拝謁記3 18世紀半ば、江戸時代に活躍した思想家に富永仲基 がいる。わずか32歳で逝去したが、出版が限られていた時代に今日まで継承されて研究される多くの理論を残した。比較社会学、文化人類学の先駆けでもあった。当時の宗教や倫理の形骸化を批判し現実に生きる誠の道を説いたが、その中で、日本(神道)、インド(仏教)、中国(儒教)の思想的特色を文化類型として捉えて非常に優れた見極めをしていた事で知られる。比較観察する視点を持ち、文化人類学的発想を先取りした思想家でもあった。

 富永は、仏教のインド人は空想的・神秘的な発想を持ち、儒教の中国人は修辞的で何につけ大げさに誇張して自己中心的であると指摘した上で、神道の日本は何につけあらゆる事柄を隠す癖があると述べている。この時代にアジア圏の文化観をここまで相対的に捉えて比較観察できていたことは特筆すべき分析であって、学生時代にこの富永論を読んだ時には、

 「300年以上も前から人間は全然、変わっていなかったのか。」

 と驚かされた記憶が残っている。

 日本人の隠蔽癖は今日、令和の時代に至るまでまるで治ることがないが、その「隠蔽」の一つが戦史の記録についても特徴的に露呈する。ガダルカナル島・一木部隊全滅の玉砕の真相(海軍が陸軍を見捨てて持ち場を離れたこと)や、二・二六事件の詳細(海軍は全て陸軍決起の情報を事前に把握していた)がわかったのは実に今年になってのことであった。それだけでも大きな反響をもたらす歴史の発見であったが、それ以上に秘密に閉ざされ続けてきたのが先々代の天皇、昭和天皇(裕仁)にまつわる事実である。

 敗戦後、まだGHQが統治していた占領期、昭和天皇の発言を詳細に記録した第一級史料が、今年になって田島道治(初代・宮内庁長官)の「拝謁記」として世の中に出てきて大きな反響を呼んでいる。1000万人以上の戦死者が出た破滅的な戦禍に全域を巻き込んだ大東亜戦争への反省。敗戦の道義的責任、自主的退位など、今まで全く知られていなかった記録が戦後74年、令和の時代になってようやく表に出た。初代宮内庁長官・田島道治が非公式に残していた膨大な日記、メモとして今に伝われることになった。象徴天皇の出発点に迫る秘録 拝謁記が、今夜、深夜、再放送される。

 宮内庁や政府文書としても残されてきたはずの記録は未だに「隠蔽」されたままの状態にあり、今日、ここまで事実の公開が遅れたことは全く残念なことであるが、田島長官が小まめに記録を残していたことと、それらが焼かれたり捨てられたりすることなく保存されて、ついに公開されたことは非常に幸運なことであり、極めて貴重な資料の継承として国民的に知られる必要がある。


 NHKスペシャル▽昭和天皇は何を語ったのか〜初公開・秘録 拝謁(はいえつ)記

 2019年8月20日(火) 24時20分〜25時20分

 占領の時代、昭和天皇のそばにあった初代宮内庁長官・田島道治の新資料「拝謁記」が公開された。1949(昭和24)年から克明に記されていたのは、昭和天皇の言葉。天皇は、敗戦の道義的責任を感じ、退位も考えていた。さらに1952年の独立記念式典の「おことば」で戦争への反省を述べようとする。しかし、最終的に戦争の経緯は削除された。なぜかー。天皇と長官の対話から、象徴天皇の出発点に迫る。

出演者   片岡孝太郎,橋爪功