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2015年09月

ボクのわずかな表情の変化に気づいた岡村が眉根を寄せる。

「どうかした?」
「いや、その……」
「ん?」

答えようとすると、背中の方から淡々とした声が聞こえてきた。

≪まったく、奥手ね≫
≪や、やっぱり!≫

はっとして振り向くボクに、岡村もO様もひなちゃんも一緒になって顔を向けてきた。
確信したボクは伺った。

「O様、ひなちゃんの他に猫ともお住まいですか?」
「あ、はい。ササっていうメス猫がおります。二階にいるのに、よくお分かりになられましたね」

ボク達が今いる場所はひなちゃんが横たわるリビングで、そこには猫を飼っておられる形跡は一つもない。
ただ、いつの間にか引き戸のリビングドアに隙間が空いていたのだ。
その隙間からボクの背中に鋭い視線を突き刺していたのがキジトラ柄のササちゃんだった。

≪それにしてもあんた、忍び足一級有資格者のアタシに気づくとはやるわね。Oさんだって、まだアタシに気づかなかったっていうのに。奥手な割に勘が鋭い男。その慎重さは嫌いじゃないわ≫

なんのこっちゃ分からないが、とりあえずは気に入られたらしい。

≪それにしてもあんた、これからしばらく妹のお世話するんでしょう?≫
≪妹って……もしかしてひなちゃんのこと?≫
≪決まってるじゃない。あんたね、妹のお世話をするなら身体に触れなくちゃ話になんないわよ≫
≪わかってるけど……≫
≪あのね、一見すると奥手ってピュアな印象を与えるから「彼、優しくていいかも」なんて思われがちだけど、だからって奥手なだけじゃいつまでたっても進展しないの。ううん。そのうちむしろ物足りなくなってきて「彼、あたしに興味がないのね」になる。で、結局最後はサヨナラ……。いい、アンタ!? 気づいた時に後悔しても、もう後の祭りなのよ!!!」

引き続き混乱してるボクに呆れたササちゃんの耳がピクッと動く。

≪ああ、もう男って面倒くさい! アイツもそんな感じだったわ!≫
≪アイツ?≫
≪あんたには関係ないでしょ!≫
≪あ、はい。なんか、ごめん≫

ササちゃんはプリプリした様子でドアの隙間から姿を消した。
釈然としないボクにO様が言う。

「ササは元ノラ猫で、保護猫の譲渡会で出逢って一緒に暮らすことになったんです。ひなちゃんよりも先住なんですよ」
「先住なんですね。だから妹って言ってたんだ」
「はい?」
「あ、いえ。ところでササちゃんの譲渡会での様子なんですが、他に仲が良さそうな猫とかいましたか?」
「さあ、どうだったかしら……。譲渡会主催のボランティアの方のお話ですと、ササはとにかくプライドが高い子なんで、仲良しの猫はいなかったって仰っていたような……」

さっきのボクに対する態度からすると合点がいく。

「ササは人馴れもしてないんで、ボランティアの方々も苦労してらっしゃったようです。だから里親がなかなか見つからなかったみたいで。ただ……」
「ただ?」
「一人のお若い男性が、譲渡会の度にササを見に来てたみたいです。ボランティアの方々もぜひ里親にと期待していたらしいんですが、ある日を境にぱったりと来なくなってしまったみたで……」

それが『アイツ』の正体かもしれないなあ。
なにがあったかは詳しくわからないけれど、その男性との突然の別れで、きっとササちゃんは寂しかったのだろうなあ。
その後にO様と暮らせるようになったのは不幸中の幸いだけれど……。
思いながらササちゃんがなくなったドアの隙間を眺めていると、ひなちゃんが鳴いた。

「ウオンッ!」

ボクとばっちり目が合う。

≪お姉ちゃん、あんな感じだけど本当はやさしいのよ。じゃなきゃ、人馴れしていないのにわざわざ様子を見にこないもの。だから大目に見てあげて≫
≪わかってる。大丈夫だよ≫

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ササちゃんは、大切な妹のひなちゃんのお世話に来る人間がどんな奴なのか心配で覗きにきたのだろう。

いいお姉ちゃんだ。
うん。
ササちゃんの為にも、ひなちゃんのお世話を一生懸命にさせてもらわなくちゃ。
ボクは決意をあらたにした。

〈続く〉

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富山桃吉




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「ではO様、早速ひなちゃんに適したお世話スケジュールを立てましょう!」

