f4dfff3d.jpg 牛肉と環境問題というとぴんとこない人も多かろう。しかし、爆発的に膨張している牛肉消費は、今後の世界を大きく動揺させることになる要因の一つ。なぜならば、良質の牛肉を生産するためには桁外れの穀物飼料、およびそのための莫大な灌漑用水を必要とするが、そのために地球規模で大規模な農業開発が集中的に進むからである。

 98年の夏、シカゴ商品取引所の穀物市場が大揺れになった。食糧の国内自給を誇ってきた中国が、とうもろこしなどの穀物の緊急輸入に踏み切ったからであった。劇的な経済発展を達成している中国。急速な経済発展に比例して牛肉消費量がこの20年で20倍以上になった。中国とインドという2国については全ての事柄に当てはまるが、人口がどちらも軽く10億を超える。桁外れの消費に一気に火が付いてしまう。

 中国であまりに牛肉消費が伸びたため、餌として供給する飼料穀物が不足した。今後もその傾向はうなぎ登りに。13億強の人口を抱える中国でこのまま事態が推移すれば、深刻な環境破壊、食糧危機が世界を襲うことは現実的な展開と言うほか無い。

 現在の肉牛の品種は基本的に「アンガス」という古い品種がベース。19世紀半ばに英国で作られた品種でこれが世界に広まった。世界中で飼育されているこのアンガスが現代の食卓を劇的に変えた。アンガスから肉質の柔らかい肉牛畜産がスタートしていく。それまでの牛といえば、牧草だけで育てられていたために肉質が非常に硬く、食用に適さない。咀嚼するのに苦労し、ナイフをノコギリのように使ってようやく切れるような状態だった。柔らかい肉質の肉牛は当時なかったのでビーフの消費は増えなかったのである。

 アンガスは肉の脂肪分が多く肉質が軟らかい品種。これで贅沢な食事の代名詞、ステーキ誕生のきっかけになる。アンガスが北米大陸に輸入されてから一挙にそれまでの肉質の硬いロングホーン種などと入れ替わりビーフの消費が増加。今日、アンガスは世界中の牛と交配が進み、よりいっそう品種改良されている。「霜降り肉」として有名な、松阪牛、丹波牛などは有名になっている。

 しかし、肉牛を柔らかい肉質にするには、トウモロコシ、大豆、小麦、野菜など飼料穀物を大量に食べさせる必要があるが、肉牛を1埖世蕕擦襪燭瓩砲呂修裡固棔瓧賢圓旅鯤が必要に。さらにビールを飲ませるなど涙ぐましい品質管理によって霜降り肉にまで仕立て上げる和牛の場合は、10倍を軽く超える穀物飼料が必要である。穀物飼料は大量の灌漑用水なしには生産できない。世界中で大地の荒廃、乾燥化、水争いを激化させた。

 ビーフとは本質的に非常に環境負荷の高い食べ物である。これがハンバーガーなど大衆食にまで入り込むと消費が人々の食生活に浸透していく。穀物の大量生産、大量消費の時代が到来したのだった。

 この肉牛消費の代名詞のようにいわれるハンバーガーを考えてみると、日本最大の外食産業として首位を独走したのは日本マクドナルド。つい数年前に他界した社長、藤田田の座右の銘は

 「勝てば官軍」

 である。この言葉を「座右の銘」に選ぶという感覚だけでも驚きであるが、手軽な国民食「マック」がもたらす環境負荷の側面はもっと驚くべきで、単に大量に出される使い捨てのゴミや容器のみならず、安価で大量に牛肉を供給させるために引き起こされる環境破壊がより一層深刻な問題である。大規模な農業開発のためには大規模な森林伐採による開墾と、農薬や化学肥料の多投を必要とする。加えて「スターリンク」問題に代表される穀物飼料の遺伝子組み替えの危険性が注目される。肉牛畜産は巨大な環境問題そのものに他ならない。
  
 近時、バイオエタノール生産のためなどにもトウモロコシが使われるようになり、穀物飼料が金融市場で投資対象として加熱した。それゆえ、ますます穀物飼料は外交手段の重要なカードとして使われるようになる。穀物の輸出停止は外交上の強力な手段であり、圧力をかけるためには穀物の輸出を止めればいいのだ、と元米国農務省長官がかつて明言したことがある。しかも実際に何度かそのように実行している。ビーフには、環境破壊、食品安全性、外交手段など複雑な要素が背景にある。

 環境問題の本質は、結局、人間がどの程度我慢できるかという問題に帰着する。
 
 「家畜の餌の確保」

 が最大の課題になっている現在、世界のとうもろこし生産量を見てみるとざっと年6億トン強。そのうち4億トンが家畜飼料。残りの2億tが人間の主食にされている。世界人口64億人。だが、8億人が今この瞬間にも飢餓に苦しむ。コーン1圓鰐鵤械毅娃哀ロリーであり、人間の最低限生存条件は日2150カロリー。ざっとそろばんをはじくだけで、飢餓問題を解決するには家畜用飼料の1割をこうした地域に回せばいい計算になる。これは日米が、およそ5回に1回、肉料理をあきらめればそれですむという程度のことである。
 
 ビーフをまずいとは言わない。だが、私はこの10年ほど豚肉、鶏肉、ラム、マトンなどは食べるがよほどのことがない限りビーフは食べない。結婚披露宴や宴席などすでに出てきてしまった時のみ、食べる程度にしている。他の肉と比較するとコレステロール値も高い上に、アメリカの工場畜産の害や、BSEを懸念していることもあるが、大学院時代の農業の学びから頭を切り換えて以降、自分のポリシーにしている。すっかり慣れきってしまっているので今は何でもない。ベジタリアンになるわけではないから、他の肉や魚介類など良質のタンパク源はいくらでもある。

 「おいしい肉を食べたい」

 という人間の欲望が生んだ一頭の牛、アンガス。世界のあちこちで国が経済発展を遂げると牛肉消費は必ずそれに比例して伸びる。こうした肉食の驚異的な拡大は、アメリカ式の無尽蔵とも思える穀物大量生産、大量消費があって可能になった。食卓の豊かさを求めて人類は狂奔してきたが、もはや今世紀、このやり方をそのまま延長していくことに地球全体の容量が持ちこたえられない。中国というあまりに巨大な人口の固まりは地球全体の均衡を短期間に大きく崩す要因になる。中国がビーフを、石油を、多くの資源を爆食していく先には、非常に暗い暗雲が立ちこめていると思って良い。何も中国が悪いわけではない。すでに先行して豊かになっている多くの国もそうした現実を見据えて具体的な行動をとってほしいと思う。

 京都議定書を真剣に実行するべき時代にすでに入っている。