それにしても。
”シロ”くんを見たと言い張る男性の様子は、まるで、迷子ペット様をやっと目撃した時の飼い主様の反応のようだ。
私が抱いたその印象をさらに強調するように、男性はいった。

「やっと、”シロ”に会えたんです! この機会を逃したら、またいつ会えるのか分かりません!」

男性のこの言葉に、私は危うく、『そうはいいますが、”シロ”くんは所謂、通常の迷子ペット様ではありませんよね?』と口にしかけた。
だが、寸でのところで言葉にせず、それを呑み込んだ。
結局のところ、幽霊や心霊現象の類に関する知識について、私は詳しくないからである。

それでも、だ。
正直にいえば、幽霊状態の”シロ”くんならば、迷子ペット様とは違い、たとえ見失っても、会いたいと思えば会えるものなのでは、と考える自分がいる。
しかしながら、それを理論的に説明し、正気を失っている男性を説得できる自信はない。

ならばどうしたものか、と私が考えていると、男性の必死さは頂点を極めた。

「どうしても、”シロ”に伝えたいことがあるんです! ”シロ”にはもう、安らかに成仏してもらいたいんです! だから、お願いします! こちらに戻ってきて、張り込みを代わって頂けませんか?」

言葉の最後の方は、涙声になっていた。

そこまで懇願されたら、さすがに無視はできない。
こうなったら、私が折れるしかないだろう。

「……お気持ちは分かりました」
「じゃあ、戻ってきて頂けるんですね!? ありがとうございます!」
「いや、今すぐは戻りません」
「……え?」 
「私はこのまま、車内の二匹の様子確認に向かいます」
「でも……それじゃあ……」

男性の落胆をひしひしと感じた私は折衷案を提示し、この話題の決着を試みた。

「致し方ありません。張り込みは、一時中断しましょう。なので、私の戻りを待つことなく、”シロ”くんを今すぐ追いかけて頂いて構いません」
「……」

言葉を失っている男性に、私は続けた。

「どうしました? ぐずぐずしている暇は、ないのではありませんか?」
「そうですけど……」
「ご心配なく。車内の二匹の様子を確認したら、その後は私が張り込みを再開しますので。それよりも、どうしても伝えたいことを、早く”シロ”くんに伝えに行ってください」
「……ありがとうございます! じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます!」

電話は切れた。
張り込みをお願いしていた場所に目をやると、全力疾走で草むらの中へ入って行く男性の後ろ姿が見えた。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