華奢な身体つきのわりに、こういう時の岡村は頼もしい。
ボクから見ても、贔屓目なしに根っからの動物好きだと太鼓判を押せる。
特に『ライク』と出逢ってからというもの、すっかりシニア犬のお世話マニアであると、スタッフの中でひそかに呼ばれている。

岡村とO様がスケジュール計画を練っている間も、ボクはひなちゃんとのコミュニケーションを慎重に取り続けていた。
たとえ友好的態度を示してくれてるとはいえ、ボクとひなちゃんは今日初めて出逢った仲だ。
いくら人懐っこい性格であっても、自己都合でムリに距離を詰めて、ひなちゃんに余計なストレスを与えてはかわいそうである。
人間と同じ、動物とも対等な関係を築くのがボクのモットーだ。
だから初めての動物と接する時はいつも、出来得る限りヒアリングとコミュニケーションには時間をかけるし、動物の音なき声に耳を傾けることを怠らない。
人間とは違い、彼ら動物はウソはつかないから。

「なるほど。ひなちゃん、河原での散歩が好きなんですね」

にこにこしながら岡村が言うと、O様の顔に影が差した。

「ただ、立ち上がれなくなってからは散歩に連れて行ってあげられてないんです……」
「でしたら、次回6月3日のお世話に伺う日には、早速ひなちゃんを散歩に連れて行ってあげましょうよ。ずっとマットに横になったきりじゃ、ひなちゃんもストレスが溜まってるでしょうし」
「ありがたいですけど……寝たきりのひなちゃんをどうやって散歩に連れ出すのでしょうか?」
「任せてください! 彼に!」

自分じゃないのかーい!
と、心でツッコミを入れてひっくり返るボクを、ひなちゃんがくるり、きょとん。

≪かわいいな、こんにゃろー!≫
≪そう?≫
≪うん!≫

ボクは二つ返事で了承した。

「任せてください。ひなちゃんが喜んでくれるならボクも嬉しいですし」

となると、ひなちゃんの身体のサイズに適した介護用ハーネスが必要になってくる。
まさかおんぶして連れて歩くわけにはいかない。
滑稽な上に、動物関係のプロとしてどうしようもないくらい失格だ。
やむを得ない。
明後日6月3日までに完成させるには……今晩から気合で製作だ。
可能ならば、本日中にひなちゃんの身体のサイズを測らなければならない。
はてして、ひなちゃんはボクが触れることをゆるしてくれるだろうか……。
どのケースでも理想は動物の方からボクに心をゆるして近寄ってきてくれることなのだが、ひなちゃんは今、あいにく立ち上がれない。
ボクはひなちゃんとのコミュニケーションが充分と判断されるタイミングを見計らっていた。

すると……。

ボクの背中に鋭いモノが刺さった。
くっ……こ、これは……なんでこのタイミングで……。

〈続く〉

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富山桃吉



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「炎症性ヘルニアですね。コブの炎症を抑えるステロイドを注射しときます」
往診にやってきた女性獣医師はきびきびとした手つきでひなちゃんに注射を打った。

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唸り、うな垂れるひなちゃんを気にかけながらO様は訊ねた。

「ひなちゃん……もう立ち上がれないのでしょうか?」
「とりあえず経過観察ですね。ですが前向きに考えて下さい。経験上、八回の注射を打ってすっかり歩けるようになった例は少なくありません」
「よかったね、ひなちゃん。がんばろうね」
「では、次回は6月1日の同じ時間に伺いますので」
「よろしくお願いします」

女性獣医師の言葉に勇気をもらったO様だったが、突然立ち上がれなくなったひなちゃんのお世話の大変さを痛感するようになったのは、6月1日の往診が終わった夜だった。
低反発マットに横たわりっぱなしのひなちゃんの排泄掃除やお世話がたたったのか、激しい腰痛に悩まされたのだ。
O様はこれまでも数頭の犬を飼った経験があるが、大型犬はひなちゃんが初めての経験で、加えて今までの犬達は寝たきりの介護を要さずに旅立ったらしい。
もしもこのまま自身が腰痛を悪化させて動けなくなったら、ひなちゃんは排泄物まみれになってしまう……。
ただでさえ立ち上がれなくなってしまった上に、そんなかわいそうなことは避けてあげたい。
『誰か』にひなちゃんのお世話を手伝ってもらわなくちゃ!
あれやこれやとペットシッター関係を探しては問い合わせを繰り返したが、ひなちゃんを任せられる『誰か』は、なかなか見つからない。
そうこうしている内に、ここならどうかとある人から紹介を受けた。
このような経緯があり、O様は弊社メビー・ラックにご依頼をなされたのだった。

