フラッシュ―或る伝記/ヴァージニア・ウルフマルテの手記/ライナー・マリア・リルケ

2018年03月31日

カオスの紡ぐ夢の中で/金子邦彦

円城塔の指導教官だった人の本で、科学者なのに小説書いてる!ということで読んでみた。
科学エッセイ半分と、小説が半分。おおむね、複雑系だとか、カオス理論だとかが話題になっているわけだが、イチローのバッティングを話題にしたり、学会や科学ジャーナリズムへの苦言を入れたり、調子としてはほとんど雑談のようで、科学的素養のない(わたしのような)人にも平易ではある。複雑系研究というのは一風変わった科学というか、対象も方法もこれ!と決定できるようなものでもなく、これを読んでも分かった気がしないのだが、「従来の科学の単純さへの還元主義」的な流れに抗する、いうなれば現実を見る科学という感じでなんとなく好感を覚える。科学は絶対真理の発見競争ではなく、文化である、みたいなことを言ってくれる人間が科学者の中にいることは頼もしい。レイコフやベイトソンといったわたしのお気に入りの学者の名前が出てくるのも嬉しい。解説の円城塔いわく、「複雑系の教科書や、入門書というものは存在しない。それは単に、複雑とされる事象への新たな取り組み方を考えるための学問だからだ。必要と言うことであれば全てが要る。あらゆるものは接続し、因果の網は入り乱れ、何がどこへ影響するのか咄嗟の判断などはしようがない。複雑性研究とは本来、そんな渾沌をなす事象の中から、何を確固たるものとして取り出せるのかを追求する運動だと言える。」ゆえに、「ただ態度があるだけであり、本書はそれを差し出している」。と解説の円城節は冴えているが、著者自身の文章は拙いというか、無頓着な感じで、この本の値打ちをだいぶ下げているとは思う。
小説2編は、最初のが、もしカオスがなくなったら?というのを試行したシミュレーション小説。悪魔が出てきたりとノリは星新一みたいな感じ。もうひとつが、自動物語生成装置を描いた、2つの意味で円城塔の雛形的作品。どちらも面白く読んだ。が、アイデアが面白いだけ、でもある。小説としてはやっぱり拙い。複雑系研究のモデルという観点での成否は分からないけど、物語論小説論的な観点では、そんなふうに小説は進化しねーよとどうしてもつっこみたくなってしまう。(その辺は最後のオチでお茶を濁されてはいるけれども。)

カオスの紡ぐ夢の中で (〈数理を愉しむ〉シリーズ) (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)カオスの紡ぐ夢の中で (〈数理を愉しむ〉シリーズ) (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)
金子 邦彦

早川書房 2010-05-30




mdioibm at 17:09│Comments(0) 読書録 

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