まだベッドに眠るナティを揺り起こし、朝一のシャワーを浴びて、ひんやりとした水に足を入れる。自然にワァーっと声が出る。スチームサウナで、暖まってホースで水をかけあって、騒いだ。青いりんごをカリッと一口かじる。レモンとスターアニスのドリンクにも凝ったなあ。別世界だった。都会のゴミゴミもぎゅうぎゅう詰めの地下鉄通勤も、なーんにもない世界。
それを夢見て そして辿り着いた 虎ノ門ヒルズレジデンス。39Fの住まいから37Fにエレベーターで移動する。アオカードをかざし特別なドアを開ける。アンダーズ東京のスパへ!!Let's go!! 快適な出勤前の朝が手に入った。
が・・・・、1週間もしないうちに、その生活には馴染めなかった。アオカードは殆んど使われなくなり、お財布のカード入れから机の引き出しにしまわれた。そして引越しが決まった最後の日、リッチなスパにこれで見納めと久しぶりに行ってみた。もちろんすばらしい別世界だ!! だけど人工的なものの感動は続かない。やっぱり心から楽しめるものは別だった。
私の子供の時の役目は、まつぼっくり、小枝、そして新聞紙で火をおこして、石炭を燃やす。そうしてお風呂に火をいれた。手作りの風呂釜にはタイルが貼られ、海で拾った貝殻も混じっていた。父の手作りの風呂が土間にあった。狭いから順番で入る。早く入らないと、石炭が燃え尽きて、ぬるくなった。
そうやって家族5人が次々に誰かが土間で身体を洗っている間に誰かは湯船に浸かる。
あれれ、私のスパの記憶は・・・・。
ゴージャスなプールや、マシーンや、シャワールーム、たくさん風呂に、サウナ・・・。そんなものよりも水溜りのように小さなお風呂を分け合った家族の幸せが原点だったから。
アオスパも、ヒルズスパも、すぐに飽きちゃって、使わなくなっていたんだなあ。
そんなもんだ。どんなにか豪華でどんなにかすばらしいものでも、最後に行き着くところは、父や母、家族と過ごした空間と記憶の中に、その人の心の宮殿、スパ、癒しのオアシスがある。
さよなら。アオカード、ヒルズスパカード。
ほーら、バーバとゆりかごしよう。
とくは子供お断りだからスパは入れなかったネ。

さよなら アオカード
