2006年03月21日

南極物語

原題「EightBelow」=「零下8度」は犬8匹と掛詞第398回

★★★☆(劇場)

(核心に触れる文面あるので、ご注意あそばせ)

 我「まつ」さんにて、今回は「待つ」を考察。

 ノーベル文学賞受賞作家であるサミュエル・ベケットの戯曲「ゴドーを待ちながら」。

 この物語は、二人の浮浪者がゴドーを待っているという設定で二人の会話が延々と続くだけの展開を見せる不条理劇だ。

 ストーリーらしいストーリーはなく、なぜ二人がゴドーを待っているのかもわからないまま物語は幕を閉じてしまう。

「待つ」という行為によって、自分が自分自身だけでなく何かのために存在しているということへの暗喩は、現代人の「孤独」や「アイデンティティ」=「自我同一性」を失いつつあることへの警鐘とも捉えられている。

「ゴドーを待ちながら」から、「待つ」という行為には必ず「他人」が介在するという当たり前のようで当たり前すぎて普段は気付かない「構成要素」があることが理解できる。そこには「待つ」ことによって自分自身の「時間」=「人生の欠片」を他人のために犠牲にするという事実が存在する。

 しかしながら「待つ」側は「待つ」ことを目的としているので、「待つ」行為には待ってもらっている者との相互承諾によって成り立っていることがわかる。つまり、「待つ」ことは「犠牲」ではなく相手を想う「誠意」あってこそ成立するのだ。

 買い物など自分のために「待つ」行為でなく、他人のために「待つ」ことは、相手を裏切らないと共に、自分自身への誠意を完遂させる意義がある。

 待っても待っても現れない相手にしびれを切らしてしまえば、もし相手に何らかの理由があった場合に自分自身が後悔することになる。映画で言うなら「めぐり逢い」(1957)や「君に名は」(1953)のように、すれ違いによって「待つ」行為は観客の琴線を揺らす格好の題材だ。なぜならそこには「待っていればよかった」という「後悔」が介在するからだ。

「忠犬ハチ公」の物語が語り継がれるように、「待つ」行為は人間だけでなく動物においても「犠牲」ではなく「忠義」として描かれてきた。

「南極物語」は、1983年に記録的な大ヒットとなった日本版「南極物語」をハリウッドがリメイクしたアメリカ版の物語。本作では舞台が南極の昭和基地ではなく、アメリカ科学財団のアメリカ基地と変更され、15頭の樺太犬は8頭のハスキー犬となっている。

 日本人としては「今更誰もが知る日本映画をリメイクしてどうする」という揶揄が先行しがちだが、オリジナル版に敬意を表しつつもハリウッド的な映画に仕上げることで、全く別作品として鑑賞できる内容となっており、いい意味で期待を裏切ってくれる。

 日本版「南極物語」が「事実を基にした」のに対し、アメリカ版「南極物語」は「事実から着想を得た」という視点の違いが活かされ、取り残された犬たちの「悲劇の物語」は、生き残るための「希望の物語」へと変貌を遂げている。

 過酷な状況下で犬たちの「死」を描くのではなく、あくまでも「生き残る」姿を描くことに特化した点は「別作品」として大いに評価できる。

 その点でいかにもディズニー映画らしい「教育的視点」がこの映画の人間ドラマ部分への「道徳感」に繋がっていることがわかる。よって日本版との違いを詮索するのは野暮といえる。

 さらに近年「デイ・アフター・トゥモロー」(2004)や「エイリアンVSプレデター」(2004)など極地を描きながらもCGやセットに頼ってばかりの作品が大半を占める中、本作では大部分でロケ撮影が敢行され大自然のロケーションの素晴らしさが味わえる(その分、セット撮影やCG場面とのクオリティの違いが甚だしいのが難点)。

 人間ドラマの前半と犬たちのドラマという後半というわかりやすさとともに、これまたわかりやすいアメリカ的精神がみなぎった「愛」が「史実」でなくフィクションとして昇華されているのがいい。

 監督のフランク・マーシャルは一流のプロデューサーであると同時に「生きてこそ」(1993)で墜落事故によって遭難した若者たちの過酷なサバイバルを描いているだけに、その演出手腕は手堅い。

 日本版が少人数編成での3年という長期ロケであったのに対して、こちらはハリウッド的な予算管理で製作された「手堅さ」によって映画的な面白みに欠けるきらいはあるが、ファミリー映画としては上出来と捉えるべきかも知れない。

 犬たちの演技(?)の素晴らしさはもちろん、主演のポール・ウォーカーの「無味」な演技が、いい意味で犬たちの演技を引き立てているのがいい。

 このポール・ウォーカーは、本人の俳優としての人気がそれほどないにもかかわらず、抜群の運動神経を活かして自らのキャリアを開いてきた突然変異的映画スターである。彼の己を知った出演映画選びは、他の二流スターの指針となるべく姿勢が示されているように思える。

 アメリカでは「南極物語」と同時に「Running Scared」(2006)が公開され、今後も年末公開予定のクリント・イーストウッド監督作として話題の新作「父親たちの星条旗」(2006)にも出演するなど俳優活動に注目できる。

 またケイティを演じたアジア系(韓国系アメリカ人)のムーン・ブラッドグッドをヒロインに採用することで、ステレオタイプな女性像にしなかった点も評価できる。

 エンドロールには日本版「南極物語」の監督である亡き蔵原惟繕への哀悼文が記載されている。

 日本版への敬意とも取れるラストの再会場面はやはり感動的だ。

 それは「待つ」側の純粋な想いと「待たせた」側の誠意に満ちた想いによって「再会」を果たせたからにほかならない。



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この記事へのコメント
 ども、たましょくです♪

 それほど構えて観に行ったワケでもなかったのですが
あの「博士」が…自分の利益優先、ガイドの忠告も無視、
救われたことを仇で返すよーな行為、最後で急に善人。
もっと見るべきところはあったと思いながら、そこへと
負の感情が働いてしまいました。

 犬たちの演技は、微笑ましく良かったです♪マックス
を見ていると「動物のお医者さん」のチョビとゆーハス
キー犬を思い出してしまいましたw
Posted by たましょく at 2006年03月21日 13:34
まつさん、こんばんは。

オリジナルは秀作ですね。
でも、このディズニー版は、オリジナルとは別物と捉えて、良かったと思っています。

>大自然のロケーションの素晴らしさ
一面白いだけなのに、なんであんなに美しいのか・・と思いましたね。確かに。
Posted by たいむ at 2006年03月21日 18:24