2006年03月01日

県庁の星

織田裕二自身が主題歌を歌わない作品は久しぶり第378回

★★★☆(劇場)

(核心に触れる文面あるので、ご注意あそばせ)

 僕が学生の頃バイトをしていた某超大手スーパーは、何から何まで事細かにマニュアルがあり、徹底したコスト意識と予算管理で日本随一の「売り上げ」ではなく「経常利益」を誇っていた。

 いわゆる苦情処理や接客などはマニュアルのおかげでパターン化され、仕事を円滑に運ぶためには有効なものであった。

 しかし、事細かなマニュアルはあらぬ弊害を生み出す。

 何から何までがマニュアル通りであることは、逆に言うと「融通が利かない」ことになる。つまり「マニュアル」=「杓子定規」となって働く側の労働意識が高まる一方で、「考える」というプロセスが失われるのだ。

「県庁の星」はある架空の県庁から出向で赴いた弱小スーパーマーケットで、書類が全ての県庁公務員・野村(織田裕二)が奮闘する物語だ。

 この映画の図式において、「民間」=「スーパー」が「善」で、「官」=「公務員」が「悪」という単純なものではない点がいい。民間には民間の問題点があり、また公務員には公務音の問題点があることを正当に描いているのだ。

「県庁の星」では、スーパーにはコスト意識はあっても「マニュアル」や「システム」がなく、逆に県庁には「マニュアル」はあってもコスト意識がないという皮肉が映し出される。

 それは何事も「バランス」が必要だということだ。

「マニュアル」や「システム」がないところに「秩序」は生まれない、しかし、「マニュアル」や「システム」に縛られると「結束」が失われる。

 そんな訳で、実は僕もかつてスーパーに存在する「レジマニュアル」を自己流にアレンジした「マニュアル」を作ったことがある。

 それは日頃から不満に思っていた「マニュアル」の不満点を改良したもので(もちろんオフィシャルな物ではなかったが)大学卒業を目前にバイトを辞めるのをきっかけに、目をかけてくれていた社員さんに頼まれて僕はその最後の数日を「レジ接客マニュアル」製作に費やしたのだ。

 その「レジ接客マニュアル」とは文書ではなく漫画による「目で見てわかる」という趣向のものだった。

 野村は自分の出世のためにスーパーを変えてゆこうとするが、それでは人望を得られないことを悟る。ここから「ヒーロー」へと転じる展開は、織田裕二お得意のものだ。

 織田裕二の役作りにおいてヒーローを演じる場合には、ある「特徴」がある。

 それは演じる人物の私生活を描かないというやり方だ。

 例えば「踊る大捜査線」で青島刑事の自宅が描かれることは全くなく、「県庁の星」においてもその役作りが踏襲されていることがわかる。本作では、あき(柴咲コウ)の私生活が描かれていることと対照的だ。

 このことは「ホワイトアウト」(2000)などでも同様であり、脇役の私生活が描かれても主人公の私生活が描かれないというパターンは織田裕二にとって、「踊る大捜査線」以降定着してきたように思う。徹底した小道具選びをする一方で、彼の演じるヒーロー像に不思議と生活観を感じさせないのはそのためだ。

 この私生活を感じさせないにもかかわらずヒーローであり続けるという役作りは、織田裕二の私生活自身と符合する。つまり彼自身がスターであり続けることの方程式を演じる役柄にまで持ち込んでいるというわけだ。

 彼自身が撮影に口を出すという噂は映画ファンなら耳にしたことはあるはず。つまり、小道具に徹底的にこだわることで生活感をかもし出しながら、ヒーローという「夢」を現実に近い形で体現するために、あえて私生活を描かないという方針を脚本の段階で主張しているのだと考えられる。

 逆に「ラストクリスマス」や「真夜中の雨」、「ロケット★ボーイ」など織田裕二主演のテレビドラマでは役柄が「ヒーロー」ではないため、私生活を描いているという「こだわり」を見せていることにも気付かされる。

 同様に柴咲コウにおける「不機嫌キャラ」も、完全に彼女「らしさ」として受け入れられるようになった。実は原作の女性は中年なのだが、その「おばさん」の魅力を凌駕する「不機嫌」さがこの映画のヒロイン像を引き立てているのは見事だ。しかもテレビのインタビューなどを聞くと、前作の撮影終了からすぐに本作の撮影に参加したため、ロクな役作りも出来なかったらしいので、それを加味すれば尚更だ。

 起承転結ではなく、起承転転結という展開をちょうど25分ごとに分けた構成は計算づくといえるが、このことが映画の持つ「問題」の焦点をぼかしてしまっているのが惜しまれる。民と官の問題点を両方描くことで物語の展開が緩慢になってしまっているのだ。

 それでも単なる「正義は勝つ」という物語にしなかった終盤の展開はなかなか骨があって好感が持てる。現実の厳しさを見せながら「希望」も忘れていないからだ。

 さて、僕が描いた漫画版「レジ接客マニュアル」だが、それから何年か経ってレジの機械が新機種に入れ替わるまで、アルバイト教育の教材として使ってくれていたらしい。

 僕はそのマニュアルにお釣りを渡し間違えないためのある「コツ」を記載していたのだが、あるとき「客」としてそのスーパーを訪れたとき、その「コツ」をレジ係のアルバイト学生がやってくれているのを目撃したのだ。

 時代は変わり、お釣りはキーを押せば自動で出てくるという機種が主流になって「違算」と呼ばれるお釣りの渡し間違いは急減したという。

 事細かなマニュアル同様、大きな変化もまた大きな弊害を生み出す。その「変化」の過程もまた正しくないと言い切ることで「政治の力に負けた」と思わせるラストに一筋の光が見出せるのがとてもいい。

 大きな変革ではなく、小さなことを積み上げて、結果「大きな変化」へと完成させるという努力。

 楽して儲けたり金持ちになりたい、努力をせずに有名になりたいという昨今の風潮へのアンチーテーゼとも取れるラストカット。

 この伏線は映画のあちこちに散りばめられており、結果きらきらと輝いていることもまた「小さなことの積み重ね」が重要であることの証拠ともなっているのである。



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この記事へのコメント
まつさん、こんばんは。

>民と官の問題点を両方描くことで物語の展開が緩慢になってしまっているのだ。
どちらも中途半端になってますね。
内容も勉強不足の感が強く・・
鵜呑みにされ無いことだけ祈りたいです。

お役所では啓蒙の為に見るように・・という話も・・・
(やっぱりお役所ですw)
Posted by たいむ at 2006年03月01日 18:31
 TBありがとうございますm(_ _)m

 たましょくも同様にスーパー勤めの経験が
あるだけに「マニュアル」の存在を煙いと感
じたことは多々ありましたw

 掘り下げて描いてない分、間口の広さがあ
り、どんな年齢層にもウケる作品だと思いま
した♪
Posted by たましょく at 2006年03月03日 10:50