私の洋書みち

本の感想やら、英語の勉強やら、のらりくらり。

前回に引き続き、今回もジェフリー・アーチャー。しばらく彼の作品を追うことにしました。と言いつつ、飽きたら他の作家に浮気するかもしれません。
英語難易度:★★☆☆☆
おすすめ度:★★★★

何の知識もなく古本屋で適当に購入。よくよく調べてみると、この本は旧版(1977年)と、著者自身の手により改変された新版(1987年)の2つのバージョンが世に出回っているようで、私が手に入れたものは新版だったようです(邦題『大統領に知らせますか?』)。本書に出てくる大統領の生い立ちや素性についてはKane and Abel(邦題『カインとアベル』)、The Prodigal Daughter(邦題『ロマノフスキ家の娘』)に描かれているようなので、そちらも併せて読むとより理解が深まると思われます。とは言え、基本的には一話完結型なので、読んでいなくても全く支障はありませんでした。

ある日、とある上院議員が大統領の暗殺を計画していることをギリシャ人の給仕が偶然耳にする。給仕は英語が分からないふりをするものの、秘密を握った疑いで暗殺される。
FBI捜査官Markは事件の捜査に乗り出す。色々と調べていく中で、銃規制の立法化に奮闘する女性大統領のことを好ましく思っていない上院議員が複数名存在し(彼らは
銃の団体から支援を受けている)、どうやらそのうちの一人がマフィアと組んで女性大統領の暗殺を企んでいるのではないかと言う結論に至る。Markはプライベートではセクシーな女医と恋仲になり愛を育んでいる。しかし、その女医の父親が銃規制に反対している上院議員で容疑者候補の一人として浮上。苦悶するMark。FBIとしては、大統領の命を守りつつ、犯人も逃したくない。大統領に下手に忠言し事を荒立てると、犯人に感づかれ捕獲のチャンスを失いかねない。そのため大統領には一切知らせず、秘密裏に犯人を捕らえる作戦に出るが…。

最初にワシントン中心部の地図が載っているため、ホワイトハウス、議会、FBIの位置関係が把握しやすく、Markがどの道を通ってどこへ行ったかなどイメージしやすかった。FBIの捜査官は普通の警察官より給料が2倍で、事件全体を把握しているのは上層部の一人だけ。末端の捜査官は上から指示されたことをやるのみ。自分に課せられた任務が、事件にどのように繋がっているのか把握してないし、聞いてもいけない。しかし、誇り高くしっかり仕事をこなす。
アーチャーの創作なのかも知れないが、FBI捜査官の行動が謎めいていてワクワクさせらた。一方で、いつまでたっても銃社会をコントロールできず、未だに女性大統領も出現しないアメリカの現実を皮肉っているようで、痛いところを突いてるなあ…と感じた。

MarkはFBIの仕事を単なる腰掛と思っていて、将来的には弁護士になる予定でいる。なので、仕事に対して緊張感が足りない。恋愛にうつつを抜かし女医に危うく捜査内容を打ち明けそうになる。どうにもこうにもフラフラしていて「プロ意識が足りない!」と、いい加減な私でさえ怒鳴りつけたくなった。あと、大学院生に扮し博士論文執筆のため取材と称し議員の委員会に潜入捜査するのはアリなのか?設定として無理やり感が漂っている。だが、フワフワしていて学生気分の抜けないMarkが、いっぱしの捜査官に成長してく様は好感が持てた。

ところどころ、文学や歴史から引用したと思われるユーモアが織り込まれいて、哀しいかな私には分からない部分もありました。たぶん、ネイティブはこういた箇所で笑ったり、なるほど!と思ったりして、楽しんでいるのだろうなあ。英文自体は平易で読みやすかった。せっかくなので次回は先に挙げた本書のシリーズKane and Abelを読んでみようかな。

ジェフリー・アーチャーの処女作。タイトルを直訳すると「1ペニーも多くなく、1ペニーも少なくなく」。一体、何が言いたいのか…意味不明なタイトルですね。因みに邦題は『百万ドルをとり返せ!』となっていて、こちらの方が取っつきやすい気がします。しかしながら、読み終えてしまうと「なるほど!原題のほうがいい!」と思ってしまいました。


 

英語難易度:★★☆☆☆
おすすめ度:★★★★

北海油田の投資話しに騙され財産を失った著者の実体験をヒントに描かれた作品。本作のヒットにより、アーチャーは借金を完済できたのだとか。

オックスフォード大学の数学者、画商、開業医、貴族の4人は北海油田の投資話にまんまと乗せられ、大金を騙し取られる。しかし、このままでは終わりたくない!4人はそれぞれ得意分野を生かし「1ペニーも多くなく、1ペニーも少なくなく」騙し取られた金を取り戻そうと知恵を絞るが…と言った内容。

騙された4人はいわゆる育ちの良いサラブレッド。「生まれも育ちも良く、学歴もあるようなキラキラ輝いている人の弱点って何だろう?」と意地悪な私はつい邪推してしまうのですが、彼らの弱点はご本人たちは意識してないかもしれないけれど、揺るぎない自信をお持ちになっている点ではなかろうかと思うわけです。成功体験と相まって「自分が騙されるわけない。自分が人生の敗者になるわけがない。」と無意識に思っている。加えて、経済的にも恵まれているため投資するための資金を十分に持っている。貧乏人は投資しようにも無い袖は振れませんからね。また、地位も名誉も手に入れてしまうと退屈になってしまうらしく本書に登場する開業医のように「ゲームとして楽しみたい!」と上手い話しに首を突っ込むことになる。いずれにしても、自己の選択に絶対の自信があるのでしょう。「頭のいい人が、一体どうして?」と言うような事件が起こるのもこのためのような気がします。私のような自信のない人間は、上手い話しが転がってきたとしても「そんな幸運が私なんかに巡ってくるわけないよね?」と訝ってしまいます。第一、数字に弱いので投資とか無理です。こわいです。こわいから近づきたくありません。そういった意味でバカはバカなりに不幸にならずに済んでいるのかも。

