2006年05月08日

RENT/レント

この映画を見ればクロサワの凄さ「も」わかる第446回

 今回は、傑作ミュージカル「RENT/レント」がなぜ傑作「映画」になりえなかったのを検証しており、1年のうちにそうそうない辛口なので、ご注意あそばせ。

★★☆(劇場)

(核心に触れる文面あるので、ご注意あそばせ)

 芸術家たちは地味な暮らしを続けるのは難しい。

 それは「貧乏」という意味ではなく「質素」という意味でだ。

 自らを「別の何か」に置き換えて何かを表現する「芸術」というものを志す人間が地味だと、自然と生み出されるモノも地味になる。

 彼らは、農村に住み、地味な服を着て、地味なものを食べて、平凡な結婚をすることが出来ないからこそ「芸術」を目指すのであって、人が遊んでいるときに活動し、人が勉強や仕事に励んでいるときもまた活動することを「よし」と思っているからこそ「芸術」を志すのだ。

 もちろん地方発信の「芸術」や山間部における「陶芸」や「絵画」という「芸術」もあるが、若者の多くは都会を目指し、切磋琢磨すべく同じ志を持つものと同じ時間を共有することの方が多い。その結果、「芸術」の場をそれぞれが選ぶというのが本当のところではないだろうか。

 そういう意味で、彼らは派手やかである反面「地に足が着いていない」側面を持つ。

 この宙を浮いた感覚が、一般的な感覚と一線を画するものであることは言うまでもない。

 芸術家たちが現代社会を彷徨う「生ける幽霊」であるといわれる所以は、そんなところにあるのかもしれない。

「RENT/レント」はブロードウェイで大ヒットしただけでなく、トニー賞とピューリッツァー賞を受賞して日本でも宇都宮隆やKONTA、森川美穂といったミュージシャンや山本耕史が出演した舞台が1998年に上演されたこともある(その後キャストを変え再公演されている)。

 プッチーニのオペラ「ラ・ボエーム」を下敷きにした本作は、クリスマスイヴの若き芸術家たちの嘆きにはじまり、冒頭で原稿を焼いて寒さを凌ぐ場面や、ミミ(映画でも名前は同じ)がカンテラの火を借りに来る場面など全編において「ラ・ボエーム」を踏襲している(ちなみに終盤でミミが息を吹き返す場面も同じながら、最後に亡くなる場面だけは踏襲されていない)。

 本作が革新的だったのは、エイズや薬物中毒といった要素を取り込み、ロックミュージカルと典型的ブロードウェイミュージカルの融合を図った点にある。

 またエンドロールに哀悼文が記されているように、本作のオリジナル脚本と作詞・作曲を担当したジョナサン・ラーソンがプレビュー公演前日に急逝(大動脈破裂によるものなので、お間違いなく)したことでも話題となり、彼自身エイズで友人を何人か失ってしまった経験がこの作品に活かされている。

 本作では当然のようにエイズ患者が登場するが、ハリウッド映画において「エイズ」は長い間タブーだった。

「ロングタイム・コンパニオン」(1990)で初めて本格的に描かれたものの、インディペンデント系での製作が限界で、ハリウッドメジャー作品で描かれることはなかったのだ。

 それはメジャー映画会社が「エイズ」を題材にした作品がヒットしなかった場合、「エイズ」を描くことは永遠にタブーとされる危険性が当時あったからだ。

 そこへ果敢に挑戦したのが「フィラデルフィア」(1993)で、コメディ俳優から演技派に転向しようとしたトム・ハンクスにとっても、「羊たちの沈黙」(1991)で一躍人気監督となったジョナサン・デミにとっても、キャリアをかけた「賭け」であった(ヒットしなかった場合、そのイメージから干される可能性が大きかった)のだ。

 結果、作品の高評価によってハリウッドで「エイズ」を題材にすることを可能にした功績は大きく、「RENT/レント」のような作品もミュージカルとして描けるようになった礎となっていることは言うまでもない。

