MBC総研のブログ : 2017年08月

2017年08月

2017年08月30日09:00

カテゴリ: 人材育成

建設業の就業実態

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　理事　廣津　栄三郎

　長い間、地域の基盤産業として多くの雇用を支えた建設業においても、重要な課題が雇用で有ることは周知の通りです。そこで、建設産業の就業実態を知るために総務省｢労働力調査｣2016年のデータを見てみました。

　建設業は全就業者数の約7.6％の人を雇用しています。建設業における男女比は男性85％、女性15％であり、製造業の男性69.8％、女性30.1％や全産業平均の男性56.5％、女性43.5％に比べて女性の就業者数がきわめて少ないのが特徴です。建設業就業者の年齢構成は15～29歳11.4％、55歳以上が30.4％です。全産業平均や製造業を見てみると、全産業で15～29歳16.4％、55歳以上が39.3％であり、製造業で15～29歳15.6％、55歳以上が25.1％です。このことは建設業が10年後には多くの人が退職し、約20％近くの就業者不足が懸念されます。また、現在の建設業が15歳～29歳の若者に支持されているとは言えないことを物語っています。

　職種について比較してみました。男性の専門技術職では建設業6.9％、製造業11.1%で、生産工程・建設・掘削の生産現場を見ると建設業72.7％、製造業61.3％となっています。また、管理職は建設業で4.5％、製造業で3.6％です。つまり、建設業では製造業に比べ専門技術者が約4ポイント少なく生産現場の技能者や作業者が約11ポイント、管理者が約1ポイント高くなっています。次に、女性の職種を見ると建設業では事務職が78.4％で最も高く、生産現場の従事者は10.8％です。製造業では生産現場の生産工程の従事者が58.8％と最も高くなっています。

　若者就業者の３年後離職率を見てみると、平成25年では中卒者63.7％、高卒者40.9％、短大卒41.7％、大学卒31.9％となっています。このことは十代と二十代の年齢の違いと学歴の違いが仕事の取り組み方に対する意識の違いによる結果であると思います。事業規模の違いによって、３年後離職率は5人未満64.4％、5～29人未満57.2％、30～99人未満47.7％、100～499人未満37.9％、500～999人未満31.5％、1000人以上24.7％と成っています。国土交通省｢建設業許可業者数｣平成26年度の資本金別許可業者数を見ると1億円以上1.2％、1000万～1億円38.8％、1000万円以下41.1％、個人19％と成っており、ほとんどが従業員300人以下の中小企業です。

　中小の建設業のける大学卒者の新規採用はきわめて少なく、高卒者を中心に新規採用活動を行わなければ成らない。そこで、高卒者を対象とした業種別の3年後離職率に注目した。建設業50.0%、製造業27.6%そして全産業平均は40.9%です。建設業は製造業に対して22ポイント、全産業平均にたいして9ポイント離職率が高くなっています。　

　今後10数年、市場環境に大きな変化がないことを前提にすると、地域の基盤産業としての中小の建設業は、10年後には深刻な人で不足になること、また新規採用者については企業の規模や高卒者の就業が中心であることから３年後離職率が高いなどの就業実態が見えてきました。

　次回は、これら課題克服の取り組みの例を紹介します。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上

2017年08月23日09:00

カテゴリ: 創業支援

強い想いを実現させた事業①

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　長沼　フミ子　

　国が創業に力を入れて以来、私は毎年「創業塾」などの講師を担当する機会があります。そこに参加してくださった受講生と事業について、このブログでも紹介してきましたが、今回は男性の古木真也さんをご紹介します。古木さんは、現在、マリポ農園、マリポの店、マリポ発酵ラボの３つの事業と、準備中の「マリポの家」の事業を行っている「maripo.commu（マリポ・コミュ）」の代表です。創業準備から４つの事業に進出するまでには、並ならぬ知恵と行動力を発揮してきました。それを今回と次回の２回に分けて、紹介していきます。

１．現在の事業の準備期　
　古木さんは、4年半前に千葉県君津市に移住してきました。それまでにも多様な人生経験をしてきました。大学院で微生物研究を行い、卒業後は青年海外協力隊に参加、製薬会社に勤務し、その後ピースボートで世界一周などを経験してきました。その中で、「日本は経済大国でも豊かではない。環境にやさしい生活。田舎と都会を結びつけるビジネスを実現したい」という思いを、実現する事業を起こしたいと考えていました。　
　しかし、生活していくためには収入が必要です。そのために、その地で比較的容易にできるのが農業であったことから、何を作るか考えました。そのときは、「人と同じものを作っても勝てないし、競争もしたくない」と思ったそうです。そして、国内の需給率が２％以下の「きくらげ」に注目しました。きくらげは中国からの輸入で乾燥したものが多く、生のきくらげは滅多に出回っていません。きくらげは、キノコ類の中でマッシュルームと並んで、生食ができるキノコです。そこで、「お刺身限定で食べるきくらげ」というコンセプトを打ち出し、肉厚で大きなきくらげを作ることにしました。きくらげは、90％以上が水分でできているため、栽培にはおいしい水が必須ですが、古木さんが移住してきた地は里山で湧き水が湧いており、涼しくキノコ栽培には適した地でした。　
　初めは浴室で試験栽培を行い、何とか作ることができたので、雨をしのげればいいと考え、廃品を利用してビニールハウスを自分で組み立てました。しかし、試験栽培のように作れるかどうかの不安と、作っても売れるかの不安がありました。販売が思うようにいかなかったときには、乾燥して「乾燥きくらげ」として商品化するリスク対策も考えていました。栽培には成功し、知人や近所の人の口コミ、カフェにおいてもらうなどの販促で、卸していた直売所で飛ぶように売れるようになりました。　

