5222b1b3.jpg 日本は明日、衆院選の投票が行われる。日本の選挙は、小選挙区と比例代表とを並立させた極めて特異な選挙制度を通じて用いられる。これは1994年、細川大連立内閣が成立した時に成立し、その後の羽田内閣の時に区割り法案が成立して完成したもの。それまでの自民党が悲願としてきた小選挙区制の導入に道を開いた歴史的改正であった。

 小選挙区制とは、選挙区を非常に細かくいくつも設定し、その一つ一つの選挙区でトップ当選した候補だけが当選できる仕組み。多数の選挙区が作られ、それら各選挙区には多くて数名の候補者しかいない。少なければわずか2人による選挙となって投票できる候補者が非常に少ない。

 7月16日に施行された公職選挙法改正により今回は小選挙区が289人。これまでの295人からわずかに6人分の定数が減らされた。比例代表の定数は176人。180人から4人減少して行われる。安倍政権が野田政権から政権を奪取する際、党首討論で公約した定数削減はほとんど進まず、衆院全ての議席は475議席から465議席へ減っただけで解散されたため、明日行われる選挙でも依然として一票の格差(議員定数不均衡)は、地方選挙区と都市部選挙区とで最大3倍以上の差が開いたままになっている。

 これに対して、比例代表制では日本を11区(北海道、東北、北関東、東京、南関東、北信越、東海、近畿、中国、九州・沖縄)に分割し、候補者個人ではなく、「政党」に投票することになる。これら2つの選挙制には非常に大きな問題があり、その当否は長く国法学、政治学においても憲法上の課題として議論されてきた経緯がある。
 
 問題としてはまず、小選挙区制の短所・問題として、

 1.死票が多く、与党・大政党に有利。
 
 トップ当選の候補者以外は全て落選するため、2位以下の候補者に投票された票は全く議席に反映されない。Aに8000票、Bに7000票、Cに6000票の場合、当選するA以外の13000票が全て捨てられる。わずか多数となった多数派の民意が誇張されて出てくる選挙制である。

 したがって、第一党など巨大政党が当選しやすく、第三党以下の小政党や無所属個人が当選する可能性がほぼない。日本の選挙で野党共闘がいつも話題になるのは、野党が共闘して候補を一本化しない限り必ず与党第一党である自民党が勝利する仕組みの小選挙区制だからある。
 
 2.選挙区があまりに細かく分断され、地元への利益誘導が進む。

 今回、議員定数不均衡をわずかに改善するために選挙区の区割りが変更されたが、その影響で一つの市区町村が分断されて選挙区の線引きがされた地域が多く、東京区のように実に5区にまたがる異様な選挙区もある。前回までと投票する地元の候補が替わってしまった区も多い。そして、選挙区が狭く有権者数が限られるため、その地元へ直接的に利益をもたらす利益誘導政治が蔓延しやすく、国政全体に関わる課題ではなく、下手をすると●●地下鉄延伸、●●空港建設といった個別の小さな局所的争点がPRされたりすることが多い。どぶ板選挙としての特色は四半世紀前よりも遥かに色濃く反映される。


 比例代表制の問題・短所・デメリットとしては、

 1.候補者を個人で選べない。

 事前に政党名簿を見ることはできるが、あくまで「政党」に投票するだけであって、具体的な候補者を選ぶことができない。

 2.「政党」の数が少ない。

 無所属の個人が急ごしらえで政党を設立しても政党要件を満たさず、「政党」として扱われない。既存の政党だけが176人の定数を争う特権を与えられることになる。

 3.当選後の合併、分離や、議員の政党間移籍があること。

 選挙が終わった後に、政局の動きや政治対立によって議員が離党、復党、入党したり、党が合併したりすることが日本では当たり前のごとく行われるが、こうした場合にも議員の立場はそのまま維持され、有権者の投票が選挙後に変更されることになる。

 不祥事で離党した上西小百合(元々は日本維新の党)のように小選挙区ではなく比例代表で議員になった人間から法的に議員資格を剥奪する方法はない。今回の選挙では、日本のこころのように、選挙前から選挙後の自民党合流の流れを公然と答える議員・政党さえある。

