2010年08月18日
電子世界
もちろん中途半端。
でも本腰入れて書けたら良いなー。
時期的にはVividのあたり。
人は、二通りに分けられる。魔導師か、非魔導師かだ。
魔法を使えるものは魔導師であり、使えないものは非魔導師である。
なんとも単純な区分けだ。
さて、ミッドチルダを代表とする次元世界では、基本的に質量兵器を禁じている。
過去にあった戦乱において、質量兵器がもたらした被害が甚大であったこと、その後遺症によって未だ人の立ち入りを許さないほどに汚染された次元世界が幾つも存在することが、その理由である。
このまま質量兵器の乱用が続けば、いずれ全ての世界が汚染されかねない。
この構図は、97管理外世界の地球にある核アレルギーのようなものだと考えれば分かりやすいだろう。
故に質量兵器を禁じ、魔法技術を主とした文明に切り替えたのである。
化石燃料を使わず、発電のために熱量を必要としないこの技術は大量のCO2削減に繋がり、惑星レベルでの温暖化を防ぐ効果もあったため環境に良く、またエネルギー源である魔力素はほとんどの世界に十分な量がある上に自然回復が早いために使い放題と言う、便利すぎるものだった。
がしかし、魔法文明にも弊害があった。
全ての人が魔法を使えるわけではない。むしろ魔法を使えない者のほうが多かったのである。
日常生活では魔力を機械制御する技術があるために表面化することはまずないものの、個人で魔法を使えるか否かは、人の心の奥底に、決して無視できないわだかまりを孕ませていた。
管理局における能力至上主義がそれに拍車をかけていることは、残念ながら否定できない事実である。
もちろん、魔法を使えなくても、普通に生きていく分にはなんの問題もない。
不用意に魔法を使うことは法律で禁じられていることもあって、魔法など、実は“あれば便利”と言う程度でしかない。
それでも、やはり。
魔法を使えない者にとって、魔法を使えると言うことは憧れであり、魔法を使えないことは劣等感の苗床になってしまうのだ。
魔法の有無はリンカーコアの有無であり、即ち生まれつきの体質である。
魔導師の子供は魔導師になる可能性は高いものの確実ではなく、後天的にリンカーコアが発生することは非常に稀だ。
個人の努力で非魔導師が魔導師になることは叶わない。
であるから、あのゲームの誕生は、必然だったのだろう。
仮想現実世界で魔導師を疑似体験することができるそのゲームは、ミッドチルダを中心にして爆発的な流行を見せている。
【Magician's arena】
専用の筐体に入ると、そこには寝そべるようにして座るシートと、その前に操作パネルみたいなものがあった。
お金を入れてフリーサイズのシートに座ると、ピっと電子音がして、空間モニタが表示されてガイダンスメッセージが流れる。
《Magician's arenaへようこそ。初めての方はNew Gameを、前回からの続きをプレイされる方はContinueを選択してください》
「んと、こっちだね」
NEW GAMEを選択。なんだかワクワクしてきた。
ゲームで使う魔法って、どんな感じなんだろう?
いつも使ってる魔法とどう違うのかな。
《ヘッドセットを装着してください》
「はーい」
寝転がって、脇に吊るしてあったヘッドセットを付ける。
すると、デバイスを使った仮想空間と同じくらいにリアルな景色が広がった。
もうここはゲームの筺体の中じゃなくて、Magician's arenaの中なんだ。
いや、なんだか受付みたいなところだから、入口かな?
