私たちのサッカーチームはゆうに年間100試合以上を楽しんでいるが、それでも記憶に残る「良い試合」というものは年に2,3試合程度しかない。何を持って「良い」とするかは一概に言えない。JFL級スタジアムや天然芝、ロングパイル人工芝など、グランドの質が良いからといって「良い試合」だとも言えないし、天気に恵まれたからといって「良い試合」だとも言えない。メンバー、天候、相手との均衡、その日の体調、グランドの状態などがいくつも絡んで印象的な試合はできあがる。

 先日、12月4日にFCカオスと都立・府中の森公園サッカー場で楽しんだ試合は非常に印象的で楽しいものであった。諸条件は最悪。午前中から降り続いた雨が午後1時の試合開始時になってもやまず小雨状態。相手チームは人数が揃わない。風邪をひいたメンバーが2人、仕事の急用でキャンセルが1人、来る途中の交通事故で実況見分中が1人ということで、こちらからメンバーを3人貸し出さなければ試合自体が成立しないという状況。キャプテンの人もお休みだった。しかも気温がかなり寒い。雨に濡れたら風邪を引きそうな予感があった。

 「今日は辞めましょう。」
 
 と相手に提案したところ、
 
 「もう、お金を事務所に払って来ちゃったのでもったいないですからせめて1,2本だけでもやりませんか?」

 と相手の哀願するような顔。全額負担するのも辛かろうと、半額グランド代を払って帰ろうかと思っていたところ、十数人せっかく集まってきていたメンバーの中から

 「ちょこっとくらいやりましょうよ。」

 との声が。では、ということでやることになった。

 「俺、こんな雨の日にサッカーやるのは高校生の時以来だよ。」
 
 といったところ、

 「俺たち、国立目指してます!

 とギャグで応じる若手メンバー。高校サッカーの聖地、国立競技場での準決勝、決勝を目指して練習に励む高校生の決まり文句を冗談で言ったわけである。

 ところが、実際に試合を始めてみて驚いた。グランドがかなり良い土を使い、整地されているせいか、雨中で試合をしているのにでこぼこができない。スパイクのスタッドにまとわりついてくることもない。凹凸がないから試合そのものは支障なく進んでくれる。やがて雨はやみ、時折降っても水たまりもできないくらいの雨量で済んでいたことも幸運だったが、想像以上にサッカーを満喫できる環境であった。

 また、この日は極めて珍しいことに、比較的若手で非常にうまいメンバーが揃っていた。小柄ながら元JFL候補選手の男は左サイドを主に担当。右利きなのに左足のキックが極めて秀逸。全然試合が止まらない。ボールがだらしなくタッチラインを割ったりしないのである。良い試合の一つの要素は、ファールが少なく試合が止まらず、また、ラインをボールがなかなか割らない試合のことである。
  
 しかも、この日わざわざ遠くまで審判をやりにきてくれた2級審判員の林くんがびしっと引き締まったジャッジを展開。試合が実にスムーズに流れる。私は汚れ役ということで最後部でGKだったが、後ろから見ていても「美しい試合」であった。
 
 この日はこちらから貸し出したメンバーを含めてちょうど人数が11:11。審判が1人。だれも交替せず、延々と試合を繰り返すことができた。交代要員とそのタイミングを考えるのは意外に神経を使うことなので、ぴたり22人+1人主審で試合ができるというのは試合を楽しむことだけに集中できるのでとても気分がよい。

 40歳越えのロートルや38歳のメンバーも混じっているのに、周囲がうまいからなぜか試合は退屈しない中身の濃いものに。私の致命的なへまもあって3失点だったが、こちらも3点をとって引き分け。最後はすがすがしい試合後の疲労感であった。

 みな顔もユニフォームもスパイクも泥だらけ。だが、全員、とてもおもしろい試合だった、と口を揃えた。GKをやっていた私がおもしろかったのだから、フィールドでやっている面々はもっとおもしろかったろう。

 ああいう試合は年老いても思い出しそうな、そんな気がする。