『儲かる農業―「ど素人集団」の農業革命』
嶋崎秀樹、竹書房新書、2012年11月7日

星:☆☆☆☆

「儲かる農業」というタイトルのとおり、農業で実際にがっちり儲けている農業法人トップリバーの社長が語る、農業で儲けるための方法論。

本書に書かれているビジネスの方法は勉強になるし、本書の大筋には合意するが、それだけではないのではないだろうかという感想を抱いた。

稼ぐことは、悪いことではない。独立することも悪いことではない。
しかし、逆に言うと、独立して儲けることが唯一無二の大正義かというと、そんなこともない。
独立することは、あくまでも手段であって、それが目的になるべきではないと思う。

私は、独立しないで、楽しい田園生活の中で行う農業も悪くないと思う。
職を失ったから、とりあえず農業でもやってみるかという人や、他人とかかわるのが嫌だから、田舎で農業でもやってみようという人が、農業に参入できるような仕組みを作りたいと思っている。

本書にあるように、「人それぞれに目標があり、気持ちいいと感じるものがあり、モチベーションを高めるものがある。それがみな同じである必要はないし、合わせる必要もない」というのは、まさにそのとおりである。

独立して経営者になりたい人、農業でがっぽり儲けたい人、のんびりまったりと働きたい人、仕事よりも家族やプライベートを優先させたい人、色々な価値観の人が、農業界で働けるような環境を作りたいと、個人的には考えている。

そのためには、農業経営を大規模化させて、作業分担することは必須である。大規模化のためには、まとまった農地、資本とクライアントが必要になる。
農地、資本は何とかなるとして、売り先となるクライアントを開拓することは、難しい。
その際に、まさに本書に書かれているような、「一〇〇点+二〇〇点」理論の営業方法のように、営業に力を入れることが必要になってくる。

「儲ける」ことは大事だが、それはあくまでも手段である。「儲ける」ことが目的になってしまったら、その会社や事業は、つまらないものになってしまうだろう。
「儲ける」ことによって、何を実現したいか。そのビジョンが大事だと、改めて思った。


また、「農業大学校の生徒が研修にやってくるが、いつも思うのは彼らは大学校で本当に役に立つことを学んでいるのだろうか」という記述で、冨山和彦氏のG(グローバル)型大学とL(ローカル)型大学の話を思い出した。

実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議(第1回)」の配付資料(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/061/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2014/10/23/1352719_4.pdf)の中で、経営共創基盤の冨山氏は、「極一部のTop Tier校・学部以外はL型大学と位置づけ、職業訓練校化する議論も射程に」することを提言している。

この提言や資料内の文言だけを見ると、極論であり、学問の軽視にも見えるため、ネットでは大きな反発があった。
しかし、本書にあるような現場の経営者の立場からすると、大学で農学を学んだ人が、即戦力として農場でバリバリ働ける人材となることが必要とされていることも分かる。

現在の大学教育は、GとLの棲み分けができていないというか、学ぶ学生自身が、Gに行きたいのかLに行きたいのか、自覚できないような構造になってしまっているのだろう。

「農学」を学んだからといって、農場経営ができるようになるわけではないし、農場経営の道に進まなければならない訳でもない。
逆に言えば、大学で民俗学や文化人類学を学んだ人間が、農業経営コンサルタントの道に進むこともあり得る。
本書の著者の嶋崎氏も、日本大学で農業を学んだわけではないだろう。
しかし一方では、農場経営ができる人材も必要とされているので、そのためのスペシャリストを大学で育成することには需要がある。

農業からは少し離れるが、これからの地方創生や地域活性化には、教育が必要不可欠であることを考えると、農業と教育の関わりを緊密にすることにも需要があるかもしれない。


TPP問題や全中の解体など、農業を取り巻く環境は今、大きな節目を迎えている。
これからは、農業は変わらなければならない。
そのための一つの方向性として、「儲ける」ことを目標に掲げるという選択肢は大いに有効だと思う。
農業が変わる方向性のひとつの可能性として、参考になる一冊。

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