2005年03月31日

世界で一番パパが好き!

5c27086a.jpg第48回

★★★☆(劇場)

 エイミー・マンの歌は、どうしてこうも寂しさを誘うのだろう?

 映画「マグノリア」(2000・アメリカ)で登場人物たちが交互にエイミー・マンの「ワイズ・アップ」を歌うシーンがある。その時、それぞれの人物は一人で何かをしている。その姿が寂しさを誘い、その後「セイブ・ミー」がバックに流れるシーンでもなぜか寂しさが漂っていた。

 それは彼女の泣き声にも似たボーカルのせいだ。

 彼女はティル・チューズデイというバンドのボーカルとしてメジャーデビュー。そのデビュー曲「愛のVOICES」のビデオクリップは劇場の客席で泣きながら歌うというものだった。「泣き」は彼女の代名詞でもあり、人の悲しみを語ることでそれを癒そうとするシンガーソングライターなので、決して明るいタイプではない。しかし歌詞が聞き取れなくとも、不思議と彼女の歌う人の悲しみは心の奥に響いてくるのだ。

 この映画でも「泣き」のシーンがある。ベン・アフレック扮するオリーが妻(ジェニファー・ロペス)の死を悲しみ、一人で流離っている場面だが、そのバックにエイミー・マンの「ザッツ・ハウ・アイ・ニュー・ディス・ストーリー・ウッド・ブレイク・マイ・ハート」が流れる。

 オリーは娘の出産と同時に妻を失う。「突然の死」は「待ち構える死」と別の意味で喪失感がある。予期しないぶんだけ現実感が薄いのだ。

 例えば昨年の大ヒット作「世界の中心で愛をさけぶ」のようにじわりじわりと忍び寄る病魔による死は、残されたものに「死の悲しみ」を抱かせる。それは本当にいなくなったことに対する、心に穴が開いたような感覚。しかし「突然の死」はいつまでも現実味を帯びず、何かがなくなったような感覚が付きまとう。

 それは遺体を確認しても、葬式を行ってもなかなか実感できず、墓参りを繰り返しては何とか自分に言い聞かせようとするのだ。

 オリーは妻を失ったと同時に仕事も失う。それはどこかで「娘の誕生」を責める、という論理に行き着き、映画の終盤でそのストレスが表面化する。失ったものを取り戻す、この場合、妻はこの世にいないので「仕事」ということのなるのだが、その行為によって全てが元に戻ると錯覚しているのだ。

 ここでキーパーソンとなるのがウィル・スミス(カメオ出演)。「バガー・ヴァンスの伝説」(2000・アメリカ)でも天使を思わせる役を演じていたが、ここでもオリーの人生を導く守護天使のような役割をしている。

 オリーはウィル・スミスの記者会見の失敗がきっかけで職を失いニューヨークを離れる。オリーはそのことを根に持ち、娘に「メン・イン・ブラック」のビデオさえ見せようとしない。

 しかし映画全体を見渡して考えると、ウィル・スミスが現場に現れなかったおかげでニュージャージーでの生活が始まり、娘のことが生活の中心となってくる。それでもオリーはニューヨークでの生活を諦めきれないのだが、再びチャンスを掴んだ時、劇的にオリーはウィル・スミスと対面する。ウィル・スミスは世間話の中で何気なく家族の大切さを語り、オリーはニューヨークでの生活を諦め、家族の元で暮らそうと決意するのだ。

 全ては守護天使としてのウィル・スミスが挫折しかけたオリーの人生を修復し、軌道修正させていることがよくわかる。

 とはいってもこれはケビン・スミスの映画だ。人生を語るほどの重いテーマは持ち合わせていない。しかし彼が「ドグマ」(1999・アメリカ)で宗教界に噛み付いたように、彼独自の宗教観が現れている気はする。善しも悪しきも人のなすべき業だと。

 相変わらず映画の隅々にコミックや映画、音楽に対する愛が詰め込まれ、ストーリー上ほとんど関係ない少しカルトな会話が交わされる。ケビン・スミスの脚本の醍醐味はその会話にあるといって過言ではない。オリーとウィル・スミスの会話はその真骨頂といえる。

 しかしこれまでの作品に見られるようなお遊びはほとんど見られず、これまで常連であったジェイとサイレント・ボブも登場しない。ケビン・スミスはインタビューでも「一番パーソナルな作品」と言っている。イカレた人間達を描いてきたケビン・スミスによる初めてのまともな作品、であるから、コアなケビン・スミスファンには物足りないかもしれない。

 撮影当時恋人同士であったベン・アフレックとジェニファー・ロペスの共演ばかりが表立たされているが、映画を見るとさほど気にならない。それよりもリヴ・タイラーとの共演が「アルマゲドン」を起想させてしまうくらいだ。何よりも娘役のラクエル・カストロの巧さに舌を巻く。やはり子供と動物は俳優にとって強敵である。

 原題は「Jersey Girl」つまり「ニュージャージーの女の子」。これはボスことブルース・スプリングスティーンの同名曲からの引用である。

 主人公は娘と恋人となるマヤ(リヴ・タイラー)との生活を決意することによって人生を取り戻す。それは仕事を取り戻すことでもなく、妻を想い続けることでもない、今の生活だって全然悪くないのだと悟るのだ。

 オリーの父(ジョージ・カーリン)はラストでこう呟く。

「ひとりぼっちで死にたくないんだ」

 自分を疎ましいと思い込んでいたオリーとって、父の言葉は自分自身を戒めるものでもあった。父もまた妻を早くに亡くしていたからだ。

 ボスも「ジャージー・ガール」でこう歌っている。

「俺の夢がすべて叶う、お前と一緒に町を歩けば」

 幸せは意外と自分のすぐそばにころがっている、しかし人はそれになかなか気付かないものなのだ。


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この記事へのコメント
「世界で一番パパが好き!」見てきました。
わかりきったストーリーだけど、不覚にも泣かせます。
たまにはこんな作品もよかった。
Posted by 青い鳥 at 2005年04月12日 19:34
青い鳥さま

コメントありがとうございます。
ラジー賞云々を言っているレビューが多いですが、あまりそんなこと気にせずに見れば、それなりにいい映画です。
優しい意見、感謝いたします。
Posted by まつさん at 2005年04月16日 01:40
ちょっと懐かしめの記事へのトラバ、感謝です。
先日はご迷惑をおかけして申し訳ありません。(T_T)
まつさんの『どうせ見るなら楽しく。愛をもって映画を語ります。』とおっしゃるスローガン、まったく同感です。
これからもよろしくお願いいたします。
m(_"_)m
Posted by よろ川長TOM at 2005年05月02日 14:37