2005年12月29日

ディック&ジェーン 復讐は最高!

ますますルパン三世っぽくなったジムも今年で43歳第316回

★★★★(劇場)

(核心に触れる文面あるので、ご注意あそばせ)

 マネーゲームはインターネットの発達によって家庭にまで侵入した。

 誰もが手軽に手頃に株取引が出来るようになり、今や猫も杓子も株・株・株。とはいうものの、デカイ儲けは夢のまた夢。「株でこれだけ儲けた」という宣伝文句に惹かれて関連書を買うも、結局は著者をさらに儲けさせているだけ。

 本来「株」は資産運用で手堅く元手を増やしてゆくもの。長年株取引をしている者いわく「株は博打のようにデカく当てると、必ずデカく損をする」。つまり毎日の積み重ねによってのみ「資産運用」できるわけだ。

 だが世間に数多いるネット取引愛好家たちの中には一攫千金を夢見ている人が多い。ま、その気持ちもわからなくはない。銀行の金利はスズメの涙。プラズマテレビも買えない程度のボーナス、せっかくなら少しでも増やしたいと思うのは当然だろう。

 この「金」に対する考え方は、バブル経済時期を想起させて将来の不安を感じてしまう。目に見えない「金」を通信上の信号として動かす不思議さ。この実感なき金銭感覚は、いずれ訪れる「ネットバブル崩壊」によって打撃を食らうだろう。

 いまや中流は存在せず、一億総下流時代。貧困差は広がるばかりなのはこのブログで何度も書いてきた通り。ヒルズ族に憧れるように仕向けられた過多な情報によって人々は踊らされ、物事の価値観がねじれ始めている。

「ディック&ジェーン」はあえて時代設定を「2000年頃」にしたことで「ネットバブル崩壊」への警鐘を促している点で評価できる。それを「むかし、むかし・・・」という昔話の言い回しで物語が始まる当たりに、シニカルな視点を感じることが出来る。

 リストラ・倒産・失業というサラリーマン没落物語の王道を描く本作は、ジム・キャリーのオーバーリアクションが笑いを喚起するとともに「明日は我が身」という悲哀を描きこむことで「下流」の観客の共感を得ることに成功している。

 またこの作品にも現在公開中の「Mr.&Mrsスミス」(2005)同様、「9.11テロ」以降アメリカの風潮となりつつある「家族回帰」が物語の「鍵」となっている。

 離婚大国であったはずのアメリカにおいてディック(ジム・キャリー)とジェーン(ティア・レオーニ)の夫婦は、どんな辛いことがあっても別れようとはしない。この夫婦の選択に「離婚」がないことに気付くだろう。

 この夫婦における「絆」はコメディとして描きながらも、辛さという「痛み」に耐える姿を描写することによって「現実における問題」と「フィクションにおける笑い」がすこぶるバランスよく演出されているのが見事。

 ディックが昇進で収入が増えることをジェーンに告げ、子供との時間が増えるから仕事を辞めてもいいよと囁く場面は、これまでのハリウッド映画ではなかなかなかった描写だ。

 アメリカは男女同権の本拠地。これまでは女性の「自立」=「働く」と描かれがちだったことを考えるとアメリカ社会に変化が起きていることが伺える。

 もちろんコメディであるから、会社倒産後金策に困ったディックとジェーンが強盗を生活の糧としても、「奪われた側」の痛みが描かれることはない。

 この作品はジェーン・フォンダ主演「おかしな泥棒/ディック&ジェーン」(1977)のリメイクだが、物語の基本構成を頂戴しただけで展開はかなり異なっている。それは「金」を手にするきっかけが「偶然」である点と「必然」である点に違いがある。

 つまり「奪われた側」の痛みが描かれていないのはオリジナル版の設定を踏襲したために「復讐」への過程が変化しているためだと考えられる。そこに目くじらさえ立てなければ、この映画は「義賊」としての痛快復讐劇として楽しむことが出来る。

