9cc4b525.jpg 大正生まれのあるおじいさん。無類の囲碁好きだった。囲碁は今、パンダネットなどネットで世界中の囲碁打ちの人たちと対戦できる。パソコンでこれを毎日楽しんでいた方だった。80歳代になっても頭の回転が衰えず、ばりばりと大声でまくし立てるように喋る。怒るととんでもなく怖かった。商売で一山当てて財産を築いた古い時代の老人故、初歩的な勘違いで怒鳴られたことがあり、その時は大正生まれ男の癇癪のすごさに驚かされたことがあった。


 ある日、電話がかかってきて、パソコンの囲碁の調子が少しおかしいからチェックしてほしいと言われたが、その電話の声がおかしい。半分、寝ぼけたか酔っぱらったような話し方でいつもと異なっていたので変だと思いながら実際にお伺いすると、足下がややおぼつかない。右腕も少々不自由そうにしていた。

 
 脳梗塞の前兆だとすぐにわかったので妻を呼び、聞いてみると、今日の午前中までは何でもなかった、昼ご飯を終えてから急にこうなったという。寒い冬の日でもあった。


 「脳梗塞の前兆ではないですか。」


 そう言葉をかけて医者に連れて行った方が良いと勧めたが、本人が


 「いやいや、少し寝ていれば大丈夫だ。」


 と渋る。手遅れになるからと二人で説得すると自分で軽自動車を運転して病院に行くと言い出したため、私が運転して連れて行くことにした。

 
 ちょうどその日は祝日。近所にあるかかりつけの中規模病院は当直の先生一人しかおらず、元々ここは精神科のみだったこともあって精神科医の当直医だった。電話で聞いてみてもろくな診断ができなさそうだったため、脳の疾患に強いということで比較的近くにある脳神経外科の中規模病院に電話し、救急搬送するほどではないが、このまま寝かせると今夜、病状が急変すると推測されるので、できればそちらでCTを撮影してもらい、ベッドに空きがあればそのまま短期入院させてもらいたいと伝えると対応できるということで3人でそこへ搬送。思った通りの脳梗塞だった。


 結局、その後、奥様の電話では2週間ほど入院し、服薬しながら治療を続けることになったそうだった。半年ほどしてほぼ小康状態になってから本人から電話が。


 「元気になりました!」
 
 
 その後、お会いした時には以前の怒りっぽさはなくなり、


 「命の恩人だと思ってますから!」

 「お気をつけて。さようなら。」


 と別人のように朗らかで穏やかになったことにまた驚いた。


 その後、この方がどうなったかというと、その後何ヶ月かで自宅周辺を散歩中、公園の階段で転倒。頭を打ってしまい、それが原因であっけなく翌日に他界された。奥様からの電話で、せっかく助けてもらって命拾ったのにと残念そうだったが、最後に寝たきりになったり障害が出たりせずに過ごせたことは本当に良かったと感謝されたことがある。


 ふと番組を見ていたら、脳梗塞について特集されていた。ガンでも心筋梗塞でもそうだが、脳梗塞は早めに見つけられればぐっと生存率が上がる。逆に少しでも手遅れになるとすぐに命を落とすか、要介護度4,5という重症の障害が残って晩年を過ごすことになる。救急医療などの治療水準が上がったこともあり、命だけは助かってもその後が大変に辛いことになる。CT診断、食事、睡眠、運動など、ほんの少しずつ気をつけて工夫すれば格段に防ぐことができるので、実践していただければと思う。
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著者:作田 学
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