《改めまして。Magician's arenaへようこそ。Magician's arenaは仮想現実の世界で魔導師を疑似体験することができるゲームです。Magician's arenaの中には様々な世界が広がっており、その中で自由に過ごすことができます。魔法学校で勉強することもできますし、訓練場では魔法を使って模擬戦闘をすることもできます。魔法を使ったスポーツを楽しんだり、仲間たちと協力してクエストに挑戦したり。それこそ、本当の魔導師ですら体験できないような魔導師生活を満喫することができます》
「……本当の魔導師ですら体験できない?」
少し、ムっとしてしまう。
それはないんじゃないかなぁ。
確かに、魔導師だからって好き勝手に魔法を使えるわけじゃない。
でも、魔法を使った模擬戦の爽快感をゲームで再現できるなんて、ちょっとやそっとじゃできないんじゃないかな。
《どのように振る舞うかは貴方の自由ですが、くれぐれも他のプレイヤーの迷惑にはならないようにお願いします。それでは、体感で25時間の魔導師生活をお楽しみください》
受付の奥にある扉が開いた。
んー、10ミッド$(※ 1ミッド$=日本円で100円相当)も払ったんだし、無駄にするのも勿体ないよね。取り敢えずゲームを進めよう。
扉をくぐると、そこには空間モニタが1つ浮かんでるだけ。また奥に扉があるけどしまってるから、どうやら空間モニタでなんか入力しなくちゃいけないみたい。
むー、なんか面倒くさい。
「えっと、ゲームの中での名前と容姿? 魔導師タイプは……陸戦と空戦?」
名前は……ヴィヴィアンで良いや。
容姿は女性で、栗色の髪のサイドテールに、瞳の色は青で、身長は160くらい、スタイルはもちろんバツグンで!
タイプはやっぱ空戦だよねー。
「よし、できた!」
入力し終わると同時に、変身魔法を使ったときみたいに視線の高さが変わった。
なるほど、こうなるんだ?
好きな姿形になれるってのは嬉しいかも。
ひとしきり変わった姿を楽しんでから、次の扉をくぐる。
と、そこは――
「わぁ……!」
目の前に広がるのは、クラナガンと同じくらい大きな街並みと雑踏。
何人かがグループになっておしゃべりしてる人たち、道にそって露店を開いている人たち、どこかに向かって走っていく人たち、何故か道の真ん中で大の字になってぐーぐー寝ている人もいれば、一心不乱に踊り続けている人も、楽器を演奏したり歌ったりしている人もいる。
これ、みんな、Magician's arenaのプレイヤーなの?
「すごい」
仮想現実で魔法を使えるって言うから、てっきり悪者とか怪獣とかを魔法でバッタバッタと倒していくようなアクションゲームだと思ってたんだけど。
でもこれは違う。
これはまるで“もうひとつの現実”だ。
「ふわー……」
メインストリートが続く先を目で追うと、そこには雲まで届く高い塔がどんっと建っている。
ここからは何キロも離れているのに塔のテッペンが見えないなんて、どれだけの高さなんだろう?
なんだか圧倒されてしまう。
圧倒されすぎて、なにをどう遊べば良いのかさっぱり分からない。
「こんにちは、新人さん」
「へ?」
と、そこに声を掛けられた。
一瞬、現実世界と勘違いしてナンパかと思う。
でもそれを即座に否定したのは、視界の片隅に見えるNPCの文字だった。
「NPC?」
「はい、僕はNPCです」
「はぁ」
NPCとはNon Player Characterの略称で、プレイヤーがいないキャラクターのこと。
Magician's arenaは自由度が高いんだけど、そのせいでなにをすれば良いのか途方に暮れる人もいる。例えば私みたいな。
そんな人へのサービスとして、New Gameで新しくこの世界に来た新人プレイヤーをサポートしてくれるNPCが発案されたんだとか。
暫くの間は一緒に行動してくれて、街の案内とか、どんな遊びがあるのかを教えてくれたりしてくれるんだって。親切だなぁ。
って言うか、この人、まんまユーノくんなんですけど?
そのことを聞くと
「僕の外見はユーノ・スクライアを元にしていますから」
苦笑して応えてくれた。
どうしてかと言うと、Magician's arenaの基礎を作ったのはユーノくんで、この仮想空間には無限書庫から発掘された情報がふんだんに取り入れられてるんだって。
どうりで凄いわけだ!
