2005年10月29日

青空のゆくえ 【B面】

好きと言えなくて・・・第255回

【B面】

★★★★☆(劇場)

(核心に触れる文面あるので、ご注意あそばせ)

 青春映画は数あれど、中学生が主人公の作品は意外と少ない。

 それは英語で「Sweet sixteen」と呼ばれるように「16歳」という節目の年を迎える「高校生」を描くことがどうしても多くなるからだ。アメリカでは運転免許が取得できる年齢だし、女性に至っては(保護者の同意があれば)結婚さえ可能なのだ。

 だが、これは洋画に限ったことではない。日本で昨年大ヒットした「世界の中心で、愛をさけぶ」(2005)、「スウィングガールス」(2005)、「いま、会いにゆきます」(2005)という3本の映画は揃って高校生時代が舞台となることもそれを裏付けている。

「青空のゆくえ」は撮影時に16歳前後であった将来が期待される若手俳優を集めながら、あえて「中学生」を描いた作品だ。

 中学生は高校生に比べるとまだ子供で、高校生が「大人と少年少女」の間なら、中学生は「少年少女とガキ」の間といった感じがある。H2Oの「想い出がいっぱい」風に言うと「大人の階段を登始める頃」だ。

 最近では「性の低年齢化」などで「擦れた」中学生が世間でもてはやされているが、ここに登場するのは爽やかなまでに「純情」な少年少女たちだ。

 好きな相手に素直になれず、心と裏腹な発言をしてしまう。そんな誰しも経験があるような「普通」の日常が、「転校」という事件によって転がり始める。

 主人公の高橋(中山卓也)は、転校までに「やり残したこと」があるという。周囲はそれを「恋の告白」と思い込み、彼に仄かな恋心を抱いていた少女たちは「恋」を成就させるか見守るかに悩み、友情にヒビが入る。

 ところが高橋の「やり残したこと」は「告白」ではない。そこがとてもいいのだ。では、一体何なのか?

 実はその「やり残した」ことによって主人公のモテぶりが嫌味でなくなっているのがミソ。個性の違う5人の少女に想われるに異論のない爽やか振りで、優しく、当たり障りなく女心を掴む。

 引きこもりの友人のエピソードを絡ませることで、少女たちにいい顔をする八方美人な主人公の誠意が観客に伝わるのがまたいい。さらに脇役たちも純愛を徹底させることで「純」な爽やかさを感じさせている。

 ひとつ間違えれば「ドロドロの恋愛劇」になりかねない物語に、エロが全く介在しないことで美しい物語に変換されているのは見事。おかげで中学特有の「むさくるしさ」さえも皆無なのだ。

 監督の長澤雅彦はプロデューサー出身で、岩井俊二の「Love Letter」(1995)や「PicNic」(1996)を手掛けたことで一躍注目され、最相葉月の「なんといふ空」に収録されているたった2ページのエッセイに触発されて作られた「ココニイルコト」(2001)で監督デビューを果たした人物だ。

 その後、メジャー系で韓流の先駆けともなった日韓合作「ソウル」(2001)や「13階段」(2003)を手掛けるも、いまいち彼らしさが出ない凡作になってしまっていた。

 どちらかというと「ココニイルコト」や「卒業」(2002)のようなマイナー系作品のほうで実力が発揮される傾向にあり、この「青空のゆくえ」はその「良さ」が引き出せているといえる。

 残念ながら「映像」センスが感じられないのは相変わらず(「ソウル」での平面的な映像を要参照)で、それがこの映画の唯一の欠点かもしれない。

 注目すべきは編集の掛須秀一。彼は元々OVA(オリジナルビデオアニメ)界で活躍した人物で、OVAの黎明期には「バース」(1984)、「幻夢戦記レダ」(1985)というヒット作を手掛け、手塚治虫の実験アニメの傑作「おんぼろフィルム」(1985)やライオンブックスシリーズに参加。

 その後、「機動警察パトレイバー2 the Movie」(1993)で押井守と組んだことから、世界的ヒットとなった「GHOST IN THE SHELL 功殻機動隊」(1993)や「人狼 JIN−ROH」(1999)を手掛けることとなった。

 またWOWOWの「J・MOVIE・WARS」には初期から積極的に参加し、その殆どの作品の編集を手掛け、「VERSUS ヴァーサス」(2000)等の北村龍平監督初期作品など実験的な作品への意気込みも高い編集マンなのだ。このような「何でも屋」をこなした結果、カンヌ映画祭でカメラドール新人賞を獲得した「萌の朱雀」(1997)や「独立少年合唱団」(2000)などの名作に携わることになる。

 さらに協会の波紋を呼んだ「ノンリニア編集」を日本で初めて取り入れたのも掛須秀一で、フィルムを切り貼りする編集に革新を唱えた人物なのだ。

 最近では「NANA」(2005)や「あずみ2 Death or Love」(2005)を手掛けており、日本を代表する編集マンなのでその名前には要注目。本作においても職人的編集を見せている。

 これが本格デビューとは思えないくらい魅力的な主人公を演じた中山卓也や、父親譲りの驚異的な「空気」のような自然な演技を見せる橋爪遼はもちろん、5人の少女たちはすこぶる魅力的。

 深夜番組で「美少女クラブ31」の中心人物として活躍する森田彩華、深夜ドラマ「ケータイ刑事 銭形泪」や「問題のない私たち」(2003)でのダークな魅力が垣間見れる黒川芽以、「HINOKIO」(2005)での「おとこおんな」が印象的だった多部未華子、その「おとこおんな」を今回演じる悠城早矢、現在「花より男子」にも出演中の西原亜希。

 この5人の「ピュア」な魅力がこの映画を支えているといって過言ではない。

 青空の下、それまでほぼ他人同士だった5人が集結するラストは中学時代への「郷愁」さえ忘れさせる「未来」を感じさせる。

 唯一のラブシーンともいえる、体と体がぶつかり合う夜のバスケ場面。その葛藤に「恋」が絡んでいると観客が気付いているからこそ「切なく」、胸を熱くさせる。

 他方で、この映画において「誰が誰に恋をすること」よりも、「叶わない」ことが重要に思える。

 それは現実として「初恋」は「初」でしかなく、「想い」が「思い出」として、彼女たちにとって確実に「過去のもの」となるからにほかならない。


※ 「青空のゆくえ」【A面】 も是非ご参照下さい。



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