それから程なくして、9月のスピリチュアルラウンジでのライブを終えた後シゲが脱退することになった。
理由はまあ音楽性の違いだろう。
前話でも書いた様にシゲとぼくたちとはやりたい音楽が少し違ったんだと思う。
それまでぼくはシゲに飯濱さんの曲がどれだけいいかを何度もぶつけていた。
しかし、ある事をきっかけにきっとシゲは人間的にぼくら3人とは違うと感じてしまいぼくは早く脱退してくんないかなぁと思っていた。
そのある事というのは、その年の8月にぼくは愛猫のゲンを交通事故で亡くしてしまった。
悲しくて悲しくて飯濱さんとシミの前でもスタジオに向かう途中の車内で泣いてしまったこともあった。でも2人はぼくを一生懸命励まし慰めてくれた。
そんな中、シゲが結果的に最後になったスピリチュアルラウンジでのライブ打ち上げ後、帰り際の何かの会話中、シゲはあろうことかゲンに対してぼくに「死んだ猫じゃん」と吐き捨てたのだ。
この一言でぼくはシゲを「友達」カテゴリーから「間違って電話とか出たくないから電話帳には残しておこう」カテゴリーに移した。
今思えば、だからシゲには飯濱さんの曲の良さがわからなかったんだと思う。
同じ人間でも、仲間に対して「死んだ猫じゃん」と吐き捨てるシゲもいれば、一度も会ったこともないぼくの大好きなゲンをmondaysickの曲の中で生かし続けてくれる飯濱さんもいるのだ。
僕達は3人に戻った。
そしてまたメンバー探しの長い旅が始まる。
実際はそこまで長くはない。
1人目はベースで入る予定で1度4人でびっくりドンキーでご飯を食べ、その後シミの部屋でスタジオ帰り恒例のmondaysickゲーム大会に参加。
何故かmondaysickには入らないがゲーム大会にだけは是が非でも参加したいと言い出した元supernovaというバンドの無駄に髪量の多いベーシスト「あべっち」。
このsupernovaというバンドが実はぼくはあまり好きじゃない。
バンドが好きじゃないというよりも、supernovaのボーカルの池守くんが嫌いだった。
何故かというと、ある日、飯濱さんが自分の歌に対して何か思い悩んでいる様子で、訳を聞いてみると池守くんが飯濱さんに上から目線で「その歌い方じゃダメ」やら「もっとこう歌った方がいい」やらほざき散らかしたらしい。
この若造は一体誰に物を言っているのだろうか。
それを聞いたぼくはそれはそれは怒り心頭、その日の夜、池守くんを狸小路から一本逸れた街灯の少ない路地に呼び出し、歩いて帰れないくらいにはボコボコにしてやった。くらいの気持ちでブログを介してささやかに池守くんの悪口を書いてやった。書いてからしばらくの間は見られたらどうしようとドキドキしていた。あいつ結構身長高いし。
ぼくの心臓はノミサイズなのだ。
それからsupernovaはあまり好きじゃない。
2人目は飯濱さんが担当していたThree Sevenというバンドの元ベーシスト「たいすけくん」。
1度スタジオに見学にきて「天才ばかりだから無理です」と言って笑いながら拒否された。
飯濱さんとぼくはまぁわかりますが、清水くんは天は天でも天パです。
そして3人目。
「COLONYのP.Aの中村くんだな。」
飯濱さんがまるでもう決めていたかの様に言い放った。それまで一切話に出てきていなかったし、なんか太ってるイメージが強かったのでぼくはあまりピンとはこなかった。実は飯濱さんはもう大分前から連絡を取り合っているらしい。
しかし中村くんには2つ問題があった。
1つは自分のことをポッチャリ系だと勘違いしていること。
もう1つは、中村くんは現在パブランチというバンドでベースを弾いているということだ。
まぁバンドの掛け持ちなんてざらにあることなのだが、いかんせんぼくは掛け持ちが大嫌いなのです。
飯濱さんはそれは仕方ないことだと大人ぶっていた。しかし飯濱さんがぼくよりもアンチ掛け持ちだということをぼくは知っている。
何故かというと、飯濱さんは究極の嫉妬野郎なのだ。
どれくらいかというと、ある日のライブ当日。ぼくらはライブの日の朝は必ずスタジオに入って最終確認をしてからリハーサルに向かうのだが、スタジオ終わりから飯濱さんの様子がおかしい。
車の中でも全く喋らないしライブハウスに着いてもメンバーと別行動でリハーサル中もあからさまにイライラしていた。
リハーサル後、
金子「昼飯何食べに行きます?」
飯濱「おれはいい」
金子「…。どうしたんすか?なんかあったんすか?」
飯濱「いや?特に何もないけど」
金子「いやいや、明らかにおかしいですって!」
飯濱「だって、出てないじゃん!」
金子「え?」
飯濱「おれだけ夢に出てないじゃん!」
金子「…(うわぁ、めんどくせー)」
事の発端はこうだ。
朝のスタジオ終わり、片付けをしてる最中にぼくが今朝見た夢の話をメンバーにした。
その夢にはmondaysickメンバーが出てくるのだがなかなか飯濱さんが出てこない。
しびれを切らした飯濱さんが話を割って入ってきた。
飯濱「で、おれは?」
金子「出てねっす」
飯濱「え?なんで?」
金子「なんでって夢ですもの」
飯濱「そうなんだ」
最終的に飯濱さんだけ出てこない夢だったのだ。
それに対して彼は怒りと悲しみとジェラシーを煮えたぎらせ、それを抑えようとした挙句面倒くさい彼女みたいになっているのだ。
その結果
金子「昼飯何食べに行きます?」
飯濱「おれはいい」
金子「…。どうしたんすか?なんかあったんすか?」
飯濱「いや?特に何もないけど」
金子「いやいや、明らかにおかしいですって!」
飯濱「だって、出てないじゃん!」
金子「え?」
飯濱「おれだけ夢に出てないじゃん!」
金子「…(うわぁ、超めんどくせー)」
大事なので2回書いてみました。
夢に自分が出ていないことに本気で怒れる人間がこの地球上に一体何人いるのだろうか。何人どころか存在するのだろうか。この人一体何歳なのだろうか。
焼き餅屋さんとして一部上場できる程の彼が自分のバンドメンバーが他のバンドで演奏した場合、一体どうなるのか、簡単に想像できる。恐らく翌朝のズームインで取り上げられるくらいの事件にはなるだろう。
そんな心配をよそに飯濱さんが早速中村くんに連絡してスタジオに入ることになった。
飯濱さんは連絡を取ってるくらいなのである程度面識はあるがぼくとシミはほぼ初対面だ。
メンバーを探しているとはいえ誰でもいいわけではない。
プレイヤーとしては一体どんな人間なのだろうか。
多少の緊張感を持ちながら飯濱さんとシミを乗せてスタジオに向かった。
ぼくらの方が先に着いた様で中村くんを待たずに先にスタジオに入った。
ぼくらがスタジオに入ってどれくらい経っただろう。10分、20分… 軽く30分は経っていた。
ろくでもない奴だ。初顔合わせで遅刻など言語道断である。世間知らずの非常識極まりない。人の事は言えないが。(1st season episode 1参照 )
ただ待っているのもなんなので練習しながら待つことにした。
ぼくらが音を出してるのでドアが開く音は聞こえない。そんな中、ふとドアがゆっくり開くのが視界に入った。
まだ演奏もしてないのに脂汗で顔をテカらせて入ってきた彼の第一印象はやはり※TDDBだった。
続く
※TDDB=Ta Da no De Bu