　事業を始めるにあたり、他と差別化を図る要因、リスク対策まで考え「生のきくらげ」で創業準備を始め、事業を軌道にのせることができています。次回は、創業の想いを実現している現在の事業を紹介していきます。

2017年08月09日09:00

カテゴリ: 事業再生

事業計画を作成する意味

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　寺嶋　直史

　一般的に事業再生のコンサルティングは、以下のプロセスで実施します。
　　① 事業デューデリジェンス（企業の調査、事業調査報告書の作成、以下事業ＤＤ）
　　② 事業計画の作成
　　③ 実行支援

　しかし、近年は認定支援機関の制度を活用して、いきなり上記②の「事業計画の作成」のみを実施するケースも増えています。

　この認定支援機関の制度は、業績が悪化した再生企業に対して、事業計画（経営改善計画）の作成を推進するために設けられたものです。「しっかり計画を作成して再生に取り組むように」という指導の意味が込められたものです。

　しかし、再生企業というのは、色々な問題が起きて業績が悪化した訳であり、この問題（その原因）を改善しなければ、業績は悪化するはずがありません。
　この問題点とその原因を究明するのが「事業ＤＤ」であり、このステップを省いてしまうと、問題点の発見や原因究明ができないため、改善を図ることは困難になります。
　つまり、事業ＤＤを実施しなければ、何が問題で、どうやって改善して経営を立て直すかがわからないのです。そのような中で、単に数字を表面的にいじって、数字上だけで改善するように描いたところで、その計画に何も意味はありません。

　しかし、この事業ＤＤを実施せずに、つまり問題点がわからないまま、どのように改善するかが不明確なまま、将来的な改善が見込めるような事業計画を作成するケースが多いのが現状です。

　では、なぜこのようなケースが増えるかというと、この認定支援機関の制度を活用することで、国から補助金が入るからです。作成費用の３分の２、上限で200万円という費用が、国から負担されるのです。だから、各地のコンサル会社や税理士法人は、認定支援機関制度を活用して計画策定に走るのです。

　しかし、この事業計画というのは、以前から作成されていました。経営者が金融機関の支援を受けながら作成したり、税理士やコンサル会社が支援するケースもありました。ただし、簡易的なものであり、前述のとおり問題点や原因を究明したものではないので、せいぜい５～10万円程度の価値しかないレベルです。
　その程度の中身のものが、この認定支援機関の制度を活用することで、100～200万円に化けることもあるのです。

　では、本来どのように事業計画を作成すればいいのでしょうか。
　それは、前述のとおり、事業ＤＤを実施して、しっかりと業績悪化の問題点とその原因を究明することです。そして、その原因にメスを入れ、改善策を導き出し、改善策を実行する上で計画がどのように改善されるのかを描くのです。
　こうして作成された計画が、実際に中身のある計画になるのです。

　事業計画を作成する意味は、事業の中身を吟味した上で、数字に落とし込むことです。こうしてようやく、中身のある事業計画になり、計画に魂が入るのです。単に事業計画書作成という「形」だけでなく、その中身を考えることこそが、事業計画を作成する意味なのです。以上

2017年08月02日09:00

カテゴリ: コラム

医療の地域連携の体験

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　手島　伸夫

　私は、中小企業診断協会の東京支部の医療ビジネス研究会の幹事として、医療体制の勉強を10年間続けてきました。先ごろ家の者が、悪性腫瘍になり緊急手術をする中で医療体制の色々な経験を直接しています。医療業界が、ダイナミックな変化をしているのを体験しています。
　医療業界は、400床以以上の入院設備と高度医療提供、開発評価、並びに研修能力を持った大学病院などの特定機能病院を頂点として、200床以上の地域医療支援病院や大型総合病院、および「中小病院と診療所」があります。それぞれの医療機関が、その機能分担を的確にできるように地域で医療連携ができる構造を目指しています。
　今回、家人がお世話になって手術をした病院は、「地域医療支援病院」であり、ガン治療の拠点病院でもあります。

　医療は、このような病院の規模区分だけでなく、病床の種類が、一般病床、療養病床、感染病床、精神病床、結核病床に分けられています。一般病床は、短期入院用の急性期病床と長期入院用の慢性期病床に区分され、高齢化のピークに向けて、急性期病床を高度急性期、一般急性期、亜急性期の病床数を整備し、医療を適切に提供できる体制を作ろうとしています。このような医療施設の種類、病床の種類、看護体制などで同じ診療内容でも診療報酬金額は異なります。
　病床の現状は、急性期の手厚い看護をする７：１（患者：看護師）病床が、診療報酬上で有利なために約36万床と増えすぎて過多となっているために、需要が多くなる生活復帰を目指す亜急性期などの病床を約26万床に転換増床して充実させようとしています。そのために国は、医療機能分化を促進させています。
　中小病院に関係が深いのは、新設された地域包括ケア病棟への国の誘導です。これには有利な加算がありますが、在宅復帰率７割以上、看護配置13:1などの12項目の評価基準に適合する必要があります。
　いずれにせよ、中小病院や診療所と役割分担を上手にして、これからの国全体の高齢化と医療費増加に対策仕様としているのです。

　私が、経験したのは、町の診療所からガン拠点病院へのスムーズな紹介でした。同時にからガン拠点病院から、手術を安全に行うための生活習慣病に関する同じ患者である家人の逆の患者紹介です。ＣＴスキャンなどのデーターを簡単に出すだけでなく、町医者からも気軽に拠点病院へ連絡を取り、診察予約日を決定してくれるなど、「地域連携パス」が動き始めたことを体感しました。今後は、少しずつその改善体験を、このブログに報告して行ければと思っています。