私は、ずっと以前から周波数のオークションには一貫して反対しており、5月26日付の「良い競争 悪い競争」と題するブログの中でも、その理由を明記しています。但し、そのブログでも、また先回のブログでも、「オークションを一つの『オプション』と考えて、常に『周波数の価値』を金銭に換算してみることは意味がある」ということも申し上げています。


国(国民)が保有する「周波数という資産」は、ある意味で国有地と似ています。しかし、土地は概ね私有されており、国有地として残っているものはわずかであるのに対し、現在周波数を使っている企業や団体は、国からそれを借り受けているに過ぎず、所有しているものではないことは、法律上も明らかにされています。現在それを使っている企業や団体にも、少なくとも「地上権」に類似した権利はあるのだろうということは、納得できる議論ですが、「有効活用しないままに、ただ占有しているだけ」という状況であれば、地上権のようなものすらも成立しにくいでしょう。それ以上に、土地の場合は、誰かが仮に「全ての私有地を国有化する」という法案を起案して、これを国民投票にかけたとすれば、おそらく殆ど人が反対するでしょうが、周波数の場合には、そういうことにならないでしょう。


資産であるからには、金銭に換算できる価値があるのは当然であり、現実に、全ての土地については評価額が査定されていて、それに対して固定資産税が徴収されています。しかし、周波数についてはどうでしょうか? 便利な土地や不便な土地があり、それによって様々な評価額が査定されているように、周波数にも使いやすい周波数や使いにくい周波数がありますが、評価額というものは決められていません。また、仮に、固定資産税にあたるものが電波料だと考えると、驚くべきことに、世の中には固定資産税を払っている人と払っていない人がいるのです。


今一番高い固定資産税を払っているのは、金持ちとみなされている移動体通信事業者ですが、同じように金持ちと思われている放送事業者は、実はその三分の一しか払っていません。しかも、これもやっと昨年からであり、それまでは、それよりもはるかに安い金額しか払っていませんでした。また、移動体通信事業者が払っている固定資産税も、税率は、便利な土地(例えば一番使いやすいとされている800MHz帯)でも、不便な土地(例えばIMT-2000に割り当てられた2GHz帯)でも一律です。もし仮に、800MHz帯の周波数と2GHz帯の周波数が、同時に入札にかかったとしたら、当然のことながら800MHz 帯の方により高い金額の応札がなされたであろうことを考えると、現在の固定資産税の算出基準は、やはり少しおかしいと考えざるを得ません。


次に、土地の場合は、仮にそれが私有地であっても、当然都市計画や区画整理の対象になります。無駄に使われている土地や、衛生、安全、美観などの観点から問題となるような使われ方をしている土地は、区画整理の対象となり、最大多数の最大幸福に資するような「合理的な使われ方」への転換が促されていくことになります。これは電波の場合も同様だと思いますし、全てが国有地で、私有地が一つもない電波の場合は、このような転換ははるかに楽な筈です。


一部の土地が、国民の安全や公共の福祉の為に使われるようにキープされているように、電波の場合も同様の配慮がなされるべきは当然ですが、その規模には勿論一定の限度があるべきです。また、「ハコ物ばかり作ってみたが、中身がなくて閑古鳥が鳴いている」というような、これまでの公共事業の誤りを、電波の世界にも持ち込むことはあってはならないことです。基本は市場原理に委ねられるべきであり、少なくとも、固定資産税も払えないような計画には、土地は払い下げられるべきではありません。


では、固定資産税ともいうべき電波料は、どのように使われるべきなのでしょうか? 先ずは「経済規模に達しない為、商業ベースにのせることは出来ないが、国民の為にあるべきサービス」の為に使われるべきでしょう。典型的なのは過疎地の電話であり、TVでした。かつては「TVのない村には嫁は来ない」と言われ、NHKなどはこの為に大変な努力をしてきましたし、電話は全国民にとって生命線故、NTTも多くの経営資源をつぎ込んできました。しかし、時代は進み、今や「携帯電話のないところに嫁は来ない」時代であり、やがて「ブロードバンドのないところには嫁は来ない」ということになるでしょう。そうでなくても、日本が情報通信先進国であることを標榜する限りは、今や世界規模での課題になっている「デジタルデバイドの解消」と「ユビキュタスネットワークの確立」は、真っ先に完了せねばならないことです。


現在は最早NHKやNTTに何でも頼る時代ではなくなりました。業界ごとに蓄積された固定資産税(電波料)を利用して、業界ぐるみでこの課題に取り組むべきでしょう。最も多くの電波料を払っている移動体通信業界がこの先鞭をつけるべきであり、先ずは業界一丸となって、「どこでもつながる携帯電話の実現」をはかるべきです。この場合、勿論電話に対象を絞る必要はありません。現在の技術を駆使すれば、殆ど同じ程度のコストで、相当高速なデータ通信もサポート出来るからです。


