2006年06月02日

嫌われ松子の一生 【B面】

劇団ひとり ≠ チョウ・ユンファ第471回

 昨日からライブドアブログの閲覧及び投稿障害が発生したようで、ブログ仲間の皆様にはご迷惑をおかけしました。

【B面:幸福】

★★★★☆(劇場)

(核心に触れる文面あるので、ご注意あそばせ)

「約三十の嘘」(2004)に出演した中谷美紀は、インタビューで「最近ついた嘘は何?」と聞かれてこう答えた。

「柴咲コウさんと勘違いされてサインを求められたので、『柴咲コウ』と書いて渡しました」

 その柴咲コウの表情と中谷美紀の表情がオーバーラップし、片平なぎさが劇中ドラマで本人を演じ、映画冒頭でいきなり木村カエラが「トゥリル トゥリル リカー」を熱唱して幕開ける「嫌われ松子の一生」は、観客の好奇心を刺激する「遊び心」に溢れている。

「風と共に去りぬ」(1939)のスカーレット・オハラを想起させる松子の「男に寄りかかりながらも力強く生きる」姿と、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(2000)のビョークを想起させる「人生の転落」などという映画へのリスペクトは数知れず。特にこの2作品に関しては「タイトルデザイン」や「歌」が劇中の表現に反映されていることが分かる。

 もちろん本作は、それだけの作品ではない。

「嫌われ松子の一生」は、その場しのぎの松子(中谷美紀)が男を渡り歩き、裏切られ、殺め、捨てられ、そして殺されるという悲惨な人生を描いた作品だが、不思議と「暗愚」でありながらも「暗澹」な印象を与えない。

 映画版は原作のガイドラインに沿いながらも、原作の味わいを全く無視した映像表現によって松子の人生をジェットコースターの如く怒涛の展開で観客に提示し、書ききれないほどの豪華出演陣の楽しみも相成って息つく暇がない。

 歌あり、アニメありと、何でもアリの「おもちゃ箱」のような作品であるにもかかわらず、原作の持つ「壮絶」さが伝わりつつ「悲惨」さを「ユーモア」に変換させて、どこか「滑稽」とも取れる機微さえも練り込み、上・下巻の長い原作を脚本化出来たことは奇跡的とも言える。

 それは、どんな逆境においても「ナチュラルボーン」=「先天的」に「生きること」を諦めない松子の姿勢が、作品の「力強さ」に通じていることが要因となっている。

 また「年代記」になりがちな作品でありながら、様々な人間による「視点」をバランス良く持たせ、人生の全体像を見せる構成にも優れていることがわかる。

 前半の飛ばし具合から比較すると、終盤失速してしまっている感も否めないが、これを力強くCM並みに作りこんだ映像で2時間描ききったのは驚異的。

 この驚異的作品を作り上げた中島哲也監督は「下妻物語」(2004)で一気に注目された映像クリエイターだが、その奇抜ぶりは豊川悦司と山崎努が卓球バトルを繰り広げるビールのCMや、SMAPがガッチャマンに扮するNTTのCM、ドラマ版「探偵濱マイク」のエピソードでも特に異彩を放っていた「ミスターニッポン〜21世紀の男〜」の頃から発揮されていたことが指摘できる。

 CGやセットの作り込みと合成のセンスも映像に大いに貢献されているのだが、何といってもCM時代から中島哲也監督と組み、石井克人作品でもお馴染みの照明監督、木村太朗の功績は非常に大きい。

 また「音楽」の洪水も本作の魅力であると言及できる。

 映画オリジナルの楽曲から既成曲、なつメロ、童謡まで、その全てが計算しつくされた編集によって構成されていることも驚異的で、これまた全編がミュージックビデオ並みの作業によって作り込まれている事が伺える。

 ビデオにおける音楽編集を手掛けたことがある者なら分かると思うのだが、音楽を映像に同期させるには1コマ(フレーム)単位での作業が必要となる。そこにCGが加わるのだから、その手間隙を考えると気が遠くなる。

 ハリウッド映画でも、ここまで手の込んだ「映画」にはなかなかお目にかかれない。

 何といっても本作は、松子を演じた中谷美紀の演技によるところが大きい。

 次から次へと変化する松子の服装と髪型によって、単なる「コスプレ」になりかねない「違和感」を凌駕する入魂の演技は、伝え聞こえる監督との確執によるものだけでないことは想像に難しくない。

 本作の色合いが「鮮やか」で「色彩豊か」なことは、「悲惨」で「暗澹」な内容と見事な対比となり、「色」=「明るい」ことが「内容」=「暗さ」を払拭し、「空元気」的な空虚さを際立たせていることが特筆できる。

 色彩が豊かで鮮やかであるからこそ、松子のひたむきさに「哀愁」を感じさせているのだ。

 失速感のある本作の終幕では、天に召される松子の姿を浮遊感溢れる空撮によって「あえて」叙情的に描かれている。

「死にぞこない」の松子が、何度も人生が終わったと思っても、「しぶとく」=「力強く」生き延び、自ら命を絶つことがなかったことは、この作品における「核心」である。

 病弱な妹(市川実日子)に父親(柄本明)の愛情を奪われて「嫉妬」する松子だが、生きたくても生きることが許されず、やりたいことも出来なかった、その妹がいたからこそ「生きる」ことへの執着が先天的に備わっていることが分かる。

 つまり「生きる」ことを選んでいるのではなく、自ら命を絶つことが「許されない」のだと解される。

「ジェイコブの梯子」を想起させる階段を登ってゆく松子の先に「妹」が待ち構えているという「幻想」は、松子の心の支えが実は死に目に会えなかった「妹」であったことの裏返しであると言える。

 彼女が「自ら命を絶てない」ことを示唆するこのキリスト教儀的映像表現は何とも意味深い。

 生きている相手に対しては「献身」によって「後悔」を回避してきた松子が、先行くものたちの「死」=「父・妹・徹也(宮藤官九郎)」に対して「後悔」を回避できない姿を描き出していることは、人生の指針ともいえる「教訓」を含んでいる。

 何があっても生き続けることが大切であることはいうまでもなく、結局人は人に生かされ、その「感謝」は相手が生きている間に果たさねばならないということだ。

 なぜなら、それは古くの言葉通り「後悔は先に立たない」からだ。

 劇中、こんな台詞がある。

「人の価値は、人に何をしてもらったかではなく、人に何をしてあげたかだ」

 そういう意味で、松子が反省することなく同じ過ちを繰り返しながらも自分の人生に「後悔」することがなかったにもかかわらず、他人の人生のかかわりに「後悔」することが、何となく我々を感傷的にさせるのだ。



【A面:不幸】も是非ご参照下さい。



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この記事へのコメント
人に尽くすと馬鹿をみるような世の中で、再度我が身を振り返るような気持ちに。私は金八の歌の様に、『信じられぬと歎くよりも、人を信じて傷つく方がよい』の生き方を推奨しております。ダンサー・インザ・ダークも懐かしい…
Posted by punch at 2006年06月06日 13:16
punchさま

コメントありがとうございます。
人の不幸を見て、自分がさほど不幸でないと知ることが本作の真髄であり、また松子の献身さが「お馬鹿」なように思えても愛らしく感じさせる要因でもあると思いました。
Posted by まつさん at 2006年06月11日 13:04
こんにちは。
>単なる「コスプレ」になりかねない「違和感」を凌駕する入魂の演技
あれだけ、色々な姿になっても、どれも松子らしさを感じました。
この役をやるために役者をやってきたという中谷美紀に凄みを憶えました。
Posted by カヌ at 2006年06月11日 14:12