3551c114.png ブッシュ政権のイラク戦争を是認した政治家、大使の人たちはまだわかっていない。あの戦争が今に至る全てのパンドラの箱を開いた。アルカイダはビン・ラディンを暗殺してもまだ消えず、ISの膨張は止めようがない。「ビン・ラディンの身柄捕捉」を大義にして始めたアフガニスタン戦争がタリバン政権を蹴散らした後、なかなか捕捉できないビン・ラディンに苛立ち、いきなり全く無関係のイラク攻撃へ舵が切られたのが悪夢の始まりであった。

 
 アルジャジーラのニュースを見ていればすぐにわかるが、イスラム教徒はイラク戦争に猛烈に怒っている。それはもう本当に烈火のごとく怒っている。それがシリアにまで飛び火して火消しができなくなった。対立しているロシアとアメリカは、ISの恨みを買うという点では同じ立場にいる。むしろロシアの方が激しい恨みを買っている。ロシアは旧ソ連時代にアフガニスタンに侵攻、今はシリア政権と結託して他国を圧倒するシリア国内での空爆被害を出した。近い将来、ロシアはチェチェンだけでなくロシア全土がテロの危機に瀕する時代に入る。サッカーワールドカップは最も危険な時期になる。

 
 今回、ダッカで自爆的テロが行われ、裕福な私大の学生ら数人が犯人だった。今までになかった犯行態様として、意図的に日本人、イタリア人、アメリカ人だけを選りすぐって惨殺している。尋問してバングラデシュ人とわかると殺さなかった。日本人だ、国際協力の技術者だと説明しても全く見向きもされず、若い女性も容赦なく惨殺。命乞いも何の効果もなかった。日本人であることが理由で狙い撃ちになり完璧にISのテロターゲットになった初の事件ではないかと思う。


e04a38ca.png


 今、海外でODAや人道支援に関わる日本人は非常に危険である。ダッカどころか、同じスンニ派のトルコでも空港のテロがあった。アメリカと欧州の大国が主なターゲットだったアルカイダ時代と異なり、「サイクス・ピコ体制」という言葉を英語で世界中に広めてしまったISは、中東の領土問題やイスラエル問題が解決しない限り、理論上、殲滅させることが非常に難しい。世界中から、世界言語の英語によって大量のテロ戦士が、自爆攻撃を厭わずに馳せ参じてくる時代。地中海を通じて、またサウジアラビアやカタールからは潤沢に資金や人材、兵器が流れ込む。前世紀の常識が全く通用しない戦闘が日常化している。



34316af3.jpg


 今回のテロによって、JICAのトップを務める北岡伸一理事長は緊急の記者会見に。「強い憤り」を犯人たちに感じていると述べた。北岡博士は学者だった東大法学部教授(日本政治史)から外交の最前線へ転身し、自身のキャリアを現代日本外交の場に大きく展開していった方である。小泉政権で国連大使、安倍政権で安保法制懇の座長代理を務めて日本の国防、外交に強い影響を与えた有識者。同じ安保法制懇のメンバー、細谷雄一(慶大・法教授)のゼミ教官でもあった。イラク戦争にも外交の当事者として関わり、戦争支援を主張した。安保法制懇の他メンバーも多くがイラク戦争支援を主張していた。


 北岡理事長が「強い憤り」と言うまさにその言葉と同じ怨恨を、ロシアを含む大国による空爆で家族を殺された遺族や、すでに1000万人以上の難民になって塗炭の苦しみを味わっている中東人。国家主権を蹂躙されたパキスタン人など、多くがこの15年以上、メラメラとたぎらせながら胸に秘めている。イラン、イラク、シリアというシーア派三国だけでなく、アフガニスタン、バングラデシュ、パキスタンに至るまでの広大な地域でこの15年以上、戦争や戦闘・制裁行為を続けているという異常事態は、通常の外交、軍事の判断として全く合理性を欠いている。難民が膨大に発生し続ける事態はイラク戦争時代からわかっていたことであり、それがトルコや欧州になだれ込むことは容易に予想ができたことであった。


 絶対にやってはいけないイラク戦争を始めた結果が今日の惨状。その戦争遂行時に外交の当事者だった方が今、イラク戦争の負の副産物からしっぺ返しを受けて衝撃を受けている。そうした立ち場にいた人がイスラム世界に対して何を言っても説得性も議論の客観性もない。JICAは人道援助、難民救済に尽力してきたことで世界的に有名な緒方貞子時代と異なり、田中明彦(東大法学部教授、国際政治)時代を経て現在に至っている。JICAの役割も業務もこの15年で大きく変化した。純粋な難民支援ではないODAは必ずしも現地の歓迎を受けているばかりとも言えない。現在はJICAの職員全てがISのターゲットになっていると言って言い過ぎではない。

 バングラデシュはアジア圏有数の親日国。日本への好感度がナンバーワンの人気で、ODAの金額も英、米を抜いて日本が一位。漫画のドラえもんなどが国民に広く浸透して知られている。タレント、ローラの母国でもある。その圧倒的親日国のバングラデシュで、昨年秋に農業支援活動をしていた星邦男さんに続いて今回の大規模テロが発生したことは大きな衝撃。


 ISメンバーが理事長の顔や業務内容の変化を理解してテロをやっているとは思わないが、今回のように敢えて日本人を選び出して殺害するテロが起こった以上、明瞭な一線を踏み越えた事件。日本が欧米と足並みをそろえて同調していると相手方には見られている。この悪夢全てはイラク戦争に始まっている。イラク戦争で最も強烈な憎悪を買ったアメリカ、英国、豪州と協調して行使する集団的自衛権のあり方についても再検討が必要である。


 http://www.sankei.com/world/news/160702/wor1607020080-n1.html