S君の飼い主様が一緒に来てもらえるならば、鍵を預かる必要はありません。
私はマイカーで来院していることを告げ、促しました。

「では、行きましょう!」
「はい! よろしくお願いします!」

S君の飼い主様を連れ立って病院を後にした私は、車を速やかに発進させました。
ハンドルを握る私は、しばらくして、何とはなしに尋ねました。

「一時的な外出許可というのは、簡単に出るものなのですか?」
「どうなんでしょうね……。主治医の方も猫を飼っているらしいので、きっと、早くSに会いたい気持ちを分かってくれたのかもしれません」
「なるほど」

そうはいっても、です。
よっぽどの重症や感染症の疑いがある患者様ならば、一時的とはいえ、外出許可が下りることはないでしょう。
入院したばかりの頃の飼い主様の憔悴ぶりが今も続いていたのだとしたら、また然りだと思います。
ということは、『体調もだいぶ回復してきたので』と先ほど飼い主様が仰った言葉は本当のことで、退院できるのも、そう遠い日ではなさそうです。

「自分の猫が迷子になってしまった気持ちなんて、Sがこうなる前には考えもしませんでした」
「ご自分と暮らすペット様が逸走してしまった飼い主様方は皆、同じことを仰います。『まさか、自分が……』と」
「そういう飼い主さんたちにとって最後の頼みの綱でい続けるのには、大変なこともおありでしょうね」
「まあ……正直、楽なことではありません。体力的な部分もさることながら、やはり精神的なタフさが求められます」
「……でしょうね。心身共に弱った人間の相手をするのは簡単なことではないだろうな、と想像します」
「とにかく、飼い主様ご自身が諦めずに捜索を継続してもらえるためのフォローが大切になってきます。迷子になってしまったペット様を発見するまでの期間はそれぞれ違いますが、長期間に渡れば渡るほど、飼い主様が不安に襲われるのは致し方ありませんけどね……」

飼い主様は自嘲気味に笑いながら、息を吐きました。

「その気持ちは……痛いほど分かります」

無言の笑みで頷く私に、飼い主様は御礼を述べられました。

「Sの捜索に携わって頂き、本当にありがとうございました」
「電話でもいいましたが、S君の無事発見・保護がかなったのは、飼い主様が諦めなかった結果です。後でS君に再会できた際、迷子中の頑張りを褒めてあげてください」
「はい。それはもう、思いっきり褒めるつもりです」

そんな会話をしているうちに、私たちはいよいよ、S君が待つ家主様のお宅付近にやってきました。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉



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