サラブレッドはやはりサラブレッドらしく、騙されたとしても誇りは失わない。血で血を洗うようなえげつない報復は行わず、あくまで騙された分をきっちり取り戻したいだけ。それ以上でもそれ以下でもない。つまり「1ペニーも多くなく、1ペニーも少なくなく」。最後までジェントルマンらしく、ユーモアたっぷりに、スマートに。因みに、騙した側は無学の叩き上げ。酸いも甘いも知りつくていて一枚も二枚も上手。こういった人間のほうが地獄を見ているぶん、サラブレッドより強い。果たして、サラブレッドたちは金を取り戻ることができるのか…。多少強引な展開もあったものの、最後のオチにはニヤリと笑わずにはいられない。

オックスフォード、エリザベス杯、ウインブルドン、貴族社会など「アメリカ人が憧れるであろうイギリスのイメージ」をイギリス人である著者のアーチャーがアメリカ人の心情をあれこれ慮って描いているように感じた。「歴史のあるイギリスって、すごいでしょ!」と言わんばかりの著者の声が聞こえてきそうな…。いや、すごいと思いますよ。その自信と誇り、私にもわけて欲しいです。

レイモンド・チャンドラーの本は絶対に紙の本で読みたい!と思っていた。Kindleの格安本はChandlerがChanlderになっていたり、購入者レビューも様々な版の感想やクレームが混ざり合っていて、どうにも信用できず購入の判断がつかずにいた。そんな折、近所の紀伊國屋書店のワケあり洋書セール(と言っても、表紙が少し折れている程度)で偶然にもお安く入手したのが、この本。

The Long Goodbye (A Philip Marlowe Novel)
Raymond Chandler
Vintage Crime/Black Lizard
1988-08-12



英語難易度:★★★☆☆
おすすめ度:★★★★★

村上春樹さんが10年の歳月をかけチャンドラー長編7作を翻訳されたそうですが、それらの訳書は興味があるものの一切読んでおりません。敢えて目にしないよう注意さえ払ってきました。と言うのも、以前フィッツジェラルド著『グレート・ギャツビー』を村上訳でうっかり先に読んでしまい「もう、原書にあたらなくてもいいかな…」と満足してしまったから。訳書を先に読んでしまうと原書を読まずに一生を終えてしまいそうなので、今回はそういった事態を避けるべく「チャンドラーは先に原書で読むぞ!」と意気込んでいました。

1ヶ月かけてようやく読了。読み終わりまでに時間がかかったのは、もともと洋書に限らず遅読タイプと言う事情もあるのですが、一文一文がとにかくオシャレなので速く飲み干してしまっては勿体無い!との思いもあったから。上質なチョコレートを噛まずに口の中で転がすように味わう…そんな作品だと感じました。常日頃、いいなぁ!と思った表現に蛍光ペンでラインを引きつつ読む習慣があるのですが、この本はライン引きまくりでした。キザだけどカッコいいセリフがたくさん。長い比喩もたくさん。一つ一つ紹介したいけれど、ありすぎて書ききれない。

私立探偵フィリップ・マーロウは、顔に傷を持つ礼儀正しい酔っ払いレノックスと出会う。レノックスは富豪のあばずれ娘と再婚しヒモ状態。金に一切興味のないマーロウにとって本来どうでもいい人間のはずなのに、レノックスの醸し出す形容しがたい魅力に心を奪われ(と言ってもゲイではない)あれこれと事件に巻き込まれていく。ミステリーとして読むことも可能だけど、そういった犯人捜し的な読み方ではなく男の世界、それも少し前の時代の男らしい男を観察するような思いで読みました。男の友情って、こういった雰囲気なのか…女の私には不可思議。でも、なんだかいい!もちろんマーロウもレノックスも「俺たち友達だよね」などとわざわざ口に出して確認しあうような野暮なことはしない。別れが迫る終盤、“We were pretty good friends once.”とレノックスがついに素直な気持ちを告げるも、“Were we? I foeget. That was two other fellows, seems to me.…”と何ともツンデレなマーロウ。本当の想いは男がそう簡単にペラペラと口にするもんじゃない。内に秘めてぐっと耐える。しかし、最後の最後は…ネタばれになるのでここら辺で止めておこう。昔の男性の方が良かったなどと言うつもりは一切ないが、今や絶滅危惧種となりつつある男らしい男を見たような気がして(もっとも女らしい女も絶滅しつつあるので、お互いさま?)胸がキュンとなりました。男同士の絆は、男女の恋愛や夫婦愛とは異なった類の固さがあるのかも知れない。例えもう二度と会えなくなったとしても。因みに、マーロウは現在の私と同じ年齢(42歳)ということが判明し嬉しかった。マーロウのような分別や他人を見抜く力は私にはないけれど、チャンドラーのイメージするカッコいい40代はこういう人間なのか…と感慨に耽りました。

最後に何度も名前を出して申し訳ないが、村上さんはご本人も言及されている通りチャンドラーの影響を多分に受けていることが改めてよく分かりました。しかしながら、マーロウの恋愛はあくまで爽やか。村上さんの描くような生々しい性描写はない。敢えて描かないぶん行間から読み手に想像させるエロティックさも秀逸。これを機にチャンドラーの他の作品も読んでみたい。

おまけ:マーロウのビーカープリン。ビーカー欲しさに購入。(拡大してご覧いただけます)
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