボゴボいっている間に、彼は顔を洗いタオル(中国製)で拭く。電気カミソリ(香港製)できれいに髭も剃る。朝食をフライパン(中国製)で作った後、電卓(日本製)で今日は幾ら使えるかを計算する。腕時計(台湾製)をラジオ(韓国製)の時報で合わせ、車(ドイツ製)に乗り込み、仕事を探しに行く。しかし、今日もいい仕事は見つからず、失意と共に帰宅する。彼はサンダル(ブラジル製)に履き替え、ワイン(フランス製)をグラス(日本製)に注ぎ、豆料理(メキシコ製)をつまみながら、テレビ(インドネシア製)をつけて考える。「どうしてアメリカにはこうも仕事がないのだろうか・・・」 物造り地獄アメリカの笑えぬ現実です。
日本の信用危機
アメリカ発の金融危機は津波と雪崩れが重なった様な勢いで「信用社会」を襲い、信用を完膚なきまで破壊してしまいました。この影響は、想像を超える速さと深刻さで日本を襲います。経済の世界化を実感させる出来事でした。
日本の信用破壊は、「衣食住 すべてそろった 偽装品」とか 「社長業 今や問われる 謝罪力」 と川柳に詠まれた偽物ブームでも起こりました。 「金融の信用」と「物造りの信用」を二重に壊された日本のモラルの再建は急務でしょう。
新製品が世に出るまでの四段階
100年前のT型フォードの超時代的な技術水準と、ウオレン・バフェット氏が提唱した
進歩の法則「三つのI(Innovation, Imitation, Idiot)」は、昨年の「夏炉冬扇」でご紹介した通りです。これに絡んで、「新製品が世に出るまでの四段階」というジョークをご披露して置きます :
先ず、アメリカの企業が新製品の開発をする。次にロシア人が「自分たちは同じ物を、30年も前に考え出していた」と主張する。そして、日本人がアメリカ製以上の品質のものを造り、輸出し始める。最後に中国人が日本製のものに似せた偽物を造る。
このジョークに登場するアメリカの役割を、日本が果たす日が近いことを期待しています。
金融派生商品時代の農業
原始共産社会の酪農は、「2頭の乳牛を持っている農民が、その牛を隣人と一緒に育て、ミルクは皆で平等に分け合っていた」解り易く単純な社会でした。ところが、アメリカの技術革新の矛先が物造りから金融工学に変ると、こんなジョークが生まれます。
「まず、『デリバテリブ』で2頭の乳牛を3頭にし、上場会社に売りつける。その後、『デッド・エクイテイ・スワップ』を使って、牛を4頭にして買い戻す。次に、政府に6頭分の牛取引の免税措置を講じて貰った上で、牛を『肉』と『ミルク』の二つに分け、6頭分のミルクを受け取る権利をケイマン諸島の系列企業に売りつける。勿論、買い戻す時には7頭分の権利になっている。最後に、全てのリスクはCDSでヘッジされている事をアナリストと格付け会社に伝え、年次報告に『8頭の乳牛を持っている』と記載し、更に『オプション』でもう1頭持つ事も出来ると追記する。」
世界金融危機を誘発したアメリカの悪しきイノベーションです。
日本の多様文化?
最近ニューヨークの書店の辞書売り場を訪れました。普通の辞書以外に、『外来語辞典』『新語辞典』『カタカナ語辞典』『カタカナ語・欧文略語辞典』『四字熟語辞典』『KY語辞典』等やたらと日本語に関する辞典の多い事に吃驚しました。中には『日本語オノマトペ辞典』と言う『難語辞典』を引いても解りそうもない辞典も見かけました。これは、日本の多様化なのか、日本語の混乱なのか迷った瞬間です。私の『外国ボケ』は終りそうもありません。
指導者への期待
危機は偉大な指導者を育てます。真面目で品行方正、ジョークになりにくいオバマ大統領の就任を迎える今年は、「世界を基本に戻し、危機に喘ぐ多くの人々に感動と勇気を与える政策」を期待したいものです。
四川省の大地震、北京オリンピック、世界的経済危機、デトロイトの崩壊、米国史上初めての黒人大統領誕生、4人の日本人が相次いでノーベル賞受賞、偽装食品の横行など昨年は文字通りの激動の年でした。今年こそ、豊かで平和な2009年を願いつつ、「世相比較学会」の年頭報告と致します。
ニューヨークにて 北村隆司
PS :
おおばともみつ『世界ビジネス・ジョーク集』、早坂隆『世界の日本人ジョーク集』、第一生命『サラリーマン川柳』、その他ウエブのジョークにお世話になりました。