「気になるようでしたら容姿は変更できますけど、どうしますか?」
「そのままで全然おっけーです! あ、でも出来たら私と同じくらいの年齢になってくれると嬉しいかも」
「かしこまりました、Lady」
やだもぅ、レディ、だって。
思わずクネクネしてると、彼はパっと光ったあとに16歳くらいの容姿になっていた。
ほんの少し身長が縮んで、今の私と同じくらいの身長かな。
ホンモノのユーノくんと同じで優しそうでカッコ良くて、なるほどこれは新人さんを案内するには持って来いのキャラクターだと思う。
んー、でも、なんかちょっと気になる。
「他の新人さんもユーノくんがサポートするの?」
「サポートキャラの容姿はランダムですので、そうとは限りません。ユーノ・スクライアになるのは五百万分の一といったところです」
ラッキー!
レア中のレア、超レアです。
「では、まずは観光案内と行きましょうか?」
「うん!」
まずは街の観光名所を巡ることにした私たちは、タクシー(なんとプレイヤーキャラクターが運転してた)に乗って、この世界(Midgard)の中心にある大きなタワーにやってきた。
なんと言っても一番目立つところだしね。
まるで天と地とを結んでるようにも見えるこの塔は、Yggdrasill。
ミッドチルダで言うところの地上本部で、沢山のプレイヤーキャラクターが治安維持のために働いてるんだって。
さっきのタクシーもそうだけど、Magician's arenaの中でもお仕事があって、お給料もちゃんと出る。
「つまり、このMagician's arenaの中での経済活動があるわけです」
ほんとにゲームなの、これ?
ゲームの中でまでお仕事するって、楽しいのかな?
「Magician's arenaに来る方々は、基本的に非魔道師です。魔法を使った日常と言うものに強い憧れを持ってるんですよ」
だから、魔法を使って遊びたい人だけじゃなくて、魔法を使って働きたい人もいる。
もちろん現実世界でお給料が出るわけじゃないし、現実世界の経済活動にはなんの影響もないんだけど、それでも、現実では成しえなかった夢を実現できると言うことは、大きな意味がある。
例えば、重い病気で外出もままならないような人でも、Magician's arenaの中ではスポーツを楽しむことができる。
経済的な理由からプロミュージシャンへの夢を諦めた人でも、Magician's arenaの中では思う存分に楽器を演奏できる。
魔道師資質が足りず、管理局局員になれなかった人も、また同じく。
「つまり、現実ではどうしようもなかった夢を、せめて仮想現実の中で満喫したいと願った結果が、Magician's arenaなんです」
どこか熱っぽく語るユーノくんは、なんだかNPCには見えなかった。
それはまるで、本物のユーノくんが遺跡のお話をしてくれてるときみたいで。
胸の奥が、きゅっとした。
「ですからヴィヴィアンさんも、現実ではできないような夢を、ここで叶えてみたらどうでしょうか?」
「……うん、そうだね」
ユーノくんは、どんな想いでMagician's arenaを創ったんだろう?
無限書庫の司書長で、偉くて優しくてカッコ良くて、立派な大人をしてるユーノくんでも、現実ではどうしようもないことがあったのかもしれない。
だからせめて、夢の中では、と。
あぁ、そうか。Magician's arenaはゆりかごなんだ。
沢山の人たちが共有する、大きなゆりかご。
現実は残酷だから、努力すれば必ず目標に到達できるとは限らない。
でも、せめて夢の中でくらい“こんなはずじゃなかった世界”じゃない、“こうなるはずだった優しい世界”があっても良いじゃないか。
そんな夢を、Magician's arenaと言うゆりかごのなかで見るんだ。
「もっとも、全部が全部、上手く行くとは限らないんですけどね?」
「……へ?」
いい感じにまとめに入ってた私は、ぽかんとしてしまう。
そんな私にユーノくんは悪戯っぽい笑みで
「夢を叶えるためには、それ相応の努力が必要ですし、才能には個人差があります。どうしようもなく出来ないことは、このMagician's arenaにも存在しますよ」
えー。
なにそれインチキ。
「ゲームの中とは言え、努力次第で全部がどうにかなるようでは、Digital Drugsになりかねません。これは依存症を防止するためでもありますが、夢は夢、現実は現実と割り切って楽しんでくださいね」
