2006年07月25日

パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト

本作は最後の最後まで見ましょう第524回

★★★(劇場)

(核心に触れる文面あるので、ご注意あそばせ)

 結果的に大ヒットした「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」(2003)だが、実はある種「負け犬」たちの敗者復活戦的な様相があった。

 それは様々な意味で、多くの映画関係者が製作費を回収できるほど「大ヒット」するとは思っていなかったからだ。

 ハリウッド映画界のジンクスとして「水物はヒットしない」というものがある。

 これは海洋アクションにヒット作が少ないだけでなく、水中での撮影が困難を極め、製作費高騰(つまり製作費回収が難しくなる)に繋がるからだ。

「ジョーズ」(1975)という例外はあるものの、1作目のヒットにあやかったこのシリーズが回を重ねるごとに興行的成功から遠ざかっていることや、大ヒットした「ウォーターワールド」(1995)が莫大な製作費によって利益率が低かった事、また「ザ・デプス」(1989)に始まった「リバイアサン」(1989)、「アビス」(1989)という1989年にほぼ同時期に公開された海洋SF作品が軒並み失敗したこともそれを裏付けている。

 この「水物はヒットしない」の代表格がまさに「海賊映画」だった。

 ロビン・ウィリアムスの本格的初主演作として知られる失敗作「ポパイ」(1980)を筆頭に、関根勤も出演している「エリック・ザ・バイキング」(1989)やハリウッドの歴史的赤字を記録した「カットスロート・アイランド」(1995)など、海賊映画はヒットしないというのはハリウッドの「常識」だったのだ。

 また「パイレーツ・オブ・カリビアン」を製作したディズニーにとっては、企画不足に悩んだ末生み出した「ディズニーランドのアトラクションを映画化」という「カントリー・ベアーズ」(2002)の失敗があった。

 これまで人気映画をアトラクション化するという通例を逆手に取ったのが「カントリー・ベアーズ」という作品だったのだが、よくよく考えればアトラクションを一周するのに数分しかかからないものを長編映画にする事自体が本末転倒な訳で、ヒットするはずも無かった。

 さらに監督のゴア・ヴァービンスキーにとって「パイレーツ・オブ・カリビアン」は、古巣のドリームワークスを飛び出してディズニーでの映画製作を試みただけでなく、「マウスハント」(1997)や「ザ・リング」(2002)、さらにブラッド・ピットとジュリア・ロバーツが夢の競演を果たした「ザ・メキシカン」(2001)でその手腕を「企画」や「俳優」に頼っただけだと疑問視する声が上がっていただけに、面目躍如を果たさねばならなかったのだ。

 極めつけはジョニー・デップ。

 日本では早くから映画ファンの間で有名だったジョニー・デップだが、一般的な知名度は長い間低かった。

 それは彼がどちらかというとアート志向で、「金」になる作品よりも自分の演じたい作品、また自分が一緒に仕事をしたいクリエイターと映画を作る事を信念としていたために一般的なヒット作と無縁だったからだ。

 それを裏付けるように、ドラマ「21ジャンプストリート」でアメリカの十代に人気が出たにもかかわらず、初主演作がアングラ映画界の重鎮ジョン・ウォーターズ監督の「クライ・ベイビー」(1990)で、その後永くコンビを組む事になるティム・バートンとの初コンビ作が素顔の判らない「シザーハンズ」(1990)という作品であり、「シザーハンズ」のヒット後もエミール・クストリッツア監督の「アリゾナ・ドリーム」(1993)やラッセ・ハルストレム監督の「ギルバート・グレイプ」(1993)というアート志向の強さを滲み出していた。

 その後の数々の出演作については割愛するが、この姿勢によってジョニー・デップは「演技は巧いが収益を上げられない俳優」としてギャラのランキングも低く、製作費の高い「パイレーツ・オブ・カリビアン」には不似合いとされていたのだ。

 このどこか「負け組」的な要素を抱えた「パイレーツ・オブ・カリビアン」が、全世界でヒットした事は、ハリウッド映画界にとって「驚き」でもあったという訳だ。

 ジョニー・デップに至っては前作で初めてアカデミー賞にノミネートを果たし(これまでノミネートされなかったことが不思議で仕方がない)、一般的な知名度と人気を獲得した(さらにギャラも高騰した)。

