b08a40a2.bmp * 前ブッシュ政権の副大統領、ディック・チェイニー。2007年3月12日、首都、ワシントンD.C.で行われた、親イスラエルの立場の政治圧力団体、「アメリカ・イスラエル公共問題委員会(American Israel Public Affairs Committee、AIPAC)」の会合に講演者として招待されて演説した際の様子。

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 前ジョージ・ブッシュ政権で副大統領だったディック・チェイニー(Dick Cheney)が、10日、「60ミニッツ」など看板ドキュメンタリー番組を持つ、CBSテレビの番組でインタビューに応じている。世界を震撼させたアブグレイブやグアンタナモの虐待、拷問事件。頭から麻袋をかぶせて水をかけたり、たらいの水に顔を突っ込ませて「水責め」をしたり、全裸にさせて軍用犬をけしかけたり、全裸で両手足を縛り上げて全員丸太のように床に転がせたりとありとあらゆる拷問を行った前ブッシュ政権。テロ組織と関係が実際にあったという確証があろうがなかろうが無関係。これによって死亡したイスラム教徒も多数出ており、人権侵害を越えて捕虜、容疑者への殺害行為も多く含まれた。

 これら過酷な尋問によって国際テロ組織「アルカイダ(Al-Qaeda、拠点の意)」の「テロ容疑者」とされた人物から引き出した「自白」や「情報」によって、チェイニーがいうには「おそらくは数十万人」のアメリカ国民の命が救われた、とされる。よって前政権が容認したこれら拷問的尋問手法は正当化される、と。

 「後悔はしていない。全く正しいことだったと思っている。」
 
 しかし、これら拷問的な尋問手法によって容疑者の抵抗を打ち破ったのだ、と彼が説明する理屈を許容するかどうかをひとまず置いておくにしても、拷問によって事実と何の関係もない「作り話の自白」を口にしてそれを米軍が真に受けた事案も多数あったことがすでにわかっている。「拷問(tortue)」によって引き出された「証言」に何の信用性もないということは近代立憲主義政治においては基本中の基本であり、こうした正副大統領コンビが「自由のための戦い」、「民主政治のための戦争」と説明していたことは歴史的ブラックジョークとして記録されることになる。

 チェイニーは言う。

 「アルカイダがアメリカの都市に核攻撃を計画していた。」

 「アルカイダ」はウサマ・ビン・ラディン(サウジアラビア人の大富豪)が率いる国際テロ組織、イラクの元大統領だったサダム・フセイン(イラク人)とは何の関係もない。ブッシュやチェイニーは常にこれらのイスラム世界の国や人物を混合してアメリカ国民に「説明」して情報操作、無知な国民がわけのわからないままイラク戦争を強行してきた経緯がある。「アルカイダ」が当時の段階で核兵器を保有しているはずがなく、おそらくは今も保有していない。持っていれば彼らは実際に使用したであろう。それほどまでにイスラム社会のアメリカ、英国に対する怒りは極めて激しい。 

 戦争の対象となったイラクにしても実際はどうだったか。核兵器を含む「大量破壊兵器(WMD,weapons of mass destruction)」がイラクのサダム・フセイン政権によって備蓄され、アメリカ本土へ行使される直前だったため、「予防的先制攻撃」をしなければならないという論がアメリカが国連で再三繰り返した「説明」であったが、それらの兵器は一つも見つからず、そのことを米軍もブッシュ政権も公式に認めさせられる羽目になったこと、したがって、途中から米軍がそれらを探すことさえ辞めたことは広く知られている。

 「数千人、数十万人の米国民の命を救ったと、全面的に確信している。」

 前政権の中期から後期、自分たちの説明が完全に崩れ、それ以降、一言たりともこの崩壊した大義名分を基礎にした説明をしなくなったブッシュとチェイニー。それが、正副大統領を退任するやいなや、すぐまたこれら嘘の説明を掘り返す強弁を再開することは「戦争犯罪」という点で歴史的重罪者に匹敵する。

 チェイニーは現在、現大統領バラック・オバマに対し、これらの拷問的取り調べ尋問で得られた情報により、中央情報局(CIA)が複数のテロを未然に防いだ事実を示す2通の覚書を機密から解除するようにと求めている。政権が変わってこれほどすぐにあっさり機密解除を要求するくらいならば、なぜ、自分たちでそれを「機密指定」したのであろう。政権末期に自分の手で「解除」すれば良かったではないか。あるいは自分たちに反旗を翻した元CIA諜報部員、ヴァレリー・プレイムと夫で当時政権の外交官だったジョセフ・ウィルソン夫妻の実名を、彼らの命を危険に晒しながら報復的に「漏洩」したようにメディアに暴露することもできたろう。(これをプレイムゲート、あるいはCIAリーク事件という)

 オバマ外交によってアメリカは外部からの攻撃に対し脆弱になった、ブッシュ前政権当時の司法関係者の訴追を求める民主党議員は間違っている、と強く批判するチェイニー。要するにこの男は、数々しでかした自身の無法行為が公に開かれることを最も恐れているのである。不思議なことは何もない。サイコパスがそのまま副大統領になってしまっただけの人物である。