2009年01月08日

まつさんの2008映画ベスト10 【洋画編】

IMAXの情報量は伊達ではない!第609回

 まつさんです。

 あけましておめでとうございます。

 相変わらずのご無沙汰ですが、元気に過しております。今年も突然更新されるであろう「まつさんの映画伝道師」を宜しくお願いいたします。

 新年の初回は毎年恒例のベスト10を勝手に発表させて頂きます。個人的見解による選出ではございますが、ご興味あればお付き合い下さいませ。

 2008年に劇場公開された作品から選出しておりますが、単館ロードショー作品に関しては公開時期が日本各地でズレるため、一部公開が2008年でないと思われる作品もあるかも知れませんがご了承下さい。

 ちなみに2008年に劇場鑑賞した231本(洋画131本+邦画100本)から洋画・邦画のベスト10を選出。訳あって鑑賞本数が停滞している故、昨年同様にまつさん未見の傑作もあるかと思いますが、レビュー未掲載作品について皆様からの御指導等頂ければ幸いです。


【2008年ベスト10 洋画編】

1位 ダークナイト

 全米で歴代2位の驚異的興行記録を打ち立てるも、日本では惨敗。その理由は様々だが、黒沢清の「トウキョウソナタ」(2008)同様、国民と国家の不均衡を「外」に理由付けしながらも、「内」=「一般家庭・市民」にこそ其を打ち破る力があるのだと説いている事で、この二作品が欧米の支持を得ている共通項に、日本における「平和ボケ」というキーワードを導き出せる点を見逃せない。


2位 ミスト

 近年の「ハリウッド映画」としては類を見ない後味の悪さだが、人間の根源的暗部を抉り出している点でカタルシスに近いのがミソ。原作者スティーブン・キングも嫉妬したこの終幕の重さにしばらく席を立つ事ができなかったのは、延々と続くエンドロールのバックに微かに響き続ける本来「平和」を導き出すノイズによるものである事に異論はあるまい。


3位 ノー・カントリー

 正体のない「悪」を描く事は根拠がないだけに難しいし、それを演出する事も演じることも難しいのは言わずもがな。そこに湧き上がる不安や緊張を三つ巴の構成で描きつつ、その正体を解体することなく「何となくまとまる」全体像を作り上げた脚本と演出の見事さはアカデミー賞上等、と評価できる。勿論、ハビエル・バルデムの怪演は「ダークナイト」でヒース・レジャー演じたジョーカーと共に映画史に残るであろう。


4位 潜水服は蝶の夢を見る

 出尽くした感のある映画表現において「まだまだやれる事がある」と実践してくれた監督の意気込みは、説明されることなく観客が主人公の病状を体感しながら同時進行で理解してゆける点において評価出来るだろう。ジガ・ヴェルドフの「カメラを持った男」(1929)のごとく、「カメラ」=「眼」という原点に着目した手法の数々は、映画製作の更なる可能性を感じさせつつ、過酷な病状にある主人公の可能性とシンクロさせているのが心憎い。


5位 アクロス・ザ・ユニバース

「まず、ビートルズありき」の映画である。歌詞を台詞に変換し、歌詞をビートルズが活躍した時代の歴史に変換し、歌詞がそれぞれの愛を語り、求愛する。映像の洪水は長編ミュージックビデオとも揶揄できるが、「ミュージカルを映像化する」というよりも「映像を紡いでミュージカルに仕上げる」という姿勢が、本作を「映画」であると思わせる所以である。


6位 イントゥ・ザ・ワイルド

 いっけん最近はやりの「自分探し」モノのように思えるが、何を捨て、何を否定するのかという自己意識がはっきりしている点で、能天気な課題を提示しないのがいい。主人公の人生そのものを「自由社会」に例えて鑑賞すれば、自己努力と自己責任が「自由」には伴う事が自ずと判るはず。そういう意味で本作は「自分探し」の体をとったアンチ「自分探し」映画なのである。


