第125回★★★☆(劇場)
【総評】
乙一。
「おついち」と読む。
「ZOO」は彼の同名短編集をオムニバスとして映画化した作品だ。
芥川賞を綿矢りさ、金原ひとみが最年少で受賞以来、昨今の文学新人賞受賞者の低年齢化には歯止めがない。「あなたへ」で今年の小学館文庫小説大賞を受賞した河崎愛美は、なんと15歳だ。
現在26歳の乙一はその先駆けともいえ、17歳のときに「夏と花火と私の死体」(集英社刊)でジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞してデビューしている。
その卓越した筆致は、とても高校生が書いたものとは思えず、選考委員の間では今や伝説ともなっている。
人を食ったようなペンネームは、そのまま彼の作品にも反映されており、その内容は一筋縄ではいかないものばかり。
いわゆる「叙述トリック」を得意としており、読者を翻弄し混乱させながら、あっと驚くラストを毎回用意している。
例えば「兄弟だと思っていたら双子だった」とか「犯人が主人公だった」とか「主人公が犬だった」といった読者の想像力や固定観念を逆手に取ったトリックは毎回見事。特に「乙一」人気のきっかけとなった「GOTH」(角川書店刊)はその最高傑作といえる。
主人公の目的は事件を解決するのではなく、犯行現場を目撃し、事件の証拠を収集することにある。しかし結果的に事件が解決してしまうラストに、読者は見事に「騙される」のだ。
だが「ミステリー」や「ホラー」といった多くの人に訴求しにくいジャンルを手掛けながらも人気があるのは、彼の作品に或る「特徴」があるからだ。
それは「切なさ」である。
彼の描く登場人物は「孤独」で「孤立」している。それは「いじめ」、「虐待」、「不登校」、「不遇な家庭環境」などによってだ。
物語は常に「殺人」等を引き金に悲惨で凄惨な展開になるのだが、なぜかラストには救われるような「やさしい」印象がある。それは乙一の「弱い」人間に対する「温かい眼差し」があるからに他ならない。
乙一自身が、かつて友人も無く、クラスに居ても居なくていいような人間だったという経験から、世間で言う「ダメ人間」に対する「愛」があるのだ。
「ダメでもいいじゃん」
彼の作品は常にそう言ってくれている気がするのだ。
「ZOO」は、ウェブ公開となった「手を握る泥棒の物語」(2004)に続く初の映画化作品。原作が小説ならではのトリックを使った作品だけに、映像化が困難であったことがよく伺える。
つまり「小説」の場合、初めの展開では状況が全く掴めないのだが、読んでゆくうちにだんだんとその全貌がわかるという構成になっている。
ところが「映画」は視覚的に全てを見せてしまっているので、その醍醐味が味わえないのだ。そこが今回映像化した全部のエピソードにおいて難だといえる。
また、短編集の映画化ということでオムニバス形式にしたのは理解できるが、エピソードによっては単なるダイジェストになってしまっている作品もある。短編だからといって30分以内にまとまるとは限らない。それは原作のページ数と脚本のページ数を比較すればわかることなのだが・・・そこが残念で仕方がない。
ちなみに、乙一作品は「あとがき」が面白い。どこまで本当なのか、真面目なのかわからない内容は「乙一」の名前にふさわしい。彼の「ホラ日記」を書籍化した「小生物語」(幻冬社刊)も個人的にはお勧めである。
以下、各エピソードをレビュー。
■「カザリとヨーコ」 ★★★
カザリとヨーコ(小林涼子・2役)は双子だが、何故かヨーコだけが虐待されていた・・・
監督:金田龍
出演:小林涼子 松田美由紀 吉行和子
カザリとヨーコは瓜二つ。このことが活きてくるラストは見事。
しかし、ヨーコの独白によって物語が説明されてしまい、ストーリー展開に起伏がないのが難。これは各エピソードの時間制限があるために、全てを台詞で説明してしまっているのだ。そのせいで虐待する母親(松田美由紀)や、心の腐ったカザリの心理描写がうわべでしか描けていないのだ。
非情にも試練は次々とヨーコに襲いかかる。ここは「乙一ワールド」の真骨頂だ。
酷い物語だが、力強く生きてゆくラストには感動すら覚える。ただその度合いが原作を読んだときほどではないのは残念だった。
■「SEVEN ROOMS」 ★★★
