2005年09月23日

魁!!クロマティ高校 THE★MOVIE

僕たち誰〜だ?第219回

★★★(劇場)

「ピンチはチャンス」

 これは我が友人が、人にアドバイスするときによく使っている言葉だ。ピンチが訪れたことを「好機」と捉えることで、新たな切り開きのきっかけと成す。

 物事の本質は、当人の考え方によって多角的に捉えることができるということだ。

 しかし、それは捉えることができるというだけで「本質」は「本質」であるから変わるものではない。

 ならば多角的な捉え方が出来ても、それは全てが正しいということではなく、「間違い」を「正しい」と思い込んでいるともとれる。逆に「正しいこと」が「間違い」可能性があるならば、「チャンスはピンチ」と成り得えるかもしれない・・・。

 この映画の原作漫画「魁!!クロマティ高校」(以下「クロマティ高校」と表記)の魅力は、このような「意味」がありそうで「ゴタク」を並べているだけの哲学的台詞にある。

 一応主人公と思われる(この漫画はシュールなエピソードの連続なので、実質的な主人公はいない)神山(須賀貴匡)は、個性的なキャラクター達の中で一見まともに見える。

 ところがこの男の頭の中では、常に「勝手に」ピンチを作り出している。悩まなくて良いことを大問題にし、悩むべきことに気付かない大ボケぶりを発揮し、「笑い」を喚起する。

 この「勝手にピンチを作る」人間はデフォルメされているように思えるが、現実の社会にも存在する。貴方の周囲にも、慌てなくてもいいことにオドオドしたり、突かなくても良いような小さなミスを指摘して大問題にする人間がいるのではないだろうか?

「クロマティ高校」の面白さは「ありえない」キャラクター達が、実は「近所の変人さん」である点にある。

 人はどこか「おかしな」側面を持ち合わせている。もちろんその基準は人それぞれであるけれども、誰もが自分が「変」だとは思っていないところがミソ。その「おかしさ」をデフォルメしただけで、身の回りの人間に似通っているからこそ、このシュールでバカバカしい漫画に共感するのだ。

 男前の神山が頭の中ではとんでもないことを考えている反面、単なるヤンキーの前田(山本浩司)が冷静に「場」を分析して常識的なコメントを発していることに気付くだろう。

「品行方正な黒髪の詰襟男」=「神山」と「自堕落な金髪学ラン男」=「前田」。

 この判りやすい描写からは「外見」は当てにならないことの痛烈批判が伺える。

 この「批判精神」が「まやかし」でないこと、そして「共感」を得ていることは、原作漫画13巻までの売り上げが450万部に達し、数ある漫画の中から講談社漫画賞(2002年)を受賞していることが証明している。

 映画版を見ても判るように、この漫画には多くのパロディが存在する。

 中でも登場人物はそのオンパレード。メカ沢新一(中沢新一)、フレディ(フィレディ・マーキュリー)、豪ヒロミ(郷ひろみ)、竹之内豊(竹野内豊)、石川淳(いしかわじゅん)、藤本貴一(藤本義一)などなど。

 さらにクロマティ四天王(なのに5人)はどう見てもKISSだし、マスク・ド・竹之内はミルマス・カラスかデストロイヤー。高校名は「デストラーデ」、「バース」、「マニエル」と外国人野球選手の名前をもじっているのは明白。

 それが仇となってウォーレン・クロマティに公開中止の訴訟を起されたのは周知の通り。

 しかしその「ピンチ」がこの低予算映画の「チャンス」になったのは誤算だったはずだ。

 監督の山口雄大は「地獄甲子園」(2003)で名を馳せた人物だが、はっきりいって映像センスはない。どこかインディペンデント映画の域を出ない荒さがある。だが、その「荒さ」が荒唐無稽な作品の場合に、怒涛の威力を発揮する。

 恐らく「感動のドラマ」は撮れないだろうけれども、「バカ」をクソ真面目に描くことでは他の追随を許さない個性がある。絵ずらからすると「地獄甲子園」も「クロマティ高校」も大差ない。同じ映画に見えるくらいだ。

