みんなとの出会い~3rd season episode 6~

それから程なくして、9月のスピリチュアルラウンジでのライブを終えた後シゲが脱退することになった。
理由はまあ音楽性の違いだろう。
前話でも書いた様にシゲとぼくたちとはやりたい音楽が少し違ったんだと思う。
それまでぼくはシゲに飯濱さんの曲がどれだけいいかを何度もぶつけていた。
しかし、ある事をきっかけにきっとシゲは人間的にぼくら3人とは違うと感じてしまいぼくは早く脱退してくんないかなぁと思っていた。
そのある事というのは、その年の8月にぼくは愛猫のゲンを交通事故で亡くしてしまった。
悲しくて悲しくて飯濱さんとシミの前でもスタジオに向かう途中の車内で泣いてしまったこともあった。でも2人はぼくを一生懸命励まし慰めてくれた。
そんな中、シゲが結果的に最後になったスピリチュアルラウンジでのライブ打ち上げ後、帰り際の何かの会話中、シゲはあろうことかゲンに対してぼくに「死んだ猫じゃん」と吐き捨てたのだ。
この一言でぼくはシゲを「友達」カテゴリーから「間違って電話とか出たくないから電話帳には残しておこう」カテゴリーに移した。
今思えば、だからシゲには飯濱さんの曲の良さがわからなかったんだと思う。
同じ人間でも、仲間に対して「死んだ猫じゃん」と吐き捨てるシゲもいれば、一度も会ったこともないぼくの大好きなゲンをmondaysickの曲の中で生かし続けてくれる飯濱さんもいるのだ。

僕達は3人に戻った。
そしてまたメンバー探しの長い旅が始まる。
実際はそこまで長くはない。

1人目はベースで入る予定で1度4人でびっくりドンキーでご飯を食べ、その後シミの部屋でスタジオ帰り恒例のmondaysickゲーム大会に参加。
何故かmondaysickには入らないがゲーム大会にだけは是が非でも参加したいと言い出した元supernovaというバンドの無駄に髪量の多いベーシスト「あべっち」。
このsupernovaというバンドが実はぼくはあまり好きじゃない。
バンドが好きじゃないというよりも、supernovaのボーカルの池守くんが嫌いだった。
何故かというと、ある日、飯濱さんが自分の歌に対して何か思い悩んでいる様子で、訳を聞いてみると池守くんが飯濱さんに上から目線で「その歌い方じゃダメ」やら「もっとこう歌った方がいい」やらほざき散らかしたらしい。
この若造は一体誰に物を言っているのだろうか。
それを聞いたぼくはそれはそれは怒り心頭、その日の夜、池守くんを狸小路から一本逸れた街灯の少ない路地に呼び出し、歩いて帰れないくらいにはボコボコにしてやった。くらいの気持ちでブログを介してささやかに池守くんの悪口を書いてやった。書いてからしばらくの間は見られたらどうしようとドキドキしていた。あいつ結構身長高いし。
ぼくの心臓はノミサイズなのだ。
それからsupernovaはあまり好きじゃない。

2人目は飯濱さんが担当していたThree Sevenというバンドの元ベーシスト「たいすけくん」。
1度スタジオに見学にきて「天才ばかりだから無理です」と言って笑いながら拒否された。
飯濱さんとぼくはまぁわかりますが、清水くんは天は天でも天パです。

そして3人目。
「COLONYのP.Aの中村くんだな。」
飯濱さんがまるでもう決めていたかの様に言い放った。それまで一切話に出てきていなかったし、なんか太ってるイメージが強かったのでぼくはあまりピンとはこなかった。実は飯濱さんはもう大分前から連絡を取り合っているらしい。
しかし中村くんには2つ問題があった。
1つは自分のことをポッチャリ系だと勘違いしていること。
もう1つは、中村くんは現在パブランチというバンドでベースを弾いているということだ。
まぁバンドの掛け持ちなんてざらにあることなのだが、いかんせんぼくは掛け持ちが大嫌いなのです。
飯濱さんはそれは仕方ないことだと大人ぶっていた。しかし飯濱さんがぼくよりもアンチ掛け持ちだということをぼくは知っている。
何故かというと、飯濱さんは究極の嫉妬野郎なのだ。
どれくらいかというと、ある日のライブ当日。ぼくらはライブの日の朝は必ずスタジオに入って最終確認をしてからリハーサルに向かうのだが、スタジオ終わりから飯濱さんの様子がおかしい。
車の中でも全く喋らないしライブハウスに着いてもメンバーと別行動でリハーサル中もあからさまにイライラしていた。
リハーサル後、
金子「昼飯何食べに行きます?」
飯濱「おれはいい」
金子「…。どうしたんすか?なんかあったんすか?」
飯濱「いや?特に何もないけど」
金子「いやいや、明らかにおかしいですって!」
飯濱「だって、出てないじゃん!」
金子「え?」
飯濱「おれだけ夢に出てないじゃん!」
金子「…(うわぁ、めんどくせー)」

