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2015年11月

少しすると、F先生との電話で席をはずしていた岡村が戻ってきた。

固唾を呑むボク。
きょとんと見上げるひなちゃん。
ソファの上でただじっとしているササちゃん。
期待と不安がごちゃ混ぜになった表情のO様は祈るような仕草で岡村に聞いた。

「……どうでした?」
「F先生に一応の状態と治療経過をお話しました」
「……ひなちゃんのこと診て頂けるでしょうか?」

岡村の話によると、F先生の意見はもっともなことばかりだった。
万が一を想定すればやはり近所の動物病院がベターであること。
できるならば、ひなちゃんが仔犬の時から診ているかかりつけの獣医師が望ましいこと。
シニア犬なので移動の負担が考えられること。
実際に診察をしていない段階で、軽々に具体的なアドバイスはできないとのこと。
とはいえ、今は来院の方が多くて往診に対応できないこと。
それらを聞いてO様の顔が曇ってしまったのを敏感に察知したササちゃんの目つきが鋭くなった。

≪結局そう!≫
≪あのねササちゃん……≫
≪この上なく気分悪い!≫

ササちゃんはスッと立ち上がって伸びをした。

≪あ……待ってササちゃん!≫

焦るボクの想いとかぶるように岡村が言った。

「それでも……」

途端、ササちゃんの動きが止まった。
かと思えば、耳だけ岡村の方へ向けてつぎの言葉を待っている。

「O様がそれでもと仰るなら連れておいでって! シニア犬介護の経験が豊富な岡村さん達が同行するなら大丈夫でしょうって!」
「本当ですか! ありがとうございます。ありがとうございます」

ササちゃんは大きなあくびをしてからもう一度座った。
つられたのか、ひなちゃんも大きなあくびをした。

≪よかったね、ササちゃん。F先生、ひなちゃんのこと診てくれるって≫

ボクの想いが聞こえていないフリをしているが、耳は岡村の方へ向きっぱなしだ。
まったくもう。
どこまでも妹想いのお姉ちゃんだと感心する。
O様と岡村は早速スケジュールの調整をして、F先生に診察して頂く日を決めた。

「診察に行く日は、今までの診察内容や投与の薬、注射の成分をメモ書きしたものをご用意しておいてください」
「わかりました。……それで岡村さん?」
「はい?」
「その日はその……御二人共一緒に同行して頂けるのかしら?」

ひなちゃんがくるりとボクを見上げる。
ササちゃんの耳がサッとボクを捉える。
ボクが口を開く間もなく、岡村は代表権限を発動した眼差しを突き刺してきた。

「もちろん、強制連行致します」

なぬっ!
強制連行かあ……。

まあ。
今回に限っては願ったり叶ったりだけどね。

〈続く〉

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富山桃吉



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O様の心情を汲んだ岡村は少し考えた後お伝えした。

「もしよろしかったらですけど……」
「なんでしょう?」
「私達がよくお世話になっている獣医師をご紹介差し上げることもできますが……」
「本当ですか!?」
「ええ。動物と飼い主様想いのすごく尊敬できる先生です」
「ぜひ紹介してください!」
「ただ、O様のお宅の近所ではないんです。それでもよろしければですが……」
「車を所有していない私一人でひなちゃんを連れて行けないのは重々承知しています。それを承知で我儘を言わせて頂けるなら御二人に甘えさせてもらいたいです。私と一緒にひなちゃんを連れて行ってもらえるならぜひともお願いしたいです!」
「……わかりました。先生に電話してみますね」

岡村が躊躇した理由はボクも理解できた。
紹介しようとしているF先生は嘘偽りなく尊敬できて信頼できる方だ。
実際に遠方から来院する飼い主さんやペットは少なくない。
皆、それほどまでしてF先生に診てもらいたいのだ。

だからってF先生は決してなんでも治せる神様ではない。
無論、長い獣医師キャリアの中では良いことばかりじゃなかったはずだ。
いくつもの葛藤を抱えてこられた過去もあるだろう。
救ってあげられなかった動物の命や飼い主さんの心に胸を痛め、ご自分の不甲斐なさに涙を流した夜もあったかもしれない。
その全てを五臓六腑で受け止めて今のF先生が在る。
その全てを見てきた眼はどこまでも奥深くてやさしい。
初めてF先生に出逢ってから今もボクにはそう思えてならないのだ。

