4952918a.jpg 精神保健指定医とは、重大な精神疾患を持つ人について、本人の意思と関係なく強制的に身柄を拘束して、予め厚労省から指定されて十分な施設と体制を持った精神科病院に入院させて実社会から隔離するかどうかの判断を行う診療を行う。産業医、麻酔医などと並び、通常の医師がさらに特別な研鑽と経験を積んでなることができる国家資格である。社会福祉士や精神保健福祉士などが相談したり連携したりすることも多く、「措置入院」や「医療保護入院」で強制的に入院させる判断は、当該患者の人権を大きく制約することになるため、極めて重要な立場にある。

 
 今回、カトリック系のミッションスクールとして単科医科大、川崎市の聖マリアンナ医科大で20人の不正が見つかった事件は、この資格についての不正取得であった。検察官、裁判官並みの強力な権限を持って診断、判断する指定医が、これほど野放図に不正を行っていたことは全く許し難いことであるが、実際は今回の事件、氷山の一角に過ぎない。


 その理由は、本当に一切の不正がなく厳格に指定医を取得するための要件を満たすためには、非常に難しく高いハードルがあるからである。一般社会に開業している精神科専門の単科病院に最低2年間は常勤で勤務しなければならない。精神科は病院によって役割がはっきりと分かれている。巨大な大学病院や総合病院では措置入院患者のように困難で手がかかる症例はほとんど診察しない。


 大麻、アルコール、シンナーなどの薬物中毒についても、鉄格子や厳重な鉄扉などを備えた特殊な専門病棟が無いところでは受け入れは困難である。巨大な大学病院、総合病院などが、これらどちらの患者も受け入れるだけの設備、人員は通常備えられず、現実的に不可能である。


 したがって、指定医取得要件をこうした職場環境において満たすことはほぼ不可能であるが、なぜか日本では精神科単科病院での病棟常勤経験が無いにも関わらず精神科指定医を取得している医師が多い。こうした医師は98%以上、何らかの不正な方法を使って指定を受けている。実際には聖マリアンナ医科大の医局だけでなく、日本中の大学医局でこのような医師が多数存在し、これが日本の精神医療の向上、進歩を大きく妨げている側面がある。堂々と指定医になるためのレポートの書き方マニュアルまで出ている始末で、今回はそれを上回って小保方博士顔負けのコピー&ペーストまで行われていた。


 かつて、池田付属小学校で児童が多数、惨殺された事件、死刑が執行された宅間守は、それまでに何度も重大な事件を起こして逮捕、措置入院処分になったことがあるが、事件後に検証された結果、宅間死刑囚に対する精神保健医療の対応が極めてまずかったことがわかっており、それが彼を最終的にあのような凶行に向かわせる遠因になった。適切な診断、治療、訓練が行われていれば、彼がそれなりに平穏な生涯を送った可能性は十分にあり、あのような人物がその後に市営路線バスの運転士になったり、何の観察・制約もなく自由な状態で世の中に出されたことは信じがたいことでもあった。事件後、彼自身の供述で、宅間死刑囚は立件された事件以外にも、意図的に運転していた大型車をぶつけて死亡事故を作り出したりしたことがあったとわかっている。

 http://www004.upp.so-net.ne.jp/kuhiwo/takmar.html

 
 精神保健指定医の手抜き診察は、その後に重大な事件を引き起こす引き金になるのである。

 今回の不正に関わった20人の医師は、全員、少なくとも2年前後の医師資格停止処分にされなければならず、悪質な犯行態様の数人は、刑事事件として立件し、医師資格剥奪がされなければ、法の支配で動く社会として非常におかしい。日本医師会は日本最強レベルの政治力を持った圧力団体。政権与党に巨額の献金や選挙運動の動員と引き替えに圧倒的な影響力がある。医師会の権力が強すぎ、医師の数を少なく抑制し続けた結果、業界利益は膨らんだが、国民利益は大きく害されることになった。














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