過疎地における携帯電話網の拡充は、公正競争環境を確保する面でも重要です。全国の農村地帯や山林を俯瞰すると、先ず「ドコモでさえも敷設が困難なところ」と「ドコモのような規模のメリットを享受できる事業者ならぎりぎり採算ベースに乗るが、他の事業者では困難なところ」に大別されるでしょう。「他の事業者」も、KDDI、ソフトバンク、イーモバイルの3社に分かれ、それぞれ異なった問題を持っています。KDDIとソフトバンクの大きな違いは、第一に「システムの違い」(ソフトバンクはドコモと同じWCDMAシステムだが、KDDIはCDMA2000システム)、第二に「800MHz免許が使えるかどうか」です。


この第二の問題は、通常よく見落とされることなのですが、公正競争の観点から特に重要です。電波特性の違いから、2GHzで人口密度の小さい地域をカバーするネットワークをつくろうとすると、800MHzの場合と比べて4倍以上のコストがかかる為、800MHzを持っていないソフトバンクは、このような地域にサービスを供給するのがほぼ不可能になってしまうのです。
「それを覚悟して参入したのではないの? そういった地域は切り捨てても、ビジネスにはなるでしょう」と言われる人がいるかもしれませんが、都市部に住んでいる人でも、こういう場所に親族が住んでいる場合は、ソフトバンクは使ってくれませんから、このハンディキャップは相当大きいものです。
また、仮に「ドコモですら敷設が困難なところは、電波料を使って、みんなが相乗りできる基地局を作ろう」ということになっても、この周辺の「ドコモのような会社だけが何とかサービスできる地域」の問題をあらかじめ解決しておかないと、折角つくったこのような基地局も、ソフトバンクなどのユーザーにとっては、「離れ島状態で、結局使えないものになる」という問題が残ります。つまり「雪だるま効果」が真の公正競争を阻害してしまうのです。
解決策は簡単です。まずは「ドコモなどにしか経済性が確保できないような地域」については、「他社の端末のローミング」を「義務化」することです。「外国の通信事業者の顧客にはローミングを許しているのに、国内の競争相手の顧客には許さない」というのは、如何にも片手落ちで、公正競争を意図的に阻害しているという批判を受けかねないでしょうから、ドコモさんも特に反対はされないものと信じています。(ローミング収入もきちんと取れるのですから...。)


さて、話が携帯電話に深入りしてしまいましたが、次に「ブロードバンドとデジタル放送の全国カバレッジの問題」を考えてみようと思います。


ここで考えなければならないのが「放送と通信の融合」ということです。
今焦眉の問題となっている「デジタル放送の全国カバレッジ」が仮に実現できたにしても、その後にはすぐに「ブロードバンドの全国カバレッジ(デジタルデバイドの完全解消)」という課題が控えているからです。
こうなると、「それなら、はじめから一気にブロードバンドの全国カバレッジをやってしまってはどうか?」という考えも、当然出てきてもおかしくはありません。双方向性のない「放送」では、「ブロードバンド」の全てのニーズには応えられませんが、一旦「ブロードバンド」が実現してしまえば、「放送」はその中に包含されることも可能だからです。(現実に、難視聴地域では、地上波TVの視聴者はケーブルTV経由でサービスを受けています。)


次に、一方向サービスの場合は、「衛星か地上波か」という問題も浮上してきます。
過疎地や離島、山岳地帯などを完全にカバーしようとすれば、どうしても衛星に頼らざるを得ないところが出てきますが、そうなると、衛星からの電波は嫌でも日本中を自動的にカバーしてしまっているのですから、地上波で何とかカバーできる地域についても、それを使わない手はないということになります。
「個々の地域について、地上波の方が本当に安くつくのか?」ということを、今一度考えてみる必要もあるでしょう。衛星コストをゼロと考えれば、受信アンテナが少々高くついても、「トータルでは衛星の方が安くつく」ということも十分あり得るからです。
衛星放送で全地域をカバーしようとすれば、常に「ギャップフィラー」の設置を考えなければなりませんが、ここで言っているのは、地上波で受信が難しいところを一部衛星でカバーするという「逆ギャップフィラー」の発想も検討すべきだということです。


このような考えを多角的に追求していこうとすれば、当然、国の関与が必要となります。
先ず、完全な全国カバーを実現しようとすれば、それに必要な資金は相当規模に上る為、全てを税金でまかなうという訳にはいかないとしても、最低限、様々な税制措置や資金面で、国レベルの支援措置を動員することが必要だからです。
次に、経済合理性をギリギリまで追求した最適システムを構築するには、多くの異なった技術を組み合わせることが必要であり、この為には、中立的な観点からのグランドデザイン作りを、国が主導するべきと思われる故です。
少なくとも、そのようなグランドデザイン作りを開始するタイミングが、今や目前に迫ってきていることは間違いないと思います。