F先生はいちいち飼い主さんとペットに向き合った治療方針を説明してくれ、選択肢を与えてくれる。
だからこそ、O様の為にもひなちゃんを診てほしい。
O様だってバカじゃない。
ひなちゃんに万が一が起こった際の覚悟まで人に委ねることはない強い人だ。
O様が知りたいことはただただシンプルなことで、ひなちゃんが自力で立ち上がれなくなった理由なのだ。
ちゃんとひなちゃんを診察してくれた上での診断結果を知りたいだけだし、もちろん知る権利もある。
診断結果を包み隠さず伝えてほしいだろうし、ご自分で治療方針の選択をなさりたいに決まっている。
だからこそ!
だからこそボクも、F先生にひなちゃんを診てほしい!

ただやはり気にかかるのが距離だ。
O様のお宅からF先生の動物病院までは車でおよそ30〜40分。
この先、万が一ひなちゃんになにかがあって一刻を争う際には移送時間がかかりすぎる。
ひなちゃんはシニア犬なので移動の負担も気がかりだ。

とはいえ、O様の心情も無視はできない。
岡村も悩んだ末のご提言だったはずだ。
それも分かる。

距離、負担、時間……。
想い、覚悟、選択……。
どうすればいいのか、どうすることがベストなのか……。
ボクはまだ未熟者だから、はっきりと答えを出せずにいた。

〈続く〉

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富山桃吉




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久しぶりの散歩に出れた心理的な効果があったのかもしれない。
ボク達が週に2〜3回のお世話に伺う内に、ひなちゃんの瞳は俄然生き生きとしてきた。
O様の腰痛も幸いにして悪化せずにすんだので、それもひなちゃんは嬉しかったに違いない。
二人のお役に立ててることで、ボク達のモチベーションもすこぶる高かった。
なにせ、O様のお宅の駐車場に車を停めた段階でひなちゃんは必ずボク達に気づいてくれて、元気な鳴き声でお迎えしてくれるから余計に嬉しい。

「こんにちはO様、ひなちゃん、ササちゃん」

部屋にお邪魔すると、ひなちゃんは今日も『くるり、きょとん』と上半身をくねらせてボク達を歓迎してくれた。

「ほら見てください。やっぱりひなちゃんの瞳が違うでしょう!?」

O様に言われた岡村がわざとらしく腕組みして頷く。

「そうですよね。この前私が一人で伺った時とはあきらかに瞳のキラキラ度合いが違います」

前回のお世話日には迷子ペットの捜索に出張していたので、ボクが不在だったのは事実だ。
岡村の話によると、いつものように河原に行ってもどこか元気がないひなちゃんだったらしい。
ササちゃんも一瞬だけ姿を見せただけで、そそくさと二階に上がったという。
それで、O様と話したそうだ。
ボクがいなかったせいかもれないと。

「考えすぎですよ」

などと言いながらまんざらでもなかったボクはひなちゃんの身体を拭いてブラッシングをしてあげた。
いつもよりも丁寧に。
ひなちゃんも気持ちよさそうにしてくれた。
いつもよりも大胆に。
おかげで、散歩中のボクの足取りはいつも以上に弾んでいた。
その後、河原での散歩を終えてお宅に戻ったボクがひなちゃんの肉球マッサージをしていると、岡村との雑談の最中でO様がふと俯き溜息交じりに切り出した。

「あの……昨日、八回目の注射が終わったんですが……」
「今後の治療方針、獣医さんはなんて仰ってました?」
「それが……その……」

言いづらそうにしているO様の心情は理解できた。

『とりあえず経過観察ですね。ですが前向きに考えて下さい。経験上、八回の注射を打ってすっかり歩けるようになった例は少なくありません』と告げた女性獣医師のその言葉を信じていたO様。
けれど今日になっても、残念ながらひなちゃんが自力で立ち上がることはまだ叶わなかった。
だから余計に不安になってしまったのだろうとボクは勝手に察していた。

「確かに、ひなちゃんが絶対に歩けるようになるとは仰ってませんし、治療方針に異議があるわけではないんです。でも……なんていうか、御二人に比べると、あの獣医さんのひなちゃんに対する態度がどうも業務的で……」

O様から聞くところによると、注射を打つ際にひなちゃんへの声掛けがないのが気になっていたらしい。
急に注射を打たれたひなちゃんが痛そうにしているのを見かねて、O様は一度

