13013793.png 大義名分がなく、国際法上の正当性もなく、事前に予想されたよりも深刻な混乱に陥ったイラク戦争。前のアメリカ政権、ブッシュ、チェイニー、ラムズフェルド、ライスらが決断した20世紀を含めて指折りの愚かで間違った戦争であった。


 イラク戦争には国連の安保理決議、総会決議がなかった。それを必死に取り付けようと努力していた途中で国連の討議をブッシュが一方的に打ち切って開戦、空爆に踏み切るべく単独行動へ走ったことから始まった。湾岸戦争時にフセイン政権に恥をかかされたブッシュ一族の怨念もあって頭に血が上った当時の政権の単独軍事行動は止められないと判断した英国のブレアだけが、後追いでこれに共調することを決めている。
 

 サダム・フセイン政権が「大量破壊兵器=WMD」をアメリカや同盟国に対して行使する直前の急迫した危険があるため、「予防的先制攻撃」によってこれらの軍事拠点を破壊して制圧しなければ、アメリカ本土や同盟国の存立が危ういという「説明」は全てが根拠のない虚偽であったことは開戦前から明白であったが、開戦後すぐに当のブッシュ政権自身がそれを認めざるを得ない局面に追い込まれた。

 
 そのブレアの決断について、「倫理的な戦争」と涼しい顔で分析したつもりになっている国際政治学者、細谷雄一(慶応大教授、安保法制懇メンバー)もいるが、ブレアがブッシュの「プードル」ではなかったとしても、油田利権狙いであることが開戦前のブッシュ演説の中にさえ盛り込まれていた、あのまともな開戦理由が何も存在しなかった歴史的侵略戦争をして、新しい国際政治の責任の果たし方が転換するきっかけの戦争だったと評価している机上の空論お坊ちゃま教授に、国際政治学者を名乗る資格はない。バーミンガムにまで留学していながらその程度の判断もつかないらしい。


 ウサマ・ビン・ラディンの捕捉・掃討作戦の一環として始めたアフガニスタン戦争と同時並行で遂行されたイラク戦争。間違った戦争を2つ重ね、戦力も外交力も予算も分散してしまった結果、両国のインフラは破壊され死者は100万人以上。ビン・ラディンは見つからず、タリバン政権の復活を許し、その最中にパキスタンの国家主権を侵害して軍事侵入しビンラディン暗殺作戦を実行、さらに国際イスラム過激派の怒りをかき立て、イラクではアル・カイダどころかさらに悪質なISの誕生と跳梁を招き、シリア、エジプト、ナイジェリア、マリに至るまで広範囲に飛び火してしまった。
  

 イラク戦争を支持した時の日本は小泉政権。その官房長官が安倍晋三であった。そして、その時の駐米国連大使が北岡伸一であった。細谷は教え子に当たる。陸上自衛官あがりの防衛相、中谷元はその小泉内閣時の防衛大臣であって今も防衛相。当時のインド洋上の洋上給油作戦など後方支援活動に携わった人物である。


 私は、自衛隊で体験訓練を受けたことがあるが、自衛隊員は非常に心身両面で過酷な仕事であり、毎日の訓練や規律の厳しい生活だけでも非常にしんどい内容がある。一般的に言って健康で屈強な体躯を持つ人材が集まる自衛隊だが、戦後の殉職者だけで1900人弱になる。訓練中の事故だったり、大型車両のタイヤ交換時にタイヤ破裂で爆死したり、もちろん、任地での死亡例も多い。中でも精神的に追い込まれての自殺が非常に多く、海外に派遣された自衛隊員の自殺者はわかっていて公表された数だけで54人。イラクで29人、インド洋で25人。派遣された9310人の隊員から換算すれば0.5%前後になり、身体上の健康問題や失業・経済上の問題などがない現役自衛官に発生した数としては極めて高率になる。

 
 イラク戦争時に現地で部隊を指揮、「髭の隊長」として有名になり現在は自民党議員になっている佐藤正久。連隊長、幹部学校主任教官などを歴任し、議員になってからも防衛政務官。自衛隊の国軍化と核武装を主張している人物。幕僚長だったあの田母神俊雄からも献金を受けている。その田母神俊雄もイラク戦争のまっただ中に航空総隊司令官、航空幕僚長(第29代)を務め、イラク戦争に直接当事者として関わった人物。また、安保法制懇の委員メンバー、西元徹也(第22代陸上幕僚長幹部)はイラク戦争開戦時に防衛省顧問であり、座長の柳井俊二(元外交官)は9/11テロからアフガン・イラク戦争にアメリカが突っ込んでいく時に駐米大使であった。後に小泉政権後期にこの職は座長代理の北岡伸一が務めることになる。


 イラク戦争に荷担させた張本人たちが揃って現在の戦争法案、安保法制、沖縄基地移転を強行しようとしていることがわかる。歴史的に違法な侵略戦争であるイラク戦争に日本と自衛隊を荷担させた張本人たちが、あの戦争の反省や総括も何もなしに、ISが急激に膨張している現在、民主的手続きを全て踏みつぶして怒濤の解釈改憲、安保法制の体制樹立に狂奔する。

 
 戦後70年。日本の民主政治にとって今年は指折りの危機的な年になっている。

 
  






派遣自衛隊員の自殺者はイラクで29人、インド洋25人
Asahi  5月28日


 2003年から09年までイラクへ派遣された自衛隊員のうち、在職中に自殺で死亡したと認定された隊員が29人いることがわかった。27日の衆院の特別委員会で明らかになった。防衛省によると、うち4人は、イラク派遣が原因のストレスで自殺に至ったとみられるという。イラクに派遣された自衛隊員は陸海空の各自衛隊で約9310人。


 2001年〜07年のテロ特別措置法にもとづくインド洋での給油活動に従事した隊員のうち、在職中に自殺で死亡した隊員は25人だった。こちらは、派遣が原因と認められる自殺者はいないという。この期間に派遣された海空の自衛隊員はのべ約1万3800人で、実数は明らかにしていない。

 自殺者の総数については、共産党の志位和夫委員長の質問に防衛省の真部朗人事教育局長が答えた。真部氏は

「個々の原因を特定するのは困難だ」

と語った。志位氏は

「自衛隊員の戦死者が出ていないものの、犠牲者がでていないわけではない」

と指摘した。



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