事の発端はこうだ。

朝のスタジオ終わり、片付けをしてる最中にぼくが今朝見た夢の話をメンバーにした。
その夢にはmondaysickメンバーが出てくるのだがなかなか飯濱さんが出てこない。
しびれを切らした飯濱さんが話を割って入ってきた。

飯濱「で、おれは?」
金子「出てねっす」
飯濱「え?なんで?」
金子「なんでって夢ですもの」
飯濱「そうなんだ」

最終的に飯濱さんだけ出てこない夢だったのだ。
それに対して彼は怒りと悲しみとジェラシーを煮えたぎらせ、それを抑えようとした挙句面倒くさい彼女みたいになっているのだ。

その結果

金子「昼飯何食べに行きます?」
飯濱「おれはいい」
金子「…。どうしたんすか?なんかあったんすか?」
飯濱「いや?特に何もないけど」
金子「いやいや、明らかにおかしいですって!」
飯濱「だって、出てないじゃん!」
金子「え?」
飯濱「おれだけ夢に出てないじゃん!」
金子「…(うわぁ、超めんどくせー)」

大事なので2回書いてみました。

夢に自分が出ていないことに本気で怒れる人間がこの地球上に一体何人いるのだろうか。何人どころか存在するのだろうか。この人一体何歳なのだろうか。

焼き餅屋さんとして一部上場できる程の彼が自分のバンドメンバーが他のバンドで演奏した場合、一体どうなるのか、簡単に想像できる。恐らく翌朝のズームインで取り上げられるくらいの事件にはなるだろう。

そんな心配をよそに飯濱さんが早速中村くんに連絡してスタジオに入ることになった。

飯濱さんは連絡を取ってるくらいなのである程度面識はあるがぼくとシミはほぼ初対面だ。
メンバーを探しているとはいえ誰でもいいわけではない。
プレイヤーとしては一体どんな人間なのだろうか。
多少の緊張感を持ちながら飯濱さんとシミを乗せてスタジオに向かった。
ぼくらの方が先に着いた様で中村くんを待たずに先にスタジオに入った。
ぼくらがスタジオに入ってどれくらい経っただろう。10分、20分… 軽く30分は経っていた。
ろくでもない奴だ。初顔合わせで遅刻など言語道断である。世間知らずの非常識極まりない。人の事は言えないが。(1st season episode 1参照 )
ただ待っているのもなんなので練習しながら待つことにした。
ぼくらが音を出してるのでドアが開く音は聞こえない。そんな中、ふとドアがゆっくり開くのが視界に入った。
まだ演奏もしてないのに脂汗で顔をテカらせて入ってきた彼の第一印象はやはり※TDDBだった。

続く

※TDDB=Ta Da no De Bu

みんなとの出会い~3rd season episode 5~

一方その頃、社会人男性ならば9割が持っている職というものから一心に逃げていたぼくの財布は数千年に一度の飢餓期に入っていた。
この飢餓状態から脱出すべく、ぼくは一度実家に帰りパチンコ屋さんで働き、小金持ちになってまた札幌に戻ることにした。
なぜ札幌で働かず地元で働こうとしたかというと、ただ万年ホームシックだったからだ。
週2〜3のスタジオの度に札幌まで車を走らせスタジオが終わったらトンボ帰りという、冷静になってみるとガソリン代を考慮すれば苫小牧にまで帰って仕事をした意味はない。むしろマイナスです。
そんなある日のスタジオ、ぼくのいないところでベースのシゲが飯濱さんに「もっとメロディアスな曲と激しい曲が欲しい。」と言ったらしい。
ぼくは内心何言ってんだこのたわけがと少し呆れた。
それに併せて飯濱さんはぼくにもシゲにも曲を書いて欲しい、そして書いた人が歌うバンドにしようと何度か言っていた。
ぼくはその提案に大反対で、飯濱さんが書くからmondaysickであって、ぼくやシゲが書く曲なんか小学校低学年レベルみたいなものだ。そんな曲が入ってしまったら高級フレンチフルコースによっちゃんイカ入れてみました的な実に残念なコースになってしまう。

飯濱さんはシゲの「もっとメロディアスな曲と激しい曲が欲しい。」という要望に応え新しい曲を書いてきた。
まず1曲目は「ブランコ」。
飯濱さんは「これでメロディアスじゃなかったらシゲの言うメロディアスがわからない」と言っていた。激しく同意だ。むしろ今までの曲で十二分にメロディアスだと思うのだが。

それから数日後のスタジオにて、もう1曲飯濱さんが新曲を持ってきた。
ここで事件は起きた。
スタジオマグナムの絨毯張りの約10畳程の部屋。
既存の曲を一通り練習した後、みんなで休憩してる最中に飯濱さんがギターストラップを肩にかけ、新曲を披露し始めた。

