2009年05月22日

映画館大賞

わたしも行きます!第611回

 邦画市場は活況、と報じられている昨今。

 世間では「邦画バブル」という言葉が広まり、ちょっとした映画ファンにとって(映画興行にそれほど興味がなくとも)「日本映画が元気なんだよ」という事の代名詞となっている。

 ところが、現状はそんな楽観できるような状態にない。

 何せ「バブル」である、とどのつまりは「弾ける」という末路が待っているのは言う由もがな。

 ここ数年、確かに邦画のヒット作が以前に比べて多くなった、と同時に、邦画の制作本数は異常なくらい増加していた。

 それは「儲かっている」からだと思いがちだが、実はそうではない。

 難しい話を抜きには語れない故、ざっくり説明すると・・・2008年に公開された邦画は約400本。

 それに対してスクリーン数(映画館数ではない)は約3000。

 さらに洋画の上映もあるわけだから、単純に割り算して都道府県の数と年間週を考えれば劇場数が足りないのは自ずと理解できるはず。

 例えば「崖の上のポニョ」(2008)のように高収入の見込める全国公開作ともなると、全国数百館の劇場が同時に同じ作品を上映するという現象が起こる。

 当然、そこにインディペンデント系の作品が入り込む余地などあろうはずもない。

 裏話をすれば、IMAGICA(映画の現像最大手)に持ち込まれる年間の作品数が、上映された映画の作品の数を上回っていたという時期があった。

 つまり、作品として仕上げ、フィルムに現像もされ、あとは劇場に流すだけなのに、その上映できる映画館がなく(それは作品の質どうこうでないのは、某大河ドラマ主演女優の出演作が、同じ理由で長く陽の目を見なかった事が全てを物語っている)、多くの作品がお蔵入りしているのだ。

「邦画バブル」であると思わせる所以は、単純にヒット作が目立っているからだけで、大半の作品は制作費を回収できないという状態に陥っているのだ。


 2008年の全邦画の興行収入合計は約1150億円。

 一方、2008年の邦画TOP30の興行収入合計は約800億円。

 お判りだろうか?

 大ヒットしている映画がある一方で、多くの映画(つまり残りの約370本)で約350億円の収入を奪い合っているのだ(因みに30位の「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」の興行収入は約9億3千万円なので、単純に370本では割り算出来ない事情もある)。

 映画の制作費を考えれば、ほとんどの映画が「赤字」であることが頷けるはず(もちろんDVDやテレビ放映の二次使用売り上げがあるのだが、長くなるのでそれはまたの機会に)。

 だが、そんな実情を知らない人々が、ここ数年、邦画の活況を信じて、邦画に投資してきた。

 映画は、撮影から完成、上映まで、おおよそ1年以上はかかるもの。

 興行の結果を経て、これまで投資してきた人々が、そろそろ、その「幻想」に気付き始めてきたのである。

 それを証拠に、今、映画の現場は「バブル」が弾けて仕事にありつけない人で溢れている。

 制作本数が激減しているのだ。

 世の中が不況、不況で、単純に就職することさえ難しい時代なのだから、当然と言えば当然なのだが・・・。

 実は2008年の邦画興行収入ベスト10のうち、2位「花より男子ファイナル」、3位「容疑者Xの献身」、4位「劇場版ポケットモンスター ダイヤモンド&パール ギラティナと氷空の花束シェイミ」、5位「相棒−劇場版−」、8位「映画ドラえもん のび太と緑の巨人伝」と、5本がテレビ番組関連作品。

 もちろん観客が喜んで映画館に足を運んでいる事実を、映画ファンとして揶揄するつもりはないが、どうもTVドラマやTVアニメの力を借りているだけで、純粋に「映画」を見に来てくれているのかという点においては疑問を感じてしまうのだ。