7位 僕らのミライへ逆回転

 DVDがブルーレイという規格に変わろうとしている時代に、あえて「ビデオテープ」を題材にしなければならなかったのは、磁気によって「消去」されるためだけではないのがミソ。「映画」というメディアを持ち歩けるようになった点でDVDとビデオは同じ性格を持っているが、原題「Be Kind Rewind」=「巻き戻し返却願います」が示す通り、実は人と人がソフトを通じて繋がりあう点で大きく異なるのだと示唆しており、真の映画ファンならラストの映画愛に涙せずにいられないだろう。


8位 ホット・ファズ −俺たちスーパーポリスメン!−

 80年代ポリスアクション映画への愛情溢れる1本。それ即ち、近年のポリスアクション映画にはある種の「魅力」が失われているという事でもある。リアリティを追求する反面、映画だからこそつける「嘘」という演出が失われつつあるが、実はその「嘘」こそが映画自体を面白くさせ、物語の中だけのリアリティを生んでいたのだと本作鑑賞後改めて思い知らされるに至る。


9位 その土曜日、7時58分

 80年代以降凡作が続いていた御歳84才となるシドニー・ルメット監督が見事復活!それだけで十分ではないか、と思わせる本作。時間軸を解体して全体像を明らかにしようとする演出は、近年けっして目新しくはないが、人間描写の見事さによって市井の人々の悪意と欲望を格調高く描き出しているのが見事。日本未公開に終っているヴィン・ディーゼル主演の法廷劇「Find Me Guilty」(2006)の日本公開を待望!


10位 マイ・ブルーベリー・ナイツ

 アメリカに渡っても、クリストファー・ドイルが不在でも、ウォン・カーウァイはウォン・カーウァイであったと、良くも悪くも再確認。ライ・クーダーの音楽とも相性がよく、単純に香港での映画制作がアメリカで通用するか否かを課題に撮ってみた、と理解すれば、目くじら立てる程の作品ではない。個人的にはノラ・ジョーンズをキャスティングしたセンスだけで、もうお腹一杯なのである。


次点 ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

「石油を掘る」=「どこにあるのか分からないものを探し当てる」ことを筆頭に、過去の物語でありながら様々な劇中アイテムが現代アメリカのメタファーとして機能しているのが素晴らしい。まるでドス黒い血液の如き石油の利権は、人間を迷走させ、神だけでなく人間さえも信じさせない不和には救いの欠片もないが、石油を掘る事を再現するために大金を次ぎ込むこんな「アメリカ映画」が登場し続ける限り「映画は死なない」と言い切れる。



 相変わらずアメリカ映画(決して「ハリウッド映画」でない点がミソ)ばかりのラインナップですが・・・以上の順位は、あくまでも「個人的趣味」によるもので、作品そのものの評価(各記事リンクの★取りを参照下さい)によって順位付けしたものではないので、ご了承下さい。


※次回は「2008年映画ベスト10 邦画編」をお送りします。


この記事へのトラックバックURL

この記事へのコメント
久々のエントリー、非常に楽しく読ませていただきました。
「スクリーム」で映画の楽しさを覚え、「リリィ・シュシュのすべて」で映画の深さを覚え、このブログで映画の可能性を感じたモノです。

お忙しいとは思いますが、不定期ではあれ、これからも少しずつ更新されることを楽しみにしております。

今回のランキングでは未見のものもありますが、個人的にはジェイン・オースティンの読書会も押しますw

Posted by k.t at 2009年01月11日 02:33
こんにちは。久々のエントリー、嬉しく読ませて頂きました。
ご健康をお祈りしています。
現在、海外暮らしなので、日本で「ダークナイト」が惨敗したのを知りませんでした。びっくりです。
個人的にはジョーカーよりもツーフェイスに「正義と狂信は紙一重」の怖さをしみじみ感じました。ハリウッドの大作映画にしてはえらく苦いエンディングで、それでもヒットするのがアメリカが(まだ)映画大国たるゆえんなんだろうなぁと思いました。
Posted by a at 2009年01月28日 23:57