つまり。
運動オンチな人はMagician's arenaの中でも変わらず運動オンチで。
現実と違うのは、“魔法が使えるようになる”と言う一点だけなんだそうだ。
その魔法にしても、この人にリンカーコアがあったらどうなるかをシミュレートした結果がMagician's arenaに反映されるのであって、誰でも訓練すればSランクオーバーになれるとかじゃないみたい。
私が空戦と陸戦を選べたのは、そのシミュレート結果でどちらでも出来るって判断されたからなんだって。
「でもまぁ、現実になんの影響もないってこともないんですよ。例えば現実で自転車に乗れなかった人がここで練習したら乗れるようになったって事例もありますし」
「うそ!?」
「嘘じゃありません。現実の筋力を鍛えることはできませんが、バランス感覚のような、いわゆる経験で学んだことは現実にも反映されます」
学生さんには試験勉強などに利用される方が多いようですよ、とユーノくん。
なるほど手書きのレポートは無理だろうけど、ここほど暗記勉強に適した場所はない。
なにしろここでの一日は現実の一時間に満たないのだから。
……そりゃ人気も出るよねぇ。
「さて、立ち話もなんですし、ラウンジで食事でもしましょう。ご馳走します」
「へ、食事もできるの?」
現実にお腹が膨れるわけじゃありませんけどね、苦笑して、ユーノくんはラウンジへと案内してくれた。
これはNew Gameで来た新人さんへのサービスなんだとか。
うーん、いたせりつくせり。
でも次回からはちゃんとゲーム内でのお金を払うんだって。ちぇー。
「ご注文がお決まりになりましたら、お手元のスイッチでお知らせください」
ぺこりとお辞儀をして去っていくウェイトレスさんもプレイヤーキャラクターだった。
あの人も現実では別の容姿で別のなにかをしてる人なんだろうなぁ。
「ね、Magician's arenaは現実で叶えられない夢を楽しむ場所って言ったよね?」
「そうですね。そう言う方は大勢います」
「じゃ、ウェイトレスさんとかは?」
「接客業をされている方ですと、職業訓練かもしれませんね」
あぁ、なるほど納得。
つまりはイメージトレーニングなんだ。
自分で想像するより仮想現実でやったほうがずっと効率が良いのは私でも分かる。
うーん、となると、私はなにをしようか。
Magician's arenaがただ単に魔道師を疑似体験するだけのゲームじゃないのは分かった。
と言うか、そんなチャチなものじゃなくて、もっと社会に密接した、もはやなくてはならないシミュレーションシステムだ。
夢に逃げ込むだけの内向的なゲームじゃなくて、現実に立ち向かうための訓練場と言っても良い。
いつのまにか運ばれてきていたハンバーグステーキセットをパクつきながら、ここでの経験をどうやって現実に結び付けようかと頭を捻る。
例えばここで筋肉トレーニングをしても意味はない。ここで鍛えられるのは脳なんだ。
だからシューティングアーツをやっても、あんまり意味はない。
いや、全然ってことはないんだろうけど、効果は薄いと見た。
なら勉強しようかとも思うけど、ここで勉強しなくちゃいけないほど成績は悪くない。
むしろトップクラスだ。えへん。
それにしてもこのハンバーグ美味しいなぁ。
「ヴィヴィアンさん」
「ん?」
「お口の周り、凄いことになってますよ?」
「な!?」
瞬間、顔が真っ赤になる。
うあ、恥ずかしー!
くすくす笑ってるユーノくんを出来るだけ見ないようにしてナプキンでごしごしする。
うぅー、見た目は16歳だけど中身は9歳の子供だもんなぁ。
「そうそう、ここでテーブルマナーを学ばれる方もいらっしゃいます」
「……いじわる」
ほんっとーにNPCなの、このユーノくん!?
今はここまで。
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この記事へのコメント
即興でこのクオリティは嫉妬をさぜる得ない!!ww
そんな、えんぴつ様がスパコン等で一番デジタル統括、統合を希望する分野を聞いてみたりww
続き待ってますです
半年停止……生きてますかぁ?
新作が上がったら嬉しいです
ユラユラと、頑張ってくださいね
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