 4.小選挙区よりもさらに一票の格差(議員定数不均衡)が大きく開く。

 比例代表で多数が選ばれる参議院では特に顕著だが、かつて最大で6倍を超える一票の格差が出たことさえあった。

 そして、これら2つが並立して行われる方式が日本の衆院選。「並立制」ということで、小選挙区で落選しても「比例復活」という当選議員がぞろぞろ出てくることになり、彼らは「ゾンビ議員」と揶揄される。

 今回の選挙でも、島根、鳥取、山口、四国各県など保守・自民党が地盤にしている地方選挙区が、苦戦する東京、神奈川、大阪など大都市圏の選挙区よりも最大で3倍以上の一票の格差を持っている。

 One person one vote. 

 だけでなく、

 One vote one value.

 であることが、当たり前のことながら主権者たる国民の選挙権、参政権を考える上では極めて重要であるが、日本ではこれが意図的に全く歪められて与党優位に運用され続け、長きに渡って選挙無効確認訴訟が提起され続け、違憲判決が続出してきた中、安倍政権は全くこの定数削減、定数是正問題に手をつけなかった。民主主義の観点からも、政党政治の観点からも非常に大きな問題があるこれら二つの掛け合わせで今日、日本の異様な選挙制は成り立っている。

 少数意見を切り捨て、与党の独裁と巨大政党の固定化を生む小選挙区制が導入されたきっかけになったのは、皮肉にもかつての社会党、今の社民党が細川連立内閣で与党になったことからだった。涎を垂らして政権入りした社会党は、当時、問題になっていた政治腐敗問題に取り組むことから始まった「政治改革」の課題が、なぜか途中から選挙制度の話にすり替わり、「二大政党制」を目指すという時の小沢一郎の掛け声にのって、非自民・大連立政権の時にこれが導入された。世界で二大政党制が適切に機能している国家など一つもなく、アメリカ(共和党、民主党)、英国(保守党、労働党)を見ればわかるように完全に政治が行き詰まっていく。現代民主主義の基本的な政権形態は「連立政権」であって、ドイツ、イタリア、オーストリア、北欧諸国など、いずれの国も絶えず最大政党が別の一つから二つの政党と連立を組んで組閣することが通常である。

 悪魔のささやきに乗って小選挙区制を自ら導入して以降、社会党は自社さ三党連立という歴史的離れ業の与党連立を組み、村山内閣を達成したが、その後、選挙のたびに結党以来の大敗北を喫し続け、社民党と途中で名を変え、今は党消滅の危機に瀕している。政権の蜜に目がくらみ、かつての社会党がそれまでの中選挙区制を捨てて小選挙区制に切り換えたことが今日の政治風景に繋がっている。

 明日の衆院選は、憲法改正、消費税増税、教育無償化など、これまでになかった公約が盛り込まれた初の選挙になった。また、総理である安倍晋三個人の人格や信用それ自体が問われるという極めて稀な選挙にもなっている。今回の選挙は安倍政権の信任選挙ではないが、日本の選挙制度が小選挙区と比例代表を掛け合わせた特殊で歪な仕組みになっているため、民意がどのように議席に反映されるのかが注目される。
 
 今回、前原が民進党を粉々に壊し、希望の党を立ち上げた小池を中心にした野党共闘が失敗したことによって、与党・安倍政権の不意打ち冒頭解散の狙い通り、自民・公明が圧勝する可能性が濃厚になっている。安倍晋三という総理個人に対する国民の不信、軽蔑、嫌悪感はかつてなく高い水準にあるが、選挙制度、政党の制度によって無法者宰相を更迭すること、辞任させることができない。「昭和の妖怪」、岸信介の孫である「平成の妖怪」安倍晋三がありとあらゆる手段を行使して、今回の衆院選・解散総選挙まで漕ぎ着けている。

 日本の政治が延々と主権者から乖離して劣化していく最大の理由はこの選挙制度、政党制度が政権与党によって複雑に変形させられていることにあるが、司法が選挙の違憲無効判決を出して選挙やり直しを命じない現在、この歪んだ選挙を国民の側から是正させる手段が他に何もないところに、日本の民主主義の絶望的な欠陥がある。