1672e6d1.bmp * 写真は、元文化庁長官、三浦朱門による、『全「歴史教科書」を徹底検証する―2006年版教科書改善白書』(小学館)。

愚にもつかない本である。ちなみに三浦朱門は作家、曾野綾子の夫。夫婦二人ともカトリックのキリスト教徒。三浦は「新しい歴史教科書をつくる会に賛同。かつて文化庁長官在任中、『シティランニング』という雑誌にて次のようなことを言ったことが。

 「女性を強姦するのは、紳士として恥ずべきことだが、女性を強姦する体力が無いのは、男として恥ずべきことである。」
 
 他にもイラク戦争時にイラク人質問題に関して、
 
 「イラクで自衛隊が2,3人死ねば、改憲に弾みがついていい。」

 と発言し物議を醸した。「徹底検証」されるべきは彼の頭。曾野綾子とあわせ軽蔑している。

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 「新しい歴史教科書をつくる会」が編集・編纂し、扶桑社が出版した「新しい歴史教科書」。「新しい公民教科書」と並んで全国の自治体で採用が相次いでいる。昨年はまだ様子見という状態だったが、今年は一挙に採用を決める教育委員会が増えた。
 
 そうした中、昨日、東京都内では珍しく、吉祥寺のお隣、杉並区教育委員会が扶桑社教科書の採用を決めた。東京23区で初のこと。杉並区は住宅街として人口が大変多く、来年の新1年生およそ2100人がこれを使う予定であり、地方自治体としては最大の数になる。
 
 松下政経塾出身の山田宏が区長で牽引する杉並区。異例の熱気を帯びた採択の攻防が展開し、JR中央線や西武新宿線、地下鉄丸ノ内線などの駅前や杉並区役所前でも連日、ちらし配布や街頭演説が行われてきた。あまりに反響が大きく採択が出来ず、継続審議になっていたものが昨日、決定したものである。
 
 再審議に参加した5人の教育委員会の委員は以下の通り。
 教育長 納富善朗
 大蔵雄之助  (東洋大教授、元TBS報道局長)
 宮坂公夫  (阿佐ヶ谷南の杉並幼稚園園長)
 丸田頼一  (千葉大名誉教授)
 安本ゆみ  (元杉並区立小PTA連合協議会会長)
 
 このうち、納富、大蔵、宮坂の3人が扶桑社を強く推薦。丸田と安本が他社を推した結果、多数決3:2で扶桑社の歴史教科書に決まった。
 
 法律学の世界、特に国法学たる憲法解釈学において、日本が採用している現行の「教科書検定制」は、違憲性判断の審査基準にかけて合憲と判断するのが難しいとされる。違憲と判断されても通常の本として出版、販売することはできるので検閲、出版禁止には当たらないと判例や文部科学省が言うが、教科書が検閲をパス出来なければそれは実質的に見てゴミの山。全く商品価値がない。精神的自由権の制約としては極めて深刻な問題を抱えた制度である。
 
 かつて家永三郎が国を訴えた訴訟があった。自身が執筆した教科書の記述をことごとく書き換え要求されたからである。彼に限らず、日本国政府にとって都合の悪い記述をした教科書は検定を通らなかった。例えば、北方領土問題について。サンフランシスコ平和条約で「全面講和」ではなく、「単独講和」にて吉田茂内閣が戦後の区切りをつけた時には日本の国会も大きく割れたが、結局、強引に条約締結となった。その際、日本は択捉など北方領土の主権を自主的に放棄している。日本政府はこれらの文書を公開しないが、アメリカ側が一定期間経過に伴い情報公開法に基づいて、サンフランシスコ平和条約の公式文書を一般公開したことで明らかになっており、
 
 「北方領土は日本国の固有の領土であり、旧ソ連・ロシアがそれを不法に占拠している状態だ。」

 という内閣府や外務省の公式見解は通らない。しかし、いかなる教科書においても「北方領土は日本固有の領土」と書かなければ決して検定には通らない。もめにもめたあげく、「北方領土は日本の伝統的な領土」と記述を変えてかろうじて通ったことが一度あるらしい。私も北方領土が返還され、ぴかぴかの日本の国土になってほしいと願うが、この様に捻れた経緯がある以上、すんなりと返還はされないと思う。
 