 敵なのか味方なのかわからず、真面目なのか不真面目なのかもわからない本作の主人公ジャック・スパロウというデタラメなキャラクターは、ジョニー・デップの演技における真骨頂で、男前であるにもかかわらず3枚目を装い、それでいて色気を引き出すアプローチには頭が下がる。

 このアプローチが計算づくであることは、彼の過去の演技を見れば一目瞭然で、「パイレーツ・オブ・カリビアン」でファンになった人達が過去の作品を見て彼の才能を再確認し、さらにファンとなってしまうという構図を生み出している。

「パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト」はシリーズの第二作。
 深海の悪霊と恐れられるデイヴィ・ジョーンズ(ビル・ナイ)との「血の契約」に怯えるジャック(ジョニー・デップ)は、目論みを果たすためにひょんなことから彼の元に舞い戻ってきたウィル(オーランド・ブルーム)とエリザベス(キーラ・ナイトレイ)を騒動に巻き込んでゆく・・・。

 本作はアクションにラブロマンス、恐怖と笑いなど「何でもあり」の夏休み映画らしいサービス精神に溢れ、幾重ものエピソードを同時進行かつ重層的に展開させた上で最終的に物語を集約させており、2時間半の長尺大作として申し分ない。

 CGに頼るばかりでなく、実物大セットを組むなどした豪華さや、俳優陣の楽しそうな好演も光る。何と言ってもストレートな展開はわかりやすく、残酷場面も適度で万人に薦められる。

 しかし残念なのは、本作が3部作の中篇として中途半端な感が否めない事だ。

 これは撮影が第3作目(チョウ・ユンファとキース・リチャーズ、そしてラストのアノ人の出演に期待!)との同時進行であることが原因なのだが、続編が時間を空けずに公開されることは、1作目の時期に比べて大物になった俳優たちを再結集させる対応策として有効であるし、観客の興味を引く事、さらには製作費対策においても有効である。

 それはそれでいいのだが、本シリーズの場合連続する物語ではなく「インディ・ジョーンズ」シリーズのように、1作ごとの「冒険」でも十分良かったように思えるのだ。

 よって、前知識のない多くの観客は、唐突なラストの幕切れに戸惑うかもしれない。



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この記事へのコメント
イマドキのひとらは唐突な終わり方で
「続く」・・っていうのを、「待てないわ〜」とは思っても
そういうもんだと思ってるらしいですよ。
「こんなとこで終わるな〜」が、そのまま
待たされた分だけ次回作への期待につながるっていうのは
役者冥利につきますね。

パート3を撮ってるというのは知ってたんですが、
前編後編になるとは思ってなくて
1話完結型でどっかに着地点がほしかったのは
私だけでしょうか?
減点じゃなくてこれじゃ何もわからへん・・・という。
4は製作決定、6まで行くという話もあるのですが
とりあえず、デッドマンズチェストの解決は
3でなんとかしてほしいです。
Posted by Ageha at 2006年07月25日 11:16
はじめまして。
とっても参考になりましたm(__)m

私もパイレーツでジョニーデップを知って、他の作品を見たいと思ったくちです。
シザーハンズが彼だとは驚きでした。
顔がいつも違いますもんね。
今日本屋さんに寄ったら彼の写真集や写真入りの本がたくさんおいてありました。

TBさせてくださいね
Posted by Tomoko at 2006年08月07日 18:58
夏だ!
海だ!
海賊だ!
てなわけでおはようございます。
楽しかったですね。
コミカルさもファンタジーさも増してましたね。
幽霊船の海賊たちはショカーの改造人間のようでした。
笑いが「1」よりも増していたように感じました。
「3」も楽しみです。
あの船長が活躍するんですよね。
Posted by 健太郎 at 2006年08月20日 12:21
まつさん様、TBさせていただきました。
続編に期待、ですね。ではでは。
Posted by 真紅 at 2006年09月07日 21:43