 しかし映像を見れば、これが山口雄大監督によるものだと判るくらいの「個性」があるのだ。

「地獄甲子園」もまた映像化不可能といわれた漫画であったように、「クロマティ高校」も映像化不可能と思われていた漫画だっただけにその快挙は称えたい。

 だが、それは俳優陣の怪演によるところも大きいのも事実。原作そっくりなキャラクターもいれば、全く違うキャラクターもいる。しかし「バカ」を大真面目にやっていることで、そんなことはあまり気にならなくなる。

 特筆すべきは渡辺裕之のフレディと板尾創路のマスク・ド・竹之内。彼らのトボケぶりは最高で、「笑い」さえ起こらないがインパクトは大きい。

 残念なのはこの「笑い」を引き起こせていない点だ。

 これは漫画独特の「間」に起因する。

「クロマティ高校」が深夜帯にテレビアニメ化された時も言われたことだが、「間」を再現することは難しい。なぜなら「間」はコマとコマを読む読者の感覚に委ねられているからだ。

 原作の「クロマティ高校」においてこの「間」こそが「笑い」を引き起こす要因となっているため、その「間」のタイミングが観客とシンクロしないと「笑えない」のだ。

 視覚的におかしいことをしているとか、面白いことを言って笑わせるというパターンの作品でないのが致命的になっている。

 だが怒涛の短いエピソードをつなぎ合わせ、85分という短い上映時間が味方して、さほど退屈するほどではない。むしろバカバカしさが日頃の疲れを「なごませてくれる」くらいだ。

 往年の特撮ファンにとって感涙モノなのは敵役として「宇宙猿人ゴリ」が登場することだろう。

 もちろんこれは映画のオリジナル設定。宇宙から地球に攻めてくる「猿」という設定はもちろん当時大ヒットした「猿の惑星」(1968)によるもの。この「宇宙猿人ゴリ」は「スペクトルマン」といった方が判りやすいかもしれない。

 実は「宇宙猿人ゴリ」はスペクトルマンの敵役であるゴリをタイトルにしたもので、そこには原作者うしおそうじのこだわりがあった。それは「侵略者」の視点でヒーローを描くというものだった。

 ところが視聴者からのクレームが絶えず、放送から半年後「宇宙猿人ゴリ対スペクトルマン」にタイトルが変更され、さらに4ヵ月後「スペクトルマン」に変更されたといういわくつきの作品なのだ。

 ストーリーが2話完結というスタイルも、当時の1話完結の特撮ヒーロー物とは一線を介していた。

 今回ゴリの吹き替えを当時と同じ小林清志が担当しているのは嬉しい限り。「マグマ大使」や「怪傑ライオン丸」「電人ザボーガー」などを手掛けたビープロを設立したうしおそうじは、東宝の特撮部で円谷英二と同僚だった経歴を持つ変り種の漫画家だった。

 うしおそうじは、残念ながら33年ぶりのゴリの勇姿をみることなく昨年亡くなった。現在の人気漫画に「侵略」する姿を見たらさぞ喜んだことだろうと思いつつ、リスペクト。



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この記事へのコメント
こんばんは。「ピンチはチャンス」私も良く使います(^^;
なんか、おまじないのような感じになってきてますが、
気持ちだけでも前向きにならんと、乗り切れないんですよ。色々と…

Posted by カヌ at 2005年09月24日 00:32
私は科学者 宇宙猿人ゴリなのだぁ〜

笑いました。
まさか『クロ高』が実写化されるなんて流石21世紀ですね。←意味不明
そして、ゴリとラーがスクリーンで観れるなんて!!
これだけでもう十分です。

本編では愛くるしいフレディと「まるで作ったかのようなメカ沢」が気に入ってしまいました。
武田真治の新しい使い方ですね。
Posted by 健太郎 at 2005年12月21日 00:34
 ども、たましょくです♪

 ちょっとだけ気になっていたので、借りてみたのですが…
んーちょっと世代的なモノもあって、元ネタになっているモ
ノがわからなかったりして…

 軽いノリは、嫌いじゃないのですが…あまりにも「何も無
い」よーに感じてしまって…。ま、何かを求めるような作品
ではないと思うんですがね。
Posted by たましょく at 2006年03月09日 22:09