ある日突然、僕(須賀健太)と姉(市川由衣)は何者かに監禁される・・・
監督:安達正軌
出演:市川由衣 須賀健太 佐藤仁美
初めて原作を読んだ時、これを映画にしたら凄い作品になると思った。
とんでもなく「暗く」、「残酷」で「陰惨」な物語なのに、何故かラストで感動できるという内容だったからだ。
だが同時に残酷描写が多いため、ホラー映画という視点で製作しないと全てを表現しきれないのが難だとも思った。いや、ホラー的な残酷描写があってこそ、その対比によってラストが感動できる作品なのだ。
だが今回の映像化において、残酷な表現が抑えられている。そのため「究極」の状況作りがなされていないのだ。
また、ダイジェストのような作りになっているのもいけない。
「謎」があっというまに解明され、話の展開が粗くなっているのだ。
この作品の面白い点は、自分達が監禁されている状況の全体像が、徐々に明らかになってゆく過程にある。「部屋数の謎」、「部屋を繋ぐ溝の謎」、これらが解けた時の快感が、この映画版には皆無なのだ。
緻密に練り上げられた設定によって展開する物語構成の素晴らしさは、一度原作でご確認いただきたい。
ぜひ長編での再映画化を切望するエピソードである。
■「SO‐far そ・ふぁー」 ★★★★
僕(神木隆之介)の父(杉本哲太)と母(鈴木杏樹)はお互いが「見えなく」なった・・・
監督:小宮雅哲
出演:神木隆之介 杉本哲太 鈴木杏樹
これほど「何も言えない」作品はない。
交通事故をきっかけに、父には母が見えなくなり、母には父が見えなくなる。ところが主人公の「僕」だけには両方が見える。そこで「僕」はメッセンジャーとして「二人の」橋渡しをすることとなる。
お互いに「見えない」夫婦は「離婚」家庭の比喩とも思える。その間で揺れる「僕」の姿は「父」と「母」どちらと一緒に暮らすのかを迫られる離婚家庭の子供のように見えてくる。
ところが、これらの展開は完全にラストの種明かしで裏切られることとなる。
それでもラストで微笑む「僕」のまなざしに、観客は不思議と心温まるのだ。
■「陽だまりの詩」 ★★☆
少女は人造人間として生まれる、「ある使命」を果たすために・・・
監督・演出:水崎淳平
キャラクターデザイン・脚本・絵コンテ:古屋兎丸
エピソード中、唯一のアニメ作品。
「自殺サークル」(2003)の原作漫画を手掛けるなど、映像とのコラボレーションにも積極的な「π」の漫画家、古屋兎丸がアニメに参加した点を高く評価できる。
モーションキャプチャーによる作画は、古屋の描く6頭身美少女に良く似合い、滑らかな動きを可能にさせた。
ラストで明かされる、乙一作品特有の「さみしさ」や「切なさ」は「ZOO」内では随一。それは人造人間であるがために、自分の「死」を計算できる少女の「切なさ」ではない。
人類の永遠のテーマである「永遠の命」とは何かを問いかけるとともに、その「せつなさ」をもSFとして語る「乙一ワールド」は見事。
ただ、アニメにする必要性が感じられなかったのは難。
■「ZOO」 ★☆
男(村上淳)は発作的に女(浜崎茜)を殺し、腐敗死体の写真を撮り続ける・・・
監督:安藤尋
出演:村上淳 浜崎茜
監督の安藤尋は映像に懲りすぎてストーリーを展開させることを忘れてしまっているかのように、全く意味がわからない作品になってしまっている。
実は原作「ZOO」の中でも一番わかりにくく、大したどんでん返しもないエピソードなのだ。タイトルとなる作品だけにエピソードに加えなければならなかったのは理解できるが、これは安藤監督が貧乏くじを引いてしまったとしか言いようがない。
ただ、夢か現実か区別がつかなくなるという部分においては、演出の力量不足の感は否めない。映像として見せるだけではなく、ストーリーとして物語を紡がなければならない。
それはもちろん「台詞」によってではない。映像の積み重ねによる「モンタージュ」の基本を忘れてしまっているのだ。
「blue」(2003)を撮った同じ監督による作品だと思えないほど「何も語れていない」作品になってしまい、作品の出来は内容以上に「悲惨」な結果となってしまった。
【結果】
☆金メダル:神木隆之介のまなざし
☆銀メダル:古屋兎丸のアニメ制作参加
☆銅メダル: パックンことパトリック・ハーランの悪役
やはり「叙述トリック」を使った小説の映画化は難しいという好例的作品。