サカサマのパテマ/吉浦康裕島とクジラと女をめぐる断片/アントニオ・タブッキ

2018年06月02日

職業としての小説家/村上春樹

雑誌monkeyに連載された、村上春樹の創作をテーマとしたエッセイ集。
目次を列挙してみよう。
「小説家は寛容な人種なのか 」「小説家になった頃」 「文学賞について」 「オリジナリティーについて」  「さて、何を書けばいいのか?」  「時間を味方につける──長編小説を書くこと」  「どこまでも個人的でフィジカルな営み」  「学校について」  「どんな人物を登場させようか?」  「誰のために書くのか?」  「海外へ出て行く。新しいフロンティア」  「物語があるところ・河合隼雄先生の思い出」
著者はこれまでもその創作観をいろんなところで語っているが、それをひとところにまとめておきたいという気持ちもあったようだ。比較的新しい読者や、あるいは創作を志す若い人にとっては、大作家の舞台裏(というほどのものでもないが)を広く見渡せる、ハンディな本ということになりそうだ。「小さなホールで、だいたい二十人から三十人くらいの人が僕の前に座っていると仮定し、その人たちに語りかける」講演をイメージしているとはいっているが、その二三十人はどのみち寄りぬかれた文学通とかではなく、たぶん任意のサンプル集団であって、そこにはたとえば『海辺のカフカ』でムラカミをはじめて読んだヒスパニックの少年みたいな層も含まれていて、つまりは非常に広い読者層に向けて語られてる感じだ。有意義な本だと思うが、長年の読者からすると、もうそれ聴いたことあるよ、もっとマニアックな話をしてくれよ、という気分はどうしてもある。本人は河合隼雄のことなんてなにも知らなかったけど、奥さんが河合隼雄のファンで「あえて本を読む必要はないけど、この人とは合った方がいい。きっと良い結果が生まれるから」と熱心にすすめるので会うことにした、とかいう話とかをもっと聴きたい。

以下、一部引用。

また映画の話になりますが、スティーブン・スピルバーグの作った『E.T.』の中でE.T。が物置のがらくたを引っかき集めて、それで即席の通信装置を作ってしまうシーンがあります。覚えていますか? 雨傘だとか電気スタンドだとか食器だとかレコード・プレイヤーだとか、ずっと昔見たきりなのだ詳しいことは忘れたけど、ありあわせの家庭用品を適当に組み合わせて、ささっとこしらえてしまう。即席とはいっても、何千光年も離れた母星と通信をとれる本格的な通信機です。映画館であのシーンを見ていて僕は感心してしまったんですが、優れた小説というのはきっとああいう風にしてできるんでしょうね。材料そのものの質はそれほど大事ではない。何よりそこになくてはならないのは「マジック」なのです。日常的な素材やマテリアルしかなくても、簡単で平易な言葉しか使わなくても、もしそこにマジックがあれば、僕らはそういうものから驚くばかりに洗練された装置を作り上げることができるのです。


職業としての小説家 (新潮文庫)職業としての小説家 (新潮文庫)
村上 春樹

新潮社 2016-09-28




mdioibm at 12:04│Comments(0) 読書録 

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サカサマのパテマ/吉浦康裕島とクジラと女をめぐる断片/アントニオ・タブッキ