2005年12月10日

ホワイト・ライズ

どこまで好きな相手を信じられますか?第297回

★★★★(TV)

「ホワイト・ライズ」
監督:ポール・マクギガン
出演:ジョシュ・ハートネット ダイアン・クルーガー
(2004年作品・アメリカ)

 結婚を控えたマシュー(ジョシュ・ハートネット)はレストランでかつての恋人リサ(ダイアン・クルーガー)を目撃する。リサを忘れられないマシューは彼女の跡をつけアパートを見つけるが、そこに住んでいたのは同じリサ(ローズ・バーン)という名の別の女性だった・・・。

(核心に触れる文面あるので、ご注意あそばせ)

「嘘」は人間がいる限り無くならない。

 自分自身が嘘をつかなければ、自然と正直な人柄が「類は友を」呼ぶものだ。

 しかし、正直であろうとすればするほど、周囲にはズルをする人間がたむろしはじめる。その「優しさ」に付け込む輩に利用されてしまうと、正直な行動は時として「嘘」に利用されてしまうのだ。

「ホワイト・ライズ」の登場人物は「嘘」ばかりついている。しかし人間関係が成り立っている以上、それは当然「嘘」として認識されていない。

 ところがマシューがリサを見かけたことをきっかけに様々な「嘘」が発覚し、「嘘」をついたものはそれを隠そうとして「嘘」の上に「嘘」を塗りたくっていくのだ。「嘘」で塗りつぶされた「真相」は覆い隠されながらも小さな悲鳴を上げ、物語を意外な方向へと導いてゆくのだ。

 二人の友人が同じ事項に対して異なる発言をしたとき、どちらかの言葉が「嘘」だとすれば、あなたならどちらの「言葉」を選ぶだろう?

 もちろん場合によりけりではあるけれども、その場における「言葉」ではなく、それまでの「言葉」を思い出して、「信じたい」と思う方を選ぶべきだ。「信じる」こともまた「嘘をつかない」ことと同じ要因を持ち、自分に誠実でいられる。そうすれば「真実」にたどり着いて、結果「嘘」を見抜けるはずなのだ。

 ストーカー行為に近い恋愛劇は「嘘」によって自分を正当化する。よって観客は登場人物たちの「嘘」を見抜ける立場にいる。しかし騙されてはいけない。監督もまた嘘を見抜ける立場にいる観客を巧妙に欺こうとしているのだ。ここでも「信じたい」と思うことを信じることが、この映画の「恋愛劇」を楽しむことに繋がる。

 この作品がアメリカ映画らしからぬ雰囲気を持っているのは、ロマーヌ・ボーランジェ主演の「アパートメント」(1996)というフランス映画のリメイクだからだ。しかも監督はイギリス出身で「ギャングスター・ナンバー1」(2000)のポール・マクギガンなのだから当然なのかもしれない。

 キャスティングにおいてもローズ・バーン演じる「リサ」はロマーヌ・ボランジェとよく似ているし、ダイアン・クルーガーの美貌(凡作「ミシェル・ヴァイヨン」(2003)での美しさは格別)は十分「アパートメント」でのモニカ・ベルッチに対抗できる(ジョシュ・ハートネットの役に当たるヴァンサン・カッセルはどちらかというと本作の友人役であるマシュー・リラード似であるのは気になるところだが)。

「ホワイト・ライズ」は「アパートメント」でのミステリアスな展開と比べるとかなり前半が平坦な印象を与えるが、後半はかなり面白くなってくる。それは時系列を解体した「アパートメント」とは異なる構成になっているからだ。

 物語は恋愛劇としてよりも「真相」が明らかになってゆく「謎解き」に重きを置いている。フラッシュバックによって前半の「意味のなさそうな場面」に意味を持たせているのだが、これは観客が「騙されている」ことを意味する。つまり「嘘」は登場人物同士だけでなく観客に対しても行っているわけだ。それが正攻法であるから文句も言えない。

 このような構成は脚本をいじることにある。物語に直線の時間軸を持たせながら、その所々を分断させて後半に配置することで、「謎」でなかったことに「謎」と「答え」という意味づけをして、最後に全貌がわかるような構成にしているのだ。

 もし時間軸度通りに物語が進行していたら、この作品はさほど劇的ではない。ある意味「あざとい」物語構成をすることで、観客は自分が誰かに騙されたと気付いたときと同じような「はっ」とした感覚を味わえるように演出されているのだ。

 またシェイクスピアの「リア王」の台詞が印象的に引用され、「本心」を語らせているのは興味深い。特に映画後半で舞台劇が登場し、「演技」=「ある意味の嘘」によって観客は根底にある「真意」を読み取れるよな工夫がなされている。

 さらに「めまい」(1958)を思わす瓜二つの女性の幻影という展開や、「見知らぬ乗客」(1951)における「鍵」を拾おうとする場面から、「ホワイト・ライズ」からはヒッチコックの影響を感じる。実はこれらの演出は「アパートメント」の演出を踏襲したものなのでオリジナリティに欠けるきらいはある。

 だが、ラストの展開は思いっきりハリウッド映画的に幕を閉じる点で異なる。そこで優れているのは、ハリウッド的ハッピーエンドがこの映画では美しく合理性を持たせている点だ。

 それまで「言葉」による「嘘」が雄弁であったにもかかわらず、ラストでは「言葉」に頼ることなく「無言」の再会が雄弁さを加速させるのだ。

 そこに寂しげに流れるコールドプレイの「Warning Sign」(アルバム「静寂の世界」に収録)、これは「CODE46」(2003)でもラストに切なく流れた曲で、この楽曲の効果は絶大。甘美さは至福へと導いてゆく。

 惜しむべきは「ホワイト・ライズ」という邦題。

「Wicker Park」という劇中に登場する公園の名前が原題なのだが、確かにこれではわかりにくい。しかし劇中の「嘘」は「真っ赤な嘘」に対する「真っ白な嘘」というには「悪意」がありすぎるのだ。

 この映画のポイントは「現代」が舞台であるのに携帯電話が登場しない点にある。

 すぐに相手にアクセスできない「すれ違い」は「めぐり逢い」(1957)や「君の名は」(1953〜54)など、これまで恋愛映画における常套手段だった。あえて文明の利器を登場させないことによって生まれた「すれ違い劇」は、それなりに相手を思う気持ちを高揚させることを再確認させてくれる。



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