 しかし憂う事ばかりではない。

 作品によりけりはあるけれども、確かに邦画のレベルは以前に比べて平均的に高くなったように見受けられる。

 それは技術的なことだけでなく、公開作品が多い事で、これまで映画化には向いていないと思われ敬遠されてきた内容の作品が映画化されたから、という点も指摘できる。

 例えばアカデミー外国語映画賞を受賞した「おくりびと」(2008)などはその好例といえ、10年前ならとても映画化される類の作品ではなかったと誰もが思うはず。

「数撃ちゃ当たる」ではないが、内容のバリエーションが増えたことで、邦画自体が面白くなったのも事実。

 しかし残念なことに、その傑作・佳作の多くは人々の目に触れることなく、一部の映画ファンの間で評価されるに留まっている。


 そこで(いつもながら前置きが長くなったが)、映画館大賞である。


 本屋の店員さんたちが、既存の文学賞に頼るのではなく、自分たちが本当に「売りたい」と思う本に賞を与えて書籍の売り上げを活性化させた「本屋大賞」に倣い、日本全国のシネコンではない独立系映画館100館のスタッフが「映画館ごとのその年のベスト10」選んで集計したものが、今年始まった「映画館大賞」である。

 参考までに今回発表されたベスト10を挙げると・・・


1位「ダークナイト」(2008・米)

2位「ぐるりのこと」(2008・日本)

3位「おくりびと」(2008・日本)

4位「歩いても、歩いても」(2008・日本)

5位「トウキョウソナタ」(2008・日・蘭・香)

6位「イントゥ・ザ・ワイルド」(2007・米)

7位「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」(2008・日本)

8位「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(2007・米)

9位「ノーカントリー」(2007・米)

10位「崖の上のポニョ」(2008・日本)


 という(意見は分かれるだろうが)映画ファンとして順当と思える結果。

 そしてこれらの作品が、本日より東京は渋谷のユーロスペースでトークゲストを交えて29日まで上映されます。

 詳しくは → http://eigakantaisho.com/event.html


「映画館大賞」が伝えるもの。

 それは要するに、映画館という興行の現場に身を置く人達は現状に危機感を持っている、という事なのだ。

 観客に触れる「映画館」の側から「現状を変えてゆきたい」という想いは痛いほど伝わる。

 しかし、「キネマ旬報5月上旬号」(146p)で槍玉に挙げられているように、「映画館大賞」にはいくつかの問題点が存在する。

 ある意味「生モノ」である映画は、先述の「二次使用」によっても利益を生み出すという特殊な性格を持っている。

 つまり、映画が公開された後に授けられた賞が、果たして「観客動員」という映画館の活性に繋がるか否かが定かではない、という点に議論があるのだ。

 さらに、ただでさえスクリーン数が足りない状況で、経営の苦しい独立系映画館がリバイバル上映のような事をすべきか否か、という議論(そこには、無論「スクリーン体験」を提唱しながらも、既にDVDが発売されてしまっている作品が大半という問題も横たわっている)。

 今回の上映もそれを反映してか、渋谷のユーロスペースのみでの上映に留まっている。

 が、あえて個人的見解を申せば「現状を憂い、とりあえずは現状脱却のために何かを始める事に意味がある」と世間の揶揄に反論したい。

 問題点を理解しつつ、年々、賞の精度を上げてゆく、そこに社会的な接点を求めて観客との距離を縮めてゆく。

 そういう意味で、映画館側からのアプローチに対して僕は大いに期待しているのだ。

 何よりも「映画館大賞」の1位は、「まつさんの2008年ベスト10」の1位と同じ「ダークナイト」(2008)。

 全米で「スターウォーズ」(1977)を抜いて歴代2位の興行成績を残したにもかかわらず、日本では惨敗の1作。

 内容云々の素晴らしさは過去記事(→「ダークナイト」)を読んでいただくとして、IMAXで撮影された場面は、やはり大きなスクリーンで楽しみたいもの。

 また、他作品も黒沢清監督、是枝裕和監督、リリーフランキー氏、など作品にゆかりのある方々のトークが間近で聞けるのが魅力。


 近隣の方々は、映画界活性のため、ぜひぜひ足をお運びあそばせ。


※「映画館大賞」について →公式HP http://eigakantaisho.com/index.html


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「ダークナイト」
第1回 映画館大賞(2008)【自主映画制作工房Stud!o Yunfat 映評のページ】at 2009年05月27日 01:14
この記事へのコメント
いつも拝見させていただいております。
現在学生、来年からは広告業界に身を置く予定の映画好きの者です。
稚拙ながら、コツコツとブログをしております。
折り入って相談がありまして、もしお時間が許すようでしたらnewzealand-upper@hotmail.co.jpまでご一報いただけませんでしょうか?
何卒、よろしくお願いいたします。
Posted by ppt at 2009年05月30日 23:27