 「サンフランシスコ平和条約締結時に、北方領土の主権は日本が放棄した。」
  
 などと書こうものなら検定不合格間違いなし。教科書検定とはまさに「お上の権力行使」そのものである。
 
 この点、映画批評家の服部弘一郎が、もっと強い指導力を発揮できる強権的な教科書検定制度を作るべきであり、検定制という回りくどい方法ではなく、韓国や中国のように国定教科書にしてしまうのが一番良い、という子どものように幼い意見を主張している。彼は、

 まるで中学生の感想文のような映画批評しかできない男

 といわれたこともある人物である。私もそう思う。以前、私のコラムに徹底的に噛みつき、無礼な罵詈雑言を撒き散らしていった人でもある。
 
 教科書検定は、日本の教科書の質を大きく下げてしまった最大の要因。日本の教科書がどれもこれも似たり寄ったりになってしまっているのは、検定制度によってずたずたに内容が制約されるので、結局、つまらない当たり障りのない骨と皮の記述になってしまうからである。
 
 戦後一貫して日本の旧文部省が行ってきた検定制度の運用は、政府見解に沿っているかどうかということであった。北方領土問題に限らず、「朝敵」足利尊氏が活躍した後醍醐天皇南北朝時代の記述(現在の天皇家は北朝出身である)や、太平洋戦争中の記述については、検定委員会のテリトリーとして不可侵領域が数多く存在していた。
 
 その舵が大きく切られるきっかけになったのが、数年前から始まった「新しい歴史教科書をつくる会」による教科書である。この10年ほどで大きく傾斜した日本全体の右傾化、国家主義と波長が重なっている。
 
 中韓との外交問題に火が飛んだ扶桑社教科書。服部は
 
 「まあそれだけ嫌がられる教科書というのは、逆に反対側から見れば素晴らしい教科書なのかもしれないね……。」

 と脳天気なご感想を述べた後で、

 「一方で扶桑社教科書に反対しながら、文科省の検定制度強化を求めないのは、主張としてバランスを欠いている。近隣諸国への配慮を言うのなら、少なくとも公立学校で使用する教科書は国定教科書一本にするように運動してはどうなのか。」
 
 という。その上で、反対している朝日新聞岩波書店らが自社の威信をかけて自前の歴史教科書と公民教科書を作ってみれば良いという。
 
 「朝日新聞や岩波は扶桑社よりもブランド力があるから、一定レベルのものさえ作れば、採択する学校は多いような気がするけどな。扶桑社がやったように「市販本」も作れば、それはベストセラーになるんじゃないだろうか。僕も読んでみたいしね。・・・いずれにせよ、対案のない反対のための反対には何の説得力もないと思う。」

 と。
 
 何を勘違いしているのだろうか。例え、朝日や岩波が総力を挙げて教科書を作ったとしても現行の検定を通らない。今まで同業他社がやってきてずっと通らなかったのである。作ったとしても現実に学校に採択してもらうことはできない。もちろん、そろばん勘定にもあわない。「市販本」については山川出版社を始め、多くの出版社が鎬を削って多数の参考書、学習ノートをすでに販売している。

 扶桑社の教科書、軽く30分も立ち読みすれば、その内容がいかに異様なものであるかが一目瞭然。私ももし自身が杉並区民であれば採択に猛反対するし、自分の子どもがこれで教育されるとしたらたまったものではない。PTAとしても強く抗議する以外にない。お近くなので私も見聞きする機会が多いのであるが、杉並区の騒乱については、共産党系の人や労組、その他の活動家なども混じっているようだが、多くはまともなごくふつうの小中学生の子供を持つ杉並区民である。彼が無責任に言うように、

 「対案のない反対のための反対」
 
 ではない。「何の説得力もない」のは、むしろ彼自身の「したり顔、わけ知りコラム」である。