「アビエイター」(2004)、「エリザベスタウン」(2005)と最近は会社重役の役が続くアレック・ボールドウィンや、「X−ファイル」のモルダーことデビット・ドゥカブニーと結婚してからキャリア絶好調(子育てのため年1本の出演と決めているにもかかわらず)のティア・レオーニの好演は当然だが、今回は水を得た魚のようにジム・キャリーの独壇場。彼自身がプロデューサーを兼任しているのだから当然といえる。

 アート系作品「エターナル・サンシャイン」(2004)、被り物「レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語」(2004)と日本での出演作公開が続いたジム・キャリー。

 本作ではR・ケリーの「アイ・ビリーブ」をエレベーターで熱唱したり、ソニー&シェールのコスプレで強盗したり(しかも男女入れ替わり、つまりソニーのチビぶりを笑い飛ばしている)、ボイスチェンジャーを装着してスティックスの「ミスター・ロボット」引用しながら「ドモアリガット」とふざけまくる場面など、ストーリーとは無関係に暴れ放題、やりたい放題。

 ジム・キャリーが出演していなければ劇場未公開扱いになりかねない作品であるにもかかわらず、日米ほぼ同時公開なのは奇跡的。これまでジム・キャリーの作品が全米公開からかなり遅れて日本で公開されていたことから考えると、その事だけでもファンは喜ぶべきだろう。

 この映画の字幕は藤澤睦美が担当しているが、その訳は近年まれに見る「異訳」のオンパレード。中には会話の原形もとどめていないものまである。これは「あえて」行ったものだと解され、オリジナルの台詞と聞き比べるとその苦労が伺える。

 コメディ映画は往々にしてジョークを訳すのに苦労をする。例えばこの映画なら、息子がスペイン語を話すことがトラブルを生む結果になって「笑い」を誘うのだが、日本人にとっては英語もスペイン語も「外国語」なので二重に訳さなければならなくなる。

 ディックの「だろ?」=「See?」という言葉に息子がスペイン語で「うん」=「Si」と答える場面があるが、これは二人が「スィー」という「同じ発音の言葉」を連発するところに面白みがあるのだが、字幕上では訳されていない。

 また大統領選にも立候補した著名な社会運動家であるラルフ・ネーダーが本人として登場するのだが、このような特別出演の妙に関しては説明的な台詞になってしまっている。

 更にこの作品の翻訳の難易度が高いのは「経済用語」が多数登場し、多少は会社経営の何たるかを知らなければディック&ジェーンの「義賊」たる活躍が判らない点が挙げられる。そういう意味で「翻訳」が難しい作品なのだが、個人的にはDVD化の折に、山寺宏一による日本語吹替版で細部が訳されていることに期待している。

 ラスト、ある実在「した」企業名が叫ばれることによって未来に暗雲が立ち込めるとともに笑いを喚起する。

 我々がこの企業の辿る顛末を知っているからこそ、物語を過去に設定した意味があるのであり、また「ネットバブル」などの新型経済に対するアンチテーゼとなっていることはいうまでもない。

 それでいてコメディとして笑えるのは「金銭感覚」が共感でき、身につまされるからだ。そういう意味で「ディック&ジェーン」は「一億総下流」向け作品といえる。



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この記事へのコメント
前半は快調でしたね。ジム・キャリー本人が製作を兼ねているので本当にやりたい放題だったですね。
だけど強盗をやろうとして失敗続きだったのがいざ成功する所までは良かったんですがね…。
強盗物にはある種の‘カタルシス’が必要だと思いますが、この作品の夫婦が‘盗品’によって幸せを取り戻す姿は多くの観客から反感を買うだけじゃないかと思うのですが…。
異訳に関しては残念ながら分からないのですが色々なギャグなんかはどうなのでしょうか?
[シェール&ソニー]は見た目で分かるものの、[ハーポ・マルクス]を知っている人は果たしてどれ位いるでしょう?
Posted by 松井の天井直撃ホームラン at 2005年12月29日 21:06
今更ですがようやくレビューをUPしたので来ました。
ジム・キャリーなので笑い満載なのですが、よくよく考えると全く笑えない厳しい内容なんですよね。
明日は我が身です…

>ソニー&シェール
ジョン・レノンとオノ・ヨーコかと思いました。
Posted by 健太郎 at 2006年05月10日 00:10