「ひなちゃん、やっぱり痛いんですよね?」

と女性獣医師に尋ねたのだという。
その返事が

「私のこれまでの経験で言えば、この状態はすでに感覚が鈍っているので本人は痛みを感じてはいません」

だったので、O様が寄せていた女性獣医師への信頼にはわずかなヒビが入った。
加えて、今後の治療方針も経過観察の一点張りだったので、O様は途方に暮れていたというわけだ。

ボクは獣医師ではないので、治療や診断はもちろんできない。

けれど、わかることはある。
ひなちゃんが喜んでるとか痛がってるとか、嬉しそうだとか寂しそうだとか。
そんなことくらいしかわからないけれど……。

マッサージを施すボクの手の中にあるひなちゃんの肉球はあたたかい。
O様がひなちゃんとササちゃんに寄せる愛情はあたたかい。
そんなことしかわからないけれど……。

拝啓 女性獣医師様

ボク達もひなちゃんとササちゃんのパートナーだからO様と同じように感じるんです。
想いに相違はないのです。
だからお願いします。
経験談や予測だけで診断や断言をしないでください。
みんな、世界で唯一の存在なんです。
この世界に、ひなちゃんはひなちゃんしかいなんです。

〈続く〉

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富山桃吉




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「ひなちゃんにぴったり!」

岡村の自画自賛は大げさではなく、ボク達が作製した介護用ハーネスはひなちゃんにフィットしている。
サイズが合わない介護用ハーネスだと胸を圧迫したり血流を阻害してしまったりするが、しっかりと採寸して作製したので大丈夫そうだ。
注意深く呼吸を観察しても苦しそうな呼吸はしていないし、不必要に生地が身体に食い込んでもいない。

「ではO様、ひなちゃんを立ち上がらせてみますね」
「……お願いします」

祈るように発したO様の声にはどことなく緊張感が漂っていた。
前後左右の四か所の持ち手を岡村とボクとで手分けして握る。

「ひなちゃん、立ってみようね」
「せーの!」

まだ力が入る前脚で踏ん張るひなちゃんの様子を見ながら慎重に慎重に腰を上げていく。
間もなくしてO様の歓喜の声が響いた。

「ひ、ひなちゃん!」

立ち上がったひなちゃんを見つめている0様の目が輝いている。
同じく目を輝かせているひなちゃんが返事をした。

「ウオンッ!」

いつも当たり前のように見ていた目線の高さの再現に、ひなちゃんは喜んでくれているのだろう。
後ろ脚を支えているボクの身体に尻尾がブンブン当たる。

「うれしいね、ひなちゃん! よかったね、ひなちゃん!」

話しかけながらひなちゃんを撫でるO様の肩が震えている。

「よし、ひなちゃん。一回休憩しようね」

岡村に目で合図を送り、ひなちゃんをゆっくりと床に寝かせた。

「二人で支える時はこのようにして使用します」
「はい。ありがとうございます」
「つぎは一人で支える場合を説明しますね」

ボクは持ち手をショルダー使用に付け変えた。

「ひなちゃん、もう一度立ってみようね。せーの!」
「ウオンッ!」

ひなちゃんがゆっくりと立ち上がる。

「こうすれば、腰への負担が軽減されますので」
「なるほど……」
「つぎは寝返りを打たせてあげましょう」
「寝返り補助にも使えるんですか、それ」
「はい。見ててください」

ひなちゃんを寝かせた後に、寝返り時の使用方法をO様にお教えした。

「これなら、今までより楽に寝返りを打たせてあげられます」

弾むO様の言葉に微笑んで返すボク。
その横から岡村が手を差し出す。

「これ、床ずれ防止クッションです」
「あら、かわいい!」

今は仕事で遠方に暮らすO様の娘様が幼少時に着ていたパジャマの生地。
それをお借りし、カバーに使用して作製した床ずれ防止クッションをO様が優しく抱える。

「これで娘の想いも伝わる気がします」
「そうですね。伝わりますよ絶対に。みんなで頑張りましょうね!」
「ウオンッ!」

≪悪くないわね、あんた達≫

O様と岡村とひなちゃん、そしていつの間にか覗いていたササちゃんも皆ポジティブな表情を浮かべている。
たぶん……いや。
ボクも同じ顔をしていた。

そんな風にして立ち上がりのリハビリとマッサージをひなちゃんに施した後、ボク達はいよいよ散歩に出かける準備に取りかかった。
持参した担架に介護用ハーネスを装着してひなちゃんを乗せる。
いよいよ出発準備を整えた岡村が首輪とリードを手にしているO様にアドバイスをした。

