「仮に、ですね……」

ご年配の女性が返事をしないため、私は勝手に決めつけて話を進めた。

「私が捜している子が、今までに、お宅の敷地内に姿を現したことがあるとします。その時、私が捜しているその子は、お宅のベランダのどの辺りに姿を見せて、何をしていましたか?」

この質問にも、すぐには応じてもらえなかった。
それでもめげずに、私は質問を重ねる。

「そもそも、私が捜している子は、どちらの方向からやってきたのでしょう? すぐ脇の県道の向こう側からですか? それとも、目の前に広がる草むらの向こう側からですかね? あるいは、べつの場所から?」

この質問を投げると、ご年配の女性は草むらに向けていた視線を、再び私に合わせてきた。
そうして口の端をわずかに緩ませ、右手の人差し指以外の指を畳んだ。
続けて、その人差し指が草むらの中を示し、私を試すようにいった。

「あんたにも、”これ”が聞こえるかい?」
「……はい?」

”これ”というのは、一体、何のことなのだろう。
私が考えあぐねていると、ご年配の女性が急かしてくる。

「ほら、ぼけっとしてないで。”これ”だよ。聞こえないのかい?」
「えっと……”これ”って、どれ、ですか?」
「”これ”だよ、”これ”」
「はあ……」

曖昧な声を漏らす私を見かねたのか、ご年配の女性は大仰な溜息を吐いた。
そうかと思えば、今度は、草むらの中を示していた人差し指を自分の鼻にくっつけた。
連動するように顔もそちらに向け、声だけで私に強くいい放つ。

「ほら、静かに!」

ピシャリと注意され、私は黙った。
黙ったまま、”これ”の正体を探るために耳をすます。

すぐ脇の県道を走る車が撒き散らす騒音。
すぐ脇の県道を走る車が撒き散らす騒音。
風の音。
すぐ脇の県道を走る車が撒き散らす騒音。
すぐ脇の県道を走る車が撒き散らす騒音。
すぐ脇の県道を走る車が撒き散らす騒音。
鳥の地鳴き。
鳥の地鳴き。
すぐ脇の県道を走る車が撒き散らす騒音。
鳥の地鳴き。
すぐ脇の県道を走る車が撒き散らす騒音。
風の音。
すぐ脇の県道を走る車が撒き散らす騒音。
鳥の地鳴き。

私の耳が明確に捉えるのは上記三種類の音が主で、順番としてはランダムだった。
人差し指が草むらの中を示していたことからするに、ご年配の女性がいう”これ”の正体が、すぐ脇の県道を走る車が撒き散らす騒音でないことは確かであろう。

となると、鳥の地鳴きか風の音のどちらかなのか……。

いやいや。
必ずしも、そうではないだろう。
私の耳が捉えている音以外、ということも充分に考えられる。
それは、何か――
一つの考えが、私の中に浮かんだ。

〈続く〉

あなた様とあなた様の大切な存在が
今も明日もLucky Lifeを送れますように

富山桃吉