あの時の興奮は今でも忘れない。いや、忘れられないのは他に理由があったからなのだ。

飯濱さんが弾き語っている最中、あまりのかっこよさに立ち上がり飯濱さんに近寄って聴き入っていた。
すると飯濱さんは突然演奏をやめてぼくを睨みつけた。
飯濱「ふざけんなよマジで。やめるか?帰るか?」
金子「え?」
飯濱「もういいわ。やる気ないなら帰るぞ。」
新曲のかっこよさに大興奮して舞い上がっていたぼくは天から地に脳天から叩き落された。全盛期のアンドレ・ザ・ジャイアントのブレーンバスター並みの破壊力だった。猪木万歳。
なんなのこの人、誰が連れてきたのこの理不尽プンプン大魔王。意味わかんない。
しかし、シミやシゲが落ち着かせて話を聞くと、飯濱さんが歌っている最中、バカにする様な態度でぼくが聴いていて、それを見て激怒したらしい。全然そんなつもりはなかったのだが。
シミからの情報によるとなんかどっかの民族の舞みたいなのを踊ってたらしい。
まあどちらにせよそれほど興奮してたのだ。いいじゃん。
取り敢えず謝ってみたものの飯濱さんの激怒モードは解除されず、「帰るわ。もうそんな気分じゃない。こんな状態で曲やったって合うはずがない。」の一点張りで、mondaysickの存続自体が危ぶまれる程の空気の重さだ。
しかしそんな中、札幌屈指の空気を読めません野郎こと清水くんが言い放った。
清水「まあまあ、じゃあ1曲だけやりましょ!」
金子「…(やんのかよ…)」
正直ぼくもこんな状態でやっても息が合うはずもないと思っていたし、バラバラの演奏をして余計空気が悪くなるのは目に見えていたので帰りたかった。なんか悲しかったし。
飯濱「1曲やったら帰るからな。」

史上最悪の雰囲気の中、サンタをやってスタジオを上がることになった。絶対合うはずがない。

そのサンタを終えて、
一同「なんかめちゃくちゃ良かったよね!今までで一番良かったんじゃない!?」
確かに当時一番難しい曲で、ミスなく1曲通せたのは初めてだった。
肝心の飯濱さんは…

飯濱「(⌒▽⌒)」

簡単な男だ。

しかし、こんな状態でベストが出せるなんて、人間というのはわからないものだ。

上機嫌になった飯濱さんに再び新曲を歌ってもらい、ドラムとベースはイメージがあるらしく、一通り教えてイントロAメロBメロ辺りまでざっくりとだができて、普段スタジオではほぼギターフレーズを考えないぼくなのだが、笹蜘蛛の巣を破いたら蜘蛛の子が溢れてくるが如くフレーズが湧きて出てきた。おぇ。
それくらいぼくのどストライクな曲だったのだ。ライブ映えすること間違いなし。

シミとサンタと新曲のおかげで、数時間前まで危機的状況だったとは思えない程の好感触でスタジオを終えたが、その日以降ぼくはmondaysickの飯濱壮士起爆剤として厳重にマークされるようになる。
飯濱理不尽伝説と金子歩く地雷伝説の始まりだ。

そしてそのきっかけとなった新曲の曲名は
「ミラー」

続く

金子 裕幸 コメント

今回ぼくは、16歳の時から寄り添って過ごしてきた大切な人との間に新しい命を授かり、その命と家族を守るため、音楽とは違う場所でがんばろうと決めました。

 

13の時、初めてギターに触れました。

14の正月、親に黙ってお年玉を全部使って初めてギターを買いました。

24の春、苫小牧でなんの光や希望もなく音楽を続けているぼくを飯濱さんが見つけてくれました。

25の冬、mondaysickに入りました。

それから約5年間、mondaysickで走り続けました。

メンバーと毎日の様にスタジオに入って練習して、色んな地域に行ってライブして、メンバーとたくさんの景色を見て、たくさんの人と出会って、音楽はもちろん人としての部分もたくさん学ばせて貰いました。

たくさん叱られて、壁にぶち当たって挫けそうになったこともありました。

でも今まで続けてこれたのは今のメンバーだったからだと思います。

感謝の気持ちが言葉にできません。

 

突然の発表で驚かせてしまった方も多いとは思いますが、今まで応援して下さったファンの方々、いつも支えて下さったmondaysickスタッフの方々、ライブハウス関係者の方々、一緒にライブをしてくれたバンドマンとアーティストの方々、そしてなにより飯濱さん、シミ、ユッキー。

本当に本当にありがとうございました!

 

 

いつか、新しく産まれてくる命が大きくなって、音楽に興味を持って、もし楽器を始めようとしたなら、ぼくはきっとmondaysickのビデオを見せて、メンバーと旅した記憶たちを何日もかけて話すつもりです。


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