「O様、今日は日差しが強いので日除けの帽子があった方がいいかもしれません」
「え……ご一緒しても?」
「当然です。ひなちゃんとO様が一緒に散歩をしてほしくて私達は伺っているんですから」
「ありがとうございます! 帽子取ってきます」

≪ササちゃんはお留守番だよ≫
≪言うと思った!≫

プンスカしながらササちゃんが二階へ上がっていくのと入れ替わりにO様が一階に降りてきた。

「お待たせしました」

岡村が笑顔で促す。

「では、行きましょう!」
「ウオンッ!」

O様とひなちゃんのいつもの散歩道である河原には強い日差しを凌げるものは何もないので、とにかく眩しかった。
けれど、ボクにはO様とひなちゃんの姿がそれ以上に眩しく感じられた。

なぜって――

ひなちゃんが乗る担架の傍らを歩くO様が道中、ひなちゃんの名を幾度となく呼んだから。
喜びとか愛とか絆とか、そんなものが入り混じった輝かしい声音で。
それに答えてO様を見上げるひなちゃんの瞳にも確かに浮かんでいたから。
喜びとか愛とか絆とか、そんなものが入り混じった輝かしいものが。

〈続く〉

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富山桃吉




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一先ずのヒアリングを終えてO様のお宅を後にしたボク達は、車中でひなちゃんの介護用ハーネスについて議論を交わした。
販売されているものを片っ端から調べ上げ、ひなちゃんの症状と実寸に適合する材料を揃えなければならない。
あれこれと案を練っているボクの隣で岡村が独り言のようにもらした。

「……ああーあ。ひなちゃんとO様を元気だった『時』に戻してあげたいな」
「元気だった『時』かあ……」

つられてもらしたボクはぼんやりと歩道に目をやった。
時折、散歩中の犬と飼い主さんを見かける。
歩きながらも飼い主さんを嬉しそうに見上げる犬。
けれど、それよりもスマホに夢中な飼い主さん。
オシッコをしたそうに立ち止まる犬。
なのに、気づかずリードを強く引っ張りながら歩き続ける飼い主さん。
それぞれが忙しい毎日で心がカチコチなのかもしれない。
たかだか散歩の一場面にすぎないといわれればそうかもしれない。

それでも。
その一歩一歩がどれだけかけがえのない一歩一歩か。
なにも散歩に限った話ではない。
ペットと暮らす人は誰もが思ったことがあるはずなのだ。
愛しい人と出逢えた人もまた想うはずなのだ。
温もりに包まれて眠る『時』。
のんびりと目覚めた『時』。
夢中ではしゃいでいる『時』。
大きくあくびをしている『時』。
ただじっとしている『時』。
おいしそうに食べている『時』。
触れ合って繋がっている『時』。
心がやわらかければ、どの『時』にもよろこびと感謝を覚える。
なくしたくない『時』だと切に願う。
なくした後に気づくくらいならば、せっかく与えられた『時』を大切に過ごして生きた方がいい。
自戒を込めたボクは静かにひなちゃんとO様の姿を心に描いた。

「とにかく、自力で立ち上がれなくなったひなちゃんの後ろ足を支えるのは必須だよね。リハビリや床ずれ防止の為にも。あとはひなちゃんの寝返りを打ちやすくさせてあげなくちゃ。くれぐれも、これ以上O様の腰痛が悪化しないように」

岡村の言葉に同意しながらイメージを紙に写し、必要と思われる材料をピックアップした。

「あのさ、これでどうかな?」
「いいんじゃない。早速買い出しに行かなくちゃ!」

≪まあ悪くないわね≫

もしかして、俄然やる気になっている岡村にもきこえたのかな。
ササちゃんがそう言ってくれたのが。
そんなことを考えながら小さな笑みを浮かべたボクはもう一度歩道に目をやった。
信号待ちで足を止めた飼い主さんに倣い大人しくお座りをして見上げる犬。
にっこりと微笑みながらアイコンタクトをし、ほめて撫でる飼い主さん。

≪まあ悪くないわね≫
≪ひなちゃん、言い方がササちゃんにそっくりだ≫
≪だって姉妹だもん≫
≪だね≫

そうして6月3日。
ボク達はひなちゃん専用に作製した介護用ハーネスを手に、意気揚々とO様のご自宅に伺った。

〈続く〉

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