 見事なハーモニーを奏でる「シーズンズ・オブ・ラブ」で幕開ける本作。劇中登場する歌の数々が素晴らしいのは当然なのだが、ストーリーらしいストーリーもなく2時間15分という長尺なのがミュージカル好き以外には少々辛いのが惜しまれる。

 もちろんオリジナルに忠実なのだから仕方ないのだが、本作には映画であるから可能である「利点」が全く活かされていないことによって、平凡な出来になってしまっているのだ。

 例えば「シカゴ」(2002)や「オペラ座の怪人」(2004)のように、豪華で奇抜なセットや衣装が登場する訳でもなく、それでいてカメラワークは単調。超有名俳優が出ているわけでもなく、物語も単純なので新人歌手の低予算PVを延々と見せられているような感覚に陥ってしまうのだ。

 映像感覚の欠如は「映画監督」を目指すマーク(アンソニー・ラップ)の作り出す映像のセンスの無さにも言及できるし、登場人物たちの感情の移ろいが描けていないので「闘病」や「死」の描き方が薄っぺらいきらいがある。さらにロックミュージカルでありながらカット割りも単調で、躍動感が全く生まれていないことにも気付くだろう。

 これは監督がクリス・コロンバスであるところに大きな要因がある。

 彼は「ホーム・アローン」シリーズや「ハリー・ポッター」シリーズなど大ヒット作を手掛けてきた大物監督だが、お世辞にも監督自身の才能によって「いい映画」を作ってきたとは言えない経緯がある。

「ホーム・アローン」はジョン・ヒューズの脚本力やマコーレー・カルキンの演技力のおかげであり、「ハリー・ポッター」は原作の人気のおかげであることは疑いない事実で、それを証拠に「ベビーシッター・アドベンチャー」(1987)や「アンドリューNDE114」(1999)などクリス・コロンバス個人の力による監督作品は間延びした演出によって単調な作品に仕上がっていることが多い(それは大ヒットした「ミセス・ダウト」(1993)がファミリー映画でありながら126分という長尺であったことにおいても言及できる)。

 このクリス・コロンバスの持つ「欠点」によって本作もまた「間延び」した単調なミュージカル作品になってしまい、ラストに高揚感がないのは痛恨といえる。

 もう一点「難点」を指摘できるのは「歌詞」にある。

 劇中歌の歌詞をよく聴くとそれぞれの言葉が「韻」を踏んでいることに気付く。しかし字幕ではその「韻」が全く活かされていない。

 映画の字幕作業は大変なのでなかなか時間がかけられないことは映画ファンとして理解できるのだが、ミュージカルにおいて「歌詞」もまた「命」なので、字幕にはこだわって欲しいと感じたのも事実。

 例えばミュージカルの場合は、字幕を見れば日本語でそのままメロディに合わせて歌えるくらいの翻訳にするべきだと思うのだ。そうすれば歌詞の「意味」を追うだけでなく、自然と言葉によるリズムが観客の頭の中でも生まれるはずなのだ。

「サウンド・オブ・ミュージック」(1965)や「マイ・フェア・レディ」(1964)、「ウエストサイド物語」(1961)など、ミュージカル映画の傑作と呼ばれる作品の字幕を見ると、その字幕が「歌詞」として日本語で歌えるようになっている。

 そのくらいの「こだわり」が本作にも必要だと感じたのは僕だけではあるまい。

「RENT/レント」に登場する若き芸術家たちは、貧しいながらも「相手を思いやる気持ち」を大切にしている。

 それは相手が男であれ女であれ、白人であれ黒人であれ、ゲイであれレズであれ分け隔てなくだ。

 口論や仲たがいがあってもお互いを尊重する姿勢。

 それはお互いを尊重しあうのに、性別も人種も性癖も本来関係ないことであるからにほかならない。



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