「ひなちゃんのこと、お引き受け頂けますか?」
「もちろんです。実は私共メビー・ラックは『ライク』という飼い主さんに遺棄されたシニア犬を保護していまして。保護した時には既に治らない病気を患っていたもので、今もまさに介護生活真っ只中なのです。他にも幾頭ものシニア犬の介護経験がございますので、ひなちゃんとO様のお力になれればと存じます」

岡村の言葉に安堵を覚えたO様は、目に涙をうっすらと浮かべておられた。
ボクはひなちゃんにあらためて挨拶をした。

「ひなちゃん、これからよろしくね。ひなちゃんが大好きなO様の為にも、ボクに出来る事はなんでもしてあげるから。ひなちゃんは、自分のせいでO様が大変だなんて思わなくて大丈夫だからね」
「ウオンッ!」

確かな力で返事をしてくれたひなちゃんからの愛情を感じたのだろう、O様の瞼に浮かんだ涙がつうと流れた。

〈続く〉

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「往診で八回の注射を打つことになっていて、とりあえず二回終わったところなんです」

言いながら、飼い主O様は不安げな表情を浮かべた。
くるり、きょとん。
うつ伏せのまま上半身だけを起こしたひなちゃんはすかさず、上目遣いでO様を見上げる。
ついで、入念な問答をヒアリングシートに書き込む代表岡村が真剣な顔つきで相槌を打つと、ひなちゃんはすかさず、くるり、きょとん。
すかさず、もう一度くるりと振り返り、ボクを見てきょとん。
まるで大きなぬいぐるみのようで愛くるしい。

≪ひなちゃん、その上目遣いの『くるり、きょとん』反則。かわいすぎ≫

ボクの心の声を受け取ったひなちゃんは尻尾をふさりと動かした。

≪そう? そんなにかわいい?≫
「うん、やばいね」

破顔で思わず声に出したボクの一言に、O様の不安が絡む。

「やばいって……ひなちゃんの容体、やっぱり悪いのでしょうか?」
「あ、いえ、そういう意味じゃなくてその……ひなちゃんが愛くるしくてつい……すみません」

間髪入れず、ボクにだけひきつり笑顔を向けながら岡村が続ける。

「O様、私達は獣医師ではございませんのでひなちゃんの診断や治療はできません。なので彼のさっきの言葉には深い意味はございませんのでご安心下さい。ね!?」
「え、あ、はい。紛らわしい言い方して申し訳ありません。ははは……」
「それならよかったです。なにせ突然の事なので、私一人じゃどうしたらいいのやら……」

バーニーズマウンテンドッグの女の子であるひなちゃんは約30㎏の大型犬。
わずかな異変が起きたのは12歳を迎えた今年の5月19日、散歩から帰宅した際の事だという。
いつものようにスムーズに段差を乗り越えられないひなちゃんの背中を撫でたO様は、腰の辺りにコブのようなものが出来ている事に気づいた。
O様は直ぐにかかりつけの獣医師に電話をしてひなちゃんの様子を伝えた。
だが、その後のひなちゃんは普通に歩いてる事もあり、獣医師はO様にこう告げた。

「12歳の大型犬だから疲れやすくなっているだけでしょう。散歩の時間を減らして、帰ってきたらよくマッサージをしてあげてください」

さしあたって緊急性を要する事もないから様子を見るように指示をされた0様は一抹の不安を抱えたものの、ひなちゃんをよく知っているかかりつけの獣医師の指示を素直に仰いだ。
するとその甲斐があってか、日に日にひなちゃんのコブは小さくなっていった。

ところが。

一週間後の5月26日の午前中。
散歩にでかけようと首輪を手にひなちゃんに寄ったO様の不安が再び膨張した。
いつもなら嬉しそうに立ち上がるひなちゃんが、いつまでたっても立ち上がらない。
どこか不満げにうつ伏せをしたままのひなちゃんの様子に居ても立っても居られず、O様は再び獣医師に連絡した。

「先生、ひなちゃんを診てもらえませんか」
「いいですよ。連れて来て下さい」
「でも……ひなちゃんは立ち上がれないですし、とてもじゃないけど、私一人じゃ抱えて連れて行けません。お願いです。往診してもらえませんか」
「ご存じでしょうけど、うちは往診はやってません。心配ならば、往診をしてる別の動物病院にお願いしてみてはどうです?」
「そうですか……わかりました」

落胆したO様だったが、めげずに往診をしてもらえる動物病院を探した。
ようやく引き受けてくれる動物病院が見つかり、O様のお宅に獣医師が往診にやってきたのは、空が紅の夕陽